AIだって自社開発! ソフトウエアの時代に“自前主義”で挑むスバルの挑戦
2022.09.16 デイリーコラムAIの進化が死亡事故ゼロにつながる
実際に運転すると感じるのだが、自前で予防安全・運転支援システム(ADAS)をつくっているメーカーのそれは、やっぱり強いと思う。車線に関する感度のあんばいや、誤認識の少なさ、警報を発する必要性の判断とそのタイミングなどなど、普段使いでの痛痒(つうよう)のなさが、しみじみ違うのだ。
個人的に、量販車(高級車じゃないクルマという意味)において特に「いいなぁ」と感じるのは、やはり“自前主義”で頑張るスバルのものだ。最新の「アイサイトX」を搭載した「レヴォーグ」や「アウトバック」はもちろん、従来型のシステムを積む実家の「XV」ですら、乗ると「大したもんだなぁ」と感心してしまう。ことC/Dセグメントでは、機能の充実度でもリアルワールドでの実用性でも、スバルがいちばんじゃないか? とこっそり思っている次第である。
過日そのスバルが、自社の安全技術開発を紹介するオンラインセミナーを開催した。題して「SUBARU 事故低減に向けた取り組み」である。語られた内容は、「2030年の死亡交通事故ゼロ」へ向けた施策から、「アイサイトX」による運転負荷軽減の実証実験まで多岐にわたるが、個人的に印象的だったのは、東京・渋谷の「SUBARU Lab(スバルラボ)」で研究している、知能化技術(AI)の解説だった。
ここでちょいとスバルの“安全”に関する将来計画をおさらいましょう。まずは2018年に、中期経営ビジョン「STEP」のなかで「2030年までにスバル車が関連する死亡交通事故をゼロにする」と表明。2020年の「SUBARU技術ミーティング」において、「ADASの高度化によって65%、先進自動通報(AACN)技術の導入と衝突安全技術の強化によって35%、死亡事故を削減する」と施策の大枠を語った。AIに関しては、事故削減・被害軽減に関する各領域で効果を発揮するものとしていたが、今回の説明会では主にADAS、すなわちアイサイトでの活用について語られた。
AIとステレオカメラは相性がいい
皆さんご存じのとおり、アイサイトはスバルが独自に開発し、今も改良・改善を続けているADASである。センサーには主に2つのフロントカメラ(ステレオカメラ)を用い、その設置位置の違いがもたらす撮影映像の視差から、対象物までの距離を計測している。AIの仕事はここからで、ステレオカメラで得た情報を独自のアルゴリズムで解析し、より正確に道路や周囲の交通状況を把握しようというのだ。
SUBARU Labの齋藤 徹副所長によると、このシステムでは、まずステレオカメラの映像から“どこが道路(走行可能エリア)か”を特定。その上にあるものはすべて走行上の障害物であり、それらを種類や距離によって分類することにより、自車周辺の状況を把握するという。さらには、映像の情報から道路標識や信号なども認識できるわけで、ステレオカメラ+AIの組み合わせなら、ひと種類のセンサーとひとつのシステム構成(専門用語で「マルチタスクネットワーク」と言うのだそうだ)だけで、道路、障害物、交通標識……と、周辺環境をすべて把握できるのだ。対象物との距離はレーダー、対象物の類別や信号と交通標識の認識はカメラ……と、複数のセンサーとそれぞれに応じたアルゴリズムを用意しなければならない他社のシステムとは、ここが決定的に違う。
加えてこのシステムであれば、ステレオカメラの撮影映像とAIによる状況解析を、それこそ画素単位で完全に関連づけできる。複数のセンサーを組み合わせたシステムではこれは難しく、ステレオカメラ+AIなら、よりシンプルでありながら正確かつ詳細な解析ができるとのことだった。
一方で、克服しなければならない課題ももちろんある。セミナーで挙げられたのは、AIの“予想外の状況に弱い”という欠点だ。そもそもAIの仕組みは、おおざっぱに言うと「蓄積された過去のデータをもとに現在の状況を推測する」というもので、学習データで出現頻度の低い、予想外の現象であればあるほど正確な判断ができなくなる。セミナーでは「高速道路上にポツンと人が立っている/三角コーンが置かれている」という例で説明があったが、その映像をAIに見せても、AIはそれをうまく認識できなかったという。
この点についても、スバルは「過去のデータによらず現状をありのままに映し出すステレオカメラの情報とすり合わせることで、未知の状況にも強いシステムをつくる」と説明。ステレオカメラとAIの、相性のよさを強調していた。
ソフトウエアの時代にも独自性を貫けるか?
かようなスバルによるAIの研究開発だが、面白いのは同社が、この映像処理・認識システムをすべて内製している点だ。これはアイサイト、さらにはそれ以前のADASの開発から受け継がれてきた特徴でもあるのだが、既存のクルマづくりからしたら、まったく畑違いな分野の研究である。スバルのような比較的小さな規模のメーカーでAIの内製化に取り組むというのは、やはり希有(けう)な例だろう。
このAI研究のために2020年12月に開設されたのが、先ほどから登場しているSUBARU Labである。研究開発の促進と、それに必要となる人材の確保やIT関連企業との連携などを目的とした施設だが、コロナ禍の真っただ中にオフィス不要論を押しのけて開所したあたりに、この分野におけるスバルのハラのくくり具合を感じた次第だ。
正直な話、今回スバルが紹介したAIの活用法はかなり限定的で、よそを見れば、より前のめりな用法をすでにアナウンスしているメーカーもある。例えばホンダは、「ADASのセンサーで自車周辺の交通状況を把握し、AIが運転リスクを検出しつつ最適な運転行動を算出。適切な運転支援を行う」というシステムの研究を進めている(参照)。……正直なところ「そこまでやるのなら、もう自動運転でいいのでは?」という気がしないでもないが(笑)、それもまた、ひとつのAIの活用法だろう。
もちろん、スバルにしてもそんなことは百も承知だろうし、そもそもADASの認識能力向上だけが目的なら、わざわざ本社の隣の駅に、別個でオフィスを開所する必要なんてなかったはず。もっと広く、長いスパンでソフトウエア開発の将来を見据えているはずだ。ハードウエアからソフトウエアへと研究開発の比重が変わっても、“クルマづくり”の独自性は保てるのか? 自前主義でAI研究に臨むスバルの取り組みは、そうした視点で見ても非常に興味深いのだ。
(文=webCGほった<webCG“Happy”Hotta>/写真=スバル/編集=堀田剛資)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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