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いよいよ日本で「レベル3」の自動運転が解禁 世界初の採用車がホンダになるって本当?

2020.05.25 デイリーコラム 鶴原 吉郎

「レベル3」とこれまでのシステムとの違いとは?

国内で新型コロナウイルス感染症の拡大に緊張が高まっていた2020年4月1日、自動車分野で最も重要な2つの法律が改正された。公道での交通ルールを定めた「道路交通法」と、公道を走行する車両が満たさなくてはならない条件を定めた「道路運送車両法」である。今回の改正で最も注目されるのが、公道上で「レベル3」の自動運転が解禁になったことだ。

レベル3の自動運転と、現在実用化されている「レベル2」のシステムとの最大の違いは何か? それは、ドライバーがシステムの動作状況や周辺環境の監視を常時行う必要がないことである。レベル2の自動運転技術(というか運転支援システム)では、ステアリングやアクセル、ブレーキの操作がすべて自動化されていても、ドライバーが常にシステムの動作状況や周辺の交通環境を監視することが要求されている(参照)。ドライバーがシステムを監視する義務を忘れないように、ステアリングに手を添えることを義務付けているシステムも多い。

これに対し、今回解禁されたレベル3では、“ある条件下”ではドライバーがシステムや周辺状況を監視する義務から開放される。車両が走行中にスマートフォンを操作したり、カーナビゲーションシステムの画面を見続けたりすることが可能になるのだ。これまでの道路交通法は「運転行為をするのは人間」であることを前提にしていたが、改正された道路交通法では新たに「自動運行装置」という概念を導入し、「自動運行装置を使って車両を利用する行為」も運転行為に含めるという画期的な変更が実施された。

2017年の「Honda Meeting」より、「レベル3」の自動運転を披露するホンダのテスト車両。
2017年の「Honda Meeting」より、「レベル3」の自動運転を披露するホンダのテスト車両。拡大
2019年にマイナーチェンジされた「日産スカイラン」。同車に採用された運転支援技術「プロパイロット2.0」では、システム作動中はアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作がすべて“機械任せ”となるが、それでもドライバーには、システムの動作状況や周辺の交通環境の監視が求められた。
2019年にマイナーチェンジされた「日産スカイラン」。同車に採用された運転支援技術「プロパイロット2.0」では、システム作動中はアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作がすべて“機械任せ”となるが、それでもドライバーには、システムの動作状況や周辺の交通環境の監視が求められた。拡大

運転の責任はドライバーにあり

それでは、レベル3の自動運転が可能な“ある条件”とは何か? これがけっこう細かく、かつ多くの項目にわたるのだが、ドライバーが意識しなければならないのは次の2点に集約できる。

(1)高速道路の同一車線で、60km/h以下で走行していること。
(2)走行中に不具合が生じたり、レベル3運転が可能な走行条件を逸脱した場合には、いつでも運転を代われる状態にあること。

走行中のスマートフォンの使用は認めていながら、一方でいつでも運転を代われることをドライバーに要求するのは矛盾しているようにみえるかもしれない。

そもそも、これまでの議論では「レベル3の自動運転走行中に起きた事故は、メーカーの責任になる」とされていた。しかし今回の道路交通法の改正では、レベル3の走行中であっても、依然として「基本的な安全運転の義務はドライバーにある」と定められたのだ。もちろん、自動運転システムに設計上の欠陥があり、それが原因で事故が起きた場合にはメーカーの責任になるが、それは例えばブレーキやステアリングの設計に欠陥があった場合でも同じことだ。

自動運転中の事故がメーカー責任となることは、レベル3の実用化におけるひとつのハードルになるとみられてきた。今回の改正内容は、メーカーにとってのハードルが低くなったことを意味している。

今回の法改正では、「レベル3」の自動運転装置は「高速道路の同一車線で、60km/h以下で走行していること」が作動条件となる。また、作動状態記録装置による記録も義務付けられる。
今回の法改正では、「レベル3」の自動運転装置は「高速道路の同一車線で、60km/h以下で走行していること」が作動条件となる。また、作動状態記録装置による記録も義務付けられる。拡大

「アウディA8」はどうなった?

さて、技術に詳しい読者の中には「あれ? レベル3って、もう『アウディA8』で実用化されたんじゃなかったっけ?」と思われた方がいるかもしれない。確かに、現行のアウディA8が2017年7月に初めて公開されたときには、「市販車としては世界初となるレベル3の自動運転を実現した」とうたわれていた。しかし今に至るまで、アウディA8のレベル3の自動運転機能は実用化されていない。ドイツでも日本の道路交通法にあたる法律ではレベル3の車両の公道走行を認めているが、もう一つの道路運送車両法にあたる法律の改正が追いついておらず、レベル3の車両が備えるべき条件が法制化されていないのだ。いわばA8は“見切り発車”で発売されたわけで、最近ではアウディがレベル3の自動運転の実用化を断念したとの報道もある。

このため、レベル3の自動運転を世界で最初に実用化するのは、ホンダ(参照)になりそうだ。これまでも同社は2020年に発売するとアナウンスしてきたが、2020年3月期決算でも、八郷隆弘社長が年内発売の方針に変わりはないことを表明している。車種は明らかにされていないが、高級セダンの「レジェンド」になる可能性が高い。

また、2021年にはBMWが次世代EV(電気自動車)の「iNEXT」にレベル3の自動運転機能を搭載する予定であるほか、2020年代初頭には、トヨタ自動車やダイムラーも実用化するとみられる。

ただ、レベル3の自動運転機能は、信頼性を確保するためにシステムを二重化することなどが必要で、車両の価格が非搭載車より100万円程度上昇しそうだ。このため、当面その採用は一部の高級車にとどまるだろう。レベル3は商品力がないとみてレベル2の高度化に専念する完成車メーカーも多く、現状ではレベル3が幅広く普及するかどうかは未知数だ。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=アウディ、本田技研工業、BMW/編集=堀田剛資)

2017年に登場した3代目「アウディA8」。「レベル3」の自動運転技術「アウディAIトラフィックジャムパイロット」が目玉のひとつだったが、各マーケットにおける法整備が追いつかず、今日でも同機能は“お蔵入り”状態となっている。
2017年に登場した3代目「アウディA8」。「レベル3」の自動運転技術「アウディAIトラフィックジャムパイロット」が目玉のひとつだったが、各マーケットにおける法整備が追いつかず、今日でも同機能は“お蔵入り”状態となっている。拡大
ホンダの高級セダン「レジェンド」。海外では「アキュラRLX」として販売されるこのモデルが、「レベル3」自動運転車の第1号となる可能性が高い。
ホンダの高級セダン「レジェンド」。海外では「アキュラRLX」として販売されるこのモデルが、「レベル3」自動運転車の第1号となる可能性が高い。拡大
BMWが鋭意開発中のEV「iNEXT」。2021年登場予定のこのクルマにも、「レベル3」の自動運転システムが搭載されるという。
BMWが鋭意開発中のEV「iNEXT」。2021年登場予定のこのクルマにも、「レベル3」の自動運転システムが搭載されるという。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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