ハイブリッド車、ディーゼル車、EV、FCEVのなかで、最も安く乗り続けられるのはどれか?
2024.05.13 デイリーコラム走りのコストを直視せよ!
日本人は概して固定費を嫌う。初期費用が多少高くても固定費が安ければ、日々「節約できてる!」という満足感が得られ、幸福度は高い。クルマの場合、走行距離にもよるが、最大の固定費は燃料代。それが安いのは、とてもウレシイことである。
では、ハイブリッド車、ディーゼル車、EV、FCEV(燃料電池車)のなかで、燃料代・電気代が最も安いのはどれか?
現状、日本で買えるFCEVは、ほぼ「トヨタ・ミライ」一択なので、それと同クラスのクルマで、4種類の燃料代を比較してみよう。算出法は単純だ。WLTCモード値に0.7を掛けた数値で、走行1000kmあたりの燃料代を計算する。月間1000km走るドライバーなら、それが1カ月の燃料代になる。
最近、ENEOSと岩谷産業が、FCEV向けの水素価格を大幅に値上げするというニュースがあった。岩谷産業は、2024年6月1日より従来の「1kgあたり1210円」から同1650円に。ENEOSは、4月1日に1650円から2200円に値上げ済みだ。
そこで、まずはFCEVのミライ(「G」グレード/車両価格728万円)から計算しよう。
ミライGのWLTC燃費は、152km/kg。1kgの水素で152km走れるということだ。これに0.7を掛けると106kmになる。水素価格1650円で計算すると、1000km走るのに1万5566円かかることになる。
ディーゼルはもっと走るだろ!?
続いてハイブリッド車。ミライと同クラスのクルマということで、車種は「クラウン クロスオーバーG」(2.5リッターのハイブリッド車)を選んでみよう。価格は515万円とだいぶお安いが、サイズはほぼ同じで、WLTC燃費は22.4km/リッター。7掛けで15.68km/リッターとなる。レギュラーガソリン価格を170円とすると、1000kmあたりの燃料代は1万0842円。ミライよりだいぶ安上がりだ。
ディーゼル車はどうか。これまた同クラスってことで、「BMW 320d XDrive Mスポーツ」(678万円)に白羽の矢を立てました。WLTC燃費は15.5km/リッター。7掛けで10.85km/リッター。私は先代320dに乗っていたが、ロングドライブ中心だったので、生涯平均燃費は17km/リッター前後に達した。なので「ディーゼルはもっと走るだろ!」という気がしてしまうが、市街地だけだと10km/リッターちょいのイメージだったのも確かなので、この数字で計算します。
執筆時点の東京都の軽油平均価格は148円。1000km走るのに必要な金額は1万3640円となる。仮に燃費が17km/リッターなら8706円でハイブリッドを下回るけれど、ルールに従って今回は1万3640円ということで。
最後にEVだ。EVに関しては燃料代の算出が大変難しい。自宅外で急速充電を行う場合、充電料金はkW単位ではなく充電時間(分)単位。急速充電器の性能には大きなバラツキがあり、電池側の受け入れ速度も状況によって変わるので、正確な燃料代の算出は不可能なのだ。そこで、まず単純計算が可能な自宅での普通充電でやってみる。
車種は、EV販売が好調なボルボの「XC40リチャージ プラス シングルモーター」にさせていただきました。このクラスのEVの電費は、おおむね横並びです。
![]() |
![]() |
![]() |
その差は意外に……
XC40リチャージ プラス シングルモーター(679万円)は、バッテリー容量73kWhで航続距離は590km。73kWhで7掛けの413km走れると仮定しよう。充電は、東京電力の「夜トク8」の夜間電力を使うと31.64円/kW。1000km走るのに、5590円しかかからない。
これだけ見るとEVの圧勝だ。すべてを自宅での普通充電でまかなえば、EVの燃料代が断然安上がりである。
ただし、自宅外で急速充電すると話は変わってくる。急速充電料金は、自宅での普通充電よりはるかにお高くつく。まずどこかの充電プランに加入する必要があり、多くの場合、月会費も発生する。どこの、どのプランに加入するかでかなりの差が出るが、すべてを自宅外の急速充電でまかなうと、ざっくりこの2~3倍。1000kmあたり1万円強というイメージになる。
というわけで、4種類の動力源にかかる燃料代は、走行1000kmあたり1万円台前半でそろってしまいました。意外なほど差がないですね。「すべて自宅で普通充電」という条件付きならEVの圧勝だけど、あまり遠出はできません。また、「ヤリス ハイブリッドX」(WLTC燃費36.0km/リッター)なら1000kmあたり6740円で済むので、いい勝負になる。
なんだかんだで、「燃料代でクルマを選ぶのは、本当はそれほど意味がない」という結論が妥当ではないでしょうか。
(文=清水草一/写真=トヨタ自動車、ボルボ・カー・ジャパン、清水草一、向後一宏、郡大二郎、webCG/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代NEW 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起 2025.9.15 スズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。
-
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから” 2025.9.12 新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。
-
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ 2025.9.11 何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。
-
「日産GT-R」が生産終了 18年のモデルライフを支えた“人の力” 2025.9.10 2025年8月26日に「日産GT-R」の最後の一台が栃木工場を後にした。圧倒的な速さや独自のメカニズム、デビュー当初の異例の低価格など、18年ものモデルライフでありながら、話題には事欠かなかった。GT-Rを支えた人々の物語をお届けする。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。