第14回:鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス(その2)
2016.10.25 カーマニア人間国宝への道初めてのBMW
(その1)からのつづき
これまで乗った10台のフェラーリの車両償却費は、年平均約80万円ぽっち! それより高くつく足グルマなんぞ買えるわけねぇ! だから足グルマは絶対300万円以下! という信念を持つ私だが、昨年末まで乗っていた「BMW 335iカブリオレ」でそこを具体的に検証してみたい。
E90型の335iカブリオレが発売されたのは2007年。それは私にとって大いなる衝撃だった。
3リッター直噴ツインターボエンジン(当初はツインパワーじゃなくホントのツインターボ)が超絶スバラシイのは知っていたが、カブリオレはスポーツエキゾースト+オープンなのでサウンドもウルトラ超絶スバラシイ! なんだかちょっと「フェラーリF355スパイダー」みたい! 新車価格は約800万円で到底手が出なかったが、いつか中古買ってやる! と、その時から心に決めていた。
その決意も忘れかけた7年後のある日、運命の再会があった。アプルーブドカーの335iカブリオレがたった266万円! ボディーカラーは金持ちっぽいシャンパンゴールド!
「これは買うしかなかろう!」
忘れかけた恋でも恋は恋。私はクルマを確認すべく、型通り軽く試乗をさせてもらった。
印象はイマイチだった。まず乗り心地が悪い。そして加速も悪い。7年前、「十分死ぬほど速い!」と思ったはずなのに、イマイチ前に進まない。快音もあまり轟(とどろ)かない。
しかしまあ、細かいことはいい。走行6万4000kmだし266万円だし文句は言えまい。別に速いのが欲しくて買うわけじゃない。オープンで気持ちよく流せればそれでいいんだから!
ということで速攻で契約。支払総額は279万円。300万円の枠にキッチリ収まっていた。大勝利だ。
その名も“スーパーエリート号”
納車日。ルンルン気分でクルマを引き取った帰路、首都高を走行中、突如としてギアがガクンと2速に落ち、モニターに「トランスミッション異常」という文字が浮かんだ。
「うむむむむ……」
再び衝撃であった。まず、モニターの警告表示がオール日本語! さすがBMW! さすがアプルーブドカー! イタフラ車じゃこうは行かない。いきなり2速ホールドになるのもダイナミック!
私の思考回路は基本的にイラフラ車寄りなので、こう考えた。
「たぶんセンサーの異常だろう。いったんエンジンを切れば消える(治る)に違いない」
首都高を降りていったんエンジンを切る。するとどうでしょう。警告表示が消えたじゃないですか! トランスミッションも復帰している。やっぱりかワッハッハ。私は鷹揚(おうよう)に笑って帰宅した。そして我が335iカブリオレにこう名付けた。「スーパーエリート号」と。
翌日は早速スーパーエリート号で伊豆に出掛けた。オープンエアを存分に楽しみつつ快調に走行していると、再びアレが襲った。2速への強制シフトダウン&トランスミッション異常表示(日本語)である。つーかその時は高速走行中にて2速に落ちず、いきなりニュートラルになった。ブレーキで慎重に速度を落とすと、減速途中でダイナミックに2速に落ちた。
結局その日は、そのテのお仕置きを5回も食らってしまった。
「これは本当に壊れてるのかもしれない……」
これまでのカーライフ、多少の故障はあったが、たとえば「フェラーリ348」は片バンク死んで直4になっても問題なく小淵沢から帰京できたし、「シトロエン・エグザンティア」は雨漏りしてもマフラーがさびて折れても窓が落ちても走れた(アタリマエ)。その他イタフラ車の警告灯点灯はほとんどがセンサーの気まぐれで、エンジンを再始動すれば大抵自然治癒したが、今回はホンモノらしい。
さすがBMW! 警告灯がついたらホントに壊れてるんだネ!
266万円でセレブ感満点!
購入したディーラーに修理を依頼したところ、「トルコンATのロックアップクラッチが滑っている状態」と判明し、ATオーバーホールを行うという。そーか、トルコンが滑ってて加速が悪かったのか。
自腹なら100万円近くかかるところ、アプルーブドカーにつき修理はタダ! さすがアプルーブドカー! すげえ! ドイツ車買うならアプルーブドカーだネ! だって仮病じゃなくマジで壊れるから!
修理に約1カ月。帰還後は加速も改善していた。いよいよ本物のスーパーエリート号である。乗り心地対策は、手っ取り早くランフラットタイヤを「ブリヂストン・レグノ」に替えてディープな世界へ。いきなりマシュマロのようにフワフワになった。
266万円ながら、周囲の見る目は完全にセレブ様だ。特にオープン状態では無敵。サービスエリアでは見知らぬ家族が「カッコいいねコレ」と言っているのが聞こえる。駐車場でバリオルーフを開閉していたところ、通りすがりのジジイが腰を抜かし、「はぁ~。コレは1000万円くらいするのかい?」と尋ねる。まさに大勝利である。
が、コーナーで踏ん張りが利かない。マシュマロタイヤのせいではなく買った時からだった。この不安感はなんだろう。サスがヘタッっているのか。ヘタり切った感じではないが微妙に腰砕けになる。サスも替えなきゃダメなのか? まいーや、ゆっくり流してれば!
最近とあるエンジニア氏に聞いたところ、BMWは非常に早期(ストローク10mm以下?)でバンプラバーに当て、サスペンション機能の一部として使っているとか。よってバンプラバーの初期の当たりをとってもソフトにしているが、その分耐久性がない。5万kmでヘタる。そういうことであった。今となっては確認のしようもないが、言われてみればそんな感触ではあった。
激安中古BMWは、イタフラ&国産車とはまるで違う、理想主義的な秘密兵器感(ただし耐用年数超え)に満ちていたのであった。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信)
第13回:鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス(その1)
第15回:鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス(その3)
第16回:鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス(その4)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2025.10.15試乗記スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。 -
NEW
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して
2025.10.15エディターから一言レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。 -
NEW
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか?
2025.10.15デイリーコラムハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。 -
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。