ホンダ・シビック タイプR(FF/6MT)
ハイパフォーマンスのその先へ 2022.10.03 試乗記 “FF世界最速”を目標に掲げ、新型「ホンダ・シビック タイプR」がいよいよ登場。聖地・鈴鹿サーキットで体感したそのドライビングダイナミクスは、意外にも“優しさ”を感じさせるものだった。ホンダのスポーツイメージを担う、フラッグシップの走りを報告する。まずは乗り心地のよさに驚く
いよいよスポーティーな現行シビックの本丸・大本命といえる、タイプRに試乗することができた。それもホンダの聖地、鈴鹿サーキットでだ。折しも現場は3年ぶりとなるF1日本グランプリに向けた準備の真っ最中であり、私たちメディアは西コースのパドック裏へと導かれた。
パルクフェルメ(というかフツーの駐車場)に用意されたタイプRは、全部で6台。サプライチェーンが混乱をきたしているなか、これだけの台数を確保するのも大変だっただろう。ただ、その姿は以前にたっぷり確認できていたため(参照)、特別な感動はなかった。ふくよかなフロントフェンダーとそこに収まる大径タイヤ、リアハッチにそびえるウイングがその存在を強く示していたけれど、全体の印象は相変わらずスマートだ。先導車として用意された先代モデルとのコントラストも、余計に現行タイプRをおとなしく印象づけたのかもしれない。個人的には、もうちょっとボディーパネルの面が出ていれば最高だった。あとやっぱり、羽は要らない。
かくして2度目の出会いにあまり新鮮さはなかったけれど、走りだしたらいきなり驚いた。予想をはるかに超えて、乗り心地がよいのである。今回その足もとには、オプション設定される「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト」が履かされていた。春先に鈴鹿でワークスドライバーの伊沢拓也選手がアタックした際と同じ(参照)、ホンダの認証タイヤだ。
265/30ZR19サイズの幅広・低偏平なタイヤを履いたタイプRは、コースインするまでの荒れた砂利道を、あまりにも普通に走った。カップ2が標準タイヤの「パイロットスポーツ4 S」よりソフトな可能性はあるが、それにしてもサイドウォール剛性の高さからくる小刻みな横揺れまでもが抑え込まれていたことには、ちょっと驚きを隠せなかった。
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快適な走りを支える強靭なボディー
しなやかさの答えは、コースで導き出された。なんと新型タイプR、最もダンパー制御が緩い「コンフォート」モードでも、普通に鈴鹿を走れてしまうのだ。ハンドルを切っても応答遅れはなく、コーナリングでもロール過多にならず、多少高速領域で“フワッ”と安定性に欠ける瞬間はありつつも、思いどおりにラインをトレースしてくれるのである。
ならばと「スポーツ」モードを試すと、前述の“フワッ”がなくなった。全体的に伸び側減衰力が高められたのだろう。しかしそれが突っ張ることも一切なく、運転感覚としてはしなやかさ100点満点。縁石をまたいだ時などはさらに感動的で、直接のライバルである「ルノー・メガーヌ ルノースポール」のダンパー・イン・ダンパー「HCC」よりも、ショックの吸収力が高いという印象を持った。
もっとも、こうしたサスペンションのスムーズな伸縮は、可変ダンパーの制御だけがもたらしたものではない。新型タイプRは、先代に対して構造用接着剤の塗布長を3.8倍に増やしており、特にリア側のねじり剛性を15%向上させている。
操舵に粘り強さがあるのは、2軸式のフロントストラット「デュアルアクシスストラットサスペンション」の恩恵だろう。これによってダンパー軸と転舵軸が分割され、ダンパーは横力の影響を受けにくくなった。かつ転舵軸がナックルに近づくことで、トルクステアも抑えることができるのだ。一方リアには、スムーズな動きと高い剛性を実現できるマルチリンクをおごっている。
しっかりとしたボディーにブレない足まわりが付いたおかげで、サスペンションがスムーズに伸び縮みする。だからリアダンパーを固めて安定性を高める必要がなくなった。もしかしたらその乗り心地は、低荷重領域だと標準車……すなわち普通のシビックのほうがスポーティーに感じるかもしれない。
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サーキットで実感する圧倒的な進化
こうして磨き上げたボディーに渾身(こんしん)のターボパワーが炸裂(さくれつ)すれば、速いに決まっている。というか、あまりの速さにこれまた筆者は驚きたまげた。
今回の試乗ではホンダのワークスドライバーである武藤英紀選手と伊沢拓也選手が先導走行を務めてくれたのだが、このふたりがドライブする先代の「タイプR リミテッドエディション」よりも、アマチュアドライバーである筆者が運転する新型タイプRのほうが、確実に速かったのである。
勘違いしてほしくないのだが、その原因は筆者にはない。そして(本人らいわく)ふたりがサービスしてくれたわけでもない。これこそが、新型モデルの進化の証しなのだ。そして既に新型タイプRを予約したアナタが、ガッツポーズをするべきところである。
その差は、長いストレートを駆け下りる1コーナーから、いきなり明らかになった。高速旋回しながらブレーキングしていくその過程で、新型タイプRは前を走る先代「FK8」型よりも、明らかにリアが安定していた。なおかつ下りながらの旋回速度も速かった。回り込んだ2コーナーのアプローチでは、余裕をもったブレーキングでも旋回区間で遅れを取り戻せる。そしてクリップめがけてアクセルを踏み込んでいけば、追いついてしまうのである。
FK8型のタイヤサイズは新型より20mm細身だ。ただし、その車重は40kgほど軽い。先導車はリミテッドエディションなのでさらに20kg軽く、たぶん筆者と彼らの体重差を加えたら、こちらはもっと重たい(笑)。そんな物理的ハンディを押しのけて、新型が先代を圧倒できるのは、前述したシャシーワークがまずひとつ。そして、「(恐らく)最後のVTECターボ」のパンチも効いている。
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あの“鈴鹿”でさえ冷静に走れる
出力差はパワーにして10PS、トルクにして20N・mとごくわずかだが、一番の違いはその持続力にある。それを得るために、新型タイプRはターボチャージャーの効率をさらに3%追い込み、そのイナーシャを14%低減させた。吸気経路も径を拡大し、その流量を10%向上。さらにはインタークーラーのコアを9段から10段へと増やした。エンジン全体の冷却性能も高めているのだが、そこに最も貢献したのはボディー側のエアフローだろう。風洞を使ったCFD(Computational Fluid Dynamics=数値流体解析)によって、フロント開口部の形状を最適化し(ただ大きくしただけではダメなのだ)、ボンネットのアウトレットでホットエアを引き抜く。
だから走れば走るほど、FK8型とのパワー差が目に見えて広がっていった。午前中の、気温が低い状態ではわずかだったその差も、走行を繰り返した午後の走行では、明らかな違いとなって現れた。こうした、一発の速さではない耐久性に関しては、開発陣が国内レースのスーパー耐久でコツコツと先代タイプRを走らせてきた成果が表れているのだと思う。
こうした、ダイナミクス性能における新型タイプRのキャラクターをひとことで表すならば、「優しいクルマ」だと筆者は思った。タイプRのイメージから一番遠いところにある表現かもしれないが。
まず、シャシーの動きがとびきり優しい。「+R」モードを長押ししてVSC(車両安定装置)の制御を切った状態では、ややリアダンパーの動きが規制されてギャップに対する跳ね感は出るものの、姿勢はさらに安定する。逆バンクやスプーンコーナー、130Rという手ごわい高速セクションでも、ターンインからの挙動には、ズバッとリアを振り出すようなピーキーなところが一切ない。カーブではアンダーステア知らずでよく曲がる。だから、ドライバーは落ち着いて、この超高速域で自分の走りを精査・修正できる。目の前で展開するGTドライバーの運転を手本に、アプローチを学び、ラインをトレースできるのだ。
操作系では、6段MTのスムーズさが際立っていた。シフトダウン時にエンジン回転を自動で上げてくれるレブマッチング機能は、極限状態でアクセルをあおるワンアクションを省いてくれて、運転に集中できる。ホンダであればDCTで多段化・クロスレシオ化する道もあっただろう。そうすれば、左足ブレーキによるさらなる運転の高度化が可能になったとは思うが、開発陣はコスト増と重量増を嫌った。そのぶんシフトフィールに磨きをかけ、ドライビングプレジャーをも残したというわけだ。
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より“操る喜び”を高めたバージョンも見たい
不満があるとすれば、ブレーキのタッチか。システムは先代リミテッドエディションからのキャリーオーバーで、純正ながらローターは2ピース化している。その放熱性は十分だったが、そもそも鈴鹿はブレーキに厳しいサーキットではない。そのうえでパッドにはわずかな滑り感があり、タッチが若干曖昧だった。恐らくは、標準タイヤに合わせたブレーキパッドとカップ2のグリップ力の間に、齟齬(そご)が出てしまっているのだろう。非常に高度な要求だが、タイプRだからこそ言わせてもらう。
加えて個人的には、先述した“優しさ”の先に、ホンダがさらなるドライビングプレジャーを用意してくれたら、もう言うことはない。現状では、誰が乗っても安全にタイプRの性能を引き出せる、幅の広いセッティングが与えられている。だがその先にある、「コントロールする喜び」の領域に一歩踏み込むことも、タイプRに寄せられる期待だと思うのである。それは決して、マシン特性をピーキーにしろということではない。むしろその穏やかな操縦性のまま、ヨー慣性モーメントでクルマを曲げていく楽しさを表現してほしいのである。
そして実は、速さよりもこうしたドライビングプレジャーを大事なものとして捉えているのが、最大のライバルであるメガーヌなのだ。もっと言えば、後輪駆動になってしまうが「トヨタGR86」や「マツダ・ロードスター」も、速さより“そこ”を大事にしている。
かつて、こうした部分のマニアックなカスタマイズは、サードパーティーが担っていた。だが、タイプRが可変ダンパーを使うようになってから、そのサスペンションチューニングの需要は大幅に減ったと聞く。「これを換えてしまうのはもったいない」とユーザーが判断するようになったからだ。だとすれば、ここまで高度化したタイプRでそれを行うのは、ワークスの役目だろう。車高の変化による「Honda SENSING」の閾値(しきいち)調整は大変だと思うが、この可変ダンパーシステムを生かしたまま、わずかでもそのキャンバーやレイクバランス(前後の車高差)を変更できるダンパーケースを用意してほしい。
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フラッグシップに課せられた使命
かつて、走りに先鋭化した特殊なグレードだったタイプRは、既に“GT-R”や“M”と同じく、ラインナップにおけるハイスタンダードな存在へと成長した。先代が世界累計4万7200台を売り上げるヒット商品となったことで、より門戸の広いマイルドな性能を持たせる必要が出てきたのだ。事実、新型タイプRはそうしたモデルとなっており、だからこそ「GT-R NISMO」や「M4コンペティション」のような、ネクストステージが必要だと思う。そしてHRCことホンダ・レーシングこそ、そのアップデートを担う適役ではないか。
それと同時に、ホンダにはこの“優しいタイプR”を使って、ユーザーをきちんと導いてほしいと思った。それこそ、今回の2台の先導車のように。
5ドアハッチの日常性を併せ持つシビック タイプRは、この新型もヒット作となることだろう。オープンロードでの試乗は少し先だが、先代以上にその快適性は向上しているはずで、それなら家族のいるお父さんも、奥方にファミリーカー候補として力説できる。ただ、そんなユーザーがタイプRを手にする根本的な理由は、「純ガソリンエンジンの、最後のタイプRになりそうだから」とか「価値が落ちないから」ということではなく、走りへの期待にあるはずだ。
だからこそホンダはユーザーに、もっともっと積極的にタイプRのパフォーマンスを安全に解放できる場を提供し、その走らせ方をきちんと伝えていくべきだ。その地道な努力こそが、仮に電動化の未来が来ても、ホンダらしさを理解してもらえる礎になる。
このまま、2022年いっぱいで「NSX」が生産終了となれば、シビック タイプRはホンダのスポーツイメージを一身に担う顔となる。フラッグシップとして、とことんやるべきだ。
(文=山田弘樹/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ホンダ・シビック タイプR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1890×1405mm
ホイールベース:2735mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:330PS(243kW)/6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2600-4000rpm
タイヤ:(前)265/30ZR19 93Y/(後)265/30ZR19 93Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト)
燃費:12.5km/リッター(WLTCモード)
価格:499万7300円/テスト車=506万3300円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット プレミアムタイプ<エンブレム付き>(6万6000円)/ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト(--円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:649km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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