スズキ・ワゴンR 20周年記念車(FF/CVT)/ホンダN-WGN G・Aパッケージ(FF/CVT)/三菱eKワゴン G(FF/CVT)
「ニッポンのスモール」の今とこれから(後編) 2014.08.12 試乗記 日常生活のアシとして人気を集める軽ハイトワゴン3車種を徹底比較。そこから導き出された、今日における「ベスト・バイ」は?燃費競争もいいけれど……
(前編からのつづき)
軽自動車の試乗に際して真っ先に思い浮かぶのは、あいかわらずの燃費競争である。もちろん燃費を含めた環境性能が良いに越したことはないし、実際の販売現場ではそれが売り上げに直結するので、頭から否定するつもりは毛頭ない。ただ、正直に言えば「燃費が0.2km/リッター上がった」とか「軽自動車最高燃費」などといった不毛な戦いは、そろそろ終わりにしてもいいのでは、と思う。ユーザーの側も、実際の走行パターンは一人ひとり異なるものなので、あくまでも参考にとどめておく程度がよいかと……。
さて、日々の生活に直結する軽自動車ゆえ、燃費とともに重要なポイントとなるのが、取り回しのしやすさである。この点では3車とも大差はないが、全体のバランスとしては「ホンダN-WGN」がよかった。まず、前回報告した三角窓を含む視界の良さもあって、車両感覚がつかみやすい。またクイックというほどではないが、ステアリングのロック・トゥ・ロックが他の2台に比べて3.5回転と少なく、前輪の向きも把握しやすかった。ステアリングといえば、昨今のパワステにはほとんどの場合EPS(電動式)が採用されているが、ハンドルを切った際に最も手応えがあるのもN-WGNである。
これに対し、「三菱eKワゴン」は操舵(そうだ)が軽く扱いやすいが、その軽さがどの速度域でもほとんど変わらず、さらに切り込んでいった時の手応えも不足気味。「スズキ・ワゴンR」はベース車より太い165/55R15サイズのタイヤを履いていたこともあって手応えはよかったが、その分、最小回転半径がベース車に比べて0.2m増の4.6mとなっていた。
見えないところが大きく進化
走り始めると、eKワゴンがカタログには表記されていない部分、例えば静粛性などで進化していることを感じた。偶然にも改良前のeKワゴンとまったく同じテストシーンで走る機会を得たのだが、以前のものは明らかにパワー不足であり、クルマの流れに乗るためにアクセルを多く踏む→パワートレイン全体からの音が大きくなる→車内がうるさくなる、という悪循環に陥っていた。
しかし、今回の改良型はCVTの制御や吸気ダクトの形状等を変えることで、パワー不足を解消。アクセル開度が減ったこともあり、車室内に入ってくる、うなるようなエンジン音が一枚フタをされたように静かになった。この改善のほどは普段使いでも感じられるだろう。
一方、「自然吸気エンジンでもここまでできるのか」と驚きすら覚えたのがN-WGNである。スペック的にもほか2車より最高出力が高く、エンジンやエアコンを燃費優先に制御する「ECON(イーコン)」モードを常時オンにしていても、今回の試乗では十分な力強さだった。
ハンドリングは三者三様
ハンドリングに関しては、前述したパワステのフィーリング同様、eKワゴンはレーンチェンジなどでのボディーの動きがどうしてもぎこちない。普段使いでは問題ないレベルなのだが、操舵に対して生じるボディーの揺れや揺り戻しなど、まだまだ煮詰められる部分は多いと感じた。
一方ワゴンRに関しては、意外と言っては失礼かもしれないが、その味付けは結構スポーティーだ。リアサスは伝統のI.T.L(アイソレーテッド・トレーリング・リンク)式だが、これ自体はもはや“熟成”の域に到達しており、チューニングも高いレベルで煮詰められている。旧型ワゴンRと乗り比べると、その差に驚くほどだ。言い換えれば、もうそろそろ次の世代(方式)にバトンタッチしてもいい頃合い。ステアリング操作に対するフロントのキレは良いのだが、リアは変に突っ張ったように動く。この特性はI.T.Lの特徴のひとつと言えるもので、ギャップを乗り越えた際のガツンとくる入力などは、後席シートの座り心地ともども(前編参照)、日々レベルアップしている軽自動車の中ではやや古い印象を受けてしまう。
最後にN-WGNだが、後発の強みもあって、快適性も含めた乗り味はかなりレベルが高い。それこそ、他のホンダのNシリーズと比較しても、トップの乗り味を持っていると思う。ほか2車よりも圧倒的に長いホイールベースや、このクラスとしてはしなやかに動くリアサスなども、そこに大きく貢献していると感じた。
カテゴリー全体の底上げに期待
さて動力性能と同様に重要なのが安全性能である。ここに関しては筆者は「激おこぷんぷん丸」である。
「ダイハツ・ムーヴ」が先鞭(せんべん)をつけた「衝突被害軽減ブレーキ」は、機能としては簡易型のレベルを脱していないものの、大体5万円前後で設定されている。今回の比較ではN-WGNとワゴンRにはそれぞれ装着グレードがある(テスト車にも装着済み)のだが、eKワゴンには残念ながらオプション設定すらない。もっとも、いずれ必要に応じてeKワゴン(と「日産デイズ」)にも装備されるはずだから、この部分は目をつぶってもいい。むしろ問題は横滑り防止装置の設定である。N-WGNとワゴンRはほとんどのグレードに標準装備、ないしオプション設定されているのに、eKワゴンには設定なし。正確に言えば「eKカスタム T」(ターボ車)の2WD車に、6万4800円のセットオプションとしてしか設定がないのだ。
横滑り防止装置の装着に関しては、軽自動車の場合、法律で2014年10月以降に発売される新型車、それ以外については2018年2月以降までの義務化と猶予期間が設けられている。しかし、そもそも安全技術に猶予もへったくれもない。燃費や動力性能も重要だがまず安全面をきっちりやってから、ほかに着手すべきではないだろうか。100歩譲ってメーカーオプションとして用意するだけでも罰は当たらないと思うのだが……。
やや辛口になってしまったが、今回の3車種を比較すると、やはりN-WGNの優位性が光る。特に安全技術については、全グレードにVSA(横滑り防止を含めた制御デバイス)を標準装備。ほとんどのグレードに衝突軽減ブレーキと6エアバッグを設定している。また、あまり話題にはなっていないが、後席シートベルトの締め忘れ警告灯(ルームミラー上に表示する)を軽自動車として初めて装備するなど、同じ価格帯でありながら、その内容は抜きんでている。ユーザーに対しハイバリュー(高い価値)を与えてくれる一台である。
今回はテストできなかったが、ダイハツ・ムーヴも安全装備については充実したものを持っている。これらが今後のベンチマークとなって、軽トールワゴンのみならず軽自動車全体のレベルアップをけん引してくれると信じている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
他とは異なる価値の創出を
今回、これら3台の比較を行って感じたことは「市場としてはまだまだ堅調。しかし決して気は抜けない」ということだった。前編でも書いたように、軽トールワゴンはデファクトスタンダード、言い換えればわれわれの生活にすっかり根付いている。しかし、あまりにもそれが当たり前となった今日では、どのクルマも同じようにしか見えず、カテゴリー内での差別化が難しくなってきているのだ。
さらに、後ろには軽スーパーハイトワゴンの波が迫っている。うわさでは2013年の東京モーターショーに参考出品されたダイハツの「DECA DECA(デカ デカ)」が、2014年度内に市販化されるという。このカテゴリーにますます伸びが期待できるという点も、軽トールワゴンにとっては逆風となりかねない。スズキなどは簡易型ハイブリッドシステムを近々ワゴンRに搭載し、テコ入れを図るというが、この技術もいずれは他のカテゴリーに転用されるはず。軽トールワゴンが今後も支持を得るためには、まったく新しいデザインやライフスタイルの提案、ハード面では新素材によるさらなる軽量化などが求められるはずだ。
箱庭的なクルマづくりは日本が世界に誇る“お家芸”であり、その中心にある軽トールワゴンの進化は、市場の行く末を占う羅針盤と言える。初代ワゴンRのデビューから20年余り、そろそろ次の行き先を見せてほしい。
(文=高山正寛/写真=荒川正幸)
拡大 |
テスト車のデータ
スズキ・ワゴンR 20周年記念車
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1660mm
ホイールベース:2425mm
車重:790kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6000rpm
最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピア EP150)
燃費:30.0km/リッター(JC08モード)
価格:138万2400円/テスト車=151万9398円
オプション装備:ボディーカラー<スチールシルバーメタリック>(2万1600円)/スマートフォン連携ナビゲーション(7万5600円)/※以下、販売店装着オプション ETC車載器(1万9656円)/フロアマット(2万142円)
テスト車の年式:2013年型
テスト開始時の走行距離:4763km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
ホンダN-WGN G・Aパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2520mm
車重:820kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:58ps(43kW)/7300rpm
最大トルク:6.6kgm(65Nm)/4700rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:29.2km/リッター(JC08モード)
価格:128万5715円/テスト車=136万5635円
オプション装備:ディスプレイオーディオ(6万4800円)/※以下、販売店装着オプション フロアカーペットマット(1万5120円)
テスト車の年式:2013年型
テスト開始時の走行距離:2388km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
三菱eKワゴン G
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1620mm
ホイールベース:2430mm
車重:830kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:49ps(36kW)/6500rpm
最大トルク:5.7kgm(56Nm)/5500rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:30.0km/リッター(JC08モード)
価格:127万5480円/テスト車=145万6530円
オプション装備:ステアリングオーディオリモコンスイッチ+2スピーカー(1万800円)/※以下、販売店装着オプション ワイド2DIN-7型AV一体メモリーナビゲーション<ベーシック>(12万6230円)/ETC車載器(2万4451円)/フロアマット(1万9569円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1753km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

高山 正寛
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
スズキDR-Z4S(5MT)【レビュー】 2026.1.7 スズキから400ccクラスの新型デュアルパーパスモデル「DR-Z4S」が登場。“Ready 4 Anything”を標榜(ひょうぼう)するファン待望の一台は、いかなるパフォーマンスを秘めているのか? 本格的なオフロード走行も視野に入れたという、その走りの一端に触れた。
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。
































