第290回:小さな高級車否定論
2024.08.12 カーマニア人間国宝への道元祖小さな高級車
遅まきながら「レクサスLBX」に乗った。「ヤリス クロス」ベースの小さな高級車だが、これがよく売れている。2024年5月までの国内販売台数は約9000台で、レクサスブランドのなかでは「NX」を抑えてトップだ。ヤリス クロスの約4万台と比べても健闘している。なにしろ値段が2倍近いのだから。
小さな高級車というコンセプトは、国産車では失敗を続けてきたが、「ローレルスピリット」から苦節40年を経て、「ノート オーラ」が大成功。LBXはそれに続く成功例となっている。
LBXの乗り味がカーマニア的にいかなるものだったかは後述するとして、まずは「トヨタ・プログレ」の思い出について語らせていただきたい。
プログレが発売されたのは1998年。メルセデスの「Cクラス」やBMWの「3シリーズ」の対抗馬だった。当時の国産車の価格は、ボディーサイズにほぼ比例していたが、「トヨタ・コロナ プレミオ」より小さくて値段は約2倍というプログレのポジショニングは、現在のLBXとよく似ている。
私を含む当時のカーマニアは、Cクラスや3シリーズが大好きだったから(今でもか)、トヨタがそのライバルを出したことに色めき立った。
写真を見ると、ルックスは悪くない。決してカッコよくはないけれど、コンパクトで飾り気がなくてなんだかシブい。これ、イイかも!
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小さな高級車の小さな悲劇
実物と対面して仰天した。プログレはいかにも手足の短い昭和のオヤジ体形で、Cクラスや3シリーズに比べると、あまりにもオッサン臭かったのである。乗り味もオッサンそのもので、特に3リッターモデルのアクセルガバチョ(早開き)は、カーマニア的に許し難かった。まぁ当時のトヨタ車はたいていアクセルガバチョでしたが。
一方プログレには、まだ超珍品だったACC(レーダーアダプティブクルーズコントロール)がオプション設定されており、私はプログレの試乗会でそれを初体験。「こんなに気持ちいいのかぁ!」と大衝撃を受けた。私にとってプログレは、小さな高級車というより元祖ACC付きのクルマ! 厳密にはトヨタ初のACC搭載車はセルシオだけど、自分にとってはプログレが初恋の相手! 今でもACC大好きです!
その後、私の勧めで実家の父(昭和のオッサン)がプログレを購入。自分にはオッサン臭すぎるけど父にはピッタリだと思ったのである。父は大変機械に弱い人だったが、ACCとカーナビを「便利だから使ってみて!」と推奨した。
納車後、父と母がプログレで出かけた際、父は初めてカーナビの目的地設定を試みたがうまくできず、すっとんきょうな目的地を消去もできず、そのまま発進。するとカーナビは、あらゆる場面でメチャクチャなほうへ曲がれと音声案内を続けた。父は気が狂いそうになって「お母ちゃん、これなんとかしてくれ~!」と叫び、母はカーナビにバスタオルをかぶせた……という話は3年くらい前にも書きました。小さな高級車の小さな悲劇でした。
ただ父は、カーナビを除けばプログレを大いに気に入り(ACCは一度も操作せず)、鬼籍に入る寸前まで乗り続けた。勧めてよかった……。
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守りの精神に異議あり
プログレの販売は期待外れに終わったが、あれから約20年たち、日本は超高齢化社会になった。加えて機械に強い世代がオッサンになったので(?)、LBXがよく売れている。感慨無量。
で、LBXの乗り味はどうだったのか。
いいクルマでした。あらゆる試乗記に書かれているとおりでした。なにしろシャシーが断然イイ! シャシーがパワーに勝っている! まるで古き良きメルセデス! ハイブリッドもレスポンスよくて気持ちいい! つまり重厚かつ軽快! ステキ! この乗り味なら文句ナシ!
しかしカーマニア的には、どよ~んとした反発を感じた。
まず見た目がイカン。いかにも「小さな高級SUVでございます」という抑揚に満ちたフォルムが気に入らない。小さな高級車はご隠居さまなのだから、もうちょっと控えめであってほしい。プログレのように……。
私は、カーマニアはもののふでなければいけないと思っている。現役時代は勇猛果敢に敵陣に突っ込み、隠居したら恬淡(てんたん)と過ごすのが理想だ。
しかし小さな高級車というコンセプトは、隠居してから小さくゴージャスに暮らそうとしている。その守りの精神がイカン! カーマニアじゃなければ全然いいんですけど、カーマニアたるもの、現役時代はフェラーリやポルシェに特攻し、隠居したら軽キャンパーで車中泊日本一周の旅に出るべきだ。LBXじゃ俗世に未練たっぷりじゃないか!
結論。カーマニアは死ぬまで小さな高級車に乗ってはいけない。フェラーリやポルシェ(その他趣味車)を卒業したら出家せよ! 以上。
(文=清水草一/写真=清水草一、トヨタ自動車/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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