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計画の変更は必要ナシ? ステランティスは昨今のEV不振をどう見ているのか

2024.05.10 デイリーコラム 堀田 剛資
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気を吐いたのはアバルトと……

東京・港区を一望する高ーいビルに上るのも、これで3度目。なにやら定例化しつつあるステランティス ジャパンの事業説明会&意見交換会に、今回も参加させていただいた。

お題は多岐にわたったのだが、特に興味深かったのが、「踊り場にきた」といわれる電気自動車(EV)の普及に関する、ステランティスの、あるいはステランティス ジャパン打越 晋社長の見解だった。……のだが、その前に日本における彼らの近況を振り返っておこう。

2024年第1四半期の販売台数は、ジープが2198台で前年比74.5%、プジョーが1510台で59.9%、フィアットが1059台で95.6%……と、ブランドによってムラはあるものの、全体的に芳しい結果ではなかった様子。新車導入や大幅改良といったトピックの谷間となってしまったため、ガマンの時期を過ごしたようだ。

そんななかで気を吐いたのが、ブランドでは前年比141.6%の416台を販売したアバルト。商品のジャンルでは、EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)、マイルドハイブリッド車(MHEV)といった電動車だった。特に後者は、普段は5~6%だった販売に占めるシェアが、およそ10%に達したという。

実はステランティス ジャパンでは、2023年10月より電動車を買った人にコンシェルジュが提案した旅をプレゼントする「EVERYBODY EV」キャンペーンを実施。これが功を奏し、電動車に関しては「ほぼ計画どおり」の売り上げを実現できたとのことだ。ちなみに2024年4月からも、蔦屋家電のセレクトアイテムや車両の購入サポートを進呈する「GO! EV LIFE」キャンペーンを実施。“電動車推し”のマーケティングを続けている。

ステランティス ジャパンの打越 晋代表取締役社長。今回は、2024年4月23日に行われた、ステランティス ジャパンの事業説明会&意見交換会をリポートする。
ステランティス ジャパンの打越 晋代表取締役社長。今回は、2024年4月23日に行われた、ステランティス ジャパンの事業説明会&意見交換会をリポートする。拡大
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注目のニューモデルがめじろ押し

こうしたスタンスは新製品の導入計画でも同じだ。日本におけるステランティスの新車導入スケジュールを見ると、第3四半期からはEVを含む電動車の大量投入が計画されている。旧グループPSA由来のプラットフォーム「e-CMP2」に次世代電池を積んだモデル群で、「フィアット600e」や電動版「DS 3」、「ジープ・アベンジャー」、そして待望の「アルファ・ロメオ・ミラノ」……じゃなくて「ジュニア」と、話題の新顔がめじろ押しだ。物流などの問題による遅れの可能性はあるものの、これらの車種は基本的に2024年内の導入を予定。ステランティス ジャパンでは、長くとも2カ月に一度のスパンでニューモデルを日本に持ってくるとしている。

充電網の構築についても前のめりで、取扱商品にEVがあるディーラーについては充電器の設置を推進。アベンジャーの導入によりジープのお店にも充電器が据えられれば、所定の計画どおり、国内におけるすべての主要ディーラーに充電網がいきわたることとなる。日本における2024年度のCEV補助金を見ると、充電器の整備状況も勘案して支給額に差がつけられていた。もし次年度以降もこの基準が用いられるのなら、ステランティスの待遇は今より改善されるかもしれない。

余談だが、2024年度の補助金支給額は車種に応じて36万~55万円と、国産勢やドイツ勢、テスラなどと比べていささか差をつけられていた彼らだが、それでも販売に影響を受けたという話は現場からは届いておらず、「どうしてくれるんだ!」という悲鳴やクレームも上がってはいないという。広く浅く訴求する商品はないものの、特定の層にプスッと刺さるクルマをバラエティー豊かに取りそろえるステランティス。補助金の額が少なかろうと、「お宅のクルマが欲しいからお宅のクルマを買う」といった顧客が多いということなのだろう。この辺りにも、「取り扱いブランドは7つ!」という商品構成の幅の広さと、熱心なファンを持つことの強みが表れていると思う。

発表からわずか5日後にまさかの車名変更と、ヘンなことでも話題を集めた「アルファ・ロメオ・ジュニア」。しかしその騒動も、同車の注目度アップに拍車をかけたようだ。
発表からわずか5日後にまさかの車名変更と、ヘンなことでも話題を集めた「アルファ・ロメオ・ジュニア」。しかしその騒動も、同車の注目度アップに拍車をかけたようだ。拡大

デンキ万歳派に見えて、実はそうでもない

ここまでは日本の話だが、グローバルでもステランティスは電動化の手綱を緩めていない。2024年2月のカルロス・タバレスCEOの発表によると、次世代プラットフォーム「STLA medium(ステラミディアム)」を用いたニューモデル、新型「プジョー3008/5008」もいよいよお披露目に。こちらは先日の「ダッジ・チャージャー」とは異なり、しっかり日本にも導入される予定だ。ステラミディアムは、ステランティスのなかでも販売台数200万台のボリュームゾーンをカバーするC/Dセグメント車用のプラットフォームで、中期経営計画に盛り込まれていたグループの電動化戦略(その1その2)が、いよいよ加速することとなる。

……このように、次世代EVの導入を着々と進めているステランティスだが、いっぽうマーケットでは、欧米を中心にEVの販売は頭打ちとなっている。ニュースでも、ちょっと前まで電気バンザイだったアナリスト氏が「消費者を無視した施策は正道にあらず」などとさえずり出すありさまで、記者もブラウン管の前で茶を噴いた次第だ。かいわいの市況に詳しい御仁のなかには、「いやいや、ステランティスはどうするつもりなの?」と、その姿勢を疑問視する方もおられよう。

しかし、ステランティスは基本的に計画の見直しなどは行わず、「2030年までに年間500万台を実現」というEVの販売目標についても、(今のところ)変更はないという。昨今の市場のトーンダウンは、彼らとしては想定内のことだったようだ。

そもそもステランティスは、一部の自動車メーカーのように早期の“内燃機関(以下、ICE)根絶”を掲げるEV急進派ではない。ウワサの次世代プラットフォームはやっぱりICE車にも対応していたし、次世代製品群の旗手たるチャージャーにもICEは用意された。その3リッター直6ターボエンジン「ハリケーン」は、2022年3月にお披露目された完全新設計のユニットだが、その発表は、カルロス・タバレスCEOがEVの販売目標を大幅に上方修正した(参照)直後のことだった。まぁとにかく、ステランティスは一事が万事こんな感じだ。

上述の目標だけを見ると、彼らのEV戦略もいささか前のめりに感じるが、多方面で手を抜かない実際のスタンスを思うに、そうした数字も堅実な計算のうえでのものなのだろう。逆に、ここから6年でどう500万台へと帳尻を合わせるのか、そちらのほうがちょっと気になった。……さすがに、ハッタリってことはないですよね?

C/Dセグメントという、ステランティスの量販モデルの車台を担うこととなる「STLA medium(ステラミディアム)」プラットフォーム。まずはSUVの新型「プジョー3008/5008」がデビューする予定だ。
C/Dセグメントという、ステランティスの量販モデルの車台を担うこととなる「STLA medium(ステラミディアム)」プラットフォーム。まずはSUVの新型「プジョー3008/5008」がデビューする予定だ。拡大
既存の大排気量V8エンジンの後継として、2022年3月に発表された3リッター直6ツインターボエンジン「ハリケーン」。冷静に考えれば、北米マーケットも主戦場とするステランティスが、この手の高出力エンジンを簡単に手放せるはずがないのだ。
既存の大排気量V8エンジンの後継として、2022年3月に発表された3リッター直6ツインターボエンジン「ハリケーン」。冷静に考えれば、北米マーケットも主戦場とするステランティスが、この手の高出力エンジンを簡単に手放せるはずがないのだ。拡大

それでもEV化は進んでいく

ところで、長年にわたり自動車および自動車事業の変革に立ち会ってきた人物の目には、昨今のEV事情はどう見えているのだろうか。今回は、その点についてもステランティス ジャパンの打越社長から話をうかがえた。日産やルノーを渡り歩いてきた氏いわく、「そもそも今のEV化の流れは、お客さまが『EVが欲しい』といって始まったものではないですから」とのこと。昨今の販売の落ち着きについては、いずれくるものと想定していたようだ。そのうえで、現状については「賛同する人の間での広まりが一段落し、次のステップへの課題が浮き彫りになる段階にきたのでは」と読み解いていた。

いっぽうで、このままEVが下火となるとも考えてはおらず、長期的には普及が進むことに疑いを抱いていない。その理由として語られたのが、自動車を取り巻く環境の変化だった。例えば日本では、ガソリンスタンドがどんどん廃業している。その数はピーク時の半数以下にまで落ち込んでおり、地方では給油のために隣の町にお出かけ……という事態も珍しいことではない。この状況が続けば、やがては自宅で充電できるEVの利便性が、給油が必要なICE車のそれと逆転するかもしれない。

また欧州では、この数年で自動車産業のピラミッド構造がかつてと変わってしまったという。近年の無理なEV化が、特にICE関連における“裾野の弱体化”を招いたのだ。打越氏は2020年から2年にわたり、総合モーターメーカーの欧州事業部長としてその変化を間近に見ているのだが、ICEに関わる1次・2次サプライヤーが、続々と仕事を辞めてしまったという。一度崩れたそのピラミッドを、いまさら立て直すのは難しいというわけだ。加えて燃費に排ガスと、環境規制は年々厳しさを増している。EVの普及うんぬんの前に、これまでのように安価で高性能なICE車を提供し続けるのは、難しくなるだろう……というのが打越氏の見解だった。

最終的には、「ある時期にEV化にガラリと傾くタイミングがくるのではないか」と語る打越氏。それまでの期間については「ユーザーの要望に応じて、さまざまな電動車を提案し、育てていくスキーム」と想定しており、ステランティスでは豊富なラインナップによって広範に電動車の販売を進め、そのときに備える……といった具合だった。

打越氏は日産自動車で半導体のエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、日産モーターエジプトやルノーサウスアフリカ、東風日産乗用車公司、愛知日産自動車で代表職を歴任。日本電産での欧州勤務を経て、2022年4月にステランティスにやってきた。自動車関連企業において、実に30年以上にわたり開発やマネジメントの第一線に立ち続けている人物なのだ。
打越氏は日産自動車で半導体のエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、日産モーターエジプトやルノーサウスアフリカ、東風日産乗用車公司、愛知日産自動車で代表職を歴任。日本電産での欧州勤務を経て、2022年4月にステランティスにやってきた。自動車関連企業において、実に30年以上にわたり開発やマネジメントの第一線に立ち続けている人物なのだ。拡大

2024年はここからが本番

以上のように、個人的には電動車の普及にまつわる話が最も興味深かった今回の懇談会(?)だが、それ以外にもいろいろな話を聞けたので、最後に列挙させていただく。

まず、webCG読者なら気になるでしょう「新生ランチアの日本導入はあるのか?」についてだが、残念ながら、現状ではその予定はナシ。打越氏も「イタリアで見た新型『イプシロン』は非常にいいクルマだった」としつつも、日本で新しくブランドを立ち上げ、ネットワークを構築するのはハードルが高いとのことだった。ちなみに、記者の大好きなダッジの導入もないそうです(当たり前だ)。

次いでEV“以外”の製品の導入についてだが、直近の目玉はなんといっても新型「ジープ・ラングラー」! そして先述したe-CMP2モデル群についても、順次MHEV版を導入するという。製品のイメージを重視して「まずはEVから」となるが、その後にはきちんとICE車も入れるとのことだった。加えて今年は、「シトロエン・ベルランゴ」などのマイナーチェンジも予定している……のだが、ことシトロエンに関しては、最近はベルランゴに人気が偏りがちだった様子。「今年は本来のブランドイメージに沿った、小さくてポップでかわいい商品も推していきたい」とのこと。ラインナップにひとつ強力な目玉商品があるというのも、ブランドの舵取り的には、なかなか難しいことのようである。

販売網の強化も着々と進んでおり、1月にはプジョー、シトロエン、DSの3ブランドを取り扱う複合ショールームを東京・晴海にオープン。中国地方では山陰初となるジープのショールーム「ジープ米子」の開設へ向け、準備室を立ち上げた。ちなみに同ショールームでは、プジョーの取り扱いも行われる流れとなっている様子。島根・鳥取のプジョーファンは要チェックである。さらに東海では、これが10店舗目となるジープの販売拠点「ジープ名古屋中央」を開設。この5月には、国内最大のDSのショールームも岡山に開設するという。

もちろん、過日開催された「アバルトコーヒーブレイク」をはじめ、「シトロエンキャンプ」「ジープキャンプ」「フィアットピクニック」……といったオーナーイベントも継続して開催し、ファンとの交流を深めていくとのこと。春まではいささかニュースの少なかった2024年のステランティスだが、ここからの盛り上がりに期待しましょう。

(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=ステランティス、webCG/編集=堀田剛資)

日本でもマニアの間で話題を集めている新型「ランチア・イプシロン」だが、残念ながら日本導入の予定はないとのことだ。
日本でもマニアの間で話題を集めている新型「ランチア・イプシロン」だが、残念ながら日本導入の予定はないとのことだ。拡大
堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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