アウディQ4スポーツバック45 e-tron Sライン(RWD)
WAKU WAKUさせて 2025.04.29 試乗記 「アウディQ4 e-tron」に新グレードの「45 e-tron」が登場。前身にあたる「40 e-tron」からはモデルネームの数字が5だけ上がったにすぎないが、なんとパワーもトルクも大幅アップ、一充電走行距離も拡大している。クーペスタイルの「スポーツバック」をドライブした。e-tronから6年
アウディ初の量産電気自動車(BEV)「e-tron」が発売されたのは2019年のこと。翌年に日本でも販売が開始され、「e-tronスポーツバック55クワトロ ファーストエディション」に試乗した。レベル違いの静粛性、優雅でありながら力強い加速、内外装のディテールにちりばめられた未来感に圧倒された記憶がある。ただ、走行していて急激に減っていくバッテリー残量におびえていた。当時は充電インフラが整っていなかったこともあり、実用性能にはまだまだ疑問符をつけざるを得なかった。
それから6年がたち、アウディは豊富なBEVラインナップをそろえている。そのなかで最もコンパクトなモデルがQ4 e-tronだ。2022年に日本でも手に入るようになっていたが、2024年末からパワーを高めた新グレードが導入された。以前の40 e-tronに代わって登場したのがQ4 45 e-tronである。駆動用モーターは最高出力が82PS増しの286PS、最大トルクは235N・m増しの545N・mだ。バッテリーの総電力量は82kWhで従来と変わらないが、一充電走行距離は19km増しの613kmに延びている(WLTCモード)。
試乗したのはクーペライクなフォルムのスポーツバックで、上質な内外装を持つとともに20インチの大径ホイールを備える。スポーツサスペンションが装備され、シリーズで最も車高が低い。都会派SUVの模範解答のようなスタイルだ。最初のe-tronもSUVだったが、より洗練されて魅力的なルックスになった。見た目だけでなく、構造も大きく変わっている。e-tronのプラットフォームがエンジン縦置きFF車用の「MLB evo」を改造したものだったのに対し、Q4 e-tronはフォルクスワーゲン グループがBEV専用に開発した「MEB」だ。
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ライバルが多いカテゴリー
e-tronは2023年に改良を受けるとともに「Q8 e-tron」と改名し、フラッグシップ電動SUVという位置づけになった。電動化戦略を先導する役割を与えられたわけだが、2025年2月に生産終了している。BEVの進化は日進月歩で、専用プラットフォームでなければ勝負できない時代なのだ。一方でBEVの普及は停滞し、各メーカーは方針変更を余儀なくされている。激変する環境下で、Q4 e-tronは重要な使命を担う。
各社ともこのカテゴリーを重視しているようで、強力なライバルが居並ぶ。「メルセデス・ベンツEQB」「BMW iX1」「レクサスRZ」「ボルボEX40」などが競合しそうだ。そういえば、最近乗った「ヒョンデ・アイオニック5」もサイズ感や出力、走行可能距離などが似ていた。そのときと同じコースを走ってみることにしよう。伊豆半島の下田にある上原美術館を目指す。メーターに示された航続可能距離は588kmを示している。頼もしい数字だ。
ゆっくりと走りだすと、静粛性と乗り心地の滑らかさに感心する。BEVだから当然なのだが、いつもハイブリッドですらないガソリン車に乗っている身には品のよさが心にしみる。首都高の荒れた路面を走っても、不快な衝撃をこともなげに和らげてくれるのがありがたい。高速道路は得意分野で、心地よく巡航する。ドライブモードを「エフィシェンシー」に設定して走ると、電費は6.2km/kWhほどだった。バッテリー性能もモーターの効率も大幅にアップしているようで、ちょっと前では考えられなかった好電費である。
ステアリングホイールに備わるパドルはもちろん変速のためではなく、ブレーキ回生レベルを変える機能を持つ。高速道路では最も低いレベルを選び、街なかでは強度を最大にしてワンペダルドライブで走る。制動力はさほど強くないし完全停止はできないが、ブレーキを踏む回数を減らして安楽な運転ができる。
スポーティーより安定を優先
山道ではドライブモードを「ダイナミック」にして回生レベルは最大に。タイトなコーナーが続く道では効果的な設定だ。バッテリーを床に敷き詰めているため重心が低く、ロールはあまり感じない。中高速コーナーで構成された箱根ターンパイクの上りでアクティブな走りを試してみた。速さが飛び抜けているわけではないし、加速感はほどほどだ。思い切りスポーティーということではないのは、このクルマの性格からすれば当然のことだ。ドライバーだけが快楽を得るタイプの仕立てではない。
レスポンスはいいが、ガツンとスピードが上がることはない。モーターの設定で鋭さを演出することもできるはずだが、穏やかさが優先されている。Q4 e-tronは後輪駆動なので、スポーティーなハンドリングを期待していた。素直でスムーズな操縦性には好感が持てたが、安定した感覚に終始。求められるのは過敏さでも荒々しさでもなく、信頼度と確実性なのだ。ドラマチックではないものの、リスクを感じることなく大観山までのドライブを楽しんだ。
電費が悪化するのは想定どおりで、ターンパイクの入り口で390kmだった航続可能距離は264kmに減少した。実際に走ったのは13.8kmなのに、126km相当分の電力を消耗したことになる。上り坂に弱いのはどの電動車でも同じで、欲望に負けないで自らを律するしかない。下りでは弱点が強みになり、回生でバッテリー残量を増やすことができる。アクセルを使わずにパドルで回生レベルを操作することでスピードをコントロールする。20kmほどの下りで航続可能距離は353kmまで回復した。
下田に到着してもまだ200km分の電力が残っており、そのまま帰ることにした。翌日の撮影に備えて自宅近くで充電すればいい。アウディは「プレミアム チャージング アライアンス」に加盟していて出力150kWまでの急速充電に対応している。ただ、充電器が設置されているのは都市部がほとんどで、自宅のある神奈川県西部では利用できないことが分かったのだ。
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商品力はアップしているが……
充電器検索で「大出力充電」を指定すると、近くに充電スポットが見つかった。プレミアム チャージング アライアンスのブラックカードは使えないが、「e-Mobility Power」の白とブルーのカードには対応している。安心して充電を始めてみたものの、チャージの速度が異常に遅いことに気づいた。よく見たら、その充電器は出力20kWの旧型である。確かめなかったのが悪いとはいえ、大出力充電として20kWの充電スポットが表示されてしまうのは困りものである。
Q4 e-tronは自動車メーカー各社が力を入れるクーペSUVのBEVというトレンドのど真ん中に位置するモデルだ。デザインは洗練されているし内外装の質感は高い。スポーティーとはいえないものの、動力性能は十分以上といえる。静粛性が高く、乗り心地は良好だ。安心して遠出できる航続距離を持ち、日常生活で不満も不安も感じない実用性がある。非の打ち所がないのだが、突出したものも感じなかった。普通にいい、と表現できてしまうのがさびしい。
6年前のe-tronに比べると、トータルの性能は確実にアップしている。一般的なユーザーに向けて商品力を磨いてつくられたのがQ4 e-tronなのだ。今ではBEVは特別な存在ではなくなり、乗り物としての完成度と使いやすさを競う段階に入った。当然ながら、価格への関心も高まることになる。同等の性能を持つアイオニック5はコストパフォーマンスで上回り、さらに安価な「BYDシーライオン7」というモンスターも日本上陸を果たした。アウディはブランド力では明白なアドバンテージがあり、何らかの付加価値をアピールすることが重要だ。
2024年末に急逝した中山美穂は、1986年のヒット曲『WAKU WAKUさせて』で「地味っぽい顔はやめて」「生き方を派手にしなよ」と歌っていた。バブル期の浮かれ気分を濃厚に映し出している歌詞で、今はそんな時代ではないのかもしれない。でも、アウディにはこれからもWAKU WAKUを求めたいのだ。都会的なエクステリアと官能的なインテリアで自動車のデザインを革新し、多くのフォロワーを生んだのがアウディである。モータースポーツでは、精密に組み立てられたエンジンで圧倒的な力を見せつけた。アウディならば、BEVでも常識を打ち破って新たなトレンドをつくれると信じたい。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=アウディ ジャパン)
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テスト車のデータ
アウディQ4スポーツバック45 e-tron Sライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4590×1865×1600mm
ホイールベース:2765mm
車重:2120kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:286PS(210kW)
最大トルク:545N・m(55.6kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R20 100T/(後)255/45R20 101T(ハンコック・ヴェンタスS1 evo3 ev)
交流電力量消費率:136Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:613km(WLTCモード)
価格:767万円/テスト車=835万円
オプション装備:ボディーカラー<タイフーングレーM>(8万円)/ブラックアウディリングス&ブラックスタイリングパッケージ<ブラックエクステリアミラーハウジング、ブラックルーフレールを含む>(15万円)/SONOSサウンドシステム(10万円)/ステアリングヒーター(4万円)/MMIナビゲーションプロ(20万円)/Sラインインテリアプラスパッケージ<パーシャルレザー、ドアアームレストアーティフィシャルレザー、3分割可倒式リアシート>(11万円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1704km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:468.7km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.0km/kWh(車載電費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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