第11回:トヨタ・クラウン セダン(前編)
2024.01.24 カーデザイン曼荼羅トヨタのデザインは“引き出しの多さ”がスゴい
世界への挑戦に4車種構成と、何かと話題の多い新世代「トヨタ・クラウン」。そのなかにあって、伝統のセダンという車形を守るのが「クラウン セダン」だ。今のトヨタだからこそできるそのデザインの“すごさ”を、この道20年の元カーデザイナーが語る。
webCGほった(以下、ほった):……というわけで、今回のお題はクラウン セダンです。
渕野健太郎(以下、渕野):このクルマは、ジャパンモビリティショーで実車を見て「お~、すごくカッコいい!」と思いました。クラウンって伝統的に前後方向に長いクルマですけど、今回はグローバル車になったから、幅が1800mmから1890mmに広がってますよね。
清水草一(以下、清水):昔、徳大寺巨匠が批判していた、「5ナンバー枠にムリヤリはめるからクルマが前後に長くなる」という状態から、完全に脱却したわけですね。
渕野:まぁ、これまでのクラウンと比較するのもどうかっていう感じはしますけど(笑)。
ほった:まるで違うクルマですからね。
渕野:幅が広がったおかげで、フェンダーもしっかりして、たたずまいがすごくよくなりました。サイドを見ると、水平基調じゃないですか。ベルトラインもそうなんですけど、下もほとんど水平なんですよ。これってクラウンの伝統なのかな?
清水:……考えてみれば!
ほった:いや、歴代ものすごく水平でした。
清水:そうか、律義に水平すぎて水平のイメージが吹っ飛んでたんだ!
渕野:前も話しましたけど、トヨタって造形の引き出しの多さがダントツ世界一だと思うんですよ。
ほった:クラウン シリーズの4車種だけでも、イメージが全然違いますからね。
渕野:クルマによってはやりすぎることもありますけど、今回のクラウンセダンは、その引き出しのなかからクラウンにふさわしいものを厳選して出してきた。そこがすごくいいなと思うんです。結構ソリッドで。
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キモはやっぱりファストバック
渕野:先ほど寸法がグローバル基準になって、全幅が1800mmから1890mmになったって話をしましたけど、それって片側だけで45mmの拡大ですよね。自動車デザイナーが、モデルチェンジで「今度は片側10mm広くなります」って言われたら、すごくウキウキするわけです。たかだか10mmで。それがこのクルマでは45mmですから。そりゃ、このフェンダーの“強さ”も当然といえば当然なんです。
清水:ウキウキっていう表現がいいなー(笑)。
渕野:しかもこのクルマでは、片側45mmももらいながら、できる限りシンプルな構成にしてるのがいいんです。普通は、なんかいろいろと試したくなるところですよね。
ほった:ウキウキしてウネウネさせたり。
渕野:あと、これってスタイリング的にはファストバックですよね。このクルマなら普通の、コンベンショナルなセダンのプロポーションでもカッコいいんじゃないかなって思ってたんですよ。リアウィンドウとトランクの折れ目がリアタイヤにぐっとかかるようなセダンのプロポーションにしても。Cピラーを太くしっかりさせて、サイドウィンドウの切り欠きを、リアタイヤへ向けて折れ曲がらせたりして。
ほった:BMWのホフマイスターキンクみたいにですか?
渕野:でもあらためて見ると、やっぱりこっち(ファストバック)のほうがかっこいいかもしれませんね。
清水:ファストバックはすごくわかりやすいと思うんですよ。伸びやかでスポーティーだし。クラウンは変わりました! っていう宣言の面でも。
ほった:特にクラウンは、ファストバックのクルマのなかでもボディー後端の平らな部分が少ない……ていうか、ないですよね。下手したら“スポーツバック”とか“グランクーペ”とか名乗る欧州車よりもファストバックしてるかもですが、それでもトランクは独立してる。
渕野:実車でトランクの分割線を見て、ちょっと不思議な感じはしましたけど、でもまあいいんじゃないですか。
清水:あの分割線を見ると「ムリヤリだな」って感じるけど、ムリヤリでもなんでもいいんですよね、カッコよければ。
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過剰に未来を追う必要はない
渕野:このクルマは「ミライ」がベースですよね? 両車を比べると、恐らくだけど、フロントピラーとかルーフは意外と近しい間柄だと思います。図面を見たわけじゃないのでなんともいえないんですけど。ファストバックのスタイルもミライを踏襲したものですけど、これはひょっとしたら、燃料電池とか内部構造を踏襲するための設計要件だったのかもしれません。でも、結果的にはこれでいい。
実際はミライのほうがチャレンジングな造形をしてるんですよ、マツダ車みたいに、リフレクションの変化で見せるデザインになっていて。
清水:ミライのデザインを見ると、すごく頑張ったなぁって思うんですけど、あんまり心に響かないんですよ。クラウン セダンのほうがずっと響く。
渕野:ミライは燃料電池専用車じゃないですか。だから特別感を出さないといけないという気負いがあったんじゃないのかな。電気自動車もそうですけど、これまでの内燃機関のクルマと動力の違いしかないのに、そんなに特別で目新しいデザインにすることはないって個人的には思ってます。しかし、恐らくデザイン部門の外から「次世代感を出して!」みたいなリクエストがあるんですよね、こういうクルマって。それに対して、すぐに答えが出せるところは、トヨタのデザインはやっぱり別格だなって感じますけど。
清水:いつからこんなにデザインがよくなったんだろう?
ほった:数年前からですか?
清水:先代「プリウス」や「アルファード」の頃は、まだクルマ好きからボロカス言われてたからね、逆の意味で別格だ、みたいな。
ほった:いつの間にか評価がひっくり返ってましたね。
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変なことをせずストレートに勝負
渕野:今回のセダンに向けられたリクエストは、たぶんクラウンらしさの追求みたいなことじゃないかなと思うんですよ。だから、ああいうシンプルな構成にしてるのかなと思います。「クロスオーバー」や「スポーツ」では結構チャレンジングなことをしているのに対して。
清水:これはこれで十分チャレンジングでは?
渕野:挑戦してないって意味じゃないですよ。変わったことをしていないという意味です。このクルマも、地面に近い位置から実車を見たら、たたずまいがぐっと這(は)いつくばったような感じがして、ソリッドだし、長いし、カッコよかった。
清水:全長5mオーバーを直球でぶつけてますね。
渕野:トヨタって結構こねくりまわしたがるような気がするんですけど(笑)、シンプルにまとまってる。リアフェンダーのショルダーのあたりなんかも、普通はもっとごちゃごちゃさせたくなりそうだけど、素直にうまくバランスさせてます。ショルダーの張り出し感もすごい。
清水:サイドを見ると、小細工なしの高貴さがありますよね。泥臭さがまるでないし、脱クラウン感もない。素で勝負してる。
ほった:スポーツとかクロスオーバーとの一番の違いは、そこかもしれませんね。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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