ホンダZR-V e:HEVクロスツーリング(4WD/CVT)
そつなく、さりげなく 2026.06.16 試乗記 「ホンダZR-V」といえば、スポーティーな走りが魅力のコンパクトSUVだが……人気ジャンルの一台にもかかわらず、その存在感はちょっと薄めだ。今回の一部改良でアピールを強めることはできたのか? 特別仕様車「クロスツーリング」に試乗して確かめた。外にも内にもライバルが
イキらずエバらず、むしろ脱力寄りの顔つきながら、いざ走らせると意外なハンドリングのよさを見せて運転者を喜ばせる。そんなSUVがホンダZR-Vだ。ご存じのように、ZR-Vはクルマの土台たるプラットフォームを「シビック」のそれと共用していて、もちろん車種に合わせた最適化は施されるが、フロント:マクファーソンストラット、リア:マルチリンクといったサスペンション形式も変わらない。ごく乱暴にまとめるなら、シビックの足腰にSUVの上屋を載せたモデルがZR-Vといえよう。
ZR-Vは、日本より1年ほど早い2022年にメインマーケットたる北米市場で販売が開始された。かの地では、「CR-V」が(US基準での)コンパクトSUVとしてはやや大きくなったため、センタータンクレイアウトをとる「フィット」ベースの「HR-V(邦名ヴェゼル)」との間が広がりすぎた。そのため、モデル格差を縮小する狙いもあって、ZR-Vが新たにHR-Vの名前を引き継いで投入された。ややこしいのは、ヨーロッパやオーストラリアではヴェゼル版HR-Vが残されていることで、ZR-Vは、アメリカでは若者向けエントリーSUVのHR-V(ガソリン車)として、欧州、豪州、それに中国では、環境に配慮したハイブリッドSUVのZR-Vとして、それぞれ展開されている。
いっぽう、グローバルSUVたるZR-Vの日本発売は、2023年4月。前年2022年の秋にデリバリーを始める予定だったが、半導体不足などで半年ほど後ろにずれ込んだ。その後のセールスは、販売が本調子に乗った2024年こそ4万台を超える好調ぶりだったものの、次の年にはほぼ半減。「トヨタ・ハリアー/RAV4」といった強力なライバルの出現に加え、ヴェゼルに「WR-V」といった、身内からの刺客にも脅かされた結果だ。定番ヴェゼルの国内での絶妙な使い勝手のよさに加え、2024年3月に導入されたお手ごろ価格のWR-Vも、ZR-Vにとってはストレートに痛かったのではなかろうか。
当時、WR-Vの国内デビューのニュースに接して、「同じようなモデルをどうして?」と不思議に思ったものだ。インド生産車を活用して国内のSUVラインナップをリーズナブルに拡充するというもくろみはわかる。クルマ好きの視点では、WR-Vは新興国向けの廉価なプラットフォームを用いた車種で、エンジンは自然吸気の1.5リッター、しかも駆動方式はFWD(前輪駆動)のみと、ZR-Vとの違いは明確だった。とはいえ、クルマの趣味性に重きを置かないユーザーにとっては、お値段ひかえめ、しかも車内がけっこう広いとなると、「まあ、こっちでいいか」となるのは想像に難くない。ホンダのSUVに限っていえば、全体のパイを膨らませるより、3車でパイの奪い合いになってしまった感がある。
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トレンドに合わせてラインナップを見直し
2026年3月26日、ZR-Vが一部改良……というよりラインナップの整理を受けた(参照)。具体的には、1.5リッターVTECターボを積んだピュアガソリン車が廃され、全車「e:HEV」ことハイブリッドモデルになった。1.5リッターターボのスポーティーなイメージは捨てがたいが、販売されるZR-Vの8~9割がハイブリッドとなると、そうも言っていられない。新しいZR-Vの価格は、370万7000円から472万7800円。実質的なエントリーグレードがなくなり、モデル全体の価格が底上げされたため、単純比較でこれまでより10万円ほど上昇した計算だ。
念のためe:HEVの復習をしておくと、「2リッター直噴エンジン+2モーター」のシステム構成をとる。モーターは、走行用と発電用が別個に備わり、エンジンは基本的に発電用モーターの駆動に用いられる(シリーズハイブリッド)。ただし、モーターよりエンジンで走るほうが効率のよい高速巡行時などは、両モーターを休止させ、エンジンと車輪を直結して走らせるのがおもしろい。e:HEVは複数のギアを持つトランスミッションを必要としない(便宜上「電気式CVT」と記される)、究極の“いいとこどり”システムといえる。
さて、1.5リッターモデルをカタログから落としたニューZR-Vは、特別仕様車として、スポーティーな装いを持つ「ブラックスタイル」を継承し、加えてアウトドアテイストを強めたクロスツーリングを新たに設定した。マットグレーのハニカムグリルや18インチのマットブラックホイールがアピールポイント。今回の試乗車が、このトップオブZR-Vにあたるe:HEV Zクロスツーリング(472万7800円)である。
ドアを開けて車内に入ると、インテリアは「グレージュ」とネーミングされた、アイボリー系のレザーにオレンジのステッチが入ったしゃれたもの。アウトドアにはちょっともったいない感じだ。グローバルモデルらしく、インストゥルメントパネルまわりはコンサバ寄りで嫌みがない。最大のニュースは、インフォテインメントが刷新され、Google搭載の「9インチHonda CONNECTディスプレイ」が採用されたこと。音声で車内の温度調整や音楽再生などが可能で、Googleマップでリアルタイムの交通情報も取得できる。「スマホ感覚のシームレスな連携が可能になった」ということで、おそらく次の改良では、AIが導入されることになりましょう。
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魅力を伝えるのが難しい
忘れないうちに述べておくと、後部座席はヒザ前、頭まわりとも十分な空間が確保されているが、座面とフロアがやや近すぎるきらいがある。ホンダによると「セダンライクな後席」ということになるが、家族向けのミニバンや居住性を重視したクロスオーバー、はたまた(ターゲット層からは外れそうだが)軽のスーパーハイトワゴンに親しんだ人たちに、そのアピールが通じるかどうか。
そんな懸念を抱きながらドライバーズシートに戻ってZR-Vを発進させると、タイヤの最初の“ひと転がり”は「ちょっと重いね」。運転しているのが2リッターハイブリッドのトップグレードなので、車重は1630kgと、カタログから落ちた1.5リッターターボより約100kgも重い。とはいえ、ひとたび走りだしてしまえば実質EVの走りはスムーズで、エンジンとの協業もサウンドを含めて違和感はない。街なかでもリニアなステアフィールのよさが光っていて、相変わらずハンドルを握ると、さりげなくドライバーを感心させるSUVだ。ホンダカーズのスタッフの人は、たとえばWR-Vを見に来たお客さまにも、比較試乗と称してZR-Vに乗せることを徹底したほうがいいんじゃないでしょうか(もうやってる?)。
Google連携ディスプレイや、回転計の代わりのパワーメーターはいかにも“今っぽい”感じがしていいし、あたかもエンジンブレーキの強度を4段階に調整するかのような減速セレクターも、内燃機関に慣れ親しんできた人には斬新だ。クルマ好きの顧客に対しては、ドライブモードを「ノーマル」から「スポーツ」にすると如実にドライブフィールが変わり、一気にパワフルになるので、環境や意識の高さ方面の話題になりがちなe:HEVのマッチョな魅力も印象づけられるはずだ。
SUVラインナップにあって、上にはいつの間にか(!?)復帰したCR-Vがいて、下からはヴェゼルやWR-Vに突き上げられるZR-V。持ち味の「走りの質感の高さ」が、なかなか一般には訴求しにくいのが難しいところ。外野の無責任な立場から提案させてもらうなら、従来の“スポーティーなSUV”を表現した硬めの締まった乗り味のサスペンションとは別に、たとえばトップグレードのクロスツーリングには一段ソフトなチューニングを施して、相対的に重めの車重を生かしたラグジュアリーな乗り心地を提供するというのはどうでしょう? ……ムリ、かな。グローバルに嫌われない工夫が徹底したSUVは、また突出したよさを見つけるのが難しいSUVでもある。ZR-V、いいクルマなんだけどね。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力=本田技研工業)
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テスト車のデータ
ホンダZR-V e:HEV Zクロスツーリング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1840×1620mm
ホイールベース:2655mm
車重:1630kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:141PS(104kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:182N・m(18.6kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98H/(後)225/55R18 98H(ブリヂストン・アレンザH/L33)
燃費:20.5km/リッター(WLTCモード)
価格:472万7800円/テスト車=492万1400円
オプション装備:ボディーカラー<デザートベージュ・パール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション ボディーサイドモール(3万8500円)/フロアカーペットマット プレミアム(5万7200円)/ドライブレコーダー 前後セット(5万9400円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1041km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:159.4km
使用燃料:9.18リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.4km/リッター(満タン法)/18.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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