第76回:アウディA5(後編) ―まだ潔さが足りない! 最新モデルにみる“コテコテ系”への未練―
2025.07.09 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
新型「A5」により、シンプル路線への回帰を鮮明にしたアウディ。しかし、それでもまだ彼らはコテコテ系のデザインに後ろ髪を引かれているのだ! 彼らの未練は、実車のどこに表れているのか? カーデザインの識者とともに、アウディデザインの未来を考える。
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多少はシンプルになったものの……
清水草一(以下、清水):いよいよ今回は、新型A5の「顔」の話に突入するわけですね。
渕野健太郎(以下、渕野):ですね。
webCGほった(以下、ほった):清水さん待望の顔まわりの話(笑)。
清水:サイドがかなりシンプルになったのに対して、顔はかえって複雑になった気がするんですけどね。
渕野:確かに、リアとサイドでは新しい感じを出そうとしているのに対して、顔まわりは割と、昔と変わらない印象です。ただ実は、ここでも造形的にはシンプルな方向にいこうとしているんですよ。例えばヘッドランプの上からグリルの上にかけてのこの面は、かなりラウンドを意識しています。
ほった:おデコのあたりですね。
渕野:そう。サイドからヘッドライトの上を通って、グリルまでいく面です。プラン(俯瞰)で見たときにラウンドしてるイメージがあって、そこは新世代のアウディらしい感じです。
ただ、その下のランプやグリルはこれまでと大きく変わらないし、かなり小細工もある。ほかのところは面のボリュームで見せてますけど、ヘッドライトやグリル、バンパーサイドあたりは、結構“小刻み”になっちゃってるんですよ。ここは、もうちょっと違うやり方があってもよかった。ほかの箇所の塊の強さに対して、顔の下まわりは、なんか痩せて見えます。
清水:A5は、グリルの下側とバンパー左右のエアインテークを、アイコンにしようとしてるわけですよね? グレードによって色や形状に違いがありますけど。
渕野:そのあたりは最近のアウディではトレンドというか、ポイントになってますね。「Q5」とか「Q6」とかも、バンパーサイドのエアインテークをすごく主張しているでしょう? 「Q3」もそうですね。ただ、そこを主張したいんだったらグリルはもっと控えめにするとか、要はメリハリがあったほうがいいと思うんですよ。
このままでは顔が全部グリルになる!
清水:アウディの顔は、シングルフレームグリル中心の方向性に限界がきたんじゃないですかね? これまでずーっとグリルをちょっとずつ大きくしてきたけど、もうこれ以上ムリだと。もう面積的にも拡大が難しくなったから、グリルによる正面攻撃は控えて、横から攻めることにした。
渕野:そんな感じはしますよね。グリルの拡大路線については、新型「A6」なんかを見てもグリルがバンパーの下まできちゃってて、さらにバンパーの左右にもエアインテークがあるんで、結果的にボディー色の面積がめちゃくちゃ小さいじゃないですか。このあたりは、もっと明快にできたらいいのになぁと思います。
ほった:これ以上デカくなったら、「顔が全部グリル」ですね。
清水:従来型の段階ですでに、顔の8割グリルって感じだったのに。
渕野:そろそろアウディの顔まわりに全然違うパターンが出てきてもいいんじゃないかと思ってましたが、A5を見ても、まだちょっと小手先な感じがありますね。
清水:ただ、攻める方向は変わったわけですね。
渕野:おそらくは。最近、「Q6 e-tron」が国内で発売されましたけど、その世代よりもA5やQ5のほうが“新しい”ですよね。今までとは違う表現をやろうとしている。
ほった:ですね。Q6 e-tronは、どちらかっていったら従来どおりで……。もしくは、電気自動車(EV)とそのほかのクルマとで使い分けていくつもりなのかもしれませんね。
清水:それにしても、この出っ歯のイノシシみたいな顔、ホントすごい。
渕野:顔まわり以外でも、アウディは「クワトロブリスター」といって、すべてのタイヤまわりにブリスター表現を加えるのを、アイデンティティーのひとつとしてやろうとしてるんです。例えばこのQ6 e-tron……は、ブリスターフェンダーっていうより、なんかプレスを付け足しただけみたいですけど(笑)、要は普通のフェンダーに、ブリスター風の別の立体を付け足してるんですよ。そのぶん、デザインの要素が多くなっている。
清水:んでフェンダーが二重まぶたになると。
淵野:(タブレットで写真を見せる)同じ例で、これはQ……4かな?
ほった:あ、どれだろう? これ(笑)。
清水:正直全然わかんないよ、最近のQシリーズは。カーマニアにすら見分けがつかなくなってることを、アウディは深刻に考えたほうがいいね。
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クルマの顔は“外食産業”
渕野:失礼しました。えーと、これは「Q4 e-tron」の「スポーツバック」でした。こっちはボディーサイドのおっきな面に削り込みを入れて、前後のフェンダーを飛び出させるような構成をしています。こっちのほうが、まださっきのQ6 e-tronよりはシンプルですけど、でもやっぱりボディーを削ったぶん複雑な感じがある。
ほった:ワタシには、どっちも同じぐらいビジーに見えますよ。
渕野:それに対して、Q5やA5はめちゃくちゃシンプルになってるんです。普通、前後のブリスターフェンダーを主張するデザインって、割と迫力が出ないもんなんですけど、A5はスゴい。フロントはさすがに難しいけど、リアのあの雰囲気はスゴい。
清水:前回おっしゃってた、後ろ姿のド迫力ですね。
渕野:だからアウディは、原点回帰かはともかくとして、A5をシンプルにしようとはしてるんですよ。面を細切れにしないで、大きな塊で迫力を出しているんです。ボディーとリアについては。ただ、フロントだけがちょっとクドい。そこもシンプルな方向を目指したら、すごくよかったのにと思うわけです。
清水:顔はやっぱり、外食産業ですからねぇ(全員笑)。
渕野:外食産業?
清水:薄味にしたら、なかなか客は来ないでしょう。たまーに濃い味を食べるために、わざわざ店に来るんだから。
渕野:そうそう。いや、難しいのは重々承知です(笑)。例えば今のホンダなんかは、すごくシンプルでミニマムなデザインで、自分はとてもいいなと思うんです。そういうのを欲している人ももちろんいるけど、そうじゃなくて、「高い金払ってるんだから、もっと見栄えがいいものを!」っていう人も多い。特に、こういうプレミアムブランドでは。
ほった:でしょうね。
渕野:ただ、テスラとかを含めて最近のEVを見ていると、「必ずしもそれだけじゃないのかな」とも思えてくるわけです。グリルで主張したり加飾で主張したりっていうのが、必ずしも皆に求められてるものでもなくなったんじゃないかと。
清水:でもアウディは、いまだにクドさをあきらめきれていないと。Qナントカe-tronって、EVのなかでも一番デザイン的にクドくないですか?
ほった:まぁ確かに(笑)。
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デザインが濃くなるほどに、存在感は薄れていった
渕野:アウディも、もっとすべてをシンプルにできたら、「うわ、かっこいい!」ってなると思うんですけどねぇ。
清水:どこも濃い味の店ばっかになると、薄味のお店が輝いてくるわけですね(全員笑)。
ほった:健康志向ですね。清水さんも、撮影日の朝、現場で体操してましたけど。
清水:いや、それはもう年齢だから。健康第一だよホントに。
ほった:もう濃い味はいらんと。
渕野:でもアウディって、そういう意識の高い人が乗ってるイメージがするんですけど。これまでのヒエラルキーとかからちょっと外れた人というか。そういうブランドだったら、そこはもっとシンプルさを追求しててもよかったんじゃないかな。
清水:いやぁ。やっぱり塩をかけ始めたら、そっちがよくなっちゃったんでしょう(全員笑)。あれは21世紀のはじめぐらいかな、アウトバーンで一番とばしてるのはアウディになったじゃないですか。ベンツやBMWはおじいさん、おばあさんが乗るクルマで、アウディが一番、アブラの乗ったイケイケ人種が乗るようになった。でも、そのころのアウディのデザインって、シンプルだったんですよね。そっからどんどんブランドイメージが上がっていって、購入層の年齢も上がっていったんでしょう。で、どんどん顔が濃い味になっていった。市場の要望で。
渕野:でもその結果、だんだん存在感が薄くなっていったんじゃないですか?
清水:すごく薄くなっちゃったね。顔が濃くなればなるほど、逆に存在感は薄まった。今、メルセデス・ベンツやBMWと比べたら、アウディが一番薄い感じがするな。
渕野:そう。だからもっとオリジナリティーが欲しい。アウディのオリジナリティーは、最初に話したタイムレスな美しさであったり、シンプルさだったりするんじゃないかな。
清水:で、今回のA5は、特にサイドとかリアにその回帰が感じられると。顔だけはちょっと名残があるけど。
ほった:塩分過多の(笑)。
清水:あと「味の素」ね。これがないと始まらない。
ほった:それにも限度ってものがあるでしょ。
清水:いやー、今ってみんな味の素を否定するけど、俺は大好きなんだよね。父親には「味の素は頭がよくなる!」って言われて育ったし。
ほった:げえっ! それは初耳です(笑)。
渕野:私も初耳です(笑)。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=アウディ、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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