MINIカントリーマンD(FF/7AT)
退屈とは無縁 2025.09.30 試乗記 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。違和感だらけのカントリーマン
最新世代のMINIカントリーマンは、「MINIクロスオーバー」の時代を入れるとMINIのコンパクトSUVとして3代目にあたる。
全長4445mmのMINI史上最大のボディーサイズは自慢のひとつ。MINIがブランドになった現在でも、いまだコンパクトさが個性であるとのイメージが強い自分には、ミニサイズではないMINIカントリーマンにはおおいに違和感がある。
加えて、大人の事情でこれまではMINIクロスオーバーと名乗ってきたのが、最新世代では晴れてMINIカントリーマンになったのはいいのだが、その歴史を振り返れば、クラシックMiniのカントリーマンは「トラベラー」と並ぶワゴンボディーの持ち主であり、残念ながら少し前に生産が終了した「MINIクラブマン」こそがその直系といえる。由緒あるカントリーマンの名をSUVが引き継ぐということにも違和感を覚えるのは私だけではないはずだ。
それでも、とりあえずMINIカントリーマンに対するスッキリしない気持ちを頭から消し去れば、このクルマの魅力がくっきりと見えてくるかもしれない。そんな期待とともに、今回は2リッター直4ディーゼルターボを搭載する人気グレード「MINIカントリーマンD」をロングドライブに連れ出した。
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いかにも楽しげな雰囲気
最新のMINIカントリーマンは、「MINIクーパー」や「MINIエースマン」とは異なり、BMWの「X1」や「X2」などと共通の「FAAR」アーキテクチャーを採用している。2690mmのホイールベースがX1やX2と同じという話をご存じの人も多いだろう。
FAARアーキテクチャーを採用するとはいえ、もちろんMINIカントリーマンはX1やX2とはまるで違ったエクステリアを手に入れていて、MINIクーパーとも雰囲気が異なる。ヘッドランプはMINIクーパーと違って丸目ではなく、フロントマスクにMINIクーパーの愛らしさもないが、ひと目でMINIファミリーとわかるのがすごいところだ。
一方、室内は、ダッシュボード中央にある円形の大きなセンターディスプレイやその下に並ぶトグルスイッチ、グリップが太いステアリングホイールなどが最新のMINIであることを物語る。しかもこのMINIカントリーマンは、シンプルなデザインのダッシュボードに、温かみのある布のようなリサイクルポリエステルをベースとする新素材が用いられており、実に心地がいい。X1のような端正なデザインも嫌いではない。しかしファミリーで使うなら、このインテリアのMINIカントリーマンを選びたいと思うくらいだ。
ドライバーという立場からは、ステアリングホイールのすぐ奥にメーターパネルがほしいところだが、さいわいにも運転席の先にヘッドアップディスプレイが配置されるので、必要な情報を得るには困らない。
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よくできたディーゼルターボエンジン
MINIカントリーマンDに搭載される2リッター直4ディーゼルターボエンジンは、共通のプラットフォームを採用するX1と基本的に同じで、最高出力150PS、最大トルク360N・mを発生する。7段DCTが組み合わされるのも同じだが、「X1 xDrive20d」がその名からもわかるように4WDであるのに対し、MINIカントリーマンDは前輪駆動のみの設定。このクラスのSUVであれば4WDが必須というわけではないが、ディーゼルの四駆が欲しければ他の選択肢を探すしかない。
さっそく走らせると、MINIカントリーマンDの2リッターディーゼルは発進から余裕あるトルクを発生し、見た目から想像する以上に動きが軽やか。ディーゼルエンジンらしく、あまり回転を上げなくても必要な加速が得られる一方、ディーゼルエンジン特有のノイズや振動がうまく抑え込まれるおかげで、ガソリンエンジンと変わらぬ快適さが味わえる。ここぞという場面でアクセルペダルを深く踏み込めば2500rpmあたりからさらに力強さを増し、4000rpmを超えるくらいまでその勢いが続く頼もしさだ。
ただ、個人的にはいくつか不満もある。「Go-Kart」モード以外ではタコメーターがわかりやすく表示されないのもそのひとつ。もっとも、ディーゼルエンジン搭載のSUVで「いちいちエンジンの回転数を気にする必要はないだろう」という意見はごもっともだ。さらにこの仕様では、マニュアルモードがなく、シフトパドルも非搭載。センターコンソールのシフトスイッチでL(Low)を選べば、低いギアでエンジンブレーキを利かせることもできるが、もう少し積極的に運転に関与したいときにはちょっともどかしいのだ。
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バランスよくしつけられた足まわり
MINIカントリーマンDの走りは、スポーティーさと快適さのバランスが実に好ましい。一般道を走る状況では、多少タイヤにゴロゴロとした感触があったり、目地段差を通過する際のショックを軽く伝えてくることもあったりするが、おおむね乗り心地は快適なレベルだ。さらに、高速道路では快適さを増し、長時間のドライブでも疲労が少ないから、安心してロングドライブに出かけられそうだ。
ワインディングロードを走る機会もあったが、コーナーではしっかりロールが抑えられ、見た目以上に安定したコーナリングをみせるなど、退屈とは無縁。それでいてスポーティーすぎることはなく、ドライバーにも同乗者にも満足のいく仕上がりといえる。
パッケージングについても優秀で、前後スライドとリクライニングが可能な後席は、一番前の位置でも窮屈さはなく、一方、一番後ろの位置なら大人でも楽に足が組めるほどの余裕がある。荷室は、後席を使用しているときには奥行きが80cm、後席を倒せば150cm以上となり、床下の収納スペースも広大。後席に前後スライド機構が備わるので、多少荷物が増えても後席を倒す必要がないが、その際、フロアと後席のあいだに隙間が空いてしまうのが惜しい。
それでも、ファミリーカーとしての実力が高いMINIカントリーマンD。冒頭のとおり、名前とボディーサイズには引っかかるところもあるが、こうした矛盾や違和感こそが、時代の変化に敏感に反応してバリエーションを変えてきたMINIというブランドを特徴づけているというのも事実である。MINIブランドの遊び心を手に入れたファミリーカーという見方をすれば、このMINIカントリーマンDは実に魅力的な一台といえるのではないだろうか。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=BMWジャパン)
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テスト車のデータ
MINIカントリーマンD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4445×1845×1660mm
ホイールベース:2690mm
車重:1620kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/4000rpm
最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102Y/(後)245/45R19 102Y(ハンコック・ヴェンタスS1エボ3)
燃費:17.4km/リッター(WLTCモード)
価格:519万円/テスト車=594万6000円
オプション装備:ボディーカラー<ブレージングブルー>(10万4000円)/ベスキンベージュ(0円)/Mパッケージ(27万3000円)/フェイバードトリム(24万5000円)/19インチカレイドスポーク2トーンホイール(13万4000円)/ヴァイブラントシルバールーフ&ミラーキャップ(0円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2298km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:301.6km
使用燃料:16.0リッター(軽油)
参考燃費:18.8km/リッター(満タン法)/17.3km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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