テスラ・モデルYロングレンジAWD(4WD)
究極のミニマル 2025.08.05 試乗記 テスラが擁するSUVタイプの電気自動車(BEV)「モデルY」。「世界で最も売れたクルマ」にも輝いたことのある看板車種は、大幅改良でいかなる進化を遂げたのか? 独自路線を突き進む一台が提供する、既存のクルマとは一線を画す移動体験をリポートする。シフトセレクターすら、ない
朝4時だというのに、外気温30℃、車内温度も30℃と表示されている。前日にこのクルマを受け取った際に専用のアプリを使うように言われてスマホにインストールしてみた。いまどきデジタルキー自体は珍しいものではないけれど、なんの説明もなしに初見で操作できているのだから、使い勝手はいいといえるだろう。自宅を出る前に遠隔操作でエアコンをオンにして、ナビの目的地を撮影の待ち合わせ場所である中央道の石川パーキングエリアにあらかじめセットしておく。
自宅から徒歩1分くらいのところにある駐車場に着くとアプリを使って解錠した。シートに腰掛け、ブレーキペダルを踏み、シートベルトを締めると、シフトポジションが自動でDレンジに入ってすぐに走りだすことができる。オートシフト(ベータ版)という機能だ。もちろん自分でシフトしたければオフにすればいい。
あらためてインテリアをじっくりと眺めてみる。まずフロントウィンドウから向こうにはなにも見えない。フェンダーの峰とかノーズとか、そんな景色は一切ない。リアウィンドウも小さく後方視界もよくない。いずれもデジタルカメラでカバーするという考えだろう。すぐに慣れて気にならなくなった。
しかし、スイッチ類が見事なくらいになんにもない。シフトセレクターすらない。目に入るのはステアリングとウインカーレバー、中央の大型15.4インチのタッチスクリーンくらい。シフト操作はタッチスクリーンの端に表示されるドライブモードストリップを指でスワイプして行う。ワイパーや「オートパイロット」の操作は、ステアリングに備わるボタンやダイヤルを使って行う。チルトやテレスコピックはスクリーンでその機能を選び、ステアリングのダイヤルを使って調整する。エアコンのルーバーすら見えない。風の向きなどもタッチスクリーンで調整する仕組みだ。ハザードはどこにと思ったら天井に物理スイッチが備えてあった。気持ちがいいくらい、「見えないこと」が徹底されている。
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理にかなった速さと乗り心地
走りだしてすぐにステアリングが重いと感じた。回生ももう少し弱いほうが好みだ。例によってタッチスクリーンで探してみる。ダイナミクスの設定のなかに項目としては「ハンドルの重さ」「減速」と表示されており、いずれも標準となっていた。それぞれ「軽い」「減少」へと変更するとちょうどよくなった。どうやらこのクルマのデフォルトは、少しばかり強めの設定のようだ。
試乗車の仕様は「ロングレンジAWD」で、前後アクスルに2基のモーターを搭載。最高出力はフロント158kW、リア220kWとあるので、前後を足せば378kW、約514PSにもなる。最大トルクはフロント240N・m 、リア350N・mと、プレーンな見た目にもかかわらずこれまた強大。0-100km/h加速は4.8秒だから、実際に踏めばかなり速い。
首都高速を経由して、中央道へ向かう。先代からサスペンションが改良されているというが、なめらかでノイズも低く抑えられており、首都高速に多くあるジョイント部分からの衝撃もうまく収束させる。ギガキャストの恩恵だろうか、剛性感も高い。舵の利きも正確で、まだ渋滞のない時間帯だけにあっという間に目的地に着いた。走りのイメージは、Emotionalではないけれど、きわめてRationalといったところだ。
石川パーキングエリアに予定よりも早く着いたこともあり、編集担当とカメラマンが到着するまでエクステリアをチェックすることに。BEVだからできることとして、自動車からフロントグリルを廃止するというトレンドをつくったのは、テスラじゃないかと思っているのだが、この新型では資料に「サイバートラック」や「サイバーキャブ」のデザインを踏襲したとあるようにヘッドライトまでも排除しようとしている。もちろん正確には細長いLEDデイタイムライトの下に配置されているが、その存在感はきわめて薄い。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4800×1920×1625mm、ホイールベース=2890mm。従来型が全長×全幅×全高=4751×1921×1624mmでホイールベースは同寸だったので、全長以外はほぼ変わらない。室内は後席の居住性が改善されている。座面を拡大し、シートバックは電動で角度調整が可能になった。フロントシート下にも27cmの靴がすっぽりと収まる空間があり、ヒザまわりのスペースも余裕がある。後席用に8インチのディスプレイが備わった。また後部座席をワンタッチでフラットにすることが可能で収納スペースも広い。フランク(フロントトランク)の使い勝手もよい。
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アンチテスラの心も揺さぶる魅力
スタッフが到着したのち河口湖へと向かう。高速を降りて市街地を走っていると、フロント、サイド、リアにあるカメラがそれぞれ仕事をしていることがよく分かる。フロントウィンドウにはオートパイロットなどに使われるメインの3眼カメラが備わっている。フロントバンパーの下部にあるブラインドスポットカメラによって、運転中でも前方の映像を確認できる。ウインカーを出せば、ボディーサイドにあるカメラによってディスプレイにドアミラーの死角にあたる部分が表示される。車体後部にももちろんカメラが備わる。それらを駆使し、交差点で信号待ちをしていると周囲のクルマやバイク、歩行者に自転車のすべてがグラフィック化されてスクリーンに表示される。正直、最初は情報量の多さに驚いたけれど、自転車が後方の死角から近づいてくるのをいち早く表示してくれると分かり、これは安全に寄与すると思った。人やクルマの往来が多い都市部ではとてもありがたい機能だ。
一充電走行距離はWLTCモードで635km。その8掛けでみても500kmは走る計算になる。しかもテスラのスーパーチャージャーは日本全国で134カ所、679基(2025年7月時点)とどんどん増えている。都内にも最大250kW出力の充電スポットが結構あって、これならわずか15分で走行距離275km分のチャージができてしまうという。
モデルYの車両価格は「RWD」が558万7000円から、ロングレンジAWDが647万6000円からで、購入者には国のCEV補助金が87万円、東京都の場合は別途ZEV補助金が40万円(再エネ・充放電設備等導入の場合はさらに上乗せ)交付される。いやはや、恐るべきコスパである。おそらく、日独をはじめ伝統ある自動車メーカーは、ここまで割り切り、振り切ったクルマづくりはできないだろう。まさにミニマリズムを追求したミニマリストのためのクルマである。テスラには乗らないとうそぶいていた自分も、心のどこかに「モデルY、いいかも」という思いがかすかに芽生えている、それが今の偽らざる心境だったりするのである。
(文=藤野太一/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=テスラジャパン)
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テスト車のデータ
テスラ・モデルYロングレンジAWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1920×1625mm
ホイールベース:2890mm
車重:1990kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流誘導電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:215PS(158kW)
フロントモーター最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)
リアモーター最高出力:299PS(220kW)
リアモーター最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R19 104W XL/(後)255/45R19 104W XL(ハンコック・ベンタスS1 evo3 ev)
一充電走行距離:635km(WLTCモード)
交流電力量消費率:139Wh/km(WLTCモード)
価格:647万6000円/テスト車=679万1000円
オプション装備:グレイシャーブルーペイント(18万9000円)/ブラック・ホワイト プレミアムインテリア(12万6000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:8403km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:282.7km
参考電力消費率:156.9Wh/km(車載電費計計測値)
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藤野 太一
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