第727回:パリモーターショー2022を現地リポ 花の都で感じたクルマの魅力とエネルギー危機
2022.10.23 エディターから一言![]() |
世界ラリー選手権(WRC)の取材などで世界各地を飛び回っていた山本佳吾カメラマンが、なにを思ったか“花の都”パリのモーターショーに潜入! 4年ぶりの開催となったショーの様相を、戦争とエネルギー危機で混乱する現地の様子とともにリポートする。
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海外の主要メーカーは(ほぼ)全滅
飛行機代の高騰に、驚異的な円安……。海外取材に行けない理由ならいくらでも出てくる今日この頃ですが、2021年秋のラリー・フィンランド以降、海外のラリーを一度も取材していないワタクシ。そろそろ禁断症状で手がプルプルしている次第です。しかし大枚はたいて足を運んだとて、ラリーだけだともはや赤字になりかねない。ていうか、普通に行ったら確実に赤字になるわけですよ。ということで、最近はラリーに限らず、海外に行くときはいろんな取材を前後に絡めるわけです。
てっきりスペインで2022年のWRCチャンピオンが決まると踏んでいたボクは(実際には前戦のニュージーランドで決定。おめでとうロバンペラ&ハルットゥネン)、WRCスペインこと「ラリー・カタルーニャ」の取材を軸に、その前後でなにかないかと探したところ……ありました! 直前に開催されるパリモーターショーが。一度も行ったことがないし、久しぶりにパリにも行きたいし、こりゃちょうどいいや。と手持ちのマイルをポイントに替えて全弾ブチ込んで……おお、まだ足りない(泣)。ホントに高いんですよ、最近の航空券。戦争、ダメ。ゼッタイ。
果たして、いろいろあってクタクタになりながらたどり着いたポルト・ド・ヴェルサイユですが、思ってたよりこぢんまりしてるというか……なんか出展者数、少なくないですか? 主だった自動車メーカーなんて、フランスの2大グループとジープぐらい。しかもジープって、今やステランティスグループの一員だし。……ん? フォードがいたけど、よく見たら商用車じゃないか! いや、むしろ好きなんですけどね、商用車。
クルマはやっぱりカッコよくないと!
そんななかで、かなり力が入っていたのがルノーグループ。ルノー、アルピーヌはもちろん、ダチアも含めてかなりの台数をお披露目していました。そしてそのどれもが魅力的で、今年のパリショーは、まさに「ルノーグループ秋の大感謝祭」の様相を呈しておりました。
なかでもボクのお目当ては「R5ターボ3E」。これを見るためにパリまで来たと言ってもいいぐらい。「サンク」の生誕50周年を記念して発表された“おっさんホイホイ”なクルマを映像で見たときには、あざとすぎるやろ~と思ったけど、やっぱり刺さるわけですよ。「BORN TO DRIFT」なんて名乗ってるんだから、ラニョッティさんに運転してもらいたいなあ。
実車を見て初めて気づいたのが、サイドウィンドウに貼られた「La Vie en Rose」の文字。なんてオシャレなんでしょう。でも、ボクはエディット・ピアフより吉川晃司が頭をよぎりましたがね。FIA公認のロールケージまで組んであるところも、シャレてるじゃないですか。
ぶっちゃけ、今のWRカーなんかよりかっこいい! 今のレギュレーションだとボディーなんかもうどうでもいいんだから(極論)、いっそのこと、これでWRCやりましょうよ。速い遅いより、カッコが大事です。
一方、アルピーヌのブースで目立ちまくっていたのが「Alpenglow(アルペングロー)」。水素エンジンを搭載したコンセプトモデルです。前から見ると気づかなかったけど、斜め後ろから見た瞬間にニヤってしまいました。これは、まんま「A220」じゃないか! かのジャン・レデレが今の世に生きていたら、きっとこうつくったんだろうなってのを、そのまま形にしたように感じます。やれ水素だ電気だと言ったところで、まずは見た目がカッコよくないと!
とはいえ、オタク集団アルピーヌのことだから、エアロダイナミクスを追求した結果がこの造形なんだろうなあ。ボクとしてはR5ターボ3Eもアルペングローも、走ってる姿を撮ってみたいと思わせられるクルマでした。
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欧州ならではの小型モビリティーが面白い
一方の欧州ステランティス(……というのもヘンな表現ですが)からは、プジョーとDSが出展(参照)。同じフランス組のシトロエンはどうしたのかしら? フォードと同じく、商用車は出展していたんだけど……。
気を取り直して、プジョーのメインは新型「408」。これがまたかっこいいんですよ。日本で乗るにはちと大きい気もしますが。一方、DSからは「DS E-TENSEパフォーマンス」が発表されました。前後2つのモーターの組み合わせで、最高出力は815PS、0-100km/h加速は2秒! その中身には、EVフォーミュラの世界選手権「フォーミュラE」からのフィードバックが多く見られます。アルペングローと比較するとエレガントなデザインで、いかにもDSといった雰囲気。そんな優雅なお姿で815PSですよ。もはやどこでそんな性能を発揮するのかよくわかりませんが、夢がありますねえ。
ほかに目立っていたクルマといえば、電動の小型モビリティー。その出展車は「これってどこまで本気なの?」と思わせるほどネタに振ったものから、大真面目なものまでさまざまありました(笑)。
フランスでは14歳以上、他の欧州各国でも16歳以上が運転できる超小型車の規格があります。最高速度が45km/hに制限されていたりはするけれど、公共交通機関が発達していない地方では、子どもが乗り回しているのをよく見かけます。スウェーデンあたりだと、セダンの後部をぶった切ったピックアップトラックみたいな2シーターのクルマも見ましたっけ。公道では30km/h以上出しちゃダメらしいけど、夜な夜な駅前のロータリーなんかでたむろしてたなぁ。
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バスの車窓に見た地球の裏側の実情
こうしたショー自体の内容に加え、今回の取材ではパリ市内でバスから見た光景にも驚かされました。ガソリンスタンドに長蛇の列ができてるんですよ! それも1軒や2軒じゃなくて、どこのスタンドでも。
戦争に端を発するエネルギー危機のニュースを見ても、日本ではあまり実感がなかったけど、こちらでは切実なんですね。これを見ちゃうと、出展車のほとんどがEV、FCV関連っていうのも、時代の流れだけじゃないなと感じてしまいます。先にも述べた商用車だって、電動化は避けられません。フォードプロは「Eトランジット」を出展していたし、フランス勢でもプジョー、シトロエンがそれぞれ電動の商用車を出展していまして……。まぁ商用車ゾーンはあまり人の気配がなくて、寂しい雰囲気でしたが。
この原稿はスペインのサロウって街で書いていますが、高騰する航空券にしても、運賃よりもサーチャージ(要するに燃料代みたいなもん)のほうが高いんですよ! それもあって、わが本業(?)のWRC取材もこの時期にようやく本年初渡航となったわけですが……。まぁ今起きていることを思えば、海外取材ができるだけでもありがたいことなのかも。
話がキナ臭くなってしまったので、最後に自動車メディアらしい方向に軌道修正しましょう。今やWRカーもハイブリッドですが、肝心のハイブリッドシステムがおかしくなったり、いろいろ問題があるみたいです。2ストの単車から始まって、オイルとガソリンにまみれて育ったボクは、ハイブリッドとか電動車はぶっちゃけ好きじゃありませんでした。ただ、R5ターボ3Eみたいなクルマなら撮りたいっていうか、運転してみたいなって思うんですよね。アブラで走るか電気で走るかじゃなくて、やっぱり見た目がカッコよかったり美しかったりってことが大事なんだと、あらためて感じました。
(文と写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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山本 佳吾
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