“走行性能がいいクルマ”と“運転しやすいクルマ”は違うのか?

2026.01.27 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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どうせ買うなら性能の優れたクルマが欲しいと思いますが、それが自分にとって運転しやすいものかどうか、気になります。この2点は、本来両立できるものでしょうか? 両立できないとしたら要因は何ですか?

クルマの走行性能が高いかどうかは、物理的なスペックで決まります。ホイールベースやトレッド、重心高が定まって、それにパワフルなエンジンを載せれば走行性能は高くなる。ブレーキも要素のひとつです。そのあとで、乗り味にかかわるチューニングを経て(関連記事)、そのクルマが仕上がるわけです。

しかし、走行性能が高いクルマ、つまり、速く加速できて、コーナーで速く旋回できて、素早く止まれるクルマが運転しやすいかというと、それはまた別の話です。では「運転しやすいクルマ」とは何か? それはずばり、「運転しているドライバーの目線が動かないクルマ」なんです。

いろいろな道を、さまざまな走行状態で走って、ドライバーの目線がいかにグラグラしないで済むか。それこそが、運転しやすいかそうでないかの分かれ道になります。試しに、とっかえひっかえいろいろなクルマで同じ道を同じように走ってみれば、クルマによって自分の目線がどれだけ動いてしまうものなのか、安定しているクルマというのがどういうものなのか、よくわかると思います。

「運転中に目線が動かない」のがなぜいいのか? クルマを運転している人は当然、自分の目を通して「あそこに行きたい」と思い、自分が望む走行ラインをイメージしています。目線が動くというのは、その視点がいつもフラフラしているということで、動けば動くほど、自分が行きたいところに正確にクルマを持っていくのが難しくなるのです。

実際のところ、まったく目線が動かないクルマというのはなくて、なにを運転してもある程度は動くのですが、人間は、それを無意識に補正しながら走っている。その修正が上手な人を「運転のうまい人」と評価することもあるのですが、その程度が増して振れ幅が大きくなれば、必然的に修正する量も増え、誤差が生じるようになります。

乗り心地の良しあしも同様で、目線といいますか、“頭の動き”が少ないクルマは乗り心地がいいと感じられます。酔ったりもしない。目線が動かないクルマというのは本来、運転もしやすいし、結果的に乗り心地もいいと人間は感じるものなのです。

だから、乗り心地をよくするためには、単に足を柔らかくして、フワフワさせていればいいというものでもない。柔らかい=乗り心地がいいというイメージを抱かれる人は多いかもしれませんが、頭や目線がふらふらと動いてしまうのはダメ。一方で、「乗り心地がいい」と「走りがいい」は相反すると思っている人も多いかもしれませんが、そんなことはない。どっちもダメなクルマもたくさんあるし、両方とも高い次元で両立できているクルマも、世の中にはちゃんと存在するんですね。それが、ちゃんと目線の安定するクルマです。

「性能がよくて運転しやすいクルマ」を手に入れたかったら、まず冒頭に述べた「性能がいいクルマ」をいくつかピックアップし、それらを代わる代わる借りてきては、同じ道を走らせてみて、「目線の動かないクルマ」を選べばいい。それがベストチョイスにつながると思います。そしてこれは、機会があれば、ぜひ皆さんに試していただきたい。驚くほどの発見があるはずですよ。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。