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あまりの個性にあんぐり クルマの“顔”はこれでいいのか?

2022.03.07 デイリーコラム 森口 将之

変顔時代、再び

最近また、強烈な顔のクルマが増えてきたと感じる。国産ミニバンから欧州プレミアムブランドのクーペまでが、特大のグリルなどで存在感を競っているのだ。

「また」という言葉を使ったとおり、こうした傾向は今回が初めてではない。第2次世界大戦後の1950~1960年代も、個性的な顔のクルマは多かった。なかでも目立っていたのがアメリカ車とフランス車だった。

1950年代のアメリカ車の顔は、クロームメッキをふんだんに使ったものが多く、同じ時期に流行したテールフィンともども、国力の豊かさを象徴していた。終戦直後の日本ではこの装飾に憧れた人が多く、それが国産高級車などにも波及していったのだが、ヨーロッパでは拒絶反応を示す人も少なくはなく、当時のビュイックが、歯をむき出したようなグリルのデザインから「ドルの笑い」と皮肉を込めた表現で呼ばれたこともあった。

とはいえ、そのヨーロッパのなかでも「人と違うこと」を美徳とする傾向のあるフランスでは、1960年代になると自由奔放な顔が出現。「シトロエン・アミ6」や「マトラM530」など、日本人にとっては“変顔”としか思えない表情がいくつか見られるようになった。2つの国のクルマの顔を比べると、力と技という違いがあると感じる。もちろん力がアメリカで、技はフランスだ。

その後は多くのブランドがグローバル化を目指したために、顔の個性は薄められる方向になっていく。環境性能を高めるべく空力特性が重視されたこともあり、むしろ小顔化が進んだ。それがここにきて方向転換されるようになってきたのには、いくつか理由が考えられる。

パッケージングの画一化や、エアロダイナミクス技術の進歩などもあるだろう。しかし、それらとともに意識されるのは、インターネットの普及により人々の収集する情報が増え、自動車をオンラインで契約する人まで出てきたという世情である。

僕自身は賛同しないのだが、インターネットの記事においては刺激的な見出しをつければページビューが増えるという傾向があり、それを狙って挑発的なタイトルを掲げるメディアも多い。残念ながら、それと似たような考えが、カーデザインの世界にも広がってきていると感じている。

2022年1月13日に発売された、新型「トヨタ・ヴォクシー」。フロントフェイスの大部分を占める巨大なグリルに、つい目がいってしまう。
2022年1月13日に発売された、新型「トヨタ・ヴォクシー」。フロントフェイスの大部分を占める巨大なグリルに、つい目がいってしまう。拡大
強烈なインパクトを与える顔は、1950年ごろのアメリカ車にも多く見られた。写真は1949年製の「ビュイック・ロードマスター セダン」。格子状に並んだグリルのせいで、笑っているようにも見える。
強烈なインパクトを与える顔は、1950年ごろのアメリカ車にも多く見られた。写真は1949年製の「ビュイック・ロードマスター セダン」。格子状に並んだグリルのせいで、笑っているようにも見える。拡大
こちらはシトロエンの「アミ6」。フロントフェイスだけでなく、エクステリアの至るところが個性的だった。
こちらはシトロエンの「アミ6」。フロントフェイスだけでなく、エクステリアの至るところが個性的だった。拡大
「トヨタ・アルファード」もまた、「押しの強い顔」ですぐ連想されるクルマのひとつだろう。そのデザインは、威風堂々たるミニバンを求める多くのユーザーに支持されている。
「トヨタ・アルファード」もまた、「押しの強い顔」ですぐ連想されるクルマのひとつだろう。そのデザインは、威風堂々たるミニバンを求める多くのユーザーに支持されている。拡大
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デザインは公共性も考えて

ただ、シトロエンのような変顔は、挑発的ではないのに心に刺さる記事の見出しと同じように、よほどの信念とセンスがないと実現は難しい。近年シトロエンの顔は再びアクが強くなってきているけれど、僕を含めて「それは大切なブランドイメージなのだ」と理解している人は多いのではないだろうか。

多くのブランドは、単純に顔を大きく派手にすることしか、商品をアピールする手段を持ち合わせていないのだと思う。だからこそトヨタの新型「ノア/ヴォクシー」から「BMW iX」に至るまで、多くのクルマがグリルの大型化になびくのではないだろうか。

SUVやミニバンなど、背の高いクルマが多くなったことも理由のひとつに挙げられる。背が高くなれば当然ながら、フロントマスクも厚みを増す。これをどう料理するかと考えたとき、単純にグリルを大きくするという選択肢は当然出てくるだろう。

マーケットの中心がアメリカから中国へとシフトしていることも大きい。ホイールベースとキャビンの長い専用セダンが多くつくられていることでもわかるように、中国のユーザーは大きく見えるものを好む傾向がある。

僕にはこれまで、グッドデザイン賞の審査委員を7回務め、国内外の膨大なモノやコトのなかから“良いデザイン”の選定に力を注いできたという経験がある。そこで学んだのは、デザインは好き嫌いだけで判断すべきものではないということだ。

モビリティーについて言えば、近年は社会との調和がこれまで以上に重視されている。環境性能や安全性能はもちろん、デザインも例外ではない。たしかに乗用車は個人の趣味嗜好(しこう)を反映する商品であるけれど、それは都市や自然の中を走るわけで、景観的な要素も考えるべきというのが僕の持論だ。

どの顔がどれだけ売れるか。それによって、日本の景色が変わってくるといっていい。だからこそ、一人ひとりがカーデザインとは何かをもう一度考え、十分に吟味したうえでデザインを選択していくことが重要だと思っている。

(文=森口将之/写真=トヨタ自動車、ゼネラルモーターズ、シトロエン、BMW、三菱自動車、webCG/編集=関 顕也)

最新世代のシトロエン車には、クルマの顔の既成概念にとらわれないフロントデザインが採用されている。写真は「E-C4」のもの。「ダブルシェブロン」と呼ばれるブランドのマークも重要なデザイン要素となっている。
最新世代のシトロエン車には、クルマの顔の既成概念にとらわれないフロントデザインが採用されている。写真は「E-C4」のもの。「ダブルシェブロン」と呼ばれるブランドのマークも重要なデザイン要素となっている。拡大
こちらは新型「トヨタ・ノア」のフロントフェイス。ある開発関係者は「ミニバンはボディー形状がシンプルな箱型であるため、顔まわりの個性の強さでアピールしないとユーザーになかなか振り向いてもらえない」と語る。
こちらは新型「トヨタ・ノア」のフロントフェイス。ある開発関係者は「ミニバンはボディー形状がシンプルな箱型であるため、顔まわりの個性の強さでアピールしないとユーザーになかなか振り向いてもらえない」と語る。拡大
最新世代の「BMW 4シリーズ」に採用された大型の縦型キドニーグリルは、自動車ファンに大きな衝撃を与えた。続く「M3セダン」やピュアEV「iX」にも同様のグリル形状が使われている。
最新世代の「BMW 4シリーズ」に採用された大型の縦型キドニーグリルは、自動車ファンに大きな衝撃を与えた。続く「M3セダン」やピュアEV「iX」にも同様のグリル形状が使われている。拡大
近年の三菱車は「ダイナミックシールド」と名づけられたフロントフェイスのデザイン手法を採用。躍動感と存在感が表現されている。
近年の三菱車は「ダイナミックシールド」と名づけられたフロントフェイスのデザイン手法を採用。躍動感と存在感が表現されている。拡大
2021年10月に中東で披露されるや、その強烈な顔で話題になった新型「レクサスLX」。水平バーを重ねた形状のグリルは、塊感を表現するだけでなく、機関を冷却し空気の流れを整える効果もあるという。
2021年10月に中東で披露されるや、その強烈な顔で話題になった新型「レクサスLX」。水平バーを重ねた形状のグリルは、塊感を表現するだけでなく、機関を冷却し空気の流れを整える効果もあるという。拡大
森口 将之

森口 将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車は「シトロエンGS」と「ルノー・アヴァンタイム」。

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