マイチェン「ヴェゼル」に「WR-V」と「ZR-V」 ホンダのSUV戦略に抱く期待と不安
2024.07.04 デイリーコラム規模のわりにSUVが少ないホンダ
最近のホンダ製SUVの広告では、動画の最後やページの片隅に「Honda SUV」という見慣れないロゴが置かれるようになった。従来の「ヴェゼル」と「ZR-V」に、昨2023年末、新しく「WR-V」が加わったことで、ホンダの国内向けSUVは3台体制となった。3台ならそれなりのシリーズ感がある……という判断なのか、3台まとめたシリーズとして訴求していこうというマーケティングと思われる。
それにしても、ホンダの国内市場規模からすると、3台に増えたとはいっても、SUVの車種数は少ないというほかない。たとえばトヨタは、「ランクル」系や「ハイラックス」などの独立フレーム本格オフローダーとショーファーカーの「センチュリー」を除いても、「ライズ」「ヤリス クロス」「カローラ クロス」「RAV4」「bZ4X」「ハリアー」「クラウン クロスオーバー」「クラウン スポーツ」があり、近日発売予定の「クラウン エステート」も含めると、じつに9車種のSUVが日本で手に入るようになっている。
また、国内販売台数はホンダより少ないスバルでもSUVは「レックス」「クロストレック」「フォレスター」「ソルテラ」「レヴォーグ レイバック」「レガシィ アウトバック」の6車種から選ぶことができるし、マツダにいたっては、おなじみの「CX-3」「CX-30」「MX-30」「CX-5」「CX-60」に、もうすぐ「CX-80」が加わると計6車種にもなるのだ。
逆にホンダ同様に、日本での市場規模のわりに、SUVが少ないのが日産だ。国内で手に入る日産SUVも、「キックス」「アリア」「エクストレイル」と、ホンダと同様に現在3車種。架装車あつかいの「ノートAUTECHクロスオーバー」を入れても4車種にすぎない。
ちなみに、現在の国内販売台数は、日産よりもホンダのほうが多い。2023年(1月~12月)の実績でいうと、日産の国内販売台数が約48万台なのに対して、ホンダは59万台超で、国内販売167万台のトヨタに続く2番手の規模となる。ただ、ホンダと日産は、国内販売の4割前後を(SUVを用意していない)軽自動車が占める点では共通する。さらにいうと、マツダの国内販売台数は約18万台、スバルは同じく約10万台だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「CR-V」は燃料電池車として復活
このように、ホンダの国内市場規模を考えれば、SUVは3車種でも少ないくらいなのに、2022年末に先代「CR-V」の国内販売が終了してからZR-Vが発売される2023年4月までの約4カ月間は、国内向けSUVがヴェゼルしかない状態だったのだから驚く。
その背景にはいくつかの要因が考えられる。ひとつは、そのヴェゼルがあまりに絶妙なサイジングと広大な室内空間をもつために、これ一台で他社のB~CセグメントSUVの市場を幅広くカバーしてしまっていることだ。ヴェゼルがあれば安心で、あえてリスクを冒してほかのモデルを入れるのはメリットが見いだしにくかったのかもしれない。
もうひとつは、国内市場でのCR-Vが、売ったり売らなかったりを繰り返してきたことである。CR-Vといえばグローバルではホンダで1、2を争うベストセラー商品なのだが、なぜか日本での売り上げは芳しくない。そのせいで、販売スケジュールが海外優先になったり、あるいはマイナーチェンジを機に日本だけ販売休止になったり……と、国内市場での出入りが激しいのだ。
そんなCR-Vにかわるカタチで、日本の交通環境を強く意識したZR-Vが2023年春に発売されたかと思ったら、冒頭のとおり、同年末にはインド生産のWR-Vまで追加。さらに、この2024年夏にはCR-Vがまたぞろ復活するといい、これで都合4車種がそろうことになる。
まあ、今回のCR-Vは燃料電池の「e:FCEV」のみという、日本ではいささか特殊なポジションになりそうだが、いずれにしても、国内向けSUVが、わずか1年半弱で3車種も増えたことになる。また、一部には2023年の「ジャパンモビリティショー」に出展された電動SUVの「プロローグ」も、現時点での“北米専用”という触れ込みとは裏腹に、日本導入を検討中とのウワサもあったりする。それが実現すれば5車種。少なくとも日産は超える!?
今回はSUVの話だが、ホンダの国内向けセダンは、これ以上に激しく乱高下した歴史がある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“つくってはやめる”がホンダの伝統?
今からちょうど10年前の2014年半ば当時、日本国内で買えるホンダのセダンは9代目「アコード」の1台だけだった。ところが同年末にスモールサイズの「グレイス」が導入されたかと思ったら、翌年には「レジェンド」が約3年ぶりに復活。さらに、2016年春には「クラリティ フューエルセル」、2017年秋には今度は(9代目が国内販売されてなかった)「シビック」の「セダン」が7年ぶりに復活した。
まだ終わらない。翌2018年は夏に「クラリティPHEV」、そして同年末にはシビック級の4ドアセダンに宗旨替えした3代目「インサイト」も登場……と、4年強の間に新型セダンがじつに6車種も発売されたのだ。結果として、(フューエルセルとPHEVのクラリティを1車種と換算しても)、2019年初頭のホンダ国内向けセダンは、既存のアコードも含めて計7車種の大所帯となっていた。
しかし、それも長くは続かない。翌2020年夏にはグレイスとシビックのフルモデルチェンジを機に、グレイスは国内市場から撤退して、シビックは国内でハッチバックのみとなってしまった。続く2021年にはクラリティが、2022年にはレジェンドとインサイトが、グローバルで廃止されてしまう。
つまり、約4年間で増殖した6車種の国内向けホンダセダンは、続く4年間ですべて国内から撤退、もしくはモデル自体が廃止となったわけだ。で、2024年現在、国内で買えるホンダセダンはちょうど10年前と同じく、アコードのみとなってしまっている。
このように(とくに日本国内の)販売戦略が極端に振れてしまうのは、ホンダの伝統芸というか、クセ、はたまた遺伝子のようなものというほかない。また、かつての「CR-X」や「オデッセイ」「ステップワゴン」のように、せっかく売れているのに、みずからまるで正反対にコンセプトチェンジしたり、最近の「ホンダe」のように、鳴り物入りの新商品をあっさりと諦めたり……と、飽きっぽいというか、機を見るに敏なところも、ホンダの個性であり魅力といわれれば、そうかもしれない。
しかし、そのあまりの行き当たりばったりぶり(失礼)には、ひとごとながらいつも心配になってしまうんですよね。
(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業、花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
米国に130億ドルの巨額投資! 苦境に立つステランティスはこれで再起するのか? 2025.10.31 ジープやクライスラーなどのブランドを擁するステランティスが、米国に130億ドルの投資をすると発表。彼らはなぜ、世界有数の巨大市場でこれほどのテコ入れを迫られることになったのか? 北米市場の現状から、巨大自動車グループの再起の可能性を探る。
-
なぜ“原付チャリ”の排気量リミットは50ccから125ccになったのか? 2025.10.30 “原チャリ”として知られてきた小排気量バイクの区分けが、2025年11月生産の車両から変わる。なぜ制度は変わったのか? 新基準がわれわれユーザーにもたらすメリットは? ホンダの新型バイク発売を機に考える。
-
クロスドメイン統合制御で車両挙動が激変 Astemoの最新技術を実車で試す 2025.10.29 日本の3大サプライヤーのひとつであるAstemoの最先端技術を体験。駆動から制動、操舵までを一手に引き受けるAstemoの強みは、これらをソフトウエアで統合制御できることだ。実車に装着してテストコースを走った印象をお届けする。
-
デビューから12年でさらなる改良モデルが登場! 3代目「レクサスIS」の“熟れ具合”を検証する 2025.10.27 国産スポーツセダンでは異例の“12年モノ”となる「レクサスIS」。長寿の秘密はどこにある? 素性の良さなのか、メーカー都合なのか、それとも世界的な潮流なのか。その商品力と将来性について識者が論じる。
-
自動車大国のドイツがNO! ゆらぐEUのエンジン車規制とBEV普及の行方 2025.10.24 「2035年にエンジン車の新車販売を実質的に禁止する」というEUに、ドイツが明確に反旗を翻した。欧州随一の自動車大国が「エンジン車禁止の撤廃に向けてあらゆる手段をとる」と表明した格好だが、BEVの普及にはどんな影響があるのか?
-
NEW
これがおすすめ! 東4ホールの展示:ここが日本の最前線だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.11.1これがおすすめ!「ジャパンモビリティショー2025」でwebCGほったの心を奪ったのは、東4ホールの展示である。ずいぶんおおざっぱな“おすすめ”だが、そこにはホンダとスズキとカワサキという、身近なモビリティーメーカーが切り開く日本の未来が広がっているのだ。 -
NEW
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記
2025.11.1エディターから一言「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。 -
NEW
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】
2025.11.1試乗記メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。 -
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。 -
これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。










































