アウディRS e-tron GTパフォーマンス(4WD)
進化は次のステージへ 2025.09.26 試乗記 大幅な改良を受けた「アウディe-tron GT」のなかでも、とくに高い性能を誇る「RS e-tron GTパフォーマンス」に試乗。アウディとポルシェの合作であるハイパフォーマンスな電気自動車(BEV)は、さらにアグレッシブに、かつ洗練されたモデルに進化していた。“2巡目”に入った欧州のBEV戦略
環境にまつわる極端な言動や、政治的方針に振り回された感のある欧州のBEVシフト。需要的に踊り場といわれる現在、彼らがそのツケに苦しんでいるのは周知のとおりだ。他方、マルチソリューションを標榜(ひょうぼう)していた日本のメーカーについては、それを引き合いに過去の評価を正すような話が耳目に触れることも多い。
個人的にも日本が選んだ方向性はまったく間違っていないと思う。が、もはやその優劣に一喜一憂するような段階でもない。長い目でみればBEVが普及途上にあることは間違いなく、産みの苦しみを味わっている欧州勢が着々とリアルワールドでの知見を積み上げていることも確かだ。輸入されたばかりのモデルが、日本のCHAdeMO規格の充電器で理論値に近い電気をぐんぐん飲み込んでいくのをみると、攻めた閾値(しきいち)の設定や電流管理に経験則が役立っていることが察せられる。
経験則でいえば、日本のメーカーはこういったソフト面ほどの差異はなくとも、ハードの熟成という面も意識しなければならない段階にきているように思う。というのも、欧州勢は既にマイナーチェンジや実質的なフルモデルチェンジを経て、需要的にも“2巡目”に入りつつあるからだ。
そういう懸念が頭をよぎるほど、大きな変貌を遂げていたのがアウディのe-tron GTだ。BEV化に積極的なビジョンを打ち出していたアウディにとって、2番目のBEV専用車となるこのモデルが上市したのは2021年(その1、その2)。そして約4年ぶりのマイナーチェンジを受けて日本に上陸したのが2025年8月という時系列になる。ご存じの方も多いだろう、「J1」と呼ばれるアーキテクチャーをe-tron GTと共有する「ポルシェ・タイカン」は2024年にマイナーチェンジ済みだ(参照)。
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0-100km/h加速は「ランボルギーニ・レヴエルト」と同等
見た目にはそれほど大きな変化を感じないだろうe-tron GTの改変点は、中身の側に寄っている。まずバッテリー容量は93.4kWhから105kWhへと増量。いっぽうで重量は9kg軽くなった。こういう数字でわかりやすい進化をみると、BEVの買い時をつかむのはやはり難しいなあと思わされる。
日本におけるe-tron GTのグレード構成は、「S e-tron GT」と「RS e-tron GTパフォーマンス」の2つに見直される。今回の改良では既存の「e-tron GTクワトロ」「RS e-tron GT」に加え、ベースグレードとRSの間に入るS、そしてRSを上回るRSパフォーマンスが追加されたわけだが、わが国には新規の2グレードのみが導入される格好となる。そんなわけで、従来の日本仕様と比較するのは違うような気もしつつ語らせてもらうと、日本で新たなベースグレードとなるSのアウトプットは最高出力680PS、最大トルク740N・mと、過去のe-tron GTクワトロより、それぞれ150PSと100N・mも向上。RSパフォーマンスでは925PSの1027N・mと、従来のRSより279PSと197N・mものアップとなるわけだ。
この数字はローンチコントロールのような瞬間的なマネジメントにおけるもので、まぁ一発芸ですよねと思いつつも、0-100km/h加速にして0.8秒という物理的な違いを知ると、そのギャップに穏やかならぬ心持ちにさせられるのも確かだ。ちなみに、今回の取材車であるRSパフォーマンスのそれは2.5秒。「ランボルギーニ・レヴエルト」と同じだ。
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車高を上げ下げして乗降をサポート
動力性能はもとより、モーターやインバーター、冷却系統の見直しでアクスルの荷重も変わったことに伴い、足まわりのセットアップは全面的に変更されている。取材車のRSパフォーマンスはエアサスペンションが標準で装備されるのに加えて、オプションでアクティブサス&リアアクスルステアリングの選択も可能。乗降モードをオンにしておけば、ドアの開閉のたびに瞬時に足を伸ばして上屋を持ち上げ、乗員の姿勢面での負担を和らげてくれる。
取材時にはこのエントリー機能を知らぬままドアを開けたものだから、その動きの素早さと大きさに思わず声を上げてしまった。開閉のたびに上下を繰り返すその動きは、遠目にはおじいちゃんのスクワットでも見ているようである。いっぽうで、ドライブモードを「ダイナミック」に設定した際の車高は市井のカスタムショップのロワリングを思わせるベタベタぶりだ。エアサスの車高設定の最大値は上方に77mm、下方に55mmとなっているが、スタンスの激変ぶりにジオメトリーの変化も気になってくる。
内装はステアリングの形状やインターフェイスが他のe-tronシリーズと同様のモードに改められているが、操作系やインフォテインメントに大きな変化はない。随所にリサイクル材が用いられる内装の設(しつら)えも温かみは感じないが、それがアウディらしさとも捉えられる。パッケージはサルーンというよりスポーツカーの側に近いが、バッテリーレイアウトが配慮されていることもあって(参照)、後席の足の収まりは悪くない。
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ちゃんとインフォメーションがあることの重要性
RSパフォーマンスの乗り味の洗練度は想像を大きく上回ってきた。低負荷・微小入力からのサスの動きはしっとりと穏やかで、あらかたの凹凸を越えてみてもパッツリと張りを感じるような動きはみられない。路肩や橋脚の目地段差なども丸く受け流してくれる。感心したのはドライブモードでスポーティーなモードを選んでいても、乗り心地が荒れないことだ。バネや減衰のレートは明らかに上がっていても、バネ下はしっかり追従して跳ねまわることがない。
取材車はオプションのアクティブサスとリアステアも組み込まれていたが、ロールやピッチのモーションにも強引な規制感はなく、動きの量は小さくとも、クルマの姿勢をドライバーにしっかり伝えてきてくれる。このクルマの動力性能といえば、アクセルを踏み込めば液晶メーターに軽く1Gを超えるメモリーが記されるほどで、全開加速のすさまじさは「血の気が引く」とか「むち打ちになりそう」とか、そういう肉体的変化になぞらえたくなるほどに激しい。その域ではさすがにタイヤにもねじれが感じられるが、こういう情報が逐一ドライバーに伝わってくるところが安心感につながっている。駆動やら姿勢やら、積んでいるソリューションのすべてを徹底的に制御すれば、限りなくノイズレスな運転環境も生み出せるだろうが、それではどこにすっ飛んでいくかわかったものではない。BEV時代は運転実感の伝達というテーマも新たなステージに入っていくことになる。
「MEB」や「PPE」等のプラットフォームを軸としたグループのBEV戦略において、J1アーキテクチャーは異端的なポジションに追いやられつつあるが、RSパフォーマンスに乗る限り、このシャシーの動的な鮮度にはまったく衰えはない。それどころか、スポーティネスや技術的密度においては一線を画する特別なオーラが宿ってもいる。やはりポルシェ×アウディの看板は、ダテではないというところだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資/車両協力=アウディ ジャパン)
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テスト車のデータ
アウディRS e-tron GTパフォーマンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1965×1380mm
ホイールベース:2900mm
車重:2350kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流誘導電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:239PS(176kW)
フロントモーター最大トルク:409N・m(41.7kgf・m)
リアモーター最高出力:564PS(415kW)
リアモーター最大トルク:590N・m(60.1kgf・m)
システム最高出力:748PS(550kW)<ローンチコントロール使用時:925PS(680kW)>
システム最大トルク:1027N・m(104.7kgf・m)
タイヤ:(前)265/35R21 101Y XL/(後)305/30R21 104Y XL(ブリヂストン・ポテンザスポーツ)
一充電走行距離:631km(WLTCモード)
交流電力量消費率:179Wh/km(WLTCモード)
価格:2469万円/テスト車=2959万円
オプション装備:テクノロジーパッケージ<アコースティックガラス+プライバシーガラス+e-tronスポーツサウンド+シートヒーター リア>(34万円)/オールホイールステアリング+スポーツステアリング(32万円)/ブラックスタイリングパッケージ<ブラックスタイリングパッケージ+エクステリアミラーハウジング ブラック>(12万円)/アルミホイール 6ツインスポーク RSデザイン ブラックポリッシュト&ミルド<フロント:9.5J×21インチ+265/35R21タイヤ、リア:11.5J×21+305/30R21タイヤ>(40万円)/RS performanceデザインパッケージ<スポーツシートプロ[フロント]+パーフォレーテッドレザー&ファインナッパレザー RSロゴ+インテリアエレメンツ ファインナッパレザー&ダイナミカ+シートベンチレーション マッサージ機能[フロント]+ステアリングホイール ダイナミカ サーペンタイングリーンステッチ+シートベルト メランティブラウン>(75万円)/ヘッドライニング ダイナミカ ブラック(35万円)/スマートパノラマガラスルーフ(51万円)/アクティブサスペンション(113万円)/セラミックブレーキ+カラードブレーキキャリパー レッド(98万円)
※一部欧州仕様参考値
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:999km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:182.4km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.3km/kWh(車載電費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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