第770回:ラリーカメラマンが辛口コメント! 世界ラリー選手権「ラリージャパン」にみる課題
2023.11.29 エディターから一言 拡大 |
土埃(ぼこり)とスキール音を求めて世界を飛び回るラリーカメラマンが、2023年の世界ラリー選手権最終戦「ラリージャパン」を取材。そこで感じたこのイベントの課題とは? 4日間で53万6800人を集め、大盛況に終わったモータースポーツの祭典を、愛をもって辛口で語る。
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もっと盛り上げて! 盛り上がって!
2023年11月16日から19日にかけて、世界ラリー選手権(WRC)の最終戦「ラリージャパン」が、今年も愛知県豊田市を中心に開催されました。トップカテゴリーのWRCも、その下のWRC2もチャンピオンは決定済みで、消化試合感は否めず。でも総工費3億円をかけて豊田スタジアムの天然芝を引っぺがし、舗装を施し、スーパーSSのコースにするなど、その規模は“復活初年度”となる去年を超えるものだったそうな。一方、エントラントは前戦からの間隔が短いこともあってWRC2の海外勢が大幅に減り、その数は全36台……。やっぱり、華やかさには欠ける印象となってしまいました。
ステージは一部変更があったものの、去年とほぼ同じ。中部地区特有の狭くこけむした林道から、集落のなかの狭路、2車線の高速セクションなど、変化に富んだものです。去年よりも開催時期が遅く、ステージには落ち葉も多くて難易度は高そうな印象。これで雨でも降ったら大変だなあ、なんて思っていたら、大会2日目は土砂降りの雨。おまけに寒気の影響で気温も低くて……ボクのやる気をそぎました(笑)。
去年も散々言われていたことですが、海外ではありえないほど高額な観戦料は今年も変わらず。っていうかむしろ値上がり。おひとりさま1万円以上のお金を払って、夜も明けきらぬうちからバスに揺られ、山のなかへ移動して数時間も待つなんて、みんなすごい! 一方で、今年アレしたわが阪神タイガース。日本シリーズにおける甲子園のパブリックビューイングなんてタダですよ。雨降っててもギリギリまで中止の発表をしないあのドケチな阪神なのに。しかも、タダだからか信心深さの表れか、両日ともに1万3000人近い観客動員(もちろんそのなかにはボクも含まれたんだけど)があって、なおかつ目の前のグラウンドには誰もおらず、試合はバックスクリーンで見るだけなのに、まさに眼前で試合が行われているのと全く変わらない盛り上がり!
一方、日本のラリーファンはおとなしすぎます。せっかく大枚はたいてツラい思いをしてまで観戦に来てるんだから、もっと騒いでいいと思うんだよなあ。海外みたいに肉焼いたりできないし、お酒も売ったりしてないけど、お祭りみたいにもっとワイワイガヤガヤ楽しんでいいと思うんです。
“取材する側”で感じた現場の問題点
去年は、コースへの一般車の侵入なんていうあってはならないトラブルがあったりと、問題も多かったラリージャパン。今年こそはと思いきや、やはり大きなトラブルがまあまあありました。すでに報道されているのであえてここには書かないけど。
ボクのまわりに限って言っても、現場のオフィシャルさんが英語がほぼダメで、メディアとの意思疎通が難しかった印象。海外の仲間から「ケイゴ、彼はさっきから何言ってんだよ?」とか「意味わからん」とか声をかけられ、海外メディアとオフィシャルさんの間に立たされること多数でした。ボクだって英語が達者なわけじゃないけど、取りあえず中学英語でどうにかなるので、次回はオフィシャルの皆さんも中学校の教科書で慣れることから始めてほしいなあって思いました。
ほかにも、封鎖しきれてない登山道からハイカーがひょっこり登場して、ボクが慌てて静止したり。終わってしまえば笑い話だけど、いろいろあったな(笑)。そのハイカーさんたちはラリーを初めて見たそうで、「すごい! すごい!」を連呼していました。不可抗力とはいえほんとはダメなんだろうけど、こういったことからでもファンが増えてくれたらボクもうれしいなあ。
あ、「ナルホド。来年はハイカーを装って闇ギャラリーしよう!」なんて思ったそこのアナタ、ダメ、ゼッタイ! お金払って決められたエリアで見てくださいね。ワークスチームのラリーカーにはインカーカメラが付いていて、映像がリアルタイムでヘッドクオーターに送信され、すべて監視されています。ボクたちもウカツなことはできないぐらいですからね!
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ささやかな投稿がファンを集めることも
裏話はこのへんにしておいて競技に話を戻しますと、初日を終えてボクの興味は、総合4位のアンドレアス・ミケルセン。彼はWRC2のドライバーなのですが、「おいおい、このままいけばひょっとして、WRC軍団を下克上してポディウムを狙えるんじゃないの?」って期待もふくらみます。
WRCに目をやると、総じて好調なのはすでに年間タイトルを決めているトヨタ勢(TOYOTA GAZOO Racing WRT)。そこに割って入るヒョンデ(HYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAM)のティエリー・ヌービル! しかしSS6でクラッシュして戦線離脱。こうなるともうトヨタの独壇場ですよ。トップのエルフィン・エバンスに続いてセバスチャン・オジェ、カッレ・ロバンペラの3台が盤石の走りでラリーをリードし続け、トヨタのお膝元でポディウムを独占。一方、オレのミケルセンは総合4位をキープし続けるも、今やラリージャパンのアイコンとなった“神社ンクション”のある三河湖の1本目(SS10)から、ジリジリと順位を落とし、終わってみれば総合7位。しかしWRC2では優勝を飾り、チャンピオンらしい走りで最終戦を終えました。
一方、ナショナルクラスに参戦している日本勢では、タカ(WRCにトヨタから参戦する勝田貴元)の父である勝田範彦と木村裕介の「トヨタGRヤリス ラリー2コンセプト」が、豊田スタジアムで壁にヒット&ホイールが脱落してリタイア。眞貝知志・安藤裕一組の「GRヤリスGR4ラリー」と村田康介・梅本まどか組のGRヤリスが一騎打ち状態となり、SS18のエナシティで眞貝・安藤組が逆転し優勝となりました。FIA格式のラリーにおける眞貝選手の優勝は、「アバルト500R3T」で参戦した2017年のヨーロッパラリー選手権(ERC)第7戦ローマ(参照)以来のことでした。
全体にはこんな感じだった今年のラリージャパンですが、最後に小話をひとつ。今回はWRC2勢のレッキカー(下見用のクルマ)に、ボクの仲間たちが「プジョー106」を6台提供していました。今の日本で左ハンドルでレッキに使えるクルマって、そうそうないんですよ。お金に余裕のあるチームは自前のレッキ車を持ってくるんだけど。
これにカンドーしたのがポーランドのカエタン・カエタノビッチ(愛称はカイト)で、彼はポーランド選手権に106でデビューしたらしく、自らのSNSにそのことを投稿。相当気に入ったのか「買って帰る!」って言うほどでした。ま、結局買いはしなかったんだけど。そんなやりとりを見たのか、カイトのサービスには大勢の観客が詰めかけ、コワモテな見た目とは裏腹に明るく人なつこい性格のカイトも熱心にファンサービスをしていました。SNS全盛の今、選手が発信するSNSを通じて興味を持ち、ファンになる人たちも多いんですよね。今年のラリージャパンを通じて、一番印象に残った出来事でした。なんせ、ボクも106オーナーなので。
(文と写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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山本 佳吾
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