本分を忘れるべからず! ミニバンの栄枯盛衰にみる“選ばれるファミリーカー”の条件とは
2022.03.04 デイリーコラムこんなにミニバンが注目されるのは久しぶり
2022年は、ミニバンが大いに注目される年になるだろう。なぜなら、1月に発売となったトヨタの「ノア/ヴォクシー」を筆頭に、ホンダの「ステップワゴン」、日産の「セレナ」と、大御所モデルが相次いでフルモデルチェンジされるからだ。ただ同時に、これがミニバンにとって久々の明るい話題であるのも事実。今、ミニバンというジャンルは、かつての隆盛がウソのようにラインナップが縮小。慣れ親しんだモデルも廃止の憂き目にあっている。この栄枯盛衰の裏には、どのような環境の変化、消費者の嗜好(しこう)の変化があったのだろうか。
そもそも、“ミニバン”は乗用車として、セダンやコンパクトカー、クーペなどよりずっと遅れて登場したジャンルだ(参照:ミニバン文化の発展 広さと走りの両立に挑んだ25年)。日本のモータリゼーションは1960年代に進んだとされる。当時は3列シートのミニバンというジャンルはなかったが、箱型のクルマは存在した。それはバンだ。初代「トヨタ・ハイエース」は1967年、三菱の「デリカ」は1969年、日産の「サニーキャブ(後のバネット)」は1969年、マツダの「ボンゴ」は1966年に登場している。しかし、これらのクルマはすべて商用であり、ワンボックスとも呼ばれていた。
1970年代から80年代になっても、依然ワンボックスは商用であり、一般家庭で使う乗用車という扱いにはなっていなかった。その風向きが変わったのは1990年だ。トヨタが初代「エスティマ」を“天才タマゴ”のキャッチフレーズで売り出す。流線形のデザインは、それまでの商用バンとは一線を画しており、テレビCMも数多く放映された。同年、マツダも北米で販売されていた「MPV」を日本に導入。翌1991年には、日産も乗用を前面に打ち出した「バネットセレナ」を発売する。当時を思い起こせば、ここで「ワンボックスを家庭で使うのもいいかな~」という空気が生まれたのではないだろうか。
背の低いリアヒンジドアのモデルがブームに
これらのモデルに手ごたえを感じてか、1990年代の中盤には、各社からさまざまなミニバンが登場した。
以前からあるワンボックス&スライドドアのタイプで言えば、1995年にマツダの「ボンゴフレンディ」、1996年にホンダのステップワゴン、1997年に日産の「エルグランド」が登場。FFの乗用車用プラットフォームを用いたステップワゴンは、1999年に登録車の年間販売ランキングで3位になるほどの大ヒットとなる。またエルグランドは、Lサイズ&ラグジュアリーというミニバンの新しい価値観を開拓した。
さらに2000年代に入ると、トヨタから2001年にノア/ヴォクシー、2002年に「アルファード」が登場。いずれもライバルを追い落とし大ヒットモデルに成長した。一方で、軽乗用車でも2003年にダイハツが「タント」を、2008年にスズキが「パレット」(後の「スペーシア」)をリリースしている。3列シートではないけれど、背の高い箱型ボディーにスライドドアを備えたこれらも、一種のミニバンといえるだろう。かつては「商用車っぽい」と敬遠されていた箱型ボディー+スライドドアのモデルが続々と登場し、その多くがヒット路線を歩んでいったのだ。
一方で、この時期にはワンボックス以外のミニバンも数多く誕生した。まずは1994年に「ホンダ・オデッセイ」がデビュー。ワンボックスほどの車高はなく、リアドアもヒンジ式であったが、既存のモデルとはかけ離れた姿がウケた。1995年には登録車の年間販売ランキングで4位を獲得するほどのヒットとなったのだ。それに続けとばかりに、トヨタも1996年に「イプサム」を投入。1999年にはマツダもリアヒンジドアの初代「プレマシー」を投入する。
さらにホンダは、2000年にオデッセイよりも背の低い「ストリーム」を投入。これも翌年の登録車年間販売ランキングで3位を獲得するほどのヒットモデルとなる。トヨタも負けじと、2003年に同じコンセプトの「ウィッシュ」を投入。同年の登録車年間販売ランキングで3位に入ってみせた。ちなみに、スバルからも背の低いヒンジドアのミニバン「エクシーガ」が2008年に登場している。
ユーザーの3列シートに対する要望は尽きず、ミニバンは急速にバリエーションを広げていった。本格的なコンパクトミニバンが登場してきたのもこのころだが、基本となる箱型を除くと、マーケットが過熱したのはやはり背の低いリアヒンジドアのミニバンで、特にオデッセイ、ストリーム、ウィッシュの3モデルは大ヒットとなった。
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潮流を変えたクルマの多様化とユーザーの嗜好の変化
ところが2010年代に入ると、あれほど人気だった背の低いミニバンは軒並み低迷する。気がつけば多くのモデルは廃盤となり、背の低いミニバンの象徴的存在であったホンダ・オデッセイも、スライドドアを採用して背を高くした、つまり“普通のミニバン”になってしまった。
一方、相変わらず売れ続けたモデルもある。それが冒頭で述べた、トヨタのノア/ヴォクシー、日産のセレナ、ホンダのステップワゴンなのだ。加えてトヨタのアルファードも、相当な高級車でありながら堅調な販売を保っている。
こうして歴史を振り返ると、ミニバンは箱型に始まり、背の低いリアヒンジドアというバリエーションが一時的に脚光を浴びるものの、結局は箱型に戻ってきた、という格好だ。一体なぜ、このようなことになったのだろう。
原因としては、「ワンボックス=商用バンというイメージが薄れた」「機能性の低さから背の低いミニバンが避けられるようになった」「3列シートのSUVや軽/コンパクトトールワゴンなど、他の選択肢が増えた」などが考えられる。
かつて、背の低いミニバンは「商用バンとはかけ離れたイメージ」や「走りのよさ」で選ばれていた。しかし、ワンボックス=商用バンのイメージが薄れた今日では、なにも機能面で不利なこれらの車種を選ぶ必要はない。また走りのよさを重視するなら、今では3列シートのSUVという強力すぎる選択肢がある。子育てママが子供と一緒に乗るクルマとしての需要を、実用性のカタマリである軽トールワゴンが奪っていったのも見過ごせないだろう。
結局のところ、ミニバンに求められる最も重要な要素は「室内空間の広さ」であり、それを視覚的にも機能的にも満たす、箱型ミニバンに人気が収束していったのではないだろうか。基本に始まり、さまざまな経験を経て、最終的には基本に戻る。さまざまなブームを経てきた日本のミニバンユーザーは、まさに舌の肥えた食通だ。今年登場するくだんの3モデルは、そんな食通を満足させることができるのか。ぜひ注目したい。
(文=鈴木ケンイチ/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ、webCG/編集=堀田剛資)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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