ポルシェ911カレラ カブリオレ(RR/8AT)
揺るがぬ大黒柱 2024.04.15 試乗記 スパイショットなどによると、8代目=992型「ポルシェ911」に間もなく大きな改良の手が入るようだ。このタイミングで連れ出したのは「カレラ カブリオレ」。オープンエアドライビングに浸りつつ、992型とはどんなクルマだったのかをあらためて考えた。売れ続ける992型
ポルシェ911の現行モデルとなる992型は登場から早いもので5年以上の時がたつ。その年間販売台数はコロナ禍を挟みつつ、ここにきてまたひと伸びして2023年は5万台超と、歴代でも類を見ない勢いだ。
人気はもはや局所的なものではなく、仕向け地ごとのタマの争奪戦もさぞや熾烈(しれつ)であったに違いない。そもそもブランド内内訳で911の比率が高かった日本はすっかり割を食うかたちとなって、普通には手に入らない状況がここ1~2年続いてきた。
そんな992型に後期型ともいえる刷新の情報が出始めてからも、既に1~2年の時がたつ。ニュルでは電動パワートレインの黄色い識別印を貼ったハイブリッドとおぼしき車両が、北欧ではフロントグリルに可動式とおぼしき縦型のルーバーが配された車両がスクープされている。いずれも開発拠点であるヴァイザッハの周辺都市のナンバーを下げているところからみても、新型であることは間違いなさそうだ。秋から次年型が導入される米国市場の慣習に合わせるべく、この数カ月以内に発表されるのではといううわさもあるが、いずれにせよ993型を上回るほどのご長寿にして、販売に全く陰りがみられない現行型を変えてしまうのはポルシェにおいても惜しまれるところだろう。
全26グレードの大所帯
果たして現行の992型が前期と呼ばれるようになるかどうかは定かではないが、そろそろ振り返るにはおあつらえ向きのタイミングなのかもしれない。そんな頃合いで編集部のFくんが用意してくれたのはカレラ カブリオレだった。
現在、ポルシェジャパンのウェブサイトに載る911は全26グレード。うち、「ダカール」や「S/T」のような数量限定車を除くと23になる。「カレラ」「カレラS」「カレラGTS」のおのおのにRRと4WD、「タルガ」「ターボ」「ターボS」は4WD、「GT3」「GT3ツーリング」「GT3 RS」はRRとなり、カレラ系とターボ系には「カブリオレ」の設定がある。それらに加えて過去2代にわたり911シリーズのトリを務めているのが「カレラT」だ。現世代ではおそらく登場しないだろう「GT2 RS」は新型にキャリーオーバーということになるだろうか。
日本仕様の992型のバリエーション的なトピックは前型にあたる991後期型に比べて3ペダルの選択肢が増えたことで、GT3に加えて前述のカレラTやGTSの一部などで7段MTをチョイスすることが可能になった。中古車でみると992型の流通台数の1割以上はMTで、GT3とカレラTがその大半を占める。7段MTは当初よりも横方向のトラベルの節度感が高まり、シフトミスしにくくなった。今や少数派であることは間違いないが、ポルシェのスポーツモデルはやっぱりMTで乗りたいという向きには選択肢が増えたことは素直に朗報だ。
選ぶならどのMTモデルか?
そういう嗜好(しこう)であるのは自分も同じゆえ、最も肌に合う992型はと問われれば、MTのカレラTと答えるだろう。遮音・制振材を減量したり薄板ガラスを使ったりというささやかな軽量化の効果はダイナミクスに確実に表れていて、発進時や加速時の路面の蹴り出しや、旋回時のクルマの動き始めなどで軽やかさが体感できる。装備は素っ気ないがシンプルな道具を望むならなんの不足もないし、日々乗って不満になるほどには快適性もそがれていない、絶妙のあんばいに収まっている。無償オプションのリアシートは重量増要素ではあるものの、大型スーツケースなどを積む場所としてみれば付けておくに越したことはないだろう。それさえあれば他のオプションは一切なくともギリギリ我慢できそうなことはコンフィギュレーターで確認した。
GT3はともあれエンジン回転の上下動が鋭すぎて、たとえ扱いやすい6段MTであってもあしらいに気疲れすることが目に浮かぶ。ヘタ打つとエンジンを壊すことも考えられるだろう。完全に手だれ向けの物件なのに対して、カレラTは価格的にもカレラの+130万円程度。普通に考えればクルマ1台買えるやん的な話だが、ポルシェ的トッピングのそろばん勘定からいえば焼きそばに目玉焼きを載せた程度の話でもある。それで足まわりや駆動系も含めた底上げができているのだから御の字だ。気後れなく毎日付き合えるMTの911が欲しいというニーズをほぼくまなくカバーできると思う。
カレラこそが神髄
……なんてことを悠長に考えられるのも、カレラ カブリオレが、およそ屋根開きのスポーツカーとは思えないほどに融通が利くからだ。もはやクーペとカブリオレの差はワインディングロードを気持ちよく走るレベルではあらわになることもない。日常的な用途での耐候性や遮音性もクーペに限りなく準じたところにある。50km/hまでであれば走行中でも扱えるほろ屋根の開閉に要する時間は約12秒。窓を開けるように屋根を開けることができる、そんなぜいたくに見合う乗り心地の快適さは、911の全能性を示しているかのようだ。カレラTという選択肢がある以上、これはむしろPDKで乗る意味合いが大きい。
クーペとカブリオレとの差異が近接したのと同様、駆動方式による差異が日常的には気づかうことのないレベルに達したのも992型の進化のポイントかもしれない。以前は911の精神性を重視するならRR、安全や安心を優先するなら4WDと言い切れたが、RRのスタビリティーは991型と比べても一段と向上した。もちろん全輪でグリップする4WDの能力を超えることはないが、スプラッシュノイズの感知をトリガーにPSMの制御を低ミュー側に全振りするウエットモードプログラムを採用するなど、RRの弱点は可能な限り摘み取られている。
一方の先端にはレーシングの系譜と直結するGT2/GT3系があり、もう一方の先端にはロードキングとしてのターボ系がある。この両翼に支持される胴体として真ん中にいるのがカレラと、911のバリエーションは年を追うごとに増幅してきたが、水冷世代に定着したこのフォーメーションに揺らぎはない。両端は今、別物ともいえるとんでもない速さを身につけているが、長兄たるカレラのつかず離れずで時間をともにできる存在感や肌なじみこそが911というクルマの神髄だと思う。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ポルシェ911カレラ カブリオレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4519×1852×1297mm
ホイールベース:2450mm
車重:1580kg
駆動方式:RR
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:385PS(283kW)/6500rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/1950-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)305/30ZR21 104Y(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:--km/リッター
価格:1654万円/テスト車=2106万7000円(※2022年の新車登録時点の価格)
オプション装備:キャララホワイトメタリック(20万6000円)/ツートーンレザー<ブラック×ボルドーレッド>(76万1000円)/スポーツテールパイプ<シルバー>(12万9000円)/パワーステアリングプラス(4万4000円)/サテンブラック塗装仕上げホイール(19万8000円)/アルミルックフューエルリッド(2万2000円)/スポーツステアリングホイール<ヒーター付き>(4万5000円)/レザーパッケージ930(21万8000円)/ポルシェクレストエンボスヘッドレスト<フロント>(3万8000円)/20/21インチカレラエクスクルーシブデザインホイール(57万4000円)/シートベンチレーション<フロント>(17万7000円)/グレートップウインドスクリーン(1万9000円)/エクステリアミラー<塗装済み>(9万円)/LEDヘッドライト<PDLSプラスを含む>(16万5000円)/スポーツクロノパッケージ<モードスイッチを含む>(39万6000円)/アダプティブクルーズコントロール(28万4000円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(23万6000円)/ボルドーレッドシートベルト(7万4000円)/リモートパークアシスト(36万6000円)/スポーツシート<14way電動調整、メモリーパッケージ>(37万7000円)/ストレージパッケージ(0円)/ライトデザインパッケージ(8万4000円)/「PORSCHE」ロゴLEDカーテシーライト(2万4000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2万3793km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:282.2km
使用燃料:35.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.9km/リッター(満タン法)/8.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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