第815回:工場DXでモノづくりはどう変わる? トランスアクスル生産現場に見るスバルの挑戦
2024.12.24 エディターから一言 拡大 |
革新的な生産技術により史上初の大量生産を実現した「T型フォード」。自動車産業史はモノづくりの歴史そのものであり、確かな知識と経験、知恵と工夫に裏打ちされた生産技術こそが安全安心の要である。2024年12月にスバルが報道関係者を対象に実施した工場見学ツアーの模様をお届けしつつ、自動車の生産拠点の未来を考えてみたい。
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「S:HEV」の品質を支えるコアな生産技術
埼玉県にあるスバル北本工場は、1995年4月に発電機や芝刈り機に搭載する汎用(はんよう)エンジンの生産拠点として開設され、2016年にスバルが産業機器事業から撤退した後は、部品物流倉庫として活用されてきた。それが、2024年10月にストロングハイブリッドシステム用トランスアクスルの生産拠点としてリニューアルオープン。建屋は2階建てで、1階で加工を、2階で組み立てを行う。生産能力は年間18万6000台。「クロストレック」の「S:HEV」モデルに搭載されるトランスアクスルが、ここでつくられる。製品の詳細は既出の記事に詳しいので(その1、その2、その3)、本稿では生産に関する情報にフォーカスすることとする。
生産技術のこだわりのひとつは、静粛性の確保だ。トランスアクスルには発電用と駆動用の2つの高出力モーターがあり、モーターと軸(シャフト)の中心がずれれば、回転時の振動が大きくなって音も大きくなる。そこで北本工場では、ステーターなどのパーツをケースに組み付ける工程に、インライン3次元計測システムを導入した。パーツやケースは規格化されているものの、若干の個体差があるため、3次元計測によって微妙な作業位置の補正や動作調整を行うのだ。これにより、中心に対して0.1mmレベルの精度で組み付けが可能となり、静粛性向上に寄与しているという。
また、ギアも静粛性に影響するため、複雑なギアレイアウトでも振動を抑制できるように歯の加工法や仕上げの工法を見直すなど、さまざまな工夫を重ねている。そのうえで、出荷全数の運転検査を実施。実際にモーターを回転させ、集音マイクを使ったAI判定によりイレギュラーの撲滅に取り組んでいる。
組み立て工程の終盤、ケース同士をシール材やネジで接合する工程にもこだわりがあった。シール材は密閉性を高めるために必要で、塗布作業は自動化されている。ただ、ケースは軽量化のために薄肉化されており、シール材を塗布できるスペースは限られている。ゆっくり塗布すれば位置と量を制御しやすいが、シール材は一定時間を超えると表面に膜が生じて接着力が低下する。逆に塗布のスピードを上げすぎれば、シール材の吐出が追いつかず、途切れる部分が生じて密閉性が低下する。こうした課題を踏まえて、北本工場ではシール材の吐出量と塗布位置の制御に加えて、塗布の状態を画像判定するプロセスを組み入れた。塗布が不十分な箇所が見つかれば、そのケースはラインからはじかれる仕組みだ。
モデル工場で進む未来への取り組み
北本工場は「モノづくり革新で世界最先端を目指すための第一歩・モデル工場」という位置づけだ。ここで培ったノウハウは他の工場などに横展開される可能性があり、7つの注力ポイントが設定されていた。見学ツアーではそのなかでも新たなチャレンジとなる3つのポイント「ダイバーシティー」「物流」「DX」に関して説明がなされた。
「ダイバーシティー」とは、女性やシニアなど多様な人材が活躍できるようにする取り組みのこと。事前に3Dのバーチャル工場で作業負荷を検証し、エルゴノミクス(人間工学)評価基準を適用して作業台の高さを見直したり、重量物の運搬を機械化したり、体格や筋力等に関係なく働ける環境づくりを推進している。
次いで「物流」の領域では、自動車メーカーとして初めてトラックドライバーの自主荷役を廃止。フォークリフト免許を持つトラックドライバーが担っていた荷役を工場側が受け持つことで、フォークリフト免許のないドライバーでも受け入れ可能になるうえ、工場での滞在時間が短縮されるため、物流業界の負担軽減につながると期待される。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は生産性や品質の向上が狙いで、先に述べたAI判定や画像判定などもここに含まれる。工場内で自動収集するデータは日々の生産活動に活用されるだけでなく、将来的な改革や改善に役立てるべくクラウドに蓄積しているという。
協働ロボットがあれば工場無人化は可能?
生産現場の改革は自動車業界に限らず、あらゆる業界が取り組んでいる。労働力不足への対応と生産性向上のために、機械化・自動化・省人化は一層進むとみられるが、いずれは無人化もあり得るのだろうか? スバルモノづくり本部第3製造部担当部長で北本工場長の佐伯一哉氏は、「人間が作業をする『手扱い』を極力なくしたいのですが、ゼロにできるとは思っていません」とし、人間にしかできない作業として検品を挙げた。
「例えば、機械加工したパーツの表面に、アルミ鋳造の際に生じる『ス』が現れることがあります。スが出る場所が同じならば画像認識による自動検出も可能でしょうが、現状はどこにどの程度現れるかが分からず、人間の目視でないと見つけられません。組み付けにしても、人間はパーツの個体差に応じて軽く傾けるような、カンとコツを働かせて対応しますが、ロボットにはそれができません。ただ、一部工程には既に柵やエリア分けの必要がない協働ロボットが入っています。ゆくゆくはロボットがパーツを運んで人間に渡し、人間が組み付けを行うという具合に、エルゴノミクスの領域はロボットで、人間は人間にしかできない業務を遂行して共存する世界になるのではないでしょうか」
生産現場の在り様は時代とともに変わるもの。100年以上前のT型フォードの工場では、コンベヤーの横にずらりと並んだ人間が多くの作業を担っていたが、スバル北本工場では人間の関与は限定的だ。256人の従業員(2024年12月1日時点)は、社内公募で北本工場を希望した人がほとんど。志願の理由はそれぞれで、産業機器をつくっていた時代から北本に愛着のある人もいれば、トランスアクスルの生産に携わってみたい人、ゼロからの生産拠点づくりに挑戦したい人もいるという。代々受け継がれてきたスバルのDNAをもとに、いかにしてモノづくりを革新し、次へバトンを渡すのか、これからの挑戦を見守りたい。
(文=林 愛子/写真=webCG/編集=堀田剛資)

林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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