第33回:ホンダ・アコード(前編) ―果断か暴挙か!? このご時世に“普通のセダン”を世に問う―
2024.07.17 カーデザイン曼荼羅セダン不遇の日本に、超然と登場した新型「ホンダ・アコード」。しかもそのデザインは、ゴージャスでもなけりゃスポーティーでもない、まさかの“なんの変哲もない普通のセダン”だった! ホンダの奇策か? 自暴自棄か? 元カーデザイナーの識者と考える。
マジで何もしていない
webCGほった(以下、ほった):今回は、こないだ発売になりましたホンダ・アコードを中心に、“国産セダン”なんていう今やディープでマニアックな世界のお話をしていければと思います。まずは提案者の清水さん、なんでこんなテーマを思いついたんです?
清水草一(以下、清水):いや、アコード、本当好きなんですよ(参照)。デザインをはじめとして何もかもが。“俺=アコード”って感じるくらい(全員笑)。
ほった:どうしたんですか一体!?
清水:伸びやかで雄大でありながら、本当に飾り気のない、ケレン味のないこのデザイン……。今、世界中探しても、これほどシンプルなセダンはないんじゃないか? これをあえて出してくるホンダってすごいと思うんですよ。
渕野健太郎(以下、渕野):なるほど。
清水:これは逆張りだと思うんですよね。セダンって世界中で市場がシュリンクして、古典的で特殊なカテゴリーになっていて、ある意味スポーツカー化していると思うんです。スポーツカーはデザイン的に先祖返りしてますよね。古臭いほうがむしろうれしいと。
ほった:それは確かに。
清水:セダンもそうだと思うんですよ。でもスポーツカー同様高級化もしてるので、どうしてもいろいろ飾ってるんですよね。
ほった:セダンが比較的強い、中国市場の嗜好(しこう)ってのもありそうですけど。
清水:どのセダンを見ても、よそと差別化をはかろうと飾り立てている。ところがアコードはコレですよ(全員笑)! 全然そういうことをしてない。そうすると逆に、すごく個性的に見えるんですよね。
渕野:確かに。
ほった:いや、ホンダは空気が読めてないだけでは……(汗)。
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アメリカが諦めた“ゆるいセダン”の継承者
清水:渕野さん、アコードのデザインどうですか? 僕は日本的精緻さのあるアメリカンデザインだと思うんですけど。
渕野:私の印象はですね、清水さんと同じような見方ですけど、1990年代ぐらいまでの古きよきアメリカ車のセダンみたいだと思います。
清水:「キャデラック・セビル」とかですか?
ほった:いやぁ、キャデラックじゃないですよね。ちょっと前の「シボレー・インパラ」とか「マリブ」とか、大衆ブランドの、マジで“普通のセダン”のほうでしょう。
渕野:そう。インパラとか「フォード・トーラス」とか。90年代の何も邪念がないセダンデザインって、すごくおおらかな感じで、今見ると逆に新鮮なんですよ。でも現代は、アメリカ車もみんな欧州的なプロポーションをしてる。
清水:ですよね~。
渕野:アメリカ車独自のゆるい感じっていうのが今のアメリカ車にはなくて、逆にホンダにはあるわけです。
清水:アコードはゆるいですか?
渕野:ゆるい、というかおおらかですね。顔などのディテールはすごく精悍(せいかん)ですが、長さを強調したプロポーションや各部の造形処理が非常にシンプルなので、現代のクルマによくあるような「変な気負い」がない印象を受けました。
ほった:横から見るとスゴいですね。ああ、コレはいいわぁ。
清水:いいよねぇ……(全員笑)。
渕野:後ろ下がりまではいかないけど、あまりリアが高くなくて、前から後ろまできれいな張りのあるキャラクターラインで、それだけを見せてるところがすごくシンプルだと思います。90年代のアメリカのセダンも、割とリアが下がり気味だったじゃないですか。私は「日産レパードJ.フェリー」が昔から気になってるんですけど。アコードにもそんな雰囲気がある。アコードのアメリカでの販売ってどうなんですか?
清水:まだまだ元気ですよ。アメリカだけで去年20万台近く売れてますから。全米販売ランキングは17位だったそうです。昔は1位も取ったことあるので激減はしてますけど、それでも20万台はすごいですよね。
ほった:ライバルがどんどん勝手に自滅していってるのもありますけどね。フォードはもうセダンをやめているし、 シボレーも今やマリブだけになっちゃったし。
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オーバーハングの長さをあえて隠さない
清水:アコードはアメリカンといえばアメリカンだけど、本当のアメリカンは、デザインがもっと全然ゆるかったじゃないですか。
ほった:ほんっとにベロンベロンでしたね(笑)。「ホイールベースよりもオーバーハングのほうが長いんじゃないか」みたいなのがいっぱいあった。
清水:それに比べると、アコードのデザインはものすごく精緻なんですよね、やっぱり質感がちがう!
渕野:それはそうですよ(笑)。
清水:アメリカの精神を日本の品質で実現してると思うんですよ。でも斜め後ろから見ると、アウディのスポーツバック系にも似てる。いい意味で。
渕野:そこを見ますか。自分はフロントのオーバーハングを長く見せてるところに注目してました。
ほった:これ、わざとやってますよね。
渕野:恐らくは。最近は、オーバーハングが長いクルマは「どう短く見せようか」っていう小細工を必ずやるんですよ。短いほうが運動性能がよく見える、タイヤが踏ん張って見えますから。デザイナーにはオーバーハングが短いほうがいいという刷り込みがあるんですけど、アコードはそういう邪念が全くなくて、むしろ長く見せようとしてんじゃないかな。それがすごく新鮮。
清水:いいんですよねぇ……。
渕野:ただ、これが市場で受けるかどうかはわかりません。
清水:いやいや。日本でもちょっと人気が出そうな気配がありますよ。5月は416台売れて、販売ランキング49位に入ったんです! 50位以内に!
ほった:入っただけですごい。
清水:ディーラー展示車ばっかりかもしれないけど……いや、展示するかな? このクルマ。
ほった:しないんじゃないですか(笑)。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=本田技研工業、トヨタ自動車、ヒョンデ、フォード、ゼネラルモーターズ、日産自動車、花村英典、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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