キャデラックCTS-V(FR/6AT)【試乗記】
アメリカの底力 2009.02.12 試乗記 キャデラックCTS-V(FR/6AT)……955.0万円
「キャデラックCTS」にハイパフォーマンスモデル「CTS-V」が追加された。6.2リッターV8エンジンを搭載するアメ車と聞いて、大らかさを想像したのだが……。
天国の馬場さんに伝えたい
よく晴れた冬の朝、われわれ取材班は銀座のすみっこで「キャデラックCTS-V」の撮影の準備を進めていた。不景気の話はみなさんがあちこちで書いたりしゃべったりしているので、ここでは繰り返しませんが、アグレッシブなフロントマスク、ぴかぴかのワイヤーメッシュのホイール、スーパーチャージャーを収めるためにマッシブに盛り上がったボンネットなど、このクルマは今、東京で一番羽振りが良さそうに見える4ドアセダンではないか。
すると、身なりのいい老紳士がつかつかと歩み寄ってきた。穴が開くくらい見つめてから、慇懃な口調で「これは新しいキャデラックですか?」と尋ねる。「そうです」と答えると、深くうなずいてインテリアをしっかりと確認、「ありがとう」と言い残して立ち去っていった。
キャデラックを愛用していたことで知られているジャイアント馬場さんがご存命であれば、今年で71歳になっていたはず。おそらく前出の紳士も同じくらいの世代だとお見受けした。
「キャデラック」というブランドに憧れを抱く年齢層は日本でもアメリカでもかなり高くなっており、一時期のアメリカではオーナーの平均年齢が60歳を超えたという。そこでキャデラックはユーザーの若返りを図っており、このギラギラした「CTS」シリーズもそうしたクルマ作りの一環だ。
で、天国の馬場さんにもさきほどの紳士にも「キャデラックもずいぶん変わりましたよ」と伝えたい。
「キャデラックCTS-V」とは、2007年にフルモデルチェンジを受けた「CTS」に、この1月より追加された最強バージョン。搭載する6.2リッターのV8エンジンは、スーパーチャージャーの助けも借りて564ps(!)を発生する。ちなみに、「メルセデス・ベンツC63AMG」の6.2リッターV8(こちらは自然吸気)は457ps。
ゼネラルモーターズ・アジア・パシフィック・ジャパンのHPでは、“THE FASTEST V8 PRODUCTION SEDAN IN THE WORLD”と高らかにブチ上げ、「ドイツのニュルブルクリンクで打ち立てた量産セダンとして世界最速レベルの記録」「キャデラック史上最強の」などという勇ましいフレーズが並ぶ。アメリカンV8の高性能バージョンというと大らかなモデルを想像しがちであるけれど、CTS-Vはそうではなかった。
決して“直線番長”ではない
まずは、乗り込んで見まわしたインテリアがアメリカっぽくない。タイトな雰囲気を馬場さんは気に入らないだろうけれど、黒光りするセンターコンソールや、洗練された配置のオーディオ/空調の操作スイッチ、ダッシュボードから上にせり上がる気の利いた設計のカーナビなどなど、高級車のトレンドを徹底的に研究した跡がうかがえる。その印象は、走りだしても同じだった。
レカロ製シートに体をしっかりホールドされてエンジンスタート。スウェード調(マイクロファイバー製)のステアリングホイールの手触りがいい。F1のひとつ下のカテゴリー、GP2の4リッターV8の最高出力が約600psだとされていることからも、「CTS-V」の564psという最高出力がいかに浮世離れしたものかがわかる。
けれど、街なかで乗っている限りは気は優しくて力持ち、気難しいところの一切ない、ジェントルなエンジンだ。乗り心地も洗練されたもので、路面からのショックは気にならない程度だ。
ところが高速道路に上がって前が空いたのを見計らってアクセルを開けると、とんでもないことが起こる。ケツに火がついたように、なんてつい汚い言葉を使ってしまうぐらいの勢いの加速だ。血液の流れが滞ったんじゃないかと思えるほどの加速Gを受けて、体がレカロに押しつけられる。奥さんやガールフレンドを乗せてフルスロットルにしたら、「2度としません」という誓約書を書かされるかもしれない。
加速自体は凄まじいものの、6段ATやスタビリトラック(電子制御式の車両安定装置)、それにサスペンションが巧みな連携プレーを行って、この大パワーを手なずけている。変速はスムーズだし、シャシーはパワーを確実に路面に伝えている。強力な筋肉を高度な知性でコントロールするあたり、ひところのボブ・サップみたい。コーナリングも得意で、決して“直線番長”だなんてことはない。
キャデラックはハイテクがお好き
特に高速コーナーではしなやかにロールしながら気持ちよく曲がっていく。乗り心地のよさと安定性を両立している理由のひとつとして、GM自慢のハイテク技術「マグネティックライドコントロール」があげられるだろう。
機械的なバルブではなく、電磁で制御するショックアブソーバーを備えている、といってもイマイチ理解しにくいけれど、要は路面変化に対応して自動的にセッティングを変えるサスペンション。電磁を用いることで反応が素早いという特徴がある。自動車の黎明期、周囲のクルマが重たいクランク棒を回してエンジンを掛けていた時にキャデラックはいち早くスターターモーターを採用していたわけで、伝統的にハイテク好きのブランドなのだ。
このサスペンションシステムでは、ラクシャリーな乗り心地の「ツーリング」とハードな「スポーツ」のふたつのセッティングを選ぶことができる。「スポーツ」を選択すると、乗り心地がビシッと引き締まってコーナリング時の姿勢が安定したものになるけれど、普通に乗るぶんには「ツーリング」のしなやかさが好ましい。試乗だったので「スポーツ」も試したけれど、このクルマが自分のモノだったら「ツーリング」に入れっぱなしにするだろう。
ゆったり走る時には静かで穏やか、回せば爆発的に加速するエンジン。そのパワーをがしっと受け止め、しなやかにもハードにも走ることができる足まわり。と書いて、同じような内容をここ数年で何度か書いたことに思い至る。
スポーティさと繊細さの両立については、ここ10年ぐらい、欧州製の高級セダンが追い求めてきた味付けだ。だから「キャデラックCTS-V」に乗りながら、“いまさら”感をおぼえたことは否定できない。確かにヨーロッパの列強に互するパフォーマンスを持っているけれど、飛び抜けてはいない。でも、そのいっぽうで、「さすがの底力」だとも感じたのである。
クルマは社会を映す鏡
ヨーロッパ製高級車に負けないクルマ作りを掲げてから、わずか数年でこの水準に達しているのは、素直に立派だと思う。いままで、こういった欧州テイストの高級車を「技術的に作れなかった」のではなく、「必要がないので作らなかった」のではないか。
1泊2日の間の燃費はおおよそ4km/リッターで、正直、このクルマがこれからのトレンドを牽引するとは思えない。でも、これだけの技術力を一気に環境に向けたら、すごいのができそうな気もする。実際、GMは1996年に「EV1」というEV(電気自動車)を月250〜500ドルほどでリースしていた。「EV1」が消えた理由について、ドキュメンタリー映画『誰が電気自動車を殺したか?』(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)はブッシュ元大統領と石油業界の癒着を指摘しているけれど、もうブッシュはいない。
「クルマは社会を映す鏡」というのは徳大寺有恒さんの名言だ。グリーン・ディール政策を唱えるオバマ大統領のもとで、クルマも大きく変わるはず。2月6日の朝日新聞夕刊は、GMとシリコンバレーの新興電気自動車メーカーとの協力関係を伝えている。繰り返しになるけれど、これだけの技術をごっそり電気自動車につっこんだら……。
なんて、「キャデラックCTS-V」はガラにもなく真面目なことを考えさせてくれた。クルマって、まだまだ語るべきことがたくさんある。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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