スバルWRX S4 tS NBR CHALLENGE PACKAGE(4WD/CVT)
スバラシキ進化 2017.01.18 試乗記 スバルのスポーツセダン「WRX S4」をベースに開発された、期間限定発売のコンプリートカー「WRX S4 tS NBR CHALLENGE PACKAGE」に試乗。STIのスペシャルチューンがもたらす走りの質を、じっくりと確かめた。“勝ち組”が乗るクルマ!?
私の周囲で“スバリスト”といえば、『webCG』にも登場しているマリオ高野である。なにせ彼は数年前まで弊社(編集プロダクション)の一室に住み込んでいたから、周囲というより身内だが。なぜ住み込んでいたかというと、当時の自宅が埼玉県の辺境で大変不便であり(最寄り駅まで徒歩45分)、かつ貧乏だったからだ。貧乏は現在も継続中だが。
マリオ高野のスバル愛は、さまざまなメディアを通じ世間に広まりつつあるが、個人的には、スバリスト=マリオ高野であることが原因で、スバリスト=オタク、あるいはスバリスト=モテない、はたまたスバリスト=貧乏というイメージもできてしまったと思う。中でもマリオが愛してやまない初代「インプレッサWRX」(GC8)は、「見てくれなど一切気にしないオタクカー」という固定観念を生んだ。
ところが現在の「スバルWRX」は、価格が400万円前後に上昇。とても貧乏じゃ乗れないクルマになった。それでもよく売れており、2016年の販売台数は、「STI」と「S4」の合計で約7000台(1~11月)。この数字は、ぐっと安価な「インプレッサG4/スポーツ」の合計を大きく上回る。
男性の場合、収入とモテ度はかなりの割合で比例するのが実態であり、かつ高いモデルの方がよく売れているという事実から、スバリストの多くは「モテるお金持ちである」という答えが導かれる。
現在の富士重工すなわちスバルは、日本の自動車メーカー中最高の利益率を誇る勝ち組だが、そのスバル車を愛するスバリストたちも、人生の勝ち組になっていたのだ! マリオはその数少ない例外ということか。
WRXとCVTの微妙な関係
しかし筆者は、現行型WRX STIおよびWRX S4は、スバリスト以外には到底耐えられない、古典的すぎる乗り物だと考えていた。
方向性は初代インプレッサWRXからみじんも変わっておらず、拷問のように硬い足まわりと、世界の潮流から完全に取り残された回さないとパワーが出ない古典的ターボエンジンの組み合わせだ。これはもう化石、あるは古墳。STIのEJ20系エンジンはもちろんのこと、S4のFA20系エンジンも、ある程度回さないとブーストがかからないことにかけては大差ない。これがいい、という意見もわからないではないが、昔の味が今でも新車で買えます、ということにすぎなくないか?
それでも、6段MTのWRX STIは、ガチのマニアックモデルだからいい。しかしCVTと組み合わされるS4は、「なんだこれ?」と思わずにいられなかった。拷問のような足まわりはSTIと大差ないのに、トランスミッションがラバーバンドフィール拭い難しなCVTなのだから!
スバルのCVTすなわちスポーツリニアトロニックは、CVTとしてはかなりダイレクト感が強い。しかしそれはハーフスロットルまでで、おもむろにアクセルを全開にすれば、CVT特有の「モワ~」という回転の上昇で、ダイレクト感など木っ端みじんに消える。S♯モードには8段マニュアルモードも備わるが、CVTは素早い回転変化が苦手ゆえ、シフトアップ&ダウン時はどうしても「モワ~」感が拭えず、パドルを操作しながら去来するのは「俺はなぜこんな無意味な操作をしているのだろう……」というむなしさのみ。私に言わせれば、これまでのWRX S4は「バランスが悪いにもほどがある!」と机をたたきたいモデルだった。
かつてのネガはスッキリ解消
と、ここまでは長い前置きです。前置きが長すぎてもう読むのをやめてしまった方も多いと思いますが、なぜこれほど前置きが長いかというと、今回乗ったWRX S4 tSは、そういったネガティブな印象を一掃する、非スバリストにとっても大変に素晴らしい仕上がりだったと書きたいが故なのです。これはまったくの別物です。
見た目は従来そのまんまだ。特に今回乗ったWRX S4 tS NBR CHALLENGE PACKAGEは、一瞬で完売した限定モデルの「S207」同様、スバルブルーにでっかいリアウイングを背負ったスバリスト御用達のルックスで、降りてくるのは全身スバルファッションで固めた中年男性、という絵が思い浮かぶ。
しかし中身は、これまでのS4とは全然違った。何が違うかというと、乗り味が圧倒的にしなやかになった。CVTのS♯モードでの8段マニュアルモードが、まるで先進的多段トルコンATのようなフィーリングになった。この2点です。従来の机をドンドンたたきたいほどの弱点が、2点とも見事に解消されていた。これなら「アウディS3」ともガチで戦える。お値段は約500万円(NBR CHALLENGE PACKAGEは529万2000円)なので、そっちでもかなりガチですが。スバルは勝ち組が乗るクルマだなぁ、としみじみ実感。
まず足まわりから解説すると、S207にも採用した可変減衰力サスペンション、「ダンプマチックII」を装備し、快適な乗り心地と操縦安定性の両立が図られている。といっても、個人的にはS207を快適とはみじんも感じなかったので、「S207と同じ」というのは実態とは大きく異なる。「低速域でかすかに本気スポーツモデルらしい突き上げを感じるが、速度を上げるにつれてしなやかになり、路面を舐(な)めるように捉えて離さないフィーリングが素晴らしい」。こんな感じです。アウディのS系ソックリだね、大ざっぱに言えば。
楽しく走れるCVT
そしてCVT。スバル車最大の弱点は、ATがCVTしかないことだ。異論がある人は少ないだろう。私の場合、この時点で購入の選択肢からは完全に外れてしまう。しかしこのクルマは違った。IモードやSモードでは、従来と特に変わりない。正確には違うかもしれないがまあ似たようなものです。ミッションオイルクーラーとそれを制御するTCUを装着し、サーキットの周回可能数が従来より7~8割増えたというが、公道でフツーに流していれば、それで何かが変わったと感じるはずもなかろう。
違いを感じるのは、S♯の8段マニュアルモード時だ。前述のように、ほぼ完全にトルコンATのようにシャープに変速する。「トルコンATがシャープ?」と思われる方がいらっしゃるかもしれないが、今のトルコンはすでにDCTを不要なものにしつつあるわけで、それにソックリということは大変に素晴らしいことです!
具体的には、回転変化の素早さだ。バドルによるシフトアップでもダウンでも、スパッと小気味よくタコメーターが振れる。それは従来のCVTでは考えられなかったシャープさで、CVTだと事前に知らされなければ、たとえマニアでもこれがCVTだとはわからないだろう。この小気味よさは、エンジンフィールがよりシャープになったから、とも伝え聞くが、どうなのだろう? 実際、CVTはオイルクーラーが追加されただけで、中身は何も変わっていないというが、ちょっと信じられない。従来のS4のエンジンってそんなにレスポンスが鈍だったんですか? まあいいです、とにかく素晴らしく良くなったんだから!
ちなみにエンジン(FA20型直噴ターボ)のスペックは最高出力300ps、最大トルク40.8kgmで変わらないものの、吸排気を変更し、通気抵抗を低減したエアクリーナー、マフラーを採用して、加速中のトルクを最大10%向上しているとのこと。
街中を移動するにはIモードで十分だが、首都高やワインディングロードではS♯で痛快かつ快適な走りを楽しむ。そんな乗り方がまったく無理なく行える。これは巨大な変化であり素晴らしいことだ。こうなると、今どき2500rpmは回さないとしっかりブーストがかからない古墳的なターボも、むしろメリハリがあって楽しい! とポジティブに捉えられるようになった。
素晴らしい、これは楽しいと思いながら走っていたら、この大げさなリアウイングもだんだん好きになってきた。ルームミラーに映る姿が頼もしいぞ! 守ってくれてるみたいで。やっぱりリアウイングは男の鎧兜(よろいかぶと)だネ! 夜の首都高辰巳PAにこのクルマを止め、少し離れて眺めていたら、「俺、スバリストになってもいいかな」なんて思えてきました。ちょっと本当です。
(文=清水草一/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
スバルWRX S4 tS NBR CHALLENGE PACKAGE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1795×1475mm
ホイールベース:2650mm
車重:1400kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:300ps(221kW)/5600rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)255/35R19 92Y/(後)255/35R19 92Y(ダンロップSP SPORT MAXX RT S)
燃費:--km/リッター
価格:529万2000円/テスト車=557万2584円
オプション装備:パナソニック ビルトインナビ(23万7600円)/パナソニックETC車載器(4万2984円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:768km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:196.5km
使用燃料:25.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)/7.9km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。 -
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。 -
始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.3.4デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車が「ルーチェ」と名乗ることが発表された。それはそれで楽しみな新型車だが、日本のファンにとってルーチェといえばマツダに決まっている。デザインが二転三転した孤高のフラッグシップモデルのストーリーをお届けする。 -
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。



















































