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第685回:セルフカバー的なリバイバルモデル5選

2022.05.09 エディターから一言 武田 公実
音楽の世界で言うセルフカバーは、クルマで言うなら名曲ならぬ名車をその歴史に刻むブランドにのみ許されるもの。今回は、それぞれの伝説を現代のデザインに落とし込むというコンセプトで成功した5モデルを紹介。
音楽の世界で言うセルフカバーは、クルマで言うなら名曲ならぬ名車をその歴史に刻むブランドにのみ許されるもの。今回は、それぞれの伝説を現代のデザインに落とし込むというコンセプトで成功した5モデルを紹介。拡大

いつのころからか自動車業界、なかでも長い歴史を誇るブランドでは、往年の名作をリバイバルさせるのがひとつのビジネススタイルとして定着した。今回は、そんなセルフカバー的コンセプトを成功させた代表的な5モデルをセレクトし、その元ネタとあわせてご紹介することにしよう。

 
アルファ・ロメオ・グランスポルト クアトロルオーテ ザガート
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「アルファ・ロメオ・グランスポルト クアトロルオーテ ザガート」のオリジナルモデルが「6C1750グランスポルト」。排気量1752ccの直6 DOHCエンジンにスーパーチャージャーを組み込み、最高出力102PSを発生したという。
「アルファ・ロメオ・グランスポルト クアトロルオーテ ザガート」のオリジナルモデルが「6C1750グランスポルト」。排気量1752ccの直6 DOHCエンジンにスーパーチャージャーを組み込み、最高出力102PSを発生したという。拡大
写真の「アルファ・ロメオ・グランスポルト クアトロルオーテ ザガート」は、1968年モデル。RMオークションが主催した2020年の米パームビーチオークションに出品され、当時9万9000ドル(邦貨換算で約1250万円)で落札された。
写真の「アルファ・ロメオ・グランスポルト クアトロルオーテ ザガート」は、1968年モデル。RMオークションが主催した2020年の米パームビーチオークションに出品され、当時9万9000ドル(邦貨換算で約1250万円)で落札された。拡大
「グランスポルト クアトロルオーテ ザガート」は、直6エンジンを搭載するオリジナルの「アルファ・ロメオ6C1750」シリーズとは異なり、最高出力92PSの1.6リッター直4を搭載。エンジンやトランスミッションなどの主要コンポーネントは「ジュリアTI」のものが流用された。
「グランスポルト クアトロルオーテ ザガート」は、直6エンジンを搭載するオリジナルの「アルファ・ロメオ6C1750」シリーズとは異なり、最高出力92PSの1.6リッター直4を搭載。エンジンやトランスミッションなどの主要コンポーネントは「ジュリアTI」のものが流用された。拡大

アルファ・ロメオ・グランスポルト クアトロルオーテ ザガート(1966年/イタリア)

「往年の名車をセルフカバー」というビジネススタイルを開拓したのは、いつごろのどんなモデル? という疑問を抱いた筆者は、脳内記憶や手持ちの文献などで調べた結果、1966年にイタリアの自動車専門誌『クアトロルオーテ』と名門カロッツェリア・ザガート、そして当時は国営企業だったアルファ・ロメオの3社コラボにて製作されたクラシカルなレプリカ風スポーツカー「アルファ・ロメオ・グランスポルト クアトロルオーテ ザガート」という結論をひねり出した。

元ネタとなったのは、1930年前後のヴィンテージ期にアルファ・ロメオとザガートによって製作された伝説の名作「アルファ・ロメオ6C1750グランスポルト」である。

このプロジェクトは、歴史・格式ともにイタリアが世界に誇る『クアトロルオーテ』が誌面にて提案。アルファ・ロメオとザガートがそれに応えるかたちで発足した、と公式には伝えられている。しかし実際には、『クアトロルオーテ』誌の創業者ジャンニ・マゾッキ氏が、同じミラノ在住の友人、エリオ・ザガート氏と夕食をともにした際の雑談からスタート……というのが定説のようだ。

同車はアルファ・ロメオから供給された「ジュリアTI」のエンジンなど、主要コンポーネンツを使用。ザガート社内に保管されていた6C1750グランスポルトの図面からデザインを起こしたボディーを、セルフカバーとして架装することになった。

もともとは50台のみの製作を予定していたとされるものの、結局1965年から1967年までの2年間に、想定の2倍近い92台が製作されたのだから、当時の限定車としてはなかなかのヒット作だったともいえよう。

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「フォルクスワーゲン・ザ・ビートル カブリオレ」(手前)と歴代「ビートル」。
「フォルクスワーゲン・ザ・ビートル カブリオレ」(手前)と歴代「ビートル」。拡大
1955年の「フォルクスワーゲン・タイプ1」。2003年の生産終了まで、全世界で約2153万台が生産されたという。
1955年の「フォルクスワーゲン・タイプ1」。2003年の生産終了まで、全世界で約2153万台が生産されたという。拡大
1994年の米デトロイトモーターショーで発表された「コンセプト1」を経て、1998年にデビューしたフォルクスワーゲンの「ニュービートル」。
1994年の米デトロイトモーターショーで発表された「コンセプト1」を経て、1998年にデビューしたフォルクスワーゲンの「ニュービートル」。拡大
「フォルクスワーゲン・タイプ1」(写真左)と「ニュービートル」の新旧ランデブー走行。
「フォルクスワーゲン・タイプ1」(写真左)と「ニュービートル」の新旧ランデブー走行。拡大

フォルクスワーゲン・ニュービートル(1998年/ドイツ)

現代に至る、セルフカバームーブメントの実質的なパイオニアとなったのは、1994年1月に米デトロイトモーターショーにてコンセプトカー「コンセプト1」としてショーデビューののち、1998年に正式リリースされたフォルクスワーゲンの「ニュービートル」とみていいだろう。その元ネタとなったのは、言わずと知れた「フォルクスワーゲン・タイプ1」、通称「ビートル」である。

1938年に「KdF」としてデビューしたビートルは、第2次大戦後に全世界で大ヒットを収めた。そして、40年後の1978年にドイツ本国での生産を終えたのちにも、ブラジルやメキシコなどで生産を継続。2003年7月30日、最後の一台がメキシコ・プエブラにあるフォルクスワーゲン・メヒコの工場からラインオフとなるまでに、総生産台数は約2153万台を達成したとされている。

そのデザインを現代的にアレンジし、オリジナルのRRから前輪駆動に変身したニュービートルも、プエブラ工場を唯一の拠点として生産されて成功を博した。一時は並行して生産されていた元祖ビートルの後継車としてその地位を確立するとともに、「MINI」や「フィアット500」などのフォロワーを生み出した。

2011年には、このコンセプトを継承しつつも、オリジナルのプロポーションをより忠実に再現した後継車「ザ・ビートル」が登場。こちらもプエブラ工場で生産されたのだが、2019年7月をもってフェードアウトした。それまで80年以上にわたって受け継がれてきた「ビートル」の名は、ここでついに途切れてしまうことになった。

 
フォード・マスタング コンバーチブル
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1964年のニューヨーク万博で発表された「フォード・マスタング」。エンジンを含む豊富なオプションを選ぶことで、自分だけの一台をクリエイトできる先進的なフルチョイスシステムを採用していた。
1964年のニューヨーク万博で発表された「フォード・マスタング」。エンジンを含む豊富なオプションを選ぶことで、自分だけの一台をクリエイトできる先進的なフルチョイスシステムを採用していた。拡大
2020年に2021年モデルとして47年ぶりの復活が発表された「マスタング マッハ1」(写真中央)。左右の車両は初代モデルに設定された元祖マスタング マッハ1。
2020年に2021年モデルとして47年ぶりの復活が発表された「マスタング マッハ1」(写真中央)。左右の車両は初代モデルに設定された元祖マスタング マッハ1。拡大
2019年に「マスタング」ファミリーの一員として、ピュアEV「マスタング マッハE」が加わった(写真左)。
2019年に「マスタング」ファミリーの一員として、ピュアEV「マスタング マッハE」が加わった(写真左)。拡大

フォード・マスタング(2003年/アメリカ)

1964年のニューヨーク万博にてセンセーショナルなデビューを飾ったフォードの初代「マスタング」。同車は、簡潔で安価な実用車にスポーツカー然としたスタイリッシュなボディーを組み合わせ、エンジンを含む豊富なオプションを選ぶことで、しゃれたクーペやコンバーチブルにも、あるいはスポーツカーに負けない高性能車にも仕立てられるフルチョイスシステムを採用していた。この斬新な戦略はみごとにヒット。自動車史上まれにみる社会現象を巻き起こした。

その後もマスタングは4世代にわたって継続。2代目「マスタングII」以外は一定の成功を収めたのだが、今世紀初頭に登場した5代目では当時のフォードが進めていた「リビングレジェンド」戦略に基づき、偉大な初代マスタングをセルフカバーしたデザインをエクステリアとインテリアの双方に採用した。

5代目マスタングは2003年の米デトロイトモーターショーでデビューし、翌年の同じショーで生産モデルが正式リリース。初代のスタイリングを巧みに継承しつつモダンにアップデートされたエクステリアは、多くの支持を集めた。大規模なフェイスリフトが2009年および2012年に実施されたが、いずれも初代時代の大規模マイナーチェンジを意識したデザイン変更となっていたのは、とてもエンスー的といえよう。

この5代目マスタングの成功を横目で見ていたGMは「シボレー・カマロ」を、クライスラーは「ダッジ・チャレンジャー」を同様のコンセプトでリリース。いずれも現在に至るロングセラーモデルとなっている。

ベントレー・コンチネンタルGT
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2017年に発表された最新世代の「コンチネンタルGT」(写真左)と、そのルーツされる「Rタイプ コンチネンタルH.J.マリナー スポーツサルーン」(写真右)。
2017年に発表された最新世代の「コンチネンタルGT」(写真左)と、そのルーツされる「Rタイプ コンチネンタルH.J.マリナー スポーツサルーン」(写真右)。拡大
「Rタイプ コンチネンタルH.J.マリナー スポーツサルーン」のリアビュー。ファストバックのテールラインやマッシブなフロントフェンダー、キックアップしたリアフェンダーなどが特徴的だ。
「Rタイプ コンチネンタルH.J.マリナー スポーツサルーン」のリアビュー。ファストバックのテールラインやマッシブなフロントフェンダー、キックアップしたリアフェンダーなどが特徴的だ。拡大
2021年1月26日に、通算8万台目となる「コンチネンタルGT」が、クルー本社工場からラインオフ。同車は、ベントレー史上最高のヒットモデルとなった。
2021年1月26日に、通算8万台目となる「コンチネンタルGT」が、クルー本社工場からラインオフ。同車は、ベントレー史上最高のヒットモデルとなった。拡大

ベントレー・コンチネンタルGT(2003年/イギリス)

2003年のデビュー以来、現在では3代目に進化。そのどれもが全世界で大成功を収めている「ベントレー・コンチネンタルGT」とそのファミリー。カタログなどメーカー発行のオフィシャルドキュメントにも印象的なシルエットが大きく描かれているのでご存じの向きも多いかもしれないが、コンチネンタルGTには精神的なモチーフとなった偉大な祖先がある。

それは、往年のベントレーが1952年から3年だけ製作した伝説のグランドツアラーで、コンチネンタルGTが登場するまではベントレーの最高傑作ともいわれていた「Rタイプ コンチネンタルH.J.マリナー スポーツサルーン」である。

初代コンチネンタルGTのデザインを手がけたベントレーのデザインチームは、なだらかなスロープを描くファストバックのテールラインやマッシブなフロントフェンダー、キックアップしたリアフェンダーなど、かつてRタイプ コンチネンタルを特徴づけていた優美きわまるボディーラインを巧みに引用。みごと21世紀のクーペとして結実させた。

また300km/hを超える最高速度や、4WDの特質を生かした全天候対応のスタビリティーなど、同時代のスーパースポーツにも匹敵するパフォーマンスを有するという点においても、Rタイプ コンチネンタルの精神を現代によみがえらせたものとして称賛されている。

そして誕生から18年を経た2021年1月26日には、通算8万台目となるコンチネンタルGTが、クルー本社工場からラインオフ。ベントレー史上最高のヒット作となったのだ。

 
「フィアット500C」と2022年4月に日本導入が発表されたピュアEV「500e」。
「フィアット500C」と2022年4月に日本導入が発表されたピュアEV「500e」。拡大
トリノ国立自動車博物館に展示されている「ヌオーヴァ500」。車体後部に最高出力15PSの空冷2気筒479ccエンジンを搭載するRR車として1957年に登場した。バリエーションを増やしながら1975年まで生産され、総生産台数は367万8000台に達したという。
トリノ国立自動車博物館に展示されている「ヌオーヴァ500」。車体後部に最高出力15PSの空冷2気筒479ccエンジンを搭載するRR車として1957年に登場した。バリエーションを増やしながら1975年まで生産され、総生産台数は367万8000台に達したという。拡大
2004年に発表されたフィアットのコンセプトカー「トレピウーノ」。トレピウーノとは「Tre(3)」「Piu(+)」「Uno(1)」を意味するイタリア語で、3+1シーターのシートレイアウトを表している。
2004年に発表されたフィアットのコンセプトカー「トレピウーノ」。トレピウーノとは「Tre(3)」「Piu(+)」「Uno(1)」を意味するイタリア語で、3+1シーターのシートレイアウトを表している。拡大
新旧の「フィアット500」。両モデルがそろうのは、今なおイタリアの街角ではさほど珍しいことではない。写真はローマでのスナップ。
新旧の「フィアット500」。両モデルがそろうのは、今なおイタリアの街角ではさほど珍しいことではない。写真はローマでのスナップ。拡大

フィアット500(2007年/イタリア)

自社の成功作のセルフカバー的リバイバルというビジネススタイルにおいて、MINIと並んで最も大きなヒットとなったのは、やはりフィアット500(チンクエチェント)であろう。

その元ネタとなったモデル、今や『ルパン三世』が愛用するクルマとしても世界中で知られることになった「ヌオーヴァ500」は、1957年7月4日にデビュー。イタリアをはじめとする欧州諸国で大ヒットした。また今世紀に入ると、キュートで個性的なフォルムがファッションアイコンやアートのモチーフとしてももてはやされ、フォルクスワーゲンのニュービートルやMINIと同じく、フィアットにも往年の偉大な名作の現代版を求めるリクエストが数多く寄せられていたという。

その要望に応えるかたちで、前輪駆動ながらヌオーヴァ500を現代によみがえられたかのようなスタイルを持つコンセプトカー「トレピウーノ」が、2004年春のジュネーブモーターショーにて初公開された。日本を含む全世界のチンクエチェント愛好家から圧倒的な支持を得たことで、リバイバル生産プロジェクトが本格的にスタートする。

そして期待の新星フィアット500は、ヌオーヴァ500のデビューからきっかり半世紀後となる2007年7月4日、イタリア最大の民放テレビ局「Canal 5」のゴールデンタイムにライブ中継されながら、大々的に世界初公開された。

15年を経た現在も、新生フィアット500は歴史的なヒットを重ねつつ生産を継続中。また2020年には次世代モデルたるピュアEV「500e」も登場。今後はこちらが「チンクエチェント」の系譜を引き継ぐことになるという。

(文=武田公実/写真=武田公実、RMサザビーズ、ステランティス、フォルクスワーゲン、フォード、ベントレー モーターズ/編集=櫻井健一)

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