トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス” プロトタイプ(4WD/8AT)
勝つため(だけ)の進化 2024.01.12 試乗記 トヨタが「GRヤリス」を大幅改良。「モータースポーツを起点としたクルマづくり」で追求したのはレースやラリーの現場での強さのみ。ひたすらマシンとしての戦闘力アップに注力している。新開発の8段ATモデルを中心に、サーキットでその仕上がりを試した。「壊しては直す」で積み上げたノウハウ
4年前の正式発表時と同じ東京オートサロンで世界初公開された進化型GRヤリス。その最大のトピックは、もちろん新追加された2ペダル自動変速機の「GRダイレクトシフト8AT(GR-DAT)」ということになるだろう。ただ、実際にはエクステリアとインテリア、さらにはシャシーやエンジンにいたるまで手が入っており、フルモデルチェンジではないが、まさに全身進化型といった風情である。
インテリアなどはダッシュボードがまるごと新デザインに交換という大手術を受けているので、ベースの「ヤリス」のマイナーチェンジに合わせたものと早合点しそうになったが、さにあらず。そのインテリアも含めた今回の改良点は、すべてベースのヤリスとは基本的に無関係のGRヤリス独自のものというから驚く。
しかも、今回の取材で筆者が聞いたかぎり、その多岐にわたる改良点のなかで、純粋にデザイン上の変更は1カ所のみである。「ひと目で新しいGRヤリスであることが分かる個性を表現」したという横一文字につなげたテールランプだけだ。それ以外はすべて、GRヤリスの競技ベース車両、もしくはスポーツモデルとしての機能的な進化である。しかも、それらがいちいちマニアックというか、油臭いというか、うっとうしい(笑)くらいのウンチクにあふれているのが、たまらない。
聞けば、4年前にGRヤリスが完成したとき、トヨタの豊田章男社長(当時、現在は会長)は開発陣に「これからがスタート」とクギを刺したという。そこで、GRヤリスは発売直後からスーパー耐久や全日本ラリーに参戦。「壊しては直す、壊しては改善する」を繰り返して蓄積されたノウハウを惜しみなく投入したのが、今回の進化型GRヤリスということらしい。
レースありきのコックピットデザイン
エクステリアの変更はさすがにプレス部品にまではおよばず、基本的には前後バンパーとリアスポイラーのみ。いっぽうで、真っ先に変えられがちなホイールやタイヤが手つかずなところが、逆に開発陣の思いの強さが伝わってくる(?)気がしないでもない。で、そのエクステリアのココロは、とにかく冷却性向上と、競技やカスタマイズでの利便性への配慮だ。
従来はフォグランプが配されていたフロントバンパーの両サイドが新しいGRヤリスでは開口されて、市販仕様では左にATFクーラー(GR-DAT車の場合)、右にサブラジエーター(オプションの「クーリングパッケージ」装着車の場合)がおさまる。中央グリルは新たにスチールメッシュとなって、開口面積を増やすとともに耐衝撃性にも配慮されている。さらにラリー競技などでぶつけやすいフロントロワサイド部分は、あえて分割構造とすることで修繕しやすくした。
また、リアバンパー下部が気流の抜けやすいメッシュ開口となったことで、マフラー排熱と空力が改善されている。興味深いのはハイマウントストップランプがリアスポイラーから下に、バックランプもバンパー下部から上に移動させられたことだ。前者はカスタマイズ時のスポイラー交換のハードルを下げること、後者はダート走行などでの損傷回避(と視認性向上)が理由という。
インテリアはもはや従来とは別物だ。メーターがモードに応じた多様な表示を可能とする12.3インチのTFT液晶になったほか、運転席周辺を湾曲デザインとしてほぼすべての操作類をシートから、クルマ業界で平均的なリーチとされる“720mm”の距離におさめた。これは競技時に4点式や6点式のハーネスでシートに縛りつけられても、ドライバーの手をスイッチ類に届かせるための配慮だそうだ。また、助手席前がまるで書棚のような造形となったのは、そこにアフターの補助メーターを特別な加工なし(たとえば両面テープ)でもすっきりと取り付けられるという配慮らしい。それにしても、一つひとつのディテールにいちいち確固たる理由があるのが、うっとうしくもたまらない。
正確さと剛性感を増したステアリング
今回は旧型車も含めて袖ヶ浦フォレストレースウェイを数周ずつの試乗もできた。まずシートに座ると、サーキット用にヘルメットを装着していたからか、ドラポジが改善されていることがすぐに分かった。座面が25mm低められているという。これで運転姿勢がよりスポーツカー的に決めやすくなったと同時に、身長は178cmと高めなのに手足が短い典型的日本人体形の筆者には、天井にヘルメットが当たりにくいのもありがたい。
同時にルームミラーも50mm後方に移設することで前方視界を改善しているそうだが、これは「ルームミラーが目ざわり」という市場からの生の声に応えた結果だ。また、従来のFFのCVT車「GRヤリスRS」のシフトセレクターはMTのシフトレバーより低い位置にあったが、今回のメダマであるGR-DATのセレクターはMTのレバーとほぼ同じ高さにして、走行中にも操作しやすくしたという。
走りだすと、冷却性能の向上に加えて、バルブまわりの強化や軽量ピストンの採用、高圧縮比への対応などの手が入った1.6リッター3気筒ターボは、額面どおりにひとまわりパンチが増して、さらに高回転域での伸び感も加わったように思えた。
ただ、それ以上に印象的なのは正確さと剛性感を増したステアリングだ。車体のスポット溶接点を13%、構造用接着剤の塗布部位を24%増やして剛性を引き上げているそうだ。ただ、開発陣によると、ステアリングフィールの向上は、フロントストラットアッパーと車体の締結ボルトを1本から3本に増したことがとくに効いているのではないか……とのことだった。
優秀すぎる自動変速
進化型GRヤリスではパワステやアクセルの反応などを変える「ドライブモードセレクト」や、速度リミッター解除を含めた「サーキット」モードが追加されただけでなく、4WD機構の「GR-FOUR」の制御も変わった。前後トルク配分が60:40となる「ノーマル」モードはそのままだが、「スポーツ」モード(従来は30:70)は「グラベル」モード(53:47)に代わり、「トラック」モードも50:50の固定配分から60:40~30:70の可変配分になった。トラックモードは、どちらかというとクルマまかせで楽しく走れるのが目的らしく「ウデに覚えのある向きは、サーキットでもグラベルモード推奨」と開発担当氏は教えてくれた。
今回は細かい制御のちがいを細かく比較する時間はなかったが、どのモードでも、その気になればいつでもスピン可能(?)と思えるバツグンの回頭性は相変わらずだ。
さて、最注目のGR-DATは基本的に8段のトルコン式ATで、以前からスーパー耐久や全日本ラリーの現場で開発されていたことは、モータースポーツファンならご存じだろう。最新ATがMTより変速が速いのは常識だが、GR-DATはMTよりギアが2つ多く、しかも6速までならレシオもクロースしている。つまり、私のようなアマチュアドライバーでは、MTより遅くなる要素は皆無といっていい。
そんなGR-DATがマニュアルモードで楽しく小気味いいのは当然として、さらに気持ちよく速いのは、じつは自動変速のDレンジだ。変速はあえてアクセル開度とブレーキ油圧だけをパラメーターとするシンプルな制御で、慣れてくると好みのタイミングで望みのギアにペダル操作だけで放り込めるようになる。
聞けばスーパー耐久や全日本ラリーのドライバーたちも、実戦はほぼ自動変速で走っているという。今回はダート走行というオマケ体験もあったが、急減速でダウンシフトしながらサイドブレーキターン……なんて芸当を、真似事とはいえ素人の筆者が曲がりなりにも試せたのは、GR-DATだからだ。これがMTだとヒール&トーどころか、ブレーキすらちゃんと踏めなかった気が……とほほ。
(文=佐野弘宗/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス” プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
ホイールベース:2560mm
車重:1300kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:304PS(224kW)/6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3250-4600rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y XL/(後)225/40ZR18 92Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:--km/リッター
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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