「スープラ」と「Z4」はどっちがおトク?
兄弟スポーツカーのコスパについて考える
2019.05.31
デイリーコラム
もやもや気になる2台の価格差
ついに国内でも正式発表された新型「スープラ」は、いうまでもなくBMWの「Z4」と兄弟車である。内外装デザインはそれぞれ専用で、バネレートやダンパー、制御プログラムなどの“味つけ”の領域はそれぞれ独自であるいっほうで、プラットフォームや車体の基本骨格、パワートレインなどの主要ハードウエアは両車共通。そしてオーストリアにあるマグナ・シュタイヤーの工場で混流生産される。
そんな2台の表層デザイン以外での最大のちがいは「クローズドクーペかオープンロードスターか」という車体形式であり、タイヤやエンジンなどの性能部分では意図的な差別化はされていないし、内外装の調度品も意匠やメニューに多少の差はありつつも、質感などでスープラがとくに安普請な印象もない。
……となると、だれもが気になるのは、やっぱり価格だ。この点は日本における両社の新車価格相場からも「少なくとも日本ではスープラのほうが安いらしい」と事前にささやかれていたが、実際にもそのとおりとなった。
新型スープラの日本仕様には3つのグレードがあり、2リッター4気筒搭載グレードが2種類、3リッター6気筒が1種類である。というわけで、スープラ各グレードとZ4の価格を、できるだけ主観を排除した机上の計算“だけ”で比較してみたいと思う。
形の違いをどう見るか
まず、それぞれの最上級グレードである。スープラのそれは「RZ」で690万円、Z4が「M40i」で835万円。ともに6気筒エンジンを積んで、そのエンジン性能もぴたりと同じ。さらにADAS(先進安全運転支援システム)やその他の安全および走り関連の主要ハイテクも、ともにほぼフルで標準装備しつつも、本体価格の額面ではBMWが145万円高となる。
ただ、さらに細かく見ると、Z4では5万4000円のオプションとなる12スピーカーサラウンドシステム(BMWではharman/kardon、トヨタではJBLとブランド名を使い分ける)がスープラRZでは標準装備だから、これを足すと価格差は約150万円となる。
ただ、Z4にしかない電動ソフトトップは価格の上積み要因である。ちなみに同じBMWのケースだと「4シリーズ」における「カブリオレ」は「クーペ」比で97万円高となっているが、Z4のソフトトップはもっと簡便で小さい。そこで同じミドルクラスの2座スポーツカーを例にとると「アウディTT」では「ロードスター」が「クーペ」の16万円高、「ポルシェ718ケイマン/ボクスター」の場合はケイマンとボクスターで39万円の価格差がある。
スープラとZ4では内外装デザインが別物なので、本来はもっと価格に開きがあっても不思議ではない。ただ、スープラの特徴的なリアフェンダー形状は「BMWでは経験がないほどの深絞り(担当者談)」だそうで、マグナ・シュタイヤーの工場でも対応できず、スープラのリアフェンダーのみ別のサプライヤーから部品で供給されるのだという。このようにスープラの車体のほうが凝った部分もあり、それらを相殺して、今回のスープラとZ4における“基礎価格差”を今回は40万円としたい。
差額も計算次第だが……
というわけで、スープラRZとZ4 M40iで許される価格差は計算上は40万円なのに、実際のそれは150万円。あえて意地悪に机上で計算すると「Z4の最上級モデルであるM40iは、スープラのRZより約110万円割高な設定」ということになるわけだ。
逆にスープラでもっとも安価な正札を提げる「SZ」はご想像のとおり、仕様や装備内容でいうと、Z4のエントリーグレード「sDrive20i」に近い。エンジンはともに197ps/320Nmの2リッター4気筒で、本体価格はスープラSZが490万円、Z4 sDrive20iが566万円。額面ではZ4が76万円高いが、前記の基礎価格差を差し引いた実質的な価格差は36万円となる。
しかし、ADAS系装備が全車フル標準となるスープラに対して、Z4のsDrive20iではアダプティブクルーズコントロールが単純なクルーズコントロールに格下げになるほか、アダプティブLEDヘッドライトやリアカメラも省かれる。いっぽうで、Z4ではシートヒーターや10スピーカーオーディオ(スープラは4スピーカー)などのSZにない装備が加わるから、スープラSZの装備充実度は差し引きで約20万円分といったところか。これに先ほどの基礎価格差も加えると「エントリーモデルでは56万円ほどスープラが割安?」という計算になる。
最後にスープラで真ん中となる「SZ-R」は“ほぼ最上級のシャシーと軽量エンジンの組み合わせ”で、トヨタの担当テストドライバーもイチオシするグレードだそうである。
チューニングの差も見逃せない
そんなスープラSZ-Rの本体価格は590万円。装備内容だけを見ると、Z4でこれにもっとも近いのは4気筒で最上級の「sDrive20i Mスポーツ(以下、Mスポーツ)」である。そのMスポーツの本体価格は665万円だから、額面上はスープラの75万円高、基礎価格差を差し引いた実質的な価格差は35万円高となる。
Z4との装備や仕様内容の差は前記の2グレードより明確に大きい。SZ-RとMスポーツではまずエンジン性能からちがう。Z4の4気筒は現時点ですべて197ps/320Nmの同一チューンだが、スープラSZ-Rの2リッター4気筒はそれに61ps/80Nmの上乗せとなる。これはBMWでいうと「sDrive30i」と呼ぶべきチューンであり、似たような例でいうと、BMWの「420i」と「430i」では120万円以上の価格差がつけられている。
これだけの性能差があれば、BMWでなくとも100万円は上乗せするのが業界の通例だ。まあ、どちらもエンジン本体は同じだからそこまでの価格アップは心情的にもやりすぎの感があるが、その半分の50万円増しなら良心的な値付けといってもらえるだろう。
スープラのSZ-Rではこれ以外にも、アダプティブLEDヘッドライト(ハイビームアシストを含む)、ヘッドアップディスプレイ、12スピーカーサラウンドシステム、そして電子制御可変ダンパーに電子制御デフ……といったMスポーツではオプションの装備が標準。これだけでも50万円はくだらないだろう。というわけで、中間モデルのスープラSZ-Rは、35万円という実質的な価格差に装備とエンジン性能分の計100万円を足して「Z4のMスポーツより135万円割安」と認定したい。
日本はやっぱりスープラがお得?
こうして、あくまでクルマのハードウエアや仕様内容を客観的に計算すると、日本での新型スープラは兄弟車のZ4と比較すると「装備や仕様を考えると56~135万円は割安」という結論となる。
もっとも、クルマの価格は“原価+利益”といった単純な計算式で決まるものではない。たとえば市場や地域ごとの事情(販売台数やそもそものクルマの平均価格など)、あるいはヒエラルキー(共通設計の1.5リッターと1.3リッターエンジンがあったとして、生産台数などまで考えると1.3リッターのほうが原価が安いとはかぎらないが、クルマ本体は1.5リッターのほうを安くはできない)、そしてブランド料に輸入関税やその他のクルマ関連税……と、そのパラメーターはじつに複雑怪奇だ。
だから、新型スープラとZ4の価格関係も地域や市場によって異なる。たとえば、北米ではZ4のM40iのスタートプライスが6万3700ドルなのに対して、同じエンジンを積むスープラ(の充実装備のローンチエディション)のそれが5万5250ドル。細かい装備は日本とは異なるが、その差は邦貨換算で100万円弱である。対して欧州の、たとえば英国仕様の場合は、そもそもスープラの6気筒モデルは日本円で700万円を大きく超える設定であり、本体価格はM40iより高かったりするのだ。
こうしてみると、世界的には必ずしもスープラがZ4より明確に安いとはかぎらず、トヨタのおひざ元である日本は、やはり「新型スープラがZ4比でもっとも割安に買える国のひとつ」とはいえそうだ。
何度もいうが、これはあくまで机上の空論にして、新型スープラの実車に触れられるまでのヒマつぶし(?)。それにしても、クルマ選びはこうして、ああだこうだ……とカタログを眺めている時間がいちばん楽しい。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸、webCG/編集=関 顕也)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
米国に130億ドルの巨額投資! 苦境に立つステランティスはこれで再起するのか?NEW 2025.10.31 ジープやクライスラーなどのブランドを擁するステランティスが、米国に130億ドルの投資をすると発表。彼らはなぜ、世界有数の巨大市場でこれほどのテコ入れを迫られることになったのか? 北米市場の現状から、巨大自動車グループの再起の可能性を探る。
-
なぜ“原付チャリ”の排気量リミットは50ccから125ccになったのか? 2025.10.30 “原チャリ”として知られてきた小排気量バイクの区分けが、2025年11月生産の車両から変わる。なぜ制度は変わったのか? 新基準がわれわれユーザーにもたらすメリットは? ホンダの新型バイク発売を機に考える。
-
クロスドメイン統合制御で車両挙動が激変 Astemoの最新技術を実車で試す 2025.10.29 日本の3大サプライヤーのひとつであるAstemoの最先端技術を体験。駆動から制動、操舵までを一手に引き受けるAstemoの強みは、これらをソフトウエアで統合制御できることだ。実車に装着してテストコースを走った印象をお届けする。
-
デビューから12年でさらなる改良モデルが登場! 3代目「レクサスIS」の“熟れ具合”を検証する 2025.10.27 国産スポーツセダンでは異例の“12年モノ”となる「レクサスIS」。長寿の秘密はどこにある? 素性の良さなのか、メーカー都合なのか、それとも世界的な潮流なのか。その商品力と将来性について識者が論じる。
-
自動車大国のドイツがNO! ゆらぐEUのエンジン車規制とBEV普及の行方 2025.10.24 「2035年にエンジン車の新車販売を実質的に禁止する」というEUに、ドイツが明確に反旗を翻した。欧州随一の自動車大国が「エンジン車禁止の撤廃に向けてあらゆる手段をとる」と表明した格好だが、BEVの普及にはどんな影響があるのか?
-
NEW
これがおすすめ! 新型日産エルグランド:日産党は決起せよ!【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.30これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025から、webCG編集部の藤沢 勝は新型「日産エルグランド」をおすすめの一台にチョイス。日産党を自負する皆さんにも、ようやく枕を高くして眠れる日々がやってきた!? -
NEW
これがおすすめ! ヤマハY-00B:Bricolage:ヤマハ発動機の原点をオマージュ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.30これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025から、自動車ライターの沼田 亨はヤマハのコンセプトサイクル「Y-00B:Bricolage」をおすすめの一台にピックアップ。スタイリングもメカニズムも文句なしだが、あとは“ヤマハのコンセプトモデル”の壁を破れるかどうかがカギだとか。 -
NEW
【ジャパンモビリティショー2025】コンパニオン(その2)
2025.10.30画像・写真2025年10月29日のプレスデーで幕を開けたジャパンモビリティショー2025。トヨタ自動車、三菱自動車、スバル、スズキの展示エリアで笑顔を振りまくコンパニオンの皆さんを、写真で紹介する。 -
NEW
これがおすすめ! トヨタ・カローラ コンセプト:次期型「カローラ」はスポーツカーになる!?【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.30これがおすすめ!今回のジャパンモビリティショーで清水草一さんが注目したのは、トヨタの「カローラ コンセプト」だった。「次期型カローラはこんなスポーティーになるの?」とは思うものの、それを本当にやってしまいそうなのが、今のトヨタのスゴいところなのだ……。 -
NEW
ジャパンモビリティショー2025(日産自動車)
2025.10.30画像・写真2025年の日産ブースはコンセプトカーなし! 新型「エルグランド」をはじめ、国内未導入モデルも含めて市販車ばかりを展示し、現実的に選ぶ楽しみを味わえるブース内容となっているのが特徴だ。その様子を写真で紹介する。 -
NEW
ジャパンモビリティショー2025(BMW/MINI)
2025.10.30画像・写真BMW/MINIのJMS2025は話題が満載。BMWでは世界初披露されたばかりの新型「iX3」に加えて、「M2 CS」が登場。さらに「ポール・スミスエディション」が設定されたMINIは、なんとデザイナーのポール・スミス氏がサプライズゲストに。ブースの様子を写真で紹介する。













































