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このデザインはアリやナシや? 「ジャガー・タイプ00」をカーデザインの識者が語る

2025.05.22 デイリーコラム 渕野 健太郎
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ジャガーらしさとは「何物にも似ていないこと」

ここ数年、新型車がなかったジャガーから、2024年の冬に突如として発表されたコンセプトカーが「TYPE 00(タイプ00)」です。これまでのジャガーとは全く異なるデザインで、すでに賛否両論を巻き起こしていますが、これほどの変貌を遂げた理由は、東京でのプレスカンファレンスでも繰り返し語られた「copy nothing」というキーワードにあるようです。

本題の前に、まず私がジャガーらしいと感じるクルマの話をすると、それは初期の「XJ」シリーズです。後ろ下がりの伸びやかなプロポーションや、ウッドとレザーがふんだんに使われたインテリアはイギリス車ならではで、他国のブランドでは決して感じることのできない優美なデザインでした。しかし、近年のジャガーは、よりスポーティーで若々しいイメージにシフトしていったと感じています。XJから受け継いできたクラシカルなモチーフは徐々に排除され、直近のモデルでは、各セグメントの中心になり得るデザインになりました。ただその結果、ジャガーらしい個性が薄くなったことも事実でしょう。今回の“リブランド”といってもいい大胆なブランディングは、個性を取り戻すべく行っているのだと感じています。

では、ジャガーらしい個性とはなにか。プレスカンファレンスでの説明で、それは決してノスタルジーなものではないと認識しました。ジャガーでは、1960年代初頭に発表された「Eタイプ」が体現していたように、それまでのクルマとは全く異なった、見たこともないような個性を「ジャガーらしい」と定義しています。まさに「copy nothing」ですね。今でこそクラシックカーの代名詞ともいえるEタイプですが、発表当時は大変先進的な印象だったのでしょう。

東京・品川のアートスペースでアジア初公開された「ジャガー・タイプ00」。
東京・品川のアートスペースでアジア初公開された「ジャガー・タイプ00」。拡大
プレスカンファレンスより、JLRのジャガー担当マネージング・ディレクターであるロードン・グローバー氏。
プレスカンファレンスより、JLRのジャガー担当マネージング・ディレクターであるロードン・グローバー氏。拡大
1968年にデビューした初代「XJ」。XJは8代51年にわたり命脈を保ったモデルだが、2009年生産終了の7代目までは、初代のイメージを色濃く反映したデザインが用いられていた。
1968年にデビューした初代「XJ」。XJは8代51年にわたり命脈を保ったモデルだが、2009年生産終了の7代目までは、初代のイメージを色濃く反映したデザインが用いられていた。拡大
1961年に登場した「Eタイプ」。非常に斬新かつ提案性に富んだモデルで、同車の登場により、今日に至るFRスポーツカーのデザインの方向性が決定づけられたといっていい。
1961年に登場した「Eタイプ」。非常に斬新かつ提案性に富んだモデルで、同車の登場により、今日に至るFRスポーツカーのデザインの方向性が決定づけられたといっていい。拡大
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現代アートにも通じるえたいの知れない存在感

では彼らは、新しい個性を得るうえでどのような手法をとっているのでしょうか。デザインの説明では「“exuberace”をもたらすとは最もピュアなかたち、すなわち『アート』によってそれを表現すること」と述べており、カーデザインをアートの領域に高めることをミッションとしているようです。

具体的に見ていくと、タイプ00は典型的なFR車のプロポーションをさらに極端にしたようなデザインが特徴的です。さすがにここまで長く、低く、タイヤが大きいと、どうデザインしてもカッコよくなるものですが、タイプ00も、まずはこのプロポーションで圧倒的な存在感を実現しています。特に印象的で魅力的なのがリアまわりで、大きな弧を描いたルーフと大胆に絞り込まれたボディーが四角形のモチーフに収束している造形は、幾何学的であるというのにどこかXJのリアに通じるエレガントさを感じさせます。

いっぽう、フロントから見たイメージは「置物感」が強く、これだけ大きなタイヤを備えているにもかかわらず、走る姿を想像しにくいものです。これもデザイナーの狙いでしょうか? とても長いボンネットには面の張りがほとんどなく、またボディー下部の“しまい込み”もほとんどないため、悪くいうと2次元的な、紙細工のような印象を覚えました。しかし、そのような造形もアートとしての狙いなのかも知れません。確かにタイプ00には、現代アートに通じる、えたいの知れない存在感がありました。

サイドビューでは、極端なロングノーズ・ショートデッキのプロポーションが目を引く。
サイドビューでは、極端なロングノーズ・ショートデッキのプロポーションが目を引く。拡大
リアクオータービューを見ると、なだらかなルーフラインや、絞り込まれたキャビンの側面、外へと大きく張り出したロワボディーが、四角いリアエンドへ向かって収束していくのがわかる。
リアクオータービューを見ると、なだらかなルーフラインや、絞り込まれたキャビンの側面、外へと大きく張り出したロワボディーが、四角いリアエンドへ向かって収束していくのがわかる。拡大
いっぽうで、フロントまわりのデザインからは、動的な印象があまり感じられない。これもデザイナーの狙いなのか?
いっぽうで、フロントまわりのデザインからは、動的な印象があまり感じられない。これもデザイナーの狙いなのか?拡大

「アート」という言葉は取扱注意!

ところで、その「アート」についてですが、これはカーデザインを表現するうえで注意しなければならない言葉です。

一般的に、自動車を含むプロダクトデザインは「ユーザーのために」デザインをしますが、それに対して油絵や彫刻などのファインアートは、「自分本位に」表現をして世にそれを問うもので、二者の間には大きな隔たりがあります。確かに、プレミアムブランドのクルマは感性的な価値の比重も大きいので、アートという言葉を使ってもいいとは思いますが、さまざまな評価軸があるカーデザインでこの言葉を「単体で」使うと、逆に軽い印象になりかねないでしょう。

……と、いろいろ言ってはきましたが、高価格かつ少量生産のブランドに移行するジャガーとしては、いずれも百も承知のことでしょう。このように賛否両論を巻き起こすことこそがジャガーの狙いであり、その点でとても成功していると思います。新しいジャガーの市販車は最高出力1000PSの4ドアGTから登場するのですが、タイプ00の発表により、その注目度は一気に高くなりました。近年は存在感の薄れた、しかし誰もが知る、伝統あるブランドのブランディングとして、まずは大成功といえるのではないでしょうか。

(文=渕野健太郎/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン、webCG/編集=堀田剛資)

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今回の展示では車内を見ることはできなかったが、広報写真によるとこのような空間となっているようだ。
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日本のグラフィックアーティストであるYOSHIROTTEN氏のインスタレーション「TOKYO FUTURE 00」とともに展示される「ジャガー・タイプ00」。今も昔も、自社製品をアートになぞらえて表現するメーカーは多いが、それについては注意が必要だ。
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「ジャガー・タイプ00」とJLRおよびジャガー・ランドローバー・ジャパンの関係者。彼らとしてはジャガーブランドの再始動に際して話題を盛り上げることが目的であり、賛否両論が巻き起こっている現状は、まさに「狙いどおり」といったところだろう。
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少量生産の、電気自動車専門のラグジュアリーブランドになるという新生ジャガー。最初のモデルである4ドアGTは、2025年後半の市場投入が予定されている。
少量生産の、電気自動車専門のラグジュアリーブランドになるという新生ジャガー。最初のモデルである4ドアGTは、2025年後半の市場投入が予定されている。拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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