第61回:輸入中古車LOVE(後編)
2017.10.03 カーマニア人間国宝への道“若者”であれば問題なし
輸入中古車評論家・伊達軍曹との身内対談、後編。不肖ワタクシが買った激安中古「BMW 320d」について、軍曹に「あのお店は10点満点で3.5点」と厳しい評価を突きつけられ、衝撃を受けた前編から続く。
清水草一(以下 清):そんなに低いの(笑)!?
伊達軍曹(以下 伊):ただ、あのお店のクルマのスペックはさほど低くないです。
清:スペックって?
伊:中古車としての数値的な条件のことです。扱ってる個体の年式はどれも新しめだし、走行距離もそこそこ。だからお店のオーラは良くないけど、クルマ自体はそう悪くもないのかな? とは思ってましたね。
清:クルマを買うのってカーマニア最大の娯楽だから、クルマがいいだけじゃなく、いいお店で気持ちよく買いたいって思うよね。でもそれって贅沢(ぜいたく)だよね? 贅沢は高くて当然。ディーラーでアプルーブドカーを買ってれば、安心・安全で礼儀正しいんだから気分はいいけど、カーマニアたるもの、多少は冒険をすべきじゃないか。そういうことで今回は軍曹の制止を振り切って、あえて空気の悪い店で買ってみたわけ。
伊:私も清水さんの決断で、目が開いた部分があります(笑)。3年落ち以内の個体だったら基本的にはそう大きなトラブルなんてないわけですから、お店の良しあしはあんまり関係ない。だったらそこにこだわらなくてもいいかもしれない、と。
清:たとえ3年間不摂生していたとしても、まだ若いから大丈夫、みたいな(笑)。
伊:これが6年、7年落ち、つまり人間でいう30代以上になると不摂生は生活習慣病に直結しますが、3年落ちぐらいの“若者”なら、ハンバーガーとコーラだけで生活していたとしても、そこから生活を改善すればなんとかなります。
中古車業界の二極化
清:で、今回180台中6番目に安い個体を買ってみて、今の中古車業界は二極化してるんじゃないかって思ったんだ。
伊:といいますと?
清:車両本体が安いか、ディーラーのアプルーブドカーか。安さか安心かの二極に集約されつつある。今回俺は中古車情報サイトに条件を入力して、車両本体が安い順に並べたわけ。さすがに最上位のクルマたちはあまりにマイナスオーラが強かったから避けたけど、6番目のこのクルマが心にヒットした。んですぐ見に行って、その場で買った。こういう検索の仕方だと、10番目以下はもう見てもらえないんじゃない!?
伊:そうかもしれませんね。
清:ディーラー系じゃない中古車店で、タマ数の多い「3シリーズ」とか「Cクラス」とかを売る場合、車両本体の安さで上位にもってこないと、勝負にならないんじゃないか。だからとにかく車両本体を安くする。そのかわり諸経費で取り返す。そういう構図なんじゃないかな。
伊:なるほど。
清:その戦争にはどんな業者もあらがえず、どの店も同じような戦略を取らざるを得ない。今回俺は、「諸経費が高いな」って思ったけど、他の店も大抵高いんだよね。本当は支払総額で安い順に並べたいんだけど、激安店は支払総額を表示してないことが多いじゃない? だからどうしても車両本体価格で並べて、諸経費でぼったくられる(笑)。それでも安いんだけどさ。
伊:確かに近年、フツーのクルマをフツーに売っている、良心的なれど中庸なお店は、閑古鳥が鳴いている傾向があります。一方でオーラの悪い激安店にはお客さんが来てます。
清:やっぱり!
輸入中古車バンザイ
伊:実は私も何年か前、某地方の某大手販売店から中古車を買ったのですが、整備は自分でやるつもりだったのと、納車整備の見積額がどエライ高かったので、「納車整備はなしでお願いしたい」と先方に言いました。
清:ふむ。
伊:しかし「これはお客さまのご安心のためですので、当店としては譲れません!」と言われてしまい、仕方なく結構な額を払って納車前整備をしてもらいました。ところがいざ納車されてみたら、エアクリーナーのフィルター交換どころか清掃すらやってないし、エンジンオイルは吹きこぼれそうなほどの量がテキトーに入れられてるしで。「カネだけ取ってこれかよ!」と怒りに震えましたね。
清:つまりさ、車両本体価格ってのは、もはや仕入れ原価みたいなもので、どこも諸経費で食べてるんじゃないかな? そうしないと生き残れないから。買う側もそこを割り切る必要があるかもしれない。じゃないと「希望ナンバー手数料2万円かよ!」とか、いちいち気分が悪くなる。俺が買ったお店に対する軍曹の評価は3.5点なわけだけど(笑)、10点満点で10点のお店なんてないでしょ?
伊:やはりビジネスですからね。かすみを食べては生きられませんから、最高でも8点くらいでしょう。
清:じゃ、最後に俺のエリート特急、見てくれる?
伊:車内を拝見します。あれ、キレイじゃないですか。ダメ中古車特有のダメオーラがまったくありません!
清:新車みたいなもんでしょ?
伊:いやな匂いもしませんね。買った時からこうですか?
清:3万円のピカピカプランでボディーコーティングもバッチリだし、車内はやたらいい香りがしてたよ。
伊:うーん、3.5点のあのお店、意外といいお店なのかもしれませんね!(笑)
(語り=清水草一、伊達軍曹/まとめ=清水草一/写真=清水草一、伊達軍曹、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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