トヨタ・ハリアー プログレス“Metal and Leather Package”(ターボ車)(4WD/6AT)
よりWILDに よりFORMALに 2017.07.18 試乗記 トヨタのSUV「ハリアー」がマイナーチェンジ。高効率が追求された2リッターターボエンジンを得て、その走りはどう変わったのか。プレミアムな装備を充実させた新グレードの、4WDモデルでチェックした。ターボエンジン追加で弱点克服
「トヨタC-HR」の売れ行きが好調だ。2017年4月には月間販売台数1位を記録し、1月から6月の累計販売台数は7万9303台で3位となった。街で見かける機会も多くなり、かつての異物感もかなり緩和されてきたように思える。コンパクトSUVが花盛りになる中では、あのぐらい大胆なデザインでないと埋没してしまうのだろう。
20年前、ハリアーが登場した時の衝撃はC-HRを上回るものだったかもしれない。タキシードを着たライオンが見慣れない形のクルマに乗り、女性をエスコートするテレビCMが話題となった。「WILD but FORMAL」というキャッチコピーは、このクルマの素性を正確に表現していた。C-HRのデビュー後も、ハリアーの存在感は薄れてはいない。むしろ弟分の勢いに引っ張られるように売れ行きが伸びていった。1月から6月の累計販売台数は3万0432台で、16位に食い込んでいる。
ハリアーを扱うトヨペット店では、顧客からの認知度がクラウンと肩を並べるレベルなのだという。ちなみに、同時期のクラウンの累計販売台数は1万6142台で28位。ハリアーは押しも押されもせぬトヨタの基軸車種なのだ。ただ、はっきりとした弱みがあった。パワーユニットである。スポーティーな走りを売り物にするSUVが続々と現れているのに、自然吸気の2リッターガソリンエンジンと2.5リッターのハイブリッドしかないのではどうにも分が悪かった。
マイナーチェンジでその弱点の克服を図ったのは当然だ。ターボエンジンの追加が一番の注目点である。231psのパワーを得た4WDモデルに試乗した。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
6段ATもレスポンスに貢献
2リッター直4直噴ターボエンジンは、「レクサスNX」のものと基本的に同じ。ツインスクロールターボを採用し、水冷式インタークーラーを備えている。自然吸気エンジンが最高出力151ps、ハイブリッドユニットのシステム最高出力が同197psだから、パワー面でのアドバンテージは大きい。試乗車は最上級グレードの「プログレス“Metal and Leather Package”」で457万4880円というプライスタグが付けられているが、同グレードのハイブリッド車に比べると40万円ほど安い。自然吸気版の最廉価グレードは300万円を切る価格で提供されていて、若い世代に人気があるそうだ。
初代と2代目のハリアーは国外では「レクサスRX」として販売されていたが、2013年に登場した3代目からは別モデルとなった。国内専用車という位置づけになり、それまで用意されていたV6エンジン搭載モデルはラインナップから外されている。4気筒で十分だと考えるユーザーは国外にもいて、正規ではないルートで東南アジアなどにも渡っていたらしい。
今回の試乗の少し前に、たまたま先代の自然吸気モデルに乗る機会があった。ほぼ高速道路だけを走って、動力性能に決定的な不満を感じる場面はなかった。ただ、追い越しの際などに少々まどろっこしい思いをしたことは否定できない。実用上の問題はなくても、高級SUVとしては物足りないという感想を持ってしまう。
ターボエンジンを得て、加速の気持ちよさは確実に向上した。ストレスを感じないから、長距離ドライブでも疲労は軽減されるだろう。ターボが利いているという確かな感覚があるので、スポーティーな気分が高まる。エンジンだけではなく、トランスミッションもレスポンスのよさに貢献している。自然吸気モデルがCVTなのに対し、ターボ車には6段ATが使われているのだ。すっかりCVTに慣れてしまっていたが、古典的な感覚がよみがえった。
山道が楽しいSPORTモード
「ECO」「NORMAL」「SPORT」の3つの走行モードが用意されていて、ワンタッチで切り替えることができる。ただ、ボタンのありかを見つけるのに苦労した。センターモニターの下にピアノブラックのパネルがあり、エアコンとシートヒーターのボタンが並んでいる。なぜか走行モードの切り替えボタンがその中に紛れ込んでいるのだ。
デザイン的にはスッキリしているものの、まったく異なる機能が一緒くたになっているのはわかりにくい。ハリアーのスイッチ類は総じて不親切である。カーナビのボタンもすべて英語表記で、目的地をセットするには「DEST」と書かれたボタンを押さなければならない。使い勝手よりもオシャレ感を優先するのが、良くも悪くもハリアーというクルマの身上なのだろう。
一度SPORTモードを選んでしまうと、NORMALやECOに戻りたくなくなる。高速巡航ではECOモードでも問題はないのだが、追い越しのたびにモードを切り替えるのが面倒になってくるのだ。ツルンとした平面に文字が刻まれているだけなので、目視せずに思ったとおりのボタンに触れるのは難しい、
SPORTモードではエンジン特性だけでなくステアリングフィールも変わるので、山道では頼もしい武器となる。箱根では中高速コーナーで構成されるターンパイクで気分よく走れたのは当然として、狭くて曲がりくねった道の続く長尾峠でもスポーティーな走りができたのは意外だった。ターボ車専用装備としてパフォーマンスダンパーが採用されていることの恩恵かもしれない。
安全性と高級感も追求
ターボエンジン追加のほかに、マイナーチェンジでは2つの点で改善が図られている。ひとつは安全性能だ。全車に「Toyota Safety Sense P」が標準装備された。このクラスのクルマでは、今や必須のアイテムだろう。レーンディパーチャーアラートはステアリング制御機能が付いていて、車線逸脱を感知すると警告音を発するとともに自動的に進路を修正する。ただ、場合によって音だけが鳴ったり、逆に無音でステアリングの修正が入ったりして、動作が一定しないのが気になった。
質感の向上がもうひとつのテーマだ。試乗車の“Metal and Leather Package”というグレード名は、シフトパネルにアルミヘアライン加飾、シートにプレミアムナッパ本革を用いていることに由来している。柔らかくなめされた皮革は手で触れると滑らかで、座ってみるとしっとりとして収まりがいい。地味なところでは、遅ればせながらパーキングブレーキが電動式になったのは朗報だ。センターモニターは8インチから9.2インチに拡大され、視認性が向上している。
外観ではフロントのロアグリルがワイド化されるなどの変更点があるが、基本的な意匠は変わらない。リアコンビネーションランプは外枠を赤くすることで、くっきりとした造形になった。もっとわかりやすいのは、「シーケンシャルターンランプ」の採用だろう。いわゆる“流れるウインカー”である。最近のトレンドだが、これが高級感の表現として妥当なのかどうかはよくわからない。
今回のマイナーチェンジでは、プレミアムSUVに求められるスポーティーな走り、安全性能、高級感という3つの要素を進化させた。初代ハリアーは新しいジャンルを生み出したということに価値があったが、今では並みいるライバルたちと同じ平面で戦うことを強いられる。もはやWILDとFORMALがbutで対比される時代ではなく、両面をともに伸ばさなければ生き残れないのだ。
(文=鈴木真人/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
トヨタ・ハリアー プログレス“Metal and Leather Package”(ターボ車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4725×1835×1690mm
ホイールベース:2660mm
車重:1740kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:231ps(170kW)/5200-5600rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1650-4000rpm
タイヤ:(前)235/55R18 100H/(後)235/55R18 100H(ブリヂストン・エコピアH/L422 Plus)
燃費:12.8km/リッター(JC08モード)
価格:457万4880円/テスト車=470万0700円
オプション装備:アクセサリーコンセント<ラゲッジ内>AC100V・100W(8640円) ※以下、販売店オプション ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビ連動タイプ(3万2400円)/フロアマット<ターボ用>(4万2120円)/ドライブレコーダー<DRD-H66>(4万2660円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:909km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:392.3km
使用燃料:37.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.6km/リッター(満タン法)/10.8km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。