BMW X6 xDrive35d Mスポーツ(4WD/8AT)
自然なフィールが気持ちいい 2024.04.30 試乗記 マイナーチェンジした「BMW X6」のエントリーモデル「xDrive35d Mスポーツ」が上陸。伝統の3リッター直6ディーゼルに48Vマイルドハイブリッド機構を組み合わせたパワーユニットの進化と、アップデートされた内外装の仕上がりを確かめた。印象を大きく変えるフロントバンパー
X6のマイナーチェンジ(マイチェン)は、欧州と日本ともに、2023年春に発表された。一部の高級スポーツカーブランドを例外とすれば、欧州車の日本デビュー時期は、地元欧州より半年~2年は遅れることが多い。これはハンドル位置など、日本向けはどうしても生産台数が少ない仕様になってしまうので、生産開始が後回しにされがちだからだ。
しかし、BMWでは日本市場の優先順位が高い。BMW日本法人によれば、日本はBMW内でもとくに優先される市場のひとつに組み込まれており、日本仕様も本国仕様とほぼ同時に生産が立ち上がるのが通例という。実際のデリバリー開始も、基本的に輸送にかかる2~3カ月しか、本国とのタイムラグがない。
X6のマイチェンモデルも、本国同様に高性能なV8エンジン車から販売がスタートして、エントリーモデルといえる直列6気筒車は日欧ともに2023年夏に発表。日本でも年明けからデリバリーがはじまった。ちなみに、同じ右ハンドルの英国でも直6のX6のデリバリー開始は年末前後。BMWはやはりタイムラグが小さい。
そんなX6が「X5」と基本ハードウエアを共有しているのはご承知のとおりだが、ラインナップ数は本国でも日本でもX6のほうが少なく、X5にあるプラグインハイブリッド車は本国でもX6に用意されない。また、欧米にはX5とX6ともに直6のガソリンターボ車も存在するが、日本ではどちらも直6はディーゼルのみだ。
X6のマイチェンジ内容も、X5のそれと同様と考えていい。外観で明らかに変わったのは、内部が矢印モチーフとなったヘッドランプとデザイン変更された前後バンパー、そしてホイールくらい。キドニー直下にワイドなブラックグリルを形成したフロントバンパーは、見た目の印象変化がけっこう大きい。とくに以前試乗した「X6 Mコンペティション」に顕著だが、新しいX6のデザインにはキドニーの存在感を薄めようとする意図がうかがえる。
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新旧入り乱れるインターフェイス
ただ、今回のマイチェンはX5同様に、インテリア変更のほうがメインといってもいい。最新の「BMW OS8」で作動する12.3インチのメーター画面と14.9インチのセンター画面を一体化させたお約束のカーブドディスプレイのほか、スリムになったエアコン吹き出し口やインパネのイルミネーション、ツマミ型シフトセレクターなどが目につく。
こうして最新BMWのデザインテイストが取り入れたインテリアだが、細部の操作性は骨格設計から新しい「7シリーズ」や「5シリーズ」と同じとはいえず、そこは2019年という発表設計年次を確実にうかがわせる。
たとえば、ドライブモードは最新の「マイモード」とはちがって、従来どおりの「コンフォート」「スポーツ」「エコプロ」などの選択肢が残る。ただ、旧世代人間の筆者には、「パーソナル」や「エクスプレッシブ」といった観念的(?)な選択が強いられる、最新のマイモードよりは明らかに分かりやすくて使いやすい。
また、ステアリングホイール上の「アシステッドドライブ」のスイッチも、最新世代のジョグダイヤル式ではなく、従来タイプのまま。しかし、そこから車間距離設定だけが最新世代と同様にセンターディスプレイの階層内に移動してしまっており、逆に使い勝手を悪くしているのはちょっと残念だ。
ステアリングホイールがシンプルな3スポークデザインとなるのは、BMWでは「M」系グレードの特徴でもある。今回の試乗車もスポーツ志向の「Mスポーツ」だったが、新しいX6は上級の「M60i xDrive」(以下、M60i)やMコンペティション以外も、世界的にすべてM系グレードのみの設定になった。よって、X6のエントリーモデルとして今後Mスポーツ以外のグレードが追加される可能性も、ひとまずない。
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さすがのATセッティング
メカニズム的には、12PSと200N・mを発生する48Vマイルドハイブリッド機構が全車に追加されたのが、今回のX6(X5も同様だけど)のほぼ唯一の新しさだ。ただ、ディーゼルにかぎってはマイチェン前からマイルドハイブリッド化されており、今回はそのスターター兼アシストモーター兼発電機が高性能化(従来比で1PS、165N・m上乗せ)されているところだけが新しい。3リッター直6ディーゼルターボ本体の最高出力や最大トルク値にも変更はない。
動力性能はまさに“ほどよい”というほかない。直6らしく全域で振動も少なく、これ単独で乗っているかぎりは、ガソリンといわれても納得してしまう。それくらいに、滑らかで心地よい吹け上がりと鼓動感だ。エンジン停止状態からも一瞬でスルンと再始動させるマイルドハイブリッドも、その滑らかさに拍車をかけている。そこに明確なモーターアシストを体感できるほどのパワーはないが、エンジン自体がグッとトルクを供出する手前の2000rpm以下でも、間髪に入れずにグンッと反応して、過給ラグめいた遅れをほとんど感じさないのはマイルドハイブリッド効果かもしれない。
4000rpm強まではしっかりと力強さを増すトルクも、それ以上は回転こそ滑らかだが、頭打ち感が強いのはディーゼルの宿命だろう。レッドゾーンは5500rpmに刻まれているが、アクセルを深く踏み込むと4000~5000rpmでアップシフトしていく8段ATは、さすがのセッティングと申し上げたい。
X6はこのエントリーモデルでも可変ダンパーの「アダプティブMサスペンション」は標準で装備される。いっぽうで、4輪操舵も含めた「インテグレイテッドアクティブステアリング」や「MスポーツLSD」など、上級のM60iに備わるダイナミクス制御の用意はない。また、X5では一部にエアサス車もあるが、全車コイルスプリングとなるのもX6の特徴だ。
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ハンドリングに重きを置くなら
そんなX6のディーゼルは、ある意味で“素のBMW”らしい所作を見せる。オプションの21インチホイールの影響もあるのか、乗り心地は絶品とはいわないが、動きは軽快だ。スポーツモードでは低速での上下動が少し増すものの、ステアリングの接地感は明確に高まる。
後輪操舵や可変レシオが備わらないこともあり、ステアリングの反応はあくまでマイルド。しかし、安定感と回頭性を両立した4WDのおかげで、コーナーでアクセルを積極的に踏み込んでいくと、最終的にはきれいにバランスして曲がりきる。ゴリゴリと強烈ではないがヒラリと軽やかな曲がりは、いかにもBMWらしい味わいだ。
もっとも、4輪操舵が備わらないぶん、最小回転半径もM60iの5.6mに対して5.9mと大きい。山坂道では望外に軽快な走りを見せてくれるが、日本の昔ながらの市街地や典型的な住宅街では、2m超の全幅もあいまって、思わずため息が出てしまう。駐車場その他で切り返しを強いられる回数が増えるのと同時に、その操舵量もいちいち多い(しかも、操舵力も重めだ)のが、率直に、わずらわしく疲れる。
先日試乗したMコンペティションも4輪操舵が非装備だったが、X6の車格には現実問題として後輪操舵はもはや必須だろうとの思いをさらに強くした。と同時に、よけいなデバイスを省いたBMWの自然なステアリングフィールは相変わらず気持ちいいことも再確認して、最近体力の衰えを痛感しっぱなしの中高年クルマオタクの筆者は、なんとも悩ましい。個人的には、ハンドリングに重きを置く生粋の好事家があえて大型SUVに乗るなら、そのスタイリッシュなデザインも含めて、このエントリーX6は有力候補にはなろう。
ちなみに、X5では最高出力で54PS、最大トルクで50N・mを上乗せしたディーゼルの「xDrive40d」が国内でもすでに登場。本国のX6にも40dが追加されているから、日本にも大きなタイムラグなく上陸する可能性が高い。もっとも、体感的な性能に大差はないので、それをあえて待つ必要はあまりないと思う。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW X6 xDrive35d Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4955×2005×1695mm
ホイールベース:2975mm
車重:2270kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:286PS(210kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/1500-2500rpm
モーター最高出力:12PS(9kW)/2000rpm
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/0-300rpm
タイヤ:(前)275/40R21 107Y XL/(後)315/35R21 111Y XL(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6 SSR)
燃費:13.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1198万円/テスト車=1469万9000円
オプション装備:ボディーカラー<BMWインディビジュアル スペシャルペイント チョークユニ>(71万円)/BMWインディビジュアル フルレザーメリノパッケージ(32万円)/ファーストクラスパッケージ(94万4000円)/21インチMライトアロイホイールYスポークスタイリング747Mバイカラー(13万4000円)/コンフォートパッケージ(31万2000円)/プラスパッケージ(30万7000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1933km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(4)/山岳路(4)
テスト距離:277.9km
使用燃料:27.9リッター(軽油)
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)/10.8km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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