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次世代のスバルをここから 車両開発の最前線「イノベーションハブ」とは?

2025.11.06 デイリーコラム 櫻井 健一
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「Performanceシーン」を象徴する2台

「ジャパンモビリティショー2025」(会期:11月9日まで)のスバルブースで、ひときわ注目を集めているのが「Performance-E STIコンセプト」と「Performance-B STIコンセプト」である。Performance-E STIコンセプトは、五感を揺さぶる感動の走りを有した「エブリデイ・スーパーカー」をテーマとする電気自動車(BEV)。いっぽうPerformance-B STIコンセプトは、現在スバルが確立している技術を組み合わせて走りを追求。若いユーザーが気軽に楽しめることを前提とする。

この2台のコンセプトモデルは、いずれもSTIブランドを付していることからもわかるように、「“安心と愉(たの)しさ”を基盤としながら、走る愉しさを表現するPerformance (パフォーマンス)シーンと、冒険へ踏み出す高揚感などを表現するAdventure(アドベンチャー)シーンという2つのシーンを際立たせる」としたスバルの新たなコンセプトにおいて、前者を象徴するモデルと紹介される。

Performance-E STIコンセプトは、従来のスバルグローバルプラットフォームを超える軽量で高効率なボディーに、独自の冷却システムを採用した三元系のバッテリーを搭載。BEVの特徴を生かした新設計のサスペンションや、エネルギーの流れと伝達時間、振動周波数を設計対象とする新車体動剛性コンセプトを用いて、新時代を担うスポーツBEVを表現しているという。

水平対向ターボエンジンや6段MT、シンメトリカルAWDといったスバルがこれまで磨き上げてきた伝統的な技術を搭載するPerformance-B STIコンセプトは、いたずらに高性能化を狙ってはいない。そこには価格の上昇を抑える狙いもあるという。

ベースモデルの価格を手に取りやすいものとし、あとはユーザーが使用目的やライフスタイルに合わせて必要なパーツを車両に組み込み、自由にカスタマイズすることを念頭に置いている。スバルはスーパー耐久参戦などを通じて開発したサーキット由来のアイテムをリリースし、ユーザーはそれらを自分の好みに合わせて選択・装着するというわけだ。スバルはこれを従来のような車両の売り切り型ではない、「メーカーとユーザーが一緒になってクルマを育てる提案」としている。

「ジャパンモビリティショー2025」(会期:11月9日まで)のスバルブースで注目を集めているのが「Performance-E STIコンセプト」(写真手前)と「Performance-B STIコンセプト」(同奥)だ。
「ジャパンモビリティショー2025」(会期:11月9日まで)のスバルブースで注目を集めているのが「Performance-E STIコンセプト」(写真手前)と「Performance-B STIコンセプト」(同奥)だ。拡大
「Performance-E STIコンセプト」と「Performance-B STIコンセプト」は、スバルが2024年1月に開設した群馬・太田の「イノベーションハブ」で開発された。
「Performance-E STIコンセプト」と「Performance-B STIコンセプト」は、スバルが2024年1月に開設した群馬・太田の「イノベーションハブ」で開発された。拡大
「Performance-E STIコンセプト」は、独自の冷却システムを採用した三元系のバッテリーを搭載するスポーツBEV。BEVの特徴を生かした低いボンネットにも収まる新設計のサスペンションや、新車体動剛性コンセプトを用いたボディーの採用などもトピックである。
「Performance-E STIコンセプト」は、独自の冷却システムを採用した三元系のバッテリーを搭載するスポーツBEV。BEVの特徴を生かした低いボンネットにも収まる新設計のサスペンションや、新車体動剛性コンセプトを用いたボディーの採用などもトピックである。拡大
「Performance-B STIコンセプト」は、水平対向ターボエンジンや軽量な6段MT、シンメトリカルAWDといったスバルがこれまで磨き上げてきた伝統的な技術を搭載する。車両の価格を抑える狙いもあり、既存の技術を中心に採用したという。
「Performance-B STIコンセプト」は、水平対向ターボエンジンや軽量な6段MT、シンメトリカルAWDといったスバルがこれまで磨き上げてきた伝統的な技術を搭載する。車両の価格を抑える狙いもあり、既存の技術を中心に採用したという。拡大
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グローバル企業らしいファシリティー

スバルの未来を示唆する2台のコンセプトモデルは、2024年1月に稼働を開始した群馬・太田のスバル群馬製作所本工場内にある「イノベーションハブ」で企画・開発された。この施設は、その名のとおりイノベーションを生み出すための研究・開発センターに位置づけられている。建物は7階建てで、延べ床面積は約4万8000平方メートル。総工費は約300億円という。

内部はモダンの一言。そこには、製造業に漂う油臭さはない。まるでどこかのIT企業のように洗練されたものだ。各フロアはスタッフ同士のコミュニケーションが密にとれるよう、仕切りのない執務エリアが広がる。執務エリアはすべてフリーアドレス。このあたりも実にいま風だ。

1階から3階までがデザイン開発部門で、4階から6階には設計部署などの研究開発チームが在籍。7階には車両のデザイン評価を行うスタジオがあり、自然光の下で車両のデザインが確認できるように屋上にもターンテーブルが備わる広いスペースが用意されている。思いついたアイデアをすぐにカタチにできる3Dプリンターが備わる工作エリアがあったり、研究開発用に他ブランド車両を分解したパーツが並べられたりしているのは、いかにも自動車メーカーらしいところだ。

2階には会議室が、3階にはキャッシュレス決済が導入された社員食堂や、気軽に利用できるリフレッシュルームも完備。リフレッシュルームにはちょっとしたトレーニング機器や酸素カプセルも並び、その名のとおり気分転換やストレス解消のほか、健康管理の面でも歓迎されているとか。社員の身体と頭をほぐし、クリエイティブな発想を促す効果も期待される。実際、見学に訪れた日もなかなかの稼働率であった。また、グローバル企業らしく礼拝室も設置されている。0次安全をうたう人間優先のスバルらしい配慮である。

群馬・太田のスバル群馬製作所本工場内にある「イノベーションハブ」。内部はまるでラグジュリーホテルのような、洗練された空間になっている。
群馬・太田のスバル群馬製作所本工場内にある「イノベーションハブ」。内部はまるでラグジュリーホテルのような、洗練された空間になっている。拡大
研究・開発センターに位置づけられるイノベーションハブ。建物は7階建てで、延べ床面積は約4万8000平方メートル。総工費は約300億円という。
研究・開発センターに位置づけられるイノベーションハブ。建物は7階建てで、延べ床面積は約4万8000平方メートル。総工費は約300億円という。拡大
執務エリアの一角には、実車や実車サイズのスタディーモデルを置きながら、デザインや機能を検討するスペースも設けられている。
執務エリアの一角には、実車や実車サイズのスタディーモデルを置きながら、デザインや機能を検討するスペースも設けられている。拡大
執務エリアはすべてフリーアドレス。ホンダではないが、スバルにも年齢や職位にとらわれずワイワイガヤガヤとクルマの開発を進める雰囲気が感じられた。
執務エリアはすべてフリーアドレス。ホンダではないが、スバルにも年齢や職位にとらわれずワイワイガヤガヤとクルマの開発を進める雰囲気が感じられた。拡大

メーカーとユーザーが育てるクルマ

こうした先進的なイノベーションハブの環境がPerformance-E STIコンセプトとPerformance-B STIコンセプトを生み出した……というと、いかにもテンプレート的な表現だが、これまでのスバルにはなかった発想やアプローチが両モデルから感じ取れるのは事実である。前者はスポーツBEVとしての可能性を示唆し、後者は電動化が進むなかにあっても既存の技術を切り捨てるわけではないというメッセージでもあるように思える。

いっぽう気になるのは、3代目「インプレッサWRX STI」を想起させるPerformance-B STIコンセプトが本当に市販されるかどうかであろう。スバルの技術部門のトップであり、新車開発の指揮を執る取締役専務執行役員CTO(Chief Technical Officer)の藤貫哲朗氏は、「若い人からは、もっと気軽に楽しめるスポーツモデルが欲しいという声が聞こえてきます。だったらつくってみようじゃないかということで、このクルマを企画しました」と、同モデルの開発経緯を説明する。

藤貫氏は、「考え方はとてもシンプル。現在われわれが持っている一番コンパクトな車体に、高出力の水平対向ターボエンジンと軽量な6段MTを組み合わせ、もちろんスバルですからAWD(All Wheel Drive=全輪駆動)も採用します」と続ける。マーケティング戦略による性能や装備の整った車両を販売していた従来のビジネススタイルとは異なり、冒頭のとおり、ベースとなるシンプルで価格を抑えたクルマをまずはリリース。車両購入後に、スバルが開発したパーツや、場合によってはアフターマーケット用のパーツも取り入れて、ユーザーが愛車をクリエイトしていくようなこれまでのスバルにはなかった楽しみを提案するという。

これを藤貫氏は、前述のように「メーカーとユーザーが一緒になって育てるクルマ」と表現した。こうした発想は、確かにいままでのスバルにはないものである。この先、イノベーションハブを起点にどんなモデルや新機軸が生まれてくるのか楽しみだ。ちなみに今回のPerformance-B STIコンセプトのベースとなった「スバルで一番コンパクトな車体」は、「インプレッサ」ではなく、「クロストレック」。いずれもSGPの進化版プラットフォームなので大きな問題ではないが、ベースとなったエクステリアデザインは後者である。念のため。

(文=櫻井健一/写真=スバル、webCG/編集=櫻井健一)

STIのヘリテージとDNAを進化させたダイナミックな造形と紹介されるBEV「Performance-E STIコンセプト」のエクステリアデザイン。空気抵抗の低減とエネルギーマネジメントを組み合わせ、エネルギーを賢く効率的に使うことにも注力している。
STIのヘリテージとDNAを進化させたダイナミックな造形と紹介されるBEV「Performance-E STIコンセプト」のエクステリアデザイン。空気抵抗の低減とエネルギーマネジメントを組み合わせ、エネルギーを賢く効率的に使うことにも注力している。拡大
3代目「インプレッサWRX STI」を想起させる「Performance-B STIコンセプト」のエクステリアデザイン。若いユーザーが気軽に楽しめることを前提に開発されている。
3代目「インプレッサWRX STI」を想起させる「Performance-B STIコンセプト」のエクステリアデザイン。若いユーザーが気軽に楽しめることを前提に開発されている。拡大
スバルの取締役専務執行役員CTOの藤貫哲朗氏は、「若い人からは、もっと気軽に楽しめるスポーツモデルが欲しいという声が聞こえてきます。だったらつくってみようじゃないかということで、このクルマを企画しました」と、「Performance-B STIコンセプト」の開発経緯を説明した。
スバルの取締役専務執行役員CTOの藤貫哲朗氏は、「若い人からは、もっと気軽に楽しめるスポーツモデルが欲しいという声が聞こえてきます。だったらつくってみようじゃないかということで、このクルマを企画しました」と、「Performance-B STIコンセプト」の開発経緯を説明した。拡大
藤貫氏は、「ユーザーが好みのパーツでカスタマイズし、愛車を徐々にクリエイトしていくような、これまでのスバルにはなかった楽しみを『Performance-B STIコンセプト』で提案したい」とコメント。「メーカーとユーザーが一緒になって育てるクルマ」としている。
藤貫氏は、「ユーザーが好みのパーツでカスタマイズし、愛車を徐々にクリエイトしていくような、これまでのスバルにはなかった楽しみを『Performance-B STIコンセプト』で提案したい」とコメント。「メーカーとユーザーが一緒になって育てるクルマ」としている。拡大
櫻井 健一

櫻井 健一

webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。

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