アウディA5 3.2FSIクワトロ(4WD/6AT)【試乗記】
頂点に立つクルマ 2008.02.22 試乗記 アウディA5 3.2FSIクワトロ(4WD/6AT)……777.0万円
アウディが放つ、スタイリッシュな新型クーペ「A5」。お家芸の4WDと新たな電子制御がもたらす乗り味を、雪が残る一般道で試した。
過去最良のデザイン
「A5」は、アウディにとって久々に復活したクーペモデルだ。スタイリングはシングルフレームグリルを始め、これまでのアウディデザインの流れを、さらに進めたもの。すなわち、しっかりとディテールまで煮詰めてあり、揺るぎない完成形をなす。
新しい試みとして、コーナー部分を上手に処理して、前後のオーバーハングを短く見せた。サイドのキャラクターラインは直線的なものからうねりのある曲線に変更。ロングノーズとあいまって、ちょっとクラシックに装った。スタイリッシュなカッコよさだけでなく、自動車らしい形としての魅力に溢れている。個人的には新旧問わず過去最良のアウディデザインだと思う。
このロングノーズとショートオーバーハングを実現できたのは、駆動系のレイアウト変更を施したからだ。もともとアウディは縦置きエンジンをアクスルの前に置くので、オーバーハングは相当に長かった。この「5」シリーズも、高性能な「S5」ではV8エンジンを同じ場所に詰め込む。そこで今回は、クラッチとデフの位置を入れ換えて、ドライブシャフトを前に出すことにより、相対的にオーバーハングを詰める努力がなされた。
伝統のフルタイム4WD「クワトロシステム」は、「RS4」や「S6」などと同じ前40%後60%の基本トルク配分をセンターデフで固定しつつ、回転差をごまかさずに受け止め、さらに前後配分に微調整を加えるもので、最終的にはセルフロック機構も備える。
電子制御などという便利な言葉を隠れ蓑に、センターデフを持たない4WDもあるなかで、追求され尽くした実績による、確固たる自信に満ちた方式が継承されている。この方式こそ、現在考えうる最も完璧な組み合わせで、世界で一番の技術力を持つであろうアウディの面目躍如たるところだ。
考え抜かれた電子制御
電子制御の部分に関しても、アウディは熱心だ。
今回の新技術はパワーステアリングで、低速ではギア比を速め、高速では遅くする。具体的な数値で言えば、ノーマルが2.9:1のところを、3.8から1.8:1の範囲で変化させる。機構はBMWやトヨタと類似したところがあるものの、資料には触れられていない。しかし、そのチューニングは最良。作動感は自然で違和感はまったくない。R&Pギアボックスそのものはアクスル後方から前の下方に移された。
これはバウンド/リバウンド時のトーチェンジ特性のカーブを反転させ、変化そのものも少なくされた。要はチューニングが巧く、前1590mm/後1580mmのワイドトレッドや2750mmのロングホイールベース、前56:後44の重量配分など、基本的な構成要素からしてよく考えられている。
ほかには、オプションの減衰力可変ダンパーとか、ヨーコントロール機構なども見どころだが、アウディの場合にはそうしたデバイスを並べ立てて宣伝しない。ほとんどの領域で、それらの仲介がなくとも成り立つように調教されている。
ちなみに、同社はネガティブスクラブの発案者ではあるが、最近ではポジ側にセットされており、操舵フィールとして路面反力を重視している点もちゃんと継承されている。
実際に試してみると、たとえば、可変ダンパーのポジションは「オート」のままで何の不足もないし、「ソフト」にするとたしかにバネ下のストローク感は増すが、ロールが増えるわけでもなく操縦安定性に支障を来さない。また「ダイナミック」にすると、動きは機敏になり大入力時の収束が早くなるが、姿勢はフラットなままで乗り心地が悪化することもない。だから、どのポジションで乗っていても、不快に感じるところがない。
これぞチューニングの妙である。この種のものは、「ただ変化させればいい」というものではないのだ。
乗るだけでわかる
ドライブシャフトを前に出した効用は、室内にもある。フロアが前進した結果、足元が広くなった。これは特に右ハンドル車で恩恵が大きい。
インテリアのデザインも量産車とは思えないほど凝っている。安っぽくみえる樹脂を廃し、金属を使いながらも、マットな部分と、細い線状の光沢部分を組み合わせる手法は、巧みな凹凸をもつデザインと共に高級感を嫌味なく醸している。
見てよし走ってよしの「A5」のなかで、筆者が一番好感をもったのは、ドライビングポジションがぴったり決まる点だ。シートのアジャストやテレスコピック/チルトのステアリング調整は、その移動幅が大きいこともあるが、基本的な位置関係が自然であるだけでなく、ボンネットの見え具合やドアと肩の高さ関係、ピラーの角度や位置関係、などなど真にジャストフィットする。
思うに、主義主張を言葉巧みに宣伝するのが巧いメーカーはたくさんあるが、アウディから受ける印象は、やはり技術志向であり物事をしっかり理解している優秀なドライバーが開発製作者である、ということだ。
正論と思われる説明があっても、実務を理解していない例もある。アウディは理論武装しなくとも実車に乗ればその意図ははっきり伝わってくる。余計な説明はいらない。「A5/S5」は、世界中のあらゆる量産車のなかで、頂点に立つクルマだと思う。このA5が600万円クラスであることを考えると、ラップするメーカーは顔色を失うはずだ。「日産GT-R」や「レクサスIS F」なども、差し当たってこのA5を見習うべきだろう。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
-
メルセデスAMG GTクーペ/メルセデスAMG GT 4ドアクーペ【試乗記】 2026.3.31 メルセデスAMGの「GT63 S Eパフォーマンス クーペ」と「GT53 4MATIC+(ISG)ファイナルエディション」は、同じAMG GTを名乗りながらも片や2ドア、こなた4ドアのクーペモデルだ。この両者には、どんな特徴や違いがあるのか。クローズドコースで確かめた。
-
レクサスGX550“オーバートレイル+”(4WD/10AT)【試乗記】 2026.3.30 スタッドレスタイヤ装着の「レクサスGX」でウインタードライブへ。クルマ好きにとってはいかにも胸がふくらむシチュエーションだが、刻一刻と変化する自然環境が相手ゆえに、なかなか一筋縄ではいかないものだ。山に分け入る際には引き返す覚悟もお忘れなく。
-
スズキeビターラZ(4WD)【試乗記】 2026.3.28 スズキが満を持して世に問うた、初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」。エントリーグレードは400万円以下! 500万円以下で4WDも用意されるというお値打ち価格のBEVは、走らせてみるとどうなのか? 東京-愛知を往復して、その実力を確かめた。
-
スズキGSX-8T(6MT)【レビュー】 2026.3.25 昨今のネオクラシックブームに乗り、いよいよスズキからも新型車「GSX-8T」が登場。しかし実車に触れてみると、既存のライバルとはちょっと趣の異なるマシンとなっていた。スタイリッシュないでたちとスズキらしい実直さが融合した、独創の一台を報告する。
-
日産セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)【試乗記】 2026.3.24 販売台数ではトヨタ勢に差をつけられながらも、日産の屋台骨として奮闘する「セレナ」。現行型の登場から3年、マイナーチェンジで磨きがかかった最新の「e-POWERハイウェイスターV」に試乗すると、人の感性に寄り添う開発陣のこだわりと良心が見えてきた。
-
NEW
街から看板が消えたシェルがエンジンオイルで再出発 ブランドの強みを生かせるか
2026.4.2デイリーコラムサービスステーションの再編で、おなじみの看板が街から消えたシェルは、エンジンオイルで存在感を示そうとしている。F1パイロットも登場した新製品の発表イベントで感じたシェルの強みと、ブランド再構築の道筋をリポートする。 -
NEW
第955回:イタリアでは事情が違う? ニュースにおける高級外車の“実名報道”を考える
2026.4.2マッキナ あらモーダ!目立つから仕方ない? ベントレーやランボルギーニといった高級輸入車だけが、事故を起こすたびに“実名報道”されてしまう理由とは? この現象は日本固有のものなのか? イタリア在住の大矢アキオが、日本の事故報道におけるふとした疑問を掘り下げる。 -
NEW
MINIクーパー コンバーチブルS(FF/7AT)
2026.4.2JAIA輸入車試乗会2026JAIA輸入車試乗会で「ディフェンダー」の次に乗り込んだのは新型「MINIクーパー コンバーチブルS」。重厚でタフな世界から一転、屋根を全開にして走りだせば、飛ばさなくても笑みがこぼれる、幸せな時間が待っていた。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)/CR-V e:HEV RS(4WD)【試乗記】
2026.4.1試乗記ホンダの「CR-V」が日本市場に帰ってきた。先代モデルの発売時(2018年)も2年ぶりの復活で(少し)盛り上がっていたが、今回もまた3年半ぶりの復活である。モデルライフが途切れ途切れなところは気になるものの、新型のすっきりと上質な乗り味はまぎれもなくプレミアムな領域に達している。 -
今こそブランドの伝統と強みを前面に マツダと三菱のPHEVを乗り比べる
2026.4.1デイリーコラム日産自動車をはじめとした国産6ブランドがBEVとPHEVを集めた合同試乗会を開催。マツダと三菱のPHEVを乗り比べ、それぞれの特性や開発陣の考え方の違い、近い将来に向けたビジョンなどに思いをはせた。 -
第107回:さよならワグナー(後編) ―革新から正統へ 変節するメルセデスと欧州カーデザインの未来―
2026.4.1カーデザイン曼荼羅「EQ」シリーズの失敗を機に、保守的なイメージへ大転換! メルセデス・ベンツのカーデザインは、一体どこへ向かおうとしているのか? 名物デザイナー、ゴードン・ワグナー氏の退任を機に、スリーポインテッドスターと欧州カーデザインの未来を考えた。





























