マツダCX-3 20Sプロアクティブ(FF/6AT)
これでいいのか? 2017.10.11 試乗記 マツダのコンパクトSUV「CX-3」に追加された、ガソリンエンジン搭載モデルに試乗。マツダらしい実直さや、スポーティーな走り、そして手ごろな価格設定と、さまざまな魅力を併せ持つこのクルマに欠けているものとは?座ればわかるマツダらしさ
以前マツダCX-3に乗った時、いい意味で普通のクルマだと思った。手ごろなサイズでとり回しがしやすく、ほどよい室内空間と荷室を備える。派手さはなくてもスタイルはトレンドに沿ったもので、実用性にも太鼓判が押せる。今回試乗したモデルは、さらに普通度が高い。これまでディーゼル専用車だったCX-3に新しく加わったガソリンエンジン車で、しかも駆動方式はFF。「ディーゼル+4WD」というSUV的付加価値がすっぽり抜け落ちたことになる。
もちろん、需要があったからこその追加なのだろう。一番大きいメリットは、価格が安いことだ。4WDでなければ走れない場所には行かないというユーザーは確実にいるし、誰もがどうしてもディーゼルモデルに乗りたいと思っているわけではない。30万円超の価格差は、このクラスでは大きなアドバンテージになる。
安くてもマツダらしさが減じることはないのは当然だ。運転席に座ってステアリングホイールに正対するとすぐにわかる。足をまっすぐに伸ばすと、ちょうどいい場所にペダルが据えられているのだ。ドライビングポジションは実に自然である。ドライバーファーストなクルマづくりは、パワーユニットや駆動方式には左右されない。
2リッター4気筒エンジンの最高出力は148ps。1.5リッターディーゼルの105psを大きく上回る数値だ。1240kgの車重に対しては十分なパワーのようだが、街なかでは力不足を感じることもあった。エンジン回転が上がるわりには、加速がついていかない。トルクで上回るディーゼル版のほうが、日常使いでは楽に運転ができたように思う。
クルマまかせのブレーキはNG
とはいえ、ディーゼル版もそれほど特別な印象はなかった。「CX-5」で初採用された2.2リッターが過剰なトルク感で度肝を抜いたのに対し、1.5リッターは実用性重視の仕立てである。2.2リッターは2ステージターボだったが、1.5は可変ジオメトリーターボ1基で低回転域から高回転域までカバーする倹約設計。排気可変バルブリフト機構も省かれている。ガソリンでもディーゼルでも、CX-3は実直なクルマなのだ。
道を走っているところを見ると、なかなか堂々としている。実際のサイズよりも大きく見えるのだ。「デミオ」よりずっとガタイがいいように感じるが、今ではこれがごくスタンダードな大きさだろう。CX-3は、SUV時代の普通を体現している。内装もごくごく普通だ。ダッシュボードやドアパネルの素材は硬い感触で高級感があるとは言えないものの、しっかり赤いステッチが入っていたりしてそれなりにいい仕立てだ。メーターが表示する情報は多くはないが、ヘッドアップディスプレイがあって視認性はいい。
オプションでアダプティブクルーズコントロール(ACC:マツダ名は「マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール」)が付けられていたので、高速道路で試してみた。前車追従はスムーズで、前が空いた時の加速は機敏だ。ただし、料金所で減速した時はクルマまかせにしてはいけない。機能が解除されたというアラートが表示されたら、ドライバーがブレーキを踏む必要がある。
最近はACCが付いているのが当たり前のようになっているが、すべてが全車速に対応しているわけではない。事前にチェックしておかないと危ない目に遭うことになる。CX-3ではACCが働くのは約30~100km/hの範囲なので、最終的には機能が解除される。完全停止はせず、それでも放っておくと衝突被害軽減ブレーキが作動するはめになる。ストップ&ゴーを繰り返すような渋滞では使えないが、ドライバーの疲れを軽減する役割は十分に果たしているから有用な装備ではある。
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山道では性格が激変
ACCを解除して、時にアクセルを踏み込んでみる。劇的な加速が得られるというほどではないが、回転を目いっぱい上げて走るのは気分がいい。東名高速を走っている分には何も問題はなかったのだが、西湘バイパスに入ると試練に見舞われた。
道路整備が間に合っていないのか、西湘バイパスは路面があまり滑らかではない。かなりきつい目地段差が連続するのだ。乗り心地をテストするには格好の道なのだが、CX-3にはどうにも分が悪いステージとなった。足を締め上げたスポーツカー並みのゴツゴツ感である。乗り心地がよくないとは感じていたが、条件の悪い道だと本気で閉口するレベルだ。収まりはいいものの、最初の鋭い突き上げが腰に悪い。
背の高いSUVだから、ロールを押さえ込むためにある程度はサスペンションを硬くする必要もあるのだろう。だからそれが美点となる道もある。山道に入ると、アクセル全開で急な坂道を登るのだ。走行モードは「スポーツ」に設定する。パドルもあるが、使わずとも十分にスポーティーな走りが可能である。減速時には豪快に中吹かしが入り、コーナーを抜けてからの加速はスムーズだ。
タイトコーナーでも遠慮はいらない。極端に減速しなくても大丈夫。実のところロールは感じるのだが、むしろそれがスパイスのようにも思えてしまう。ワインディングロードのスポーツ走行は、以前は背の低いクルマでゴーカートのように駆けぬけていくことが良しとされた。しかし、今はSUVだってスポーティーな走りが売りとなっている。
SUV時代のドライバーズカー
運転する側も、すっかりSUV的な走りに慣れてしまった。少々のロールは、コーナーをハイスピードで抜けているのだという実感にもつながる。スポーツ走行の感覚が、昔とは変わってしまったのではないか。
すっかり楽しくなって山の中を走り回ったわけだが、冷静になるとこれでいいのかと心配になってきた。普通のクルマだと思っていたのに、実はマツダらしさ全開のドライバーズカーだった。ただ、CX-3はファミリーカーとしても使われるクルマのはずである。今時の子供は横Gが好きではない。クルマ選びで主導的な役割を果たすお母さんはどう思うのだろう。
「ホンダ・オデッセイ アブソルート」に乗った時のことを思い出した。ミニバンとは思えないほど運転の楽しいクルマだったが、2列目3列目に座ってみたら地獄を見た。運転好きにはうれしくても、家族はたまったものではない。ホンダらしさを追求することに集中した結果なのだろう。CX-3もマツダらしいといえばそのとおりなのだが、商品力を考えればもう少し違う方向に目を向けてもいいのではないかと思う。
諸元表には、WLTCモード燃費が記載されている。2018年10月より表示が義務化される新しい燃費測定法だが、CX-3は2017年6月の段階で早くも認可を受けていた。誠実な姿勢で、評価されるべきだろう。「市街地モード」「郊外モード」「高速道路モード」という3つの走行モードを総合してWLTCモードを算出する測定法で、JC08モードよりも実燃費に近づくという。
CX-3はJC08モードで17.0km/リッター、WLTCモードで16.0km/リッターで、700kmほど走った実燃費は満タン法で13.3km/リッターだった。WLTCモード燃費を下回ったわけだが、仕方がない。WLTCには「ワインディングモード」がないのだ。山道を走り回っていなければ、16.0km/リッターにかなり近づけたはずである。
(文=鈴木真人/写真=森山良雄/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
マツダCX-3 20Sプロアクティブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1765×1550mm
ホイールベース:2570mm
車重:1240kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:148ps(109kW)/6000rpm
最大トルク:192Nm(19.6kgm)/2800rpm
タイヤ:(前)215/50R18 92V/(後)215/50R18 92V(トーヨー・プロクセスR40)
燃費:17.0km/リッター(JC08モード)/16.0km/リッター(WLTCモード)、12.2km/リッター(市街地モード:WLTC-L)、16.8km/リッター(郊外モード:WLTC-M)、18.0km/リッター(高速道路モード:WLTC-H)
価格:228万4200円/テスト車=243万5400円
オプション装備:スマート・ブレーキ・サポート<SBS>&マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール<MRCC>(5万4000円)/ドライビング・ポジション・サポート・パッケージ<運転席10Wayパワーシート&シートメモリー[アクティブ・ドライビング・ディスプレイ連動]+運転席&助手席シートヒーター+ステアリングヒーター>(6万4800円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(3万2400円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:4278km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:731.2km
使用燃料:54.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.3km/リッター(満タン法)/13.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。