「ホンダN-BOX」の牙城を崩せるのか
新型「日産デイズ」と「三菱eKワゴン」の可能性は?
2019.03.28
デイリーコラム
6年ぶりのフルモデルチェンジ
今は日本で新車として売られるクルマの36~38%を軽自動車が占める。背景には小型/普通車の変化がある。海外向けの車種が増えて、国内のニーズから外れ、価格も高くなった。しかも所得は1990年代をピークに減り続け、今でも20年前の水準に戻っていない。だから軽自動車への乗り換えが進んだ。軽自動車の高い人気は、ユーザーの置かれた切実な状況を反映している。
そこで注目されるのが、この3月に発売された約6年ぶりとなる新型「日産デイズ」と「三菱eKワゴン」、そして新型車の「三菱eKクロス」だ。従来モデルは開発・生産ともに三菱が担当したが、新型では開発が日産、生産が三菱となる。
気になるのは、新型のデイズとeKシリーズが、「ホンダN-BOX」に対抗できるかだ。N-BOXは国内販売の1位になる人気の軽自動車で、ホンダが国内で売る新車の30%以上を占める。ちなみに、軽のラインナップすべてを合計すると、ホンダの国内販売の約50%に達する。
たくさん売れている以上、N-BOXは優れた商品だが、ここまで売れた背景には、ホンダの小型/普通車の努力不足もある。「フィット」は発売直後のリコールなども影響して売れ行きが伸び悩み、「フリード」もそろそろ新鮮味を失ってきた。
また、もともとホンダには、ひとつの車種が売れると、そこに販売力が注がれて他車の売れ行きが下がるという悪い傾向もある。フィットが売れると「ステップワゴン」が下がり、N-BOXが発売されるとフィットが下がるという具合だ。
それでもホンダの国内販売台数は、トヨタに次いで2位になる。3位はスズキ、4位はダイハツと続き、日産は5位だ。新型デイズと今後発売される次期「デイズルークス」は、5位の立場からはい上がるための重要な車種でもある。
そうなると国内販売の総合1位に君臨するN-BOXを抜かねばならないのだが、「N-BOXを抜く」要素は2つある。ひとつは販売台数(正確には軽自動車は届け出台数)であり、もうひとつは商品力だ。
N-BOXには乗り換え予備軍が潤沢
水を差すようだが、実は販売台数では、デイズはN-BOXを抜くことができない。ちなみにデイズとeKシリーズの台数は、これまでデイズ(デイズ+デイズルークス)、eK(eKワゴン+「eKスペース」)として集計され、ホンダでいえばNシリーズのすべてを合計したような数字で算出されてきた。もちろん、ホンダはこうした手法を用いていない。
つまり比較の対象となる販売台数の数字にも問題があるが、いずれにしろデイズ(別設計のデイズルークスを除く)とeKシリーズ(別設計のeKスペースを除く)がN-BOX以上に売れることはあり得ない。N-BOXは2011年に発売された先代も大量に売れたから、乗り換えの需要も多い。ホンダの小型車から乗り換えるユーザーも増えたから、販売面では安泰だ。
新型日産デイズも「キューブ」といった小型車からの乗り換えが予想されるが、日産では2011年以降はサッパリ新型車を発売しなかったから、乗り換えの母数も減っている。三菱も同様だ。
従ってデイズが販売台数を急増させることはない。仮にデイズが受注をため込み、発売直後に一気に届け出することで、一時的に国内販売の1位になることがあっても、数カ月後にはN-BOXにトップを奪い返されるはずだ。
拡大 |
先進運転支援機能ではデイズに軍配
一方、商品力ではいい勝負ができる。N-BOXは全高が1700mmを超えるスーパーハイトワゴンだから、本当の比較相手は2019年の終盤から2020年に発売されるデイズルークスだが、新型になったデイズも負けていない。車内の広さや自転車の積みやすさといった面ではN-BOXに負けるが、実用回転域の駆動力を高めたエンジンによって動力性能に余裕がある。全高が150mmほど低いため低重心で、走行安定性もN-BOXに比べて優れている。乗り心地はN-BOXのほうが快適で、デイズにも不満はないが少し不利だ。
居住性ではインパネ周辺の質感はN-BOXが高いが、デイズはオプションのプレミアムコンビネーションインテリアが立派で、これを装着するとステッチの質感などでN-BOXを追い抜くという印象だ。
シートの座り心地は、前席は同程度だが、後席はN-BOXの圧勝となる。デイズの後席は座面のボリュームが不足して座り心地も良くない。床と座面との間隔も足りないから、足を前方に投げ出すような座り方になる。さらにスライドは左右一体式で分割されず、背もたれを倒した時に座面が下がる機能もないから、荷室の床との間に段差ができる。後席と荷室はN-BOXの勝ちだ。
緊急自動ブレーキをはじめとした安全装備は同等だ。車線逸脱時には、デイズはブレーキ制御で、N-BOXはステアリング制御で、元の車線に引き戻す働きをする。
運転支援機能は、両車ともに先行車の追従機能と、車線の中央を走れるようにステアリングを制御する機能が備わる。異なるのは先行車追従機能の対応速度域で、デイズは0-100kmまで設定可能だから停止状態までカバーするが、N-BOXは30km/h以下ではキャンセルされる。従って運転支援機能ではデイズが進んでいる。価格は同程度の機能を備えたグレード同士で比べると、デイズが13万円ほど安い。
拡大 |
コンパクトカーでもがんばれ!
このようにライバル車同士が競い合って軽自動車の商品力を高めるのは素晴らしいことだが、軽自動車の販売比率が50%前後に達するようになると、軽自動車の税金を高めるという話につながってしまう。すでに年額7800円が1万0800円に値上げされているのだ。
公共の交通機関が未発達な地域では、古い軽自動車が高齢者の日常的な移動手段になっている。緊急自動ブレーキの装着は、発売から数年を経て中古車になった時に、本当の価値を発揮するともいえるだろう。
その一方で、軽自動車の税金がさらに値上げされると、高齢者のライフラインを奪ってしまうことになる。だから優れた軽自動車を開発したなら、小型/普通車の開発と販売にも力を入れて、軽自動車の比率を35%程度(理想的には30%以下)に抑えてほしい。軽自動車を守るために、小型/普通車に力を入れるのだ。
特に日産は、今回のデイズによって、日本向けの優れたクルマを開発できることを実証してしまった。もはや言い逃れはできない。まずは「マーチ」やキューブを、デイズ以上の優れたコンパクトカーにフルモデルチェンジしていただきましょう。
(文=渡辺陽一郎/写真=webCG、三菱自動車/編集=藤沢 勝)
拡大 |

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
-
あの『ナイトライダー』が現実に!? 開発が進む「パートナーのようなクルマ」の今を知る 2026.7.3 最新の「メルセデス・ベンツSクラス」には、クルマがパートナーのように寄り添うAI技術が盛り込まれているというのだが……その到達点は? 他メーカーの例も交え、先進技術が可能にするクルマの今と近未来を考える。
-
環境も走りも妥協しない ミシュランが目指す持続可能な次世代のビジョンを知る 2026.7.2 2030年までにタイヤのエネルギー効率を2020年比で10%改善し、2050年には100%持続可能なタイヤを実現することを目指すミシュラン。そのサステナビリティー戦略の基本的な考え方と、実現に向けたアプローチを探った。
-
ホンダのビーチクリーン活動が20年の節目に 本田宗一郎が涙したというそのルーツとは? 2026.7.1 ホンダが陰に日向にと活動を支えてきたビーチクリーン活動が2026年で20周年を迎えた。これ自体も素晴らしいが、実はホンダとともに活動を運営する団体の設立には、かの本田宗一郎氏の涙が関連しているというから興味深い。今から60年前の人間味あふれるストーリーを紹介する。
-
気づけば増えた軽のBEV 多くのメーカーがそこに商機をみるわけは? 2026.6.29 勢いに乗るBYDや新興EMTが、日本国内への軽EV投入を相次いで宣言。ガラパゴス化しているといわれた軽自動車の世界で、国内・海外問わず電動モデル投入の熱が高まっているのはなぜか? その背景を探ってみよう。
-
アルファ・ロメオやDS、マセラティの未来やいかに? ステランティスが発表した新戦略を読み解く 2026.6.26 再起を図るステランティスが、新CEOのもとで新しい次世代戦略を発表。地域主導とブランド構成の再構築を軸とした改革によって、私たちが親しんだアルファ・ロメオやDS、マセラティなどはどうなるのか? 欧州通のジャーナリストが考察する。
-
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ホンダN-ONE e:L編
2026.7.3webCG Moviesホンダの軽「N-BOX」を高く評価する、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さん。では、軽EVの「ホンダN-ONE e:」は……? 試乗した印象を聞きました。 -
NEW
スズキ・ジムニーシエラJC(4WD/4AT)【試乗記】
2026.7.3試乗記俺の「ノマド」まだかな? とソワソワしている人が多いかもしれないが、実は既存の「ジムニー/ジムニー シエラ」もひっそりと進化を果たしている。とりわけ大きいのはアダプティブクルーズコントロール(ACC)の搭載だ。シエラの4段AT車でその仕上がりを試した。 -
NEW
あの『ナイトライダー』が現実に!? 開発が進む「パートナーのようなクルマ」の今を知る
2026.7.3デイリーコラム最新の「メルセデス・ベンツSクラス」には、クルマがパートナーのように寄り添うAI技術が盛り込まれているというのだが……その到達点は? 他メーカーの例も交え、先進技術が可能にするクルマの今と近未来を考える。 -
NEW
ハーレーダビッドソン・ナイトスター(6MT)
2026.7.3JAIA輸入二輪車試乗会2026ハーレーダビッドソンの水冷Vツインモデル「ナイトスター」に試乗。「X」シリーズのディスコンに空冷「スポーツスター」の復活と、さまざまな情報が飛び交っているハーレーの入門モデル群だが、ナイトスターの未来やいかに? 走りながら考えた。 -
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムブラックS:HEV EX プロトタイプ(4WD/CVT)【試乗記】
2026.7.2試乗記スバルのクロスオーバーモデル「レヴォーグ レイバック」に、ハイブリッドユニットを搭載し、車高を20mm落とした「S:HEV」が登場。電動パワートレインと切り詰められた足まわりは、このクルマにどんな走りをもたらすのか? ワインディングロードで確かめた。 -
レクサスRZ550e“Fスポーツ”(前編)
2026.7.2あの多田哲哉の自動車放談「ステアバイワイヤ」をはじめ、最新のテクノロジーが注がれた電気自動車「レクサスRZ550e“Fスポーツ”」。そのクルマづくりについて、トヨタでさまざまな車両の開発を取りまとめてきた多田哲哉さんが語る。


































