第34回:ホンダ・アコード(後編) ―なんの変哲もないセダンに宿る“滅びの美学”―
2024.07.24 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
潔いまでに“普通のセダン”であることを貫いた新型「ホンダ・アコード」。セダン不遇の時代に、このデザインはアリやナシや? セダンというジャンルのクルマは、これからどんな存在になっていくのか、元カーデザイナーの識者とともに考えてみた。
(前編に戻る)
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なんで今、このタイミングで?
渕野健太郎(以下、渕野):それにしても、このタイミングでアコードを日本に投入するっていうのがちょっと不思議なんですよ。トヨタは「カムリ」を……。
webCGほった(以下、ほった):去年でオサラバさせたばっかりですね。
渕野:日本市場でカムリがなくなったタイミングでアコードが来たっていうのは、なぜなんだろう?
清水草一(以下、清水):トヨタですら撤退した不毛の市場に、特攻をかけてるわけですよね。ひょっとして、タイ工場で右ハンドルつくってるからついでにってことかな?
ほった:ADAS(先進運転支援システム)の「ホンダセンシング360」って、日本ではアコードからじゃないかな。
清水:あ!
ほった:売れないからって日本市場から上級モデルをどんどんなくしていくと、そういう先進装備や高付加価値装備を仕込めるクルマが、日本からなくなっちゃいますからね。そういう意味で入れたのかもしれません。
渕野:そうか、以前は「レジェンド」がその役目だったけど。
ほった:そうそう。レベル3の自動運転はホンダ・レジェンドが世界初でした(参照)。そのレジェントが爆発四散しちゃって、今はアコードがその役割を負っているんだと思いますよ。……なんか、デザインと全然関係ない話してますけど、大丈夫ですか今回?
売れはしないかもしれないが……
渕野:ところで、これが前型のアコードなんですけど、これ、どうですか?
清水:先代も悪くはなかったけど、新型のほうがシンプルで素晴らしくなってるなって思いますねぇ。
渕野:自分は前型のアコードはアメリカで最初に見たんですけど、結構かっこいいなって思ったんですよ。ボディーが低くて長いイメージで、存在感があってよかった。これもホンダは日本で販売しましたけど、人気はそうでもなかったような……。
清水:そうでもないどころじゃないですよ(笑)。
ほった:まったく見かけませんね、マジで。
渕野:おそらく新型も、パッケージは前型からそれほど変わってない。こうして新旧を見比べると、どっちが新型なのかちょっとわかんないとこがありますよね。なにも知らない人に見せて「どっちが新しさがあると思いますか?」って聞いたら、前型のほうを新しく感じるかもしれない。それでも新型は、これだけシンプルな造形に徹してる。
清水:先祖返りしてるのかな?
ほった:そうかもしれませんね。
渕野:「こんなクルマ日本で売れるわけない」っていう意見もあります。確かに「国内じゃそんなに訴求力はないかも」と思う反面、「……でもやっぱり、かっこいいんじゃなかろうか」って思うんですよ。
清水:いやぁ、売れそうにないからこそカッコいいんですよ! 孤高の戦士ですよ!
渕野:ホンダの青山本社で実物を見ても、やっぱりかっこよかった。
清水:ヘッドライトが普通についてるだけでうれしいですからね。「トヨタ・クラウン」みたいなヘッドライトは、どこが目だかわかんない。
ほった:はいはい(笑)。
清水:アコードはやっぱり、なんの工夫もしない感じがすごくイイんだよ。
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北米ではガチャガチャ系デザイン再興の兆し
渕野:先日の“フリード VS. シエンタ”(その1、その2)じゃないですけど、トヨタと比較するとデザインが全然違うのが面白いですよね。アコードのライバルはカムリですけど、カムリはいろんな部分でいろんなことをやって、てんこ盛りなデザインでした。
清水:「こうしなきゃ生き残れないんだ!」「セダン最後のあがき!」みたいな。
渕野:どうやって魅力を出すかとなったとき、カムリはいろいろ付け足す方向を選んだわけです。どちらもグローバルでは売れているので、どっちが正解かっていうのはないんですけど、姿勢の違いはわかりやすい。
清水:トヨタも、「クラウン セダン」はシンプルで、アコードに近いですよね。
渕野:そうなんですよ。
清水:ただホンダは、最近までゴッチャゴチャのデザインだったでしょう。レジェンドはその典型だった。まぁレジェンドは本来アキュラブランドのクルマなんで、ホンダブランドのクルマとは方向性が違うし、アキュラデザインの黒歴史はまだ続いてるわけですけど。
渕野:初代レジェンドはかっこいいって思ったんですけど、今のアキュラのデザインは……(苦笑)。売れゆきはどうなんでしょう? アメリカではそれなりに受け入れられてるのかな。
清水:すごい落ち込んでるんじゃないかな?
ほった:(検索して)え~……。最近は、なんか好調みたいですよ。
清水:ええっ!
ほった:2021年に3年ぶりの前年比増で15万7408台。2022年はいったん落ち込みましたけど、2023年はそこから42%増で14万5655台。去年は新型「インテグラ」がグイグイ引っ張ったみたいですね。
清水:(写真を見て)うわ! プチレジェンド!
ほった:「ホンダ・シビック」のプレミアム版ですね。「インテグラ タイプS」で最高出力320PS。これなんか、まさにシビック タイプR。
渕野:でもこのクルマ、一時期のアキュラ車と比べると、デザイン的にはそれほど破綻してないと思いますよ。
ほった:ベースはスマートな現行型シビックですからね。今のシビックって、特にタイプRはすごくカッコいいじゃないですか。まぁ、シビックもインテグラも5ドアハッチバックなんで、今回の趣旨(今日的セダンデザイン論)からは、ちょっと外れるんですけどね。
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日本は実はセダン天国?
清水:うーん。フォルムはシビックと同じでも、アキュラ顔のくどいディテールがどうにも受け付けないな。
ほった:テリー伊藤さんの言葉を思い出して(参照)、受け入れてください。それと今回の話ですけど、ワタシもアコードのデザインは好きっちゃ好きですけど、今のご時世にそれが正しいかといわれると、ちょっとわからないんですよね。セダン不遇の時代に、なんの変哲もない普通のセダンを出すっていうのが。もうセダンが普通のクルマだった時代なんて過ぎているわけですから、アキュラ・インテグラみたいに押し出し感とかスポーティー感をバキバキに表に出していくほうが、正解な気もするんですよ。北米で生き残っているセダンも、「シボレー・マリブ」を除くとプレミアムなのやスポーティーなのばっかですから。
渕野:そうですねぇ。でもセダンっていうとつい北米の話になりがちですが、実際には北米でもフォードあたりはセダンをやめてるわけですよね。いっぽうで、日本市場に残ってる国産セダンの数を数えてみたら、まだ13台あるんですよ。
清水:そんなに!?
渕野:そう思うじゃないですか。でもレクサスだったら「IS」「ES」「LS」でしょう。トヨタは「クラウン セダン」「センチュリー」に「カローラ」が新旧2種類。それと「ミライ」。
清水:トヨタが稼いでますね。
渕野:ホームページでは「プリウス」もセダンって扱いになってますけど、個人的にはセダンじゃないと思うんで省いてます。で、ホンダは「アコード」でしょ。「シビック」もいま5ドアしかないので、これは省いて、日産が「スカイライン」で、スバルが「WRX」、マツダが「マツダ3」と……「マツダ6」はまだ残ってるのかな?
ほった:在庫販売のみですね。
渕野:それじゃあ省くとして……それでも12台です。結構あるんですよ。
清水:うーん……。
渕野:自分がちっちゃい頃はセダンばっかりだったわけじゃないですか。ちっちゃいセダンもいっぱいありましたよね。それが一斉になくなって、それでもまだ12台残ってる。
ほった:意外や日本はセダン天国……いやそうでもないかも。トヨタ以外はやっぱりジリ貧って感じですし。もうメーカーが意地になってやってるだけで、実情は北米とも変わらない気がしますね。
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「武士道といふは死ぬことと見つけたり」
渕野:個人的にはセダンというと、昭和の古きよきお父さんのクルマみたいな、あったかい感じが好きなんですよ。
ほった:ワタシは先代「ダッジ・チャージャー」みたいにトガってるのが好きだし、今のご時世、そうでないと狭くて不便なセダンを選ぶ理由がないと思いますけど……。それにしても、セダンに関してこうやって話してて思うのは、ほかのクルマと違ってそれぞれ好みがバラバラで、それで議論になるのが面白い。ミニバンとかじゃ、こうはならないでしょ。
渕野:そうかもしれませんね。セダンってやっぱり、それぞれの趣味が出るというか。
ほった:大した数もさばけないのに、顧客の志向がこうもてんでバラバラじゃ、やっぱりつくるのは大変だと思います。メーカーがやめていくのも、むべなるかな。
清水:う~ん、カーマニア的な方向性はそんな変わんないと思うんだけど。この3人が新型アコードを真横から見て、そろって「かっこいいなぁ」って言ってるわけだから。
渕野:いや~。
清水:シンプルなセダンは、いま見ると男らしくて、潔く感じるんだよ。渕野さんが乗ってた「レガシィB4 3.0R」なんか、すごく“もののふ“っぽいでしょう。
渕野:そうなんですか(笑)。
ほった:B4は間違いなくもののふです。
清水:アコードももののふだと思うんです。その方向性ですよ!
渕野:それはわかんないなぁ。
清水:主君に殉じて切腹! みたいな感じがするじゃないですか!
ほった:そういう清水さんが乗ってる「プジョー508」はギラついてて、「俺カッコいいだろ、でへへ」みたいに見えるんですけど。
清水:508もアコードと同じ切腹系だよ!
ほった:ぜんっぜん違いますよ!
渕野:いや、案外似てるんじゃないですか、全体的なプロポーションは。
清水:でしょ? シンプルなフォルムのセダンはすべてもののふ。滅びの美学だよ!
渕野:やっぱり滅んじゃうんですか(笑)。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=本田技研工業、トヨタ自動車、ゼネラルモーターズ、ステランティス、マツダ、日産自動車、郡大二郎、花村英典、茂呂幸正、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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