プジョー308アリュール(FF/8AT)/フォルクスワーゲン・ゴルフeTSIアクティブ(FF/7AT)
長旅をともに 2022.07.08 試乗記 長らくCセグメントハッチバックの基準とされてきた「フォルクスワーゲン・ゴルフ」だが、今もその地位は安泰か。方々から出来のよさが伝わってくる新型「プジョー308」は、ゴルフにどれだけ迫っているのか。2台を同時に連れ出し、それぞれの実力を検証した。“牙付き”に大変身
プジョーの新型ハッチバックと、それを迎え撃つ横綱ゴルフとの比較試乗、ときたらその昔は何日もかけて走りに行くような大イベントだった。若手編集者だった私にとっては何がなんでも潜り込まなければならない一大事で、「お手伝いとして連れて行ってください!」と方々に売り込んで、先輩方の目を盗みつつできるだけ長いこと乗り回そうとしたものである。いやもちろん、今は環境が違うことは重々承知、のんきな時代でないことも分かってはいるけれど、それにしても世の中の体温は低め、というかいまひとつ盛り上がっていないように感じるのは私だけでしょうか?
そもそもCセグメントハッチバックというジャンルにあまり注目が集まらないのか、いやいやそれよりも計画どおりに新型車が供給されないという昨今の事情が大きいのかもしれない。本国発表からほぼ1年後のこの4月に国内発表された新型プジョー308だが、新生ステランティス ジャパンの発表も「全国デビューフェアは7月以降を予定しています」なんて、どうにも歯切れが悪い。プジョーに限らず、コロナウイルス感染症とサプライチェーンの混乱に部品不足、加えてウクライナ侵攻に円安、エネルギー価格の上昇ときては見通しを立てることもままならない。
ほぼ1年前に導入された新型8代目ゴルフにしても、まだ時々街なかで見かける程度。おっ新型だ! と目を引くということは、それだけ今も珍しいことの裏返し、ゴルフのほうもやはり装備によってはいまだにデリバリーが思うようにいかないという話を聞く。インポーターの苦労がしのばれるというものである。
新しい308は、末尾の数字を増やさずに「308」とモデルナンバーが固定されてから3代目、先代からは9年ぶりのモデルチェンジだという。先にモデルチェンジした「508」や「208」と同じく、「牙」を持つ攻撃的な顔つきと、鋭いエッジが立ったシャープなデザインに生まれ変わった。先代は丸みを帯びた、ちょっと“ださかわ”の雰囲気が特徴だったのだが、新型はいかにも今風のプレミアム志向が見て取れる。従来型と並べたら同じモデルとは思えないぐらいの大変身である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
明らかに大きなボディー
キリッとシャープなデザインに一新されただけでなく、新型308はボディーサイズが大きくなった。ハッチバックの全長×全幅×全高は4420×1850×1475mmで、ホイールベースは2680mm。これは従来型に比べてそれぞれ+145mm、+45mm、+5mmの寸法で、ホイールベースも60mm伸びている。いっぽうの「ゴルフeTSIアクティブ」の外寸は、4295×1790×1475mmでホイールベースは2620mmだ。全高だけは両車同じだが、それ以外はすべて308のほうが明らかに上回っている。新型ゴルフは先代の7代目と事実上同じサイズをキープしているのが特徴で、全長は30mmだけ伸びたものの、その違いはほとんどデザイン処理によるもの。全幅についてはわずかながらも小さくなっているほどだ。
新型308の日本仕様はハッチバックと「SW(ステーションワゴン)」の2種のボディーがあり、パワーユニットは1.2リッター3気筒ターボと1.5リッター4気筒ディーゼルターボ、そして1.6リッター4気筒ターボ+モーターのプラグインハイブリッド(PHEV)が用意されるが、「アリュール」には1.2リッターと1.5リッターディーゼルが載り、「GT」には1.5リッターディーゼルとPHEVという設定で、今回取り上げたモデルはそのなかのベーシックグレードで1.2リッターガソリンターボのアリュールだ。
8代目の新型ゴルフは、ご承知のように1リッター3気筒ターボと1.5リッター4気筒ターボがともに48Vマイルドハイブリッド仕様の「eTSI」となったことが最大の特徴。1リッターeTSIには「アクティブ ベーシック」と「アクティブ」がラインナップされるが、カーナビを含むインフォテインメントシステムの「ディスカバープロ」やヘッドアップディスプレイをオプションで選べるのは後者のみ。価格で言えば308アリュールと同様の300万円ちょっとのアクティブ ベーシックがライバルに相当するはずだが、今回は主力モデルと目されるアクティブが相手である。eTSIアクティブは7段DCTで車重は1310kg、アリュールは8段ATを採用し、車重は1350kgとゴルフよりちょっと重い。
室内もアグレッシブな仕立て
小さなベーゴマのような異形ステアリングホイールの上からデジタルメーターを眺めるスタイルは従来どおりだが、新型308のインストゥルメントパネルはそれ以外も凝りに凝った、と言えるほどに斬新だ。複雑な形状のダッシュボード中央には10インチのタッチスクリーンが据えられ、シフトレバーはゴルフよりもさらに小さなスライドスイッチに変わっている。またACCコントロールは独立したレバーからステアリングスポーク上に移され、シフトパドルもコラム側からステアリングに付くものに変えられている。
実際には広いのだが、見た目はゴルフほどルーミーな感じがしないのは、全体的にやりすぎ感のあるダッシュデザインのせいかもしれず、いささか煩雑な感じもする。ゴルフもそうだが、デジタルメーターの表示パターンをさまざまに変えられることにどれだけのメリットがあるのかと不思議に思う。昔はあんなに素っ気なかったのに、とつぶやきながら、一番シンプルな表示を探すのがいつものことである。そういえばインフォテインメントシステムは最新になったが、こだわって開発したはずのカーナビは装着されず(不人気だったのだろうか)、ミラースクリーンと称するスマホ連動のものとなった。ゴルフもカーナビはオプション設定だ。
従来型よりホイールベースが伸びたおかげで、308は後席レッグルームも30mm延長されたというが、後席の居住性は依然としてゴルフのほうが上回る。絶対的な数値ではゴルフに遜色ないのだが、アップライトな自然な姿勢で座れるゴルフ(乗り降りも容易)に対して、308はやや寝そべった、お尻が落ち込むような姿勢で座るせいか、シートクッションも小さめに感じる。またフロントシートが立派なつくりで、例によってドライバーは寝そべったようなポジションを強いられるために、リアシートの乗員は実際よりもタイトな空間に座らせられている感覚がある。もっとも一度お尻を落とし込んでしまえば、体も動かずなかなか快適。反対にゴルフはシート形状が平板で体を支えにくい。ちなみに308のフロントシートは形状、クッションの分厚さなどスポーツカー用と思えるほどのレベルで、ロングツーリングには打ってつけと感じたが、人によってはクッションの反発が強すぎて気になるという意見もあった。体格によって印象が異なるかもしれないことを付記しておく。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
踏んでも流してもの3気筒ターボ
1.2リッターエンジンは従来型の流用である。EB型直列3気筒1.2リッター直噴ターボは従来型の途中(8段ATの採用時)で改良を施されており、燃料噴射圧が250バールに高められ、さらにガソリンパティキュレートフィルター(GPF)も採用されている。リーンバーンではディーゼルと同様、NOxとPM対策が必要になるからだ。小型車用エンジンでも高圧インジェクターやGPFが欠かせないのだから何とも物入りの時代である。
いっぽうで130PS/5500rpm、230N・m/1750rpmという最高出力/最大トルクはそれ以前から変わらない。同じ回転数で300N・mの最大トルクを生み出す、定評のある1.5リッターターボディーゼルほどの力強さはないものの、その代わりにストレスなく健康的に吹け上がる軽やかさが「ピュアテック」ガソリンエンジンの特徴だ。3気筒ゆえのネガはほとんど感じられない。高めのギアで軽く踏んで加速する際だけはわずかな振動が感じ取れるが、それ以外では気になるノイズもバイブレーションもまったく看取されず、ほとんどの人は言われなければ3気筒とは分からないと思う。すっきり、嫌みがなく、普段使いでは十分に扱いやすいエンジンである。さらに全開時でも、特有のビートは伝わってくるものの、無理強いしているような振動ではないのがいいところ。ダウンサイジングターボの世にあって、数少ない、回しても楽しい、回そうという気になるスポーティーなユニットである。
もっとも、オープンロードでは快適爽快ながら、ストップ&ゴーが続く街なかでは前後の揺動がちょっと気になった。その傾向はアイシン製「EAT8」を搭載するプジョー/シトロエン各車に大なり小なり共通するものだが、新型308では以前よりも大きく感じられたのだ。シフト制御かロックアップ制御か、あるいはエンジンマウントの影響なのか、は定かではないが、漫然と運転していると不意にシフトアップしたりしなかったり、という具合だ。またアイドリングストップ制御もあまり洗練されていない。ちょっと早すぎるタイミングでパタッと止まると、緩やかに減速していくつもりがガクッとつんのめる場合もあるからだ。プジョーはエンジン再始動のトリガーがブレーキのみで、スロットルペダルを軽く踏んでも始動させることができない。ちょっと癖があるのである。
(文=高平高輝/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
プジョー308アリュール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4420×1850×1475mm
ホイールベース:2680mm
車重:1350kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/5500rpm
最大トルク:230N・m(23.4kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R17 94V/(後)225/45R17 94V(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:17.9km/リッター(WLTCモード)
価格:305万3000円/テスト車=314万6170円
オプション装備:ボディーカラー<パールホワイト>(8万2500円)/ETC(1万0670円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4254km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:529.0km
使用燃料:38.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.6km/リッター(満タン法)/13.1km/リッター(車載燃費計計測値)
フォルクスワーゲン・ゴルフeTSIアクティブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1475mm
ホイールベース:2620mm
車重:1310kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110PS(81kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/2000-3000rpm
モーター最高出力:13PS(9.4kW)
モーター最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス)
燃費:18.6km/リッター(WLTCモード)
価格:323万8000円/テスト車=359万8000円
オプション装備:ボディーカラー<キングズレッドメタリック>(3万3000円)/ディスカバープロパッケージ(19万8000円)/テクノロジーパッケージ(22万円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(3万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1万4140km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:573.0km
使用燃料:33.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:16.9km/リッター(満タン法)/16.2km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。


















































