メルセデスが認定中古車保証を拡大しBEVの無料充電サービスを開始 その狙いは?
2024.07.25 デイリーコラム認定中古車の保証拡充の理由は?
メルセデス・ベンツ日本(以下MBJ)は2024年6月1日に認定中古車プログラムの拡充を開始した。具体的なトピックは2点。ひとつは「保証期間が2年間に拡大された」ということ。これまでは年式や走行距離に応じて「1年間、または2年間」とされていた保証期間だったが、2024年6月以降に販売するメルセデス・ベンツ認定中古車については「初度登録から10年未満の車両はすべて、走行距離無制限で2年間保証する」という新たな仕組みが適応されることになる。
もうひとつは「電気自動車向け充電サービス『Mercedes me Charge』が6カ月間無料で提供される」というもの。メルセデスのBEVには、新車購入時に月額基本料金および充電料金が一定期間無料となるサービスが以前から提供されていた。だが今回から認知中古車でも、Mercedes me Charge契約時に所定の手続きを行えば、6カ月間は無料で充電設備が利用できるようになった。
前者の「保証期間を2年間に拡大した」ということについて、MBJは「これはメルセデス・ベンツが自信をもって提供する高い品質とアフターサービスに裏づけされたもので、車齢や走行距離を重ねた車両も長く安心して乗り続けていただけます」(プレスリリースより)とコメントしているわけだが、基本的には、この言葉は額面どおりに受け取って構わないはずだ。
昨今のメルセデス車の品質とアフターサービス体制を鑑みれば、車齢10年までの認定中古車車両に走行距離不問の保証を付帯させたところで、MBJの経営的に何ら問題ないだろうことはほぼ明らか。それゆえ、認定中古車の保証期間を走行距離無制限の2年間とした改革については「遅すぎた(もっと早くできたでしょ!)」と言ってもいいのかもしれない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
盟主にふさわしいふるまい
前述した車齢10年までの認定中古車車両に走行距離不問の保証を付帯させたところで、MBJの経営に問題が生じないというのはそのとおりなのだが、加えて「競合を意識しての施策である」ということも、また明らかである。
同じドイツのプレミアムブランドであるBMWの認定中古車プログラムは、保証期間こそ「1年または2年」であるものの、走行距離は「無制限」ということになっている。いっぽうポルシェのアプルーブドカーの保証は、「最長で初年度登録から15年までのポルシェ車を保証(加入条件は車齢14年/走行距離20万km以内)し、12カ月、24カ月、36カ月の柔軟な契約期間を設け、保証期間中は走行距離無制限」というものだ。レクサスもCPO(Certified Pre-Owned)の保証期間は納車日より2年間で、走行距離は無制限である。
それらに対し、業界の盟主である(?)メルセデス・ベンツの認定中古車が「年式や走行距離に応じて1年間、または2年間保証します」というのは、言葉を選ばずに言ってしまえばいささかショボいし、盟主のふるまいとしては残念にも思う。だが今回の改定により、MBJはようやく「盟主にふさわしいふるまい」をするに至ったのだ。「盟主さんなら、さらにもうひと声!」と思わないわけではないが、取りあえずはこれでよしとするべきなのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
中古BEVが売れなければ新車が困る?
もう1点のプログラム拡充である「電気自動車向け充電サービス『Mercedes me Charge』が6カ月間無料で提供される」という施策については、メルセデスが販売するBEV全体の流通を考えた際に、避けては通れぬ道であったはずだ。
「EQB」や「EQC」、あるいは「EQE SUV」などのメルセデス製BEVの新車販売台数は、2023年実績で前年比の2倍となる約4300台だったという。同年のメルセデスの総販売台数が9年連続純輸入車ナンバーワンとなる5万1228台であることを考えれば、10%にも満たないものだが、現場のセールス氏などへのヒアリングによれば、各EQシリーズは戸建ての豪邸(?)に住まう昔ながらの優良顧客各位を中心に、比較的順調に売れているようである。
しかし、富裕なカスタマーが新車のEQシリーズを購入した3年後に、「EQシリーズ全体の活発な中古車市場」が出来上がっていないと、話は少々面倒になってしまう。
中古のBEVは「バッテリー劣化の懸念」を理由に比較的売りづらいという側面があり(実際は3年やそこらで大きく劣化するものでもないらしいのだが「イメージの問題」というのは根深いものだ)、さらに中古車を志向するユーザーというのはハッキリ言ってしまえば新車のメルセデスユーザーと比べると相対的に資金力が劣る場合も多いため、なおのこと高額なBEVの購入には二の足を踏む。
そして中古車志向ユーザーが二の足を踏めば、富裕ユーザーが新車で購入したBEVの行き先がなくなり、十分なリセール価格を担保しづらくなる。リセール価格が担保しづらくなれば、「金持ちほどお金に細かい」という俗説もあるが、まぁリッチなユーザーはBEVを買わなくなる可能性がある。となると、MBJが困る──というある種の三段論法により、認定中古車のBEVに6カ月間の無料充電期間を付帯させることは、BEVの販売を継続し、そして拡充させるにあたっては「ほぼマストな施策」であったはずなのだ。
メルセデス・ベンツのEQシリーズは、新車であろうと中古車であろうと、一度でもしっかり乗ってみれば「あ、なるほど。これはイイね!」と実感できるものであるため(個人の感想です)、「取りあえず中古のEQシリーズを購入しやすくする」という今回の施策は、なかなか有効に機能するのではないかとにらんでいる。
(文=玉川ニコ/写真=メルセデス・ベンツ日本/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

玉川 ニコ
自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。
-
米国に130億ドルの巨額投資! 苦境に立つステランティスはこれで再起するのか? 2025.10.31 ジープやクライスラーなどのブランドを擁するステランティスが、米国に130億ドルの投資をすると発表。彼らはなぜ、世界有数の巨大市場でこれほどのテコ入れを迫られることになったのか? 北米市場の現状から、巨大自動車グループの再起の可能性を探る。
-
なぜ“原付チャリ”の排気量リミットは50ccから125ccになったのか? 2025.10.30 “原チャリ”として知られてきた小排気量バイクの区分けが、2025年11月生産の車両から変わる。なぜ制度は変わったのか? 新基準がわれわれユーザーにもたらすメリットは? ホンダの新型バイク発売を機に考える。
-
クロスドメイン統合制御で車両挙動が激変 Astemoの最新技術を実車で試す 2025.10.29 日本の3大サプライヤーのひとつであるAstemoの最先端技術を体験。駆動から制動、操舵までを一手に引き受けるAstemoの強みは、これらをソフトウエアで統合制御できることだ。実車に装着してテストコースを走った印象をお届けする。
-
デビューから12年でさらなる改良モデルが登場! 3代目「レクサスIS」の“熟れ具合”を検証する 2025.10.27 国産スポーツセダンでは異例の“12年モノ”となる「レクサスIS」。長寿の秘密はどこにある? 素性の良さなのか、メーカー都合なのか、それとも世界的な潮流なのか。その商品力と将来性について識者が論じる。
-
自動車大国のドイツがNO! ゆらぐEUのエンジン車規制とBEV普及の行方 2025.10.24 「2035年にエンジン車の新車販売を実質的に禁止する」というEUに、ドイツが明確に反旗を翻した。欧州随一の自動車大国が「エンジン車禁止の撤廃に向けてあらゆる手段をとる」と表明した格好だが、BEVの普及にはどんな影響があるのか?
-
NEW
これがおすすめ! 東4ホールの展示:ここが日本の最前線だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.11.1これがおすすめ!「ジャパンモビリティショー2025」でwebCGほったの心を奪ったのは、東4ホールの展示である。ずいぶんおおざっぱな“おすすめ”だが、そこにはホンダとスズキとカワサキという、身近なモビリティーメーカーが切り開く日本の未来が広がっているのだ。 -
NEW
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記
2025.11.1エディターから一言「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。 -
NEW
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】
2025.11.1試乗記メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。 -
NEW
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
NEW
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。 -
NEW
これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。









































