第274回:BMWグループのクルマが大集合 サーキット試乗会
2015.01.05 エディターから一言 拡大 |
千葉県袖ケ浦市の袖ケ浦フォレストレースウェイで、BMWグループのBMW、MINI、ロールス・ロイスのクルマとBMWモトラッドのバイクを集めた試乗会が開催された。その中からよりすぐりの8台(残念ながら二輪の免許を持っていないのでクルマのみ)に試乗した。
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セダンか クーペか
BMW M3(FR/7AT)……価格=1104万円
BMW M4(FR/6MT)……価格=1075万円
あややこと松浦亜弥という歌手は数年前、セクシーであるかキュートであるかどちらが好みかを選択せよと世の男性に大々的に問うていたが、それについて自分はどっちが好きなのかを真剣に考えたものの、行き着いた答えは「どっちも好き」であった。
そんな優柔不断な返答をしてはいけないと思い、どちらかに決めなければと悩んだけれど、やはりどっちも好きなのだから決められない。いやいや、もしかするとどちらかに決めかねている純情な男心をもてあそんでいるのではないか。侮れんな、あやや。
などと中年男性の打ち明け話に付き合わせて申し訳ないが、「M3」「M4」の2台を乗り比べてあの歌のことを思い出した。
アレ風に「M3なの? M4なの?」と聞かれれば、その答えは「どっちも好きなの」だ。
そんな2台をサーキットで乗り比べるという、またとないチャンスを手にしたものの、雨。
この路面状況では、ドア枚数の違いによる走りの差を感じ取ることは難しいが、ドライコンディションであってもその差を見極められる気はまったくしないのでまあいい。
そもそも、M3を選ぶのかM4にするのかという悩みは、サーキットでのパフォーマンスうんぬんだとか、2ドアだと狭い駐車場での乗り降りが不便だとか、たまに年老いた両親を乗せることがあるので……とか、そういった合理的な判断で解決できるものではないはずだ。
究極的には、自分には2ドアのピュアなスポーツクーペが似合うのか、それとも卓越したドライビングパフォーマンスを持つ4ドアセダンが似合うのかの、二者択一になるのではないだろうか。
「お前にはどっちも似合わない」というごもっともな意見は置いといて、この難しい選択にはさらに重要なポイントがある。
日本に導入されているM3は7段DCTのみの設定となるのに対し、M4では7段DCTと6段MTが選べるのだ。さらに6段MTモデルには左ハンドルの設定もある。
だから「右手でギアチェンジするマニュアル車しかスポーツカーじゃない!」というタイプの人は、M4を選ばざるを得なくなってくる。
ただ、これくらいパワーがあってしかも洗練されたスポーツカーを相手に、「MTじゃなければ楽しくない」と言い切るには相当なテクニックが必要なのではないだろうか。
少なくとも僕の場合、用意されていたMTのM4でサーキット走行中、シフト操作を楽しむ余裕はこれっぽっちもなかった。「こんな速いクルマじゃ、ステアリングとアクセル、ブレーキの操作で精いっぱい」というのが恥ずかしながら実情であった。
実用性の高さに感激
ロールス・ロイス・ファントム(FR/8AT)……価格=5064万円
「ファントム」という言葉を辞書でひいてみたところ、「幻、亡霊」とあった。限りなく非成仏感の高い名称が付けられたこのクルマは、想像以上に特別だった。
何が特別かって、まず乗り込むなりシート調整のしかたがわからない。もちろん電動調整式なのだが、そのスイッチはおごそかにセンターコンソールの木箱の中に納められている。広報担当者が教えてくれなければ、試乗枠1時間の間には発見できなかっただろう。
同様にからくり仕掛けのようなエンジンのかけ方、シフトセレクターの操作法を教えてもらってから、驚くほど細いステアリングホイールを握って、というかつまむように操って、走りだした。
僕は以前、大企業の重役や政治家などの運転手をしていたことがある。その時は「ロールス・ロイスなんてデカいしいろいろ気を使うだろうし、できれば運転したくない」と思っていたけれど、それは大きな間違いであると知った。
デカくて気を使うのは確かにその通りなのだが、それでいて積極的にステアリングを握りたく(というかつまみたく)なる魅力が山ほどある。
特に運転手としてこのクルマを担う時、その魅力というのはゴージャスさではなく、実用性にあることに気付くだろう。
乗り心地のよさは、恐らく魔法のじゅうたんも筋斗雲(きんとうん)も、これにかなうまい。
カーブなどによくある、減速を促す凸凹舗装を乗り越える時も、後席の乗客はわずかな音の変化でしか気付かないだろう。けれども、ステアリングホイールをつまむ指先には、路面の変化がきちんと伝わってくる。この伝え方が絶妙で、しっとりとした心地よさを伴いながらも、確実に路面状況がインフォメーションされるのだ。
ボディーの大きさも、視界のよさとよく切れるステアリングで、さほど緊張感を強いられない。
試乗した日は風雨が強く、路上に飛来物が落ちていた。それを避けるためやや急なレーンチェンジをしたが、ファントムはグラリと揺れることもなく、フィギュアスケートの羽生結弦選手のようにしなやかにスラロームを描いた。この挙動であれば後席の乗客が驚くこともないだろう。
こういうシーン、フツウのクルマであれば運転手はまず障害物にびっくりし、急な車線変更をこなし、乗客に「キミ、もう少していねいに運転したまえ」と言われやしないかびくびくし、とストレスが幾重にも発生してしまうのだが、ファントムだったら涼しい顔をしていられる。
こうしたクルマとしての基礎的部分での高品質さが、運転手という仕事を楽にしてくれるのではないかと思う。
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ディーゼルクロスオーバー対決?
MINIクーパーSD クロスオーバー(FF/6AT)……価格=387万円
BMW X3 xDrive20d xLine(4WD/8AT)……価格=625万円
続いてのこの2台、どちらも2リッターターボのディーゼルエンジンを搭載したクロスオーバーだ。
キャラクターの全く違うクルマだし価格差もあるけれど、「ディーゼルのクロスオーバーが欲しい」という場合には、日本車を含めて選択肢はある程度限られるので、ひょっとすると比較の対象にする人もいるかもしれない。
……と思って乗り比べてみたのだが、その違いは天丼とうな重くらいかけ離れていたのだった。
基本的には同じエンジンを搭載するが、MINIクロスオーバーの方がよりディーゼルらしさを感じる。
今回試乗したクルマでは、サーキットコースへの乗り入れを禁止されていたファントムを除いて、すべてサーキット走行を経験したのだが、MINIクロスオーバーが一番楽しかった。
雨のサーキットでは、ターボディーゼル特有の太いトルクがホイールスピンを誘発しやすく、セオリー通りにきちんと操作しないと速く走れない。ドライビングの基礎練習にはもってこいの状況だったのだ。
さすが「クーパーS」を名乗るだけあって、ディーゼルでもスポーティー。むしろディーゼルの特徴をうまく楽しさに変えているなと感じた。
一方のX3は、あくまでもジェントル。一般道もサーキットもスマートにこなすナイスガイである。だからディーゼルエンジンのクセも紳士的に、それと感じさせないよう努めている様子だ。
そうした雰囲気が、X3を「いい道具だな」と思わせるのだろう。
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BMW+FF≠MINI
BMW 218iアクティブツアラー ラグジュアリー(FF/8AT)……価格=381万円
MINIクーパー(FF/6AT)……価格=280万円
BMW初の前輪駆動モデル「BMW 218iアクティブツアラー」。自動車好きの間では「BMWが出すFFはどんなもんだ」と、吉野家がカレーを始めた時のインターネットユーザーが見せた反応と同じくらい、話題になっている。
吉野家もBMWもMINIも好きな僕は当然興味津々なわけだが、一方で「MINIと同じだったらどうしよう」という心配も若干ながら感じてしまうのである。
ちなみに吉野家のカレーは過去3回、導入しては撤退というのを繰り返していて、現行型カレーは4代目となる。
車両本体価格は、「BMW 218iアクティブツアラー ラグジュアリー」が381万円、「MINIクーパー」が280万円で、その差は101万円。テスト車の場合、オプションを含めるとそれぞれ462万3000円と394万6000円になり、67万7000円まで縮まるが、それでもかなりの差である。これでもし「ちょっと高級なMINI」だったら、多くの人が選択に悩んでしまうだろう。
しかも搭載されるのは3気筒エンジン。生粋のBMWファンからは認めてもらえなさそうなスペックだけれど、いざ乗り込んでみると、目の前に広がるのは完全にBMWの世界。インストゥルメントパネルはどこからどう見てもBMWだし、シートに座った感じもニオイもBMW。
エンジンをかけると、3気筒なんだなということに気付き、動き始めの瞬間にもまた「あ、3気筒」と思うけれど、だからといって不快だったり心細く感じてしまったりするようなことはない。そのあたりはちゃんとBMWらしく仕上げられている。
一方のMINIクーパー。2014年4月に発売された3代目のMINIに乗るのは今回が初めてなのだけれど、こちらも乗り込むとまごうかたなきMINIのインテリア。細かく見るとあちこち従来型から変わっているのに、全体的な印象はいかにもMINI然としているところはエクステリアと同じだ。
トグルスイッチでエンジンを始動させると、3気筒らしいエンジン音。218iと比べて、音も振動もMINIの方がはっきりしているが、それが軽やかで心地いい。このクルマ、好みのタイプだ。
最初に試乗したのは218iアクティブツアラーだったのだが、予想していたよりも乗り心地は硬め。けれども仕立てのよさはさすがBMW。
じゃあMINIの仕立てがよくないかというとそんなことはなく、それはそれ、これはこれといった違いがはっきりとしている。
どちらもいい味で、同じプラットフォームなのにこうも違った味のクルマが作れるものなのかと、素直に感心してしまった。
同じグループに属するブランドが、共通のプラットフォームを用いてクルマを作る例は多くあるし、その流れはどんどん加速していきそうな情勢だ。共通化は画一化につながり、クルマ好きとしてはあまりうれしいことではないようにこれまでは思っていたが、こうしてブランドごとの味付けの違いを丸一日堪能すると、むしろこの流れは好ましいことなのだと思えてきた。
プラットフォームの共有化が進んだからこそ、各ブランドの基礎体力が温存されて、それぞれのブランドが持つカラーをよりはっきりと、クルマに反映させることができるようになってきているのではないだろうか。
(文=工藤考浩/写真=荒川正幸)
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工藤 考浩
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