第840回:新生ランチア 販売最前線でも熱烈準備中
2024.01.04 マッキナ あらモーダ!おしゃれ家具、続々搬入中
ランチアは3代目(「Y」も含むと4代目)となる新型「イプシロン」の発表を、2024年2月に予定している。2代目である現行型の登場は2011年だが、13年が経過した今日も現役といってよい。なぜなら、2023年1月~11月のイタリア国内新車登録台数は4万1884台で、「フィアット・パンダ」「ダチア・サンデロ」に次ぐ3位を維持しているからだ。
加えて言えば、イプシロンはランチアが2014年に大幅な車種整理を断行して以来、1車種で約9年にわたってブランドを支えてきた。欧日韓のさまざまなブランドがひしめくなか、同じく2023年1月~11月のブランド別登録台数で、ランチアが16位・前年同期比9.15%増をキープしているのは、ひとえにイプシロンによる貢献なのである(データ出典 : UNRAE)。
ランチアといえば2023年12月、わが街シエナでステランティス系販売店の前を通りかかったときのことである。従来この店は、一棟をアルファ・ロメオ/ジープと、ポピュラーブランドであるフィアット/ランチアに2分してショールームとしていた。ところが、アルファ・ロメオ/ジープのスペースを削るかたちで、ランチア専用のスペースがつくられ始めていたのだ。
調度にはイタリアの高級家具メーカー、カッシーナの品々が運び込まれている。例えばソファ「メット」は、ピエロ・リッソーニのデザインによる1990年代の名作だ。一般向けは最低でも2000ユーロ台からである。大理石の脚を持つ丸型テーブルも同じくリッソーニが手がけたもので、通常は1600ユーロ以上するものだ。スケールメリットによって購入価格は抑えられているものと察するが、自動車販売店としてはぜいたくである。
実はこの改装、2022年からの10年計画で開始された「ランチア・ルネサンス・プラン」の一環である。
カッシーナとの関係は、2023年2月にミラノ・ガッタメラータに開設されたパイロット店舗から始まった。続いて2023年4月、ミラノ・デザインウイークで一般公開されたコンセプトカー「Pu+Ra HPE」のインテリアにもカッシーナが関与していた。
ランチアブランドのルカ・ナポリターノCEOによると、2024年4月までには全国の販売店をリニューアルする計画だ。同時に、240人の専任セールスマンを配備。彼らはオンラインコミュニティー「カーザ・ランチア」でトレーニングを受ける。
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世代によって異なるブランドイメージ
2023年2月のリリースによれば、ランチアは前述の新型イプシロン(電気自動車仕様も用意される)に続き、2026年には新たなフラッグシップ車を発表する。そして2028年に新型「デルタ」を発表するとともに、同年にはラインナップを100%電気自動車とするとしている。
しかし、それより先に頭に置いておくべきことがあると筆者は考える。イタリアには、ランチアというブランドに対して、世代別に異なる3タイプの思いが存在するのだ。
第1は、フィアットの傘下に入る1969年以前のランチアを知る人である。彼らはもっぱらイタリアを代表する高級車、または高性能GTとして認識している。ディーノ・リージ監督、ヴィットリオ・ガスマン主演による1962年のイタリア映画『追い越し野郎』に登場する「アウレリアB24コンバーチブル」にしびれた世代でもある。実年齢でいえば、もはや70代以上だ。
第2は、フィアット・グループ入り以降のラリーで大活躍した時代と、それに伴うスポーティーなイメージを懐かしく思う人たちである。50代後半から60代の人々が多い。第3は、上記の世代以降に生まれ、ランチアすなわちシティーカーであると想像する人々だ。
今日、イタリアの自動車マーケットを支えているのは第3のグループに属する人たちであり、ランチアも同じだ。webCG読者の多くはなかなか想像しづらいかもしれないが、考えてみてほしい。「HFインテグラーレ」で注目を集めた初代デルタの生産終了が1993年。イプシロンの前任にあたり、たちまち主力車種となった「Y」(これもイプシロンとイタリア語読みされたが)が登場したのは1995年だ。すなわち、実際にこの30年近くは、ランチアといえばシティーカーだったのである。ついでにいえば、それを支える多くは「『パンダ』よりもちょっとおしゃれな街乗りグルマ」を好むイタリアの女性オーナーである。
「高級車」「輝かしいラリーの歴史」といったストーリーテリングでランチアを売るのは、もはや簡単ではないと筆者はみる。
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頼もしいコンビ
シエナの販売店に話を戻そう。建物内では、アルファ・ロメオとフィアットのブースも改装中だ。ランチアにここまで気合が入っているとなると、他ブランドの展示もどういったムードとなるか気になってくる。新年のお楽しみである。
さらに、内装工事のかたわらですでに暫定営業を開始していた新ランチアショールームの、スタッフ2名の顔ぶれが素晴らしかった。ひとりは本欄第689回で「フィアット500e」を試乗させてくれたフランチェスコ・タッデオ氏。営業歴40年で、「最初に売ったクルマは『フィアット・ウーノ』」という人物だ。最も心に残るランチアは? と聞くと、彼は「もちろん『フルヴィア』だ」と即答した。そして「当時、母方の伯父が乗っていて、それは憧れたものよ」と目を細めて懐かしんだ。
もうひとりもどこかで見た顔だと思ったら、なんと第791回「さよなら『フォード・フィエスタ』」に登場したマルコ・ボネッリ氏だった。大学卒業後に6年勤務したフォード販売店を後にして、少し前にステランティス系の販売グループに移籍していたのだ。新しい職場はどうだい? と尋ねると、「(ランチア×カッシーナという)イタリアンデザインの象徴に囲まれて働くのは素晴らしいよ」と答えてくれた。熟練イタリア車営業マンと、ランチアに対して新鮮な感覚をもつセールス。なかなかいいコンビではないか。
(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA/編集=堀田剛資)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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