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トヨタが開発中のミドシップスポーツに“大のミドシップ好き”清水草一が思うこと

2025.02.03 デイリーコラム 清水 草一
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マニア泣かせの復活劇!?

トヨタが新開発エンジンをミドシップするコンセプトカー「GRヤリスMコンセプト」を公開し、クルマ好きの反響を呼んでいる。

GRヤリスの車体後部に大パワー(最高出力400PSオーバー?)の2リッター直4ターボエンジンを搭載し、4WDで駆動するのだから、速くないはずがない。ホイールベースが短いので、操縦性はそれなりにシビアになるようで、これぞ究極のGR! と呼んでもよさそうだ。

このクルマは、どんな市販モデルへと発展するのだろう? 自動車メディアの間では、「セリカだ」「MR2だ」と、予想が乱れ飛んでいる。

セリカ復活については、すでにトヨタの中嶋裕樹副社長が明言している。セリカはかつて「GT-FOUR」がWRC(世界ラリー選手権)で大活躍した栄光の歴史がある。そのミドシップ4WDバージョンが登場すれば実にスバラシイ。

MR2復活のうわさも流れている。せっかくミドシップ4WDをつくるなら、アピール性の強いミドシップ専用車に積んで市販したほうがインパクトが強い……というのがその理由らしい。どっちもうわさの域を出ないが、クルマ好きにとっては夢のある話だ。

ただ個人的には、これらのミドシップ市販車計画(?)、あまり心は躍らない。

新開発の2リッター直4ターボ「G20E」エンジンをミドシップするレーシングカー「GRヤリスMコンセプト」。東京オートサロン2025において初公開された。
新開発の2リッター直4ターボ「G20E」エンジンをミドシップするレーシングカー「GRヤリスMコンセプト」。東京オートサロン2025において初公開された。拡大
「GRヤリスMコンセプト」のハッチゲートを開けた様子。キャビン後方に積まれたG20E型ユニットが見える。
「GRヤリスMコンセプト」のハッチゲートを開けた様子。キャビン後方に積まれたG20E型ユニットが見える。拡大
2024年5月に開催された技術説明会において、新エンジンの概要を説明する、トヨタ自動車の中嶋裕樹副社長。中嶋氏は別の機会に、「セリカ」の復活について「やります」と述べている。
2024年5月に開催された技術説明会において、新エンジンの概要を説明する、トヨタ自動車の中嶋裕樹副社長。中嶋氏は別の機会に、「セリカ」の復活について「やります」と述べている。拡大
「トヨタ・セリカGT-FOUR」のWRCにおける輝かしい活躍は、多くのクルマ好きの記憶にあることだろう(写真は1990年のサファリラリー優勝車)。それがこの先、新型MR車として復活するのかどうか。さまざまな臆測が飛び交う。
「トヨタ・セリカGT-FOUR」のWRCにおける輝かしい活躍は、多くのクルマ好きの記憶にあることだろう(写真は1990年のサファリラリー優勝車)。それがこの先、新型MR車として復活するのかどうか。さまざまな臆測が飛び交う。拡大
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ミドシップ車の厳しい現実

ミドシップが嫌いなわけではない。むしろ大好きだ。なにしろこれまでミドシップ車を合計16台も買っている。しかし、トヨタが今後登場させるかもしれないミドシップ市販車には、あまり興味を抱けない。

ミドシップ車というのは、実用上は大変不便なものである。特に近年は“宝飾品”(=スーパーカー)としてつくらないとあまり需要がない。しかしトヨタがつくろうとしているのは、宝飾品ではなく“クルマ”だろう。

かつてトヨタはMR2や「MR-S」を市販した。初代MR2(1984年発売)の時代は、世の中全体がスポーツカー熱に浮かされていたので、それなりに売れたが、2代目(1989年発売)は操縦性が非常にトリッキーだったこともあり、同じく恐怖のオーバーステアマシンだった「フェラーリ348」のサーキット練習用としての価値しか感じられなかった。

その後トヨタは、「もうフェラーリ的なミドシップ車は時代遅れ」と判断し、コンパクトな「MR-S」を開発・発売したが(1999年)、スポーツカー熱どん底時代でもあり、サッパリ受けなかった。

仮にセリカやMR2が、ミドシップ4WDとして復活しても、あまり需要はないだろう。現在、世界で売り上げが好調なミドシップ車は、すべて宝飾品だからである。

筆者・清水草一は、これまで16台のミドシップ車を買ったほどのMR好き。しかし、今トヨタがマニアックなミドシップ車を開発・市販することに対しては、疑問に思うところがある。
筆者・清水草一は、これまで16台のミドシップ車を買ったほどのMR好き。しかし、今トヨタがマニアックなミドシップ車を開発・市販することに対しては、疑問に思うところがある。拡大
日本初となる2シーターの量産型ミドシップスポーツカー「トヨタMR2」。1984年にデビューした。
日本初となる2シーターの量産型ミドシップスポーツカー「トヨタMR2」。1984年にデビューした。拡大
2台続いた「MR2」の後継モデルとして1999年に誕生したのがオープントップの「トヨタMR-S」。特別仕様車を含め、2007年7月末まで生産された。
2台続いた「MR2」の後継モデルとして1999年に誕生したのがオープントップの「トヨタMR-S」。特別仕様車を含め、2007年7月末まで生産された。拡大

フツーのクルマ好きに応えてほしい

宝飾品未満としては「アルピーヌA110」があり、専門家の評価は猛烈に高いが、販売台数はフェラーリやランボルギーニに届かない。値段ははるかに安いし、乗ればアルピーヌのほうがずっと楽しめるのに、だ。

ポルシェのミドシップ車である「ボクスター/ケイマン」も、「911」よりかなり少ない販売台数にとどまっている。「1000万円以下の手ごろなミドシップ車の需要はあまりない」というのが、世界の現実なのである。

今の世の中、400PSオーバーのスポーツモデルが登場しても、公道ではパフォーマンスを発揮しきれない。2シーターだと実用性もない。だから自慢の宝飾品としての存在を除いて、需要が極端に縮小してしまった。

個人的には、「GRMNヤリス」や「GRカローラ」にも、あまり興味は湧かなかった。限定モデルゆえにコレクターは競って購入したが、トヨタの意図に反して、乗るよりも値上がりを待つためのクルマという印象になった。

トヨタのモータースポーツへの情熱はすばらしいが、近年はその情熱が、「特殊すぎるクルマ」や「速すぎてフツーには楽しめないクルマ」の開発に片寄っていないか? フツーのクルマ好きが求めているのは、例えば「スイフトスポーツ」のような、より安価で実用的でフツーに楽しめるスポーツモデルだと思うのだが……。

希望は、「スターレット」の復活および「GRスターレット」登場のうわさだ。それが実現すれば、スイフトスポーツの弟分的なスポーツモデルになる。私が期待するのは、ハイパワーミドシップ4WDのセリカやMR2ではなく、断然そっちである。

(文=清水草一/写真=トヨタ自動車、スズキ、清水草一、webCG/編集=関 顕也)

2017年のジュネーブモーターショーで復活デビューを果たした新生「アルピーヌA110」。往年のRR車とは異なるMRの駆動方式を採用し、いわゆるスーパーカーに比べれば安い価格設定とされたが、マニア車らしく販売台数は限定的である。
2017年のジュネーブモーターショーで復活デビューを果たした新生「アルピーヌA110」。往年のRR車とは異なるMRの駆動方式を採用し、いわゆるスーパーカーに比べれば安い価格設定とされたが、マニア車らしく販売台数は限定的である。拡大
「GRヤリス」の走行性能をさらに追求したハイパフォーマンスモデルとして2022年春に登場した「GRMNヤリス」。限定販売によりコレクターズアイテム化し、731万7000円~846万7000円の高価格にもかかわらず一瞬で売り切れた。そもそも、そういうビジネスが世のクルマ好きの本当に望むものなのかどうか、一考の余地はある。
「GRヤリス」の走行性能をさらに追求したハイパフォーマンスモデルとして2022年春に登場した「GRMNヤリス」。限定販売によりコレクターズアイテム化し、731万7000円~846万7000円の高価格にもかかわらず一瞬で売り切れた。そもそも、そういうビジネスが世のクルマ好きの本当に望むものなのかどうか、一考の余地はある。拡大
多くの“フツーのクルマ好き”が求めているのは、「スズキ・スイフトスポーツ」のような、安価で実用的なスポーツモデルではないだろうか。写真は現行型スイフトスポーツの最後を飾る「スイフトスポーツZC33Sファイナルエディション」。
多くの“フツーのクルマ好き”が求めているのは、「スズキ・スイフトスポーツ」のような、安価で実用的なスポーツモデルではないだろうか。写真は現行型スイフトスポーツの最後を飾る「スイフトスポーツZC33Sファイナルエディション」。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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