第9回:スズキ・スイフト(前編)
2024.01.10 カーデザイン曼荼羅これまでとは大きく変わった5代目
スズキのグローバルコンパクト「スイフト」がついにモデルチェンジ! 早くも賛否両論が吹き荒れる新型のデザインは、実際のところどうなのか? 好評だった先代からイメチェンを図った理由は? 元カーデザイナーと清水草一が、バチバチの(?)議論を交わす。
渕野健太郎(以下、渕野):今回のスズキ・スイフトなんですけど、実は撮影会に同行して、クルマを自然光の下で見させてもらいました。その際のリポートでも書いたのですけど(参照)、第一印象としては、先代までのスポーティーなデザインから、スイフトらしさを維持しつつ親しみやすさも持たせつつ、先進的な方向に変化したなと思いました。
清水草一(以下、清水):だいぶ普通というか、悪く言えば平凡なイメージになってませんか?
webCGほった(以下、ほった):おっ、いきなりカウンターですな。
渕野:これまでのスイフトのデザインを簡単に解説すると、初代は軽自動車の幅を広くしたようなクルマでしたが、2代目では世界戦略車に劇的に変化したんですよね。非常にカタマリ感のあるデザインで、寸詰まりですけどスタンスもよくて、世界中で好評だったと思います。これでスズキ車を見る目が変わったような気がしました。
清水:スズキに革命が起きた! って思いましたよ。これはオペルデザイン? って。
ほった:スズキは当時、オペルを抱えるGMのグループ会社でしたね。
渕野:3代目はキープコンセプトで同じようなモチーフを踏襲して、4代目ではちょっと変えて、サイドビューで躍動感を出してきた。いずれにしろ、2代目、3代目、4代目までは側面視、要するにサイドビューで個性を見せているんです。例えば2代目と3代目は、ヘッドランプの下からずっとショルダーを抜けていって、リアコンビランプをつたって下に行くような流れを見せていた。4代目もどちらかというと側面視で、フェンダーが波打つような立体構成で、クラシカルに躍動感を出しています。
清水:2代目、3代目のほうがショルダーラインが一直線で、シンプルに感じました。
ほった:ワタシは4代目のほうが好きですけどね。
“Z世代”ってなんやねん?
渕野:新型では、そういう“サイドの動き”は収まってるように感じますよね。新型はどちらかというと、上から見たときの……デザイナーの言葉でいうと「プランビュー」って言うんですけど、そのプランビューで個性を見せている。グリルから始まって、ドアにつながって、リアに向かう大きなタル型のボディーに、ランプの付いたフロントフェンダー、リアフェンダーが前後でポンポンって張り出していて、それで動きを見せるタイプなんです。そこが今回の新しい取り組みなんじゃないかな。
清水:う~ん。全体にのっぺりしたんじゃないでしょうか。先代のようなショルダーラインの躍動はないし、2代目、3代目みたいなパネル面の張りの美しさも感じられない。
ほった:キビしいですね~。
渕野:担当デザイナーによると、今回は幅広い層、特にZ世代もターゲットに入っていたので、クルマ的なスポーティーさだけではなくさまざまなプロダクトを参考にしながらデザインを練り上げた、ということでした。
清水:メーカーさんはよくZ世代っ言葉を使いますけど、まったく実態が見えないんですよ。少なくとも日本のZ世代は、クルマに興味がない層という印象しかなくて。
渕野:Z世代は自分がデザイナーの仕事をしていたときも重視していましたけど、この人たちって多様性を大切にするんですよね。だから、「こういうのがZ世代に受ける」っていうのはないんです。なんなら“この世代の人”ってカテゴライズされること自体に違和感を持つんじゃないかな。
清水:だから、Z世代をターゲットにするのは無意味では(笑)?
渕野:それでも次の商品をマーケティング目線で考えるときに、Z世代とはどういうものか? っていうところを定義しないといけない。
ほった:クルマにあんまり興味がない人たち、なんて言っちゃったらおしまいですしね。
渕野:この辺は多様性とのてんびんが難しい。ただまあ、エシカル(倫理的)な志向は通底してあるんじゃないですか? だからあまりスポーティーな主張だと引いてしまうっていうのが、一般的な解釈でしょう。
清水:もっと普通に、平凡に(笑)。
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スポーティーなデザインの功罪
渕野:4代目までのスイフトは、全体のシルエットがスムーズで、クルマが末広がりの台形に見えるんです。ドンって踏ん張って見えるからスポーティーなんですよ。ディテールよりもプロポーションでスポーティーに見せている。ところが新型は、ロー&ワイドな印象が出ている反面、以前ほどの台形感は薄まっています。少し重たい印象があるので、走りのイメージはやや薄まっているといえますね。
清水:薄まってますね。これは、先代までのスポーティーなフォルムは、一般ユーザーには受けなかったから変えたんですよね?
渕野:「自分が乗るにはスポーティーすぎる」と敬遠する人もいた、ということのようです。
清水:う~ん、なんとなく昔の「トヨタ80点主義」を思わせるなぁ。
渕野:すごくびっくりした話があって。スズキの説明だと、スイフトを購入した人の動機は、デザインがダントツ1位で55.1%だったそうです。スイフトって実は、デザインで買われていたわけです。
ほった:ただそれは「購入した人」の話なんですよね。買った人の間ではスポーティーなデザインは好評だったけど、買わなかった人には「スイフトは走り推しのクルマだから、ワタシのクルマじゃないわ」ってなっていたそうで。
渕野:だから新型は、「スポーティーなデザインは好評だったけど、もう少し購入層を広げたので、スポーティーすぎる部分を薄めた」っていうことなんですよ。
清水:確かに、4代目スイフトは、「スイフトスポーツ」ばっかり売れた印象ですしねぇ。
ほった:2023年は、なんとスイスポが半分以上を占めたそうですよ。そのぶん、スタンダードモデルが振るわなかったともいえるわけですから、そこを伸ばしたいっていうことなんでしょう。
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レトロフィットな趣の理由
渕野:スイスポに人気が偏ったという話は、それって国内市場のことですよね? このクルマって世界中で販売してますけど……。
清水:海外の比率は、ちょっとわからないな。
ほった:インドとかだと、そもそもスイスポは売ってないようですし。
渕野:ヨーロッパだったら別に、スポーティーだから嫌だっていうことはないと思うんですよ。自分もコンパクトカーのなかでは「マツダ2」かスイフトが推しですから。先代までのスイフトには、やっぱりクルマらしいたたずまいがありますよね。今回の新型も、スイフトらしいキビキビした走りのイメージは踏襲しているけれど、もうちょっと幅広い層に訴求できるようトライしたんでしょう。
清水:渕野さんの率直な評価はどうなんですか? 高いんですか、低いんですか?
渕野:(笑)いやいや。幅広いお客さんにアピールしたいっていうのはすごくよくわかるし、クルマを見ても、特にフロントまわりのカタマリの強さは魅力的です。
それにいい意味でレトロフューチャーも感じますね。古いクルマのモチーフを使いつつ、新規感もあるという。なぜそう見えるかというと、先ほども言いましたが、ヘッドランプ、リアコンビがフェンダー側に付いていてボディー本体と独立した基本構成だからです。フロントはぐるっと回ったフード分割でさらに強調しているのでわかりやすいですね。大きくいうと1940年代前後に流行(はや)ったデザインと同じ構成ですが、フォルクスワーゲンの復活した「ビートル」は昔のデザインの焼き直しでした。新型スイフトは同じような構成でありながら一体感もあるので、よりモダンに見えています。フロントのカタマリ感がリアにも出ていればなおよかったんですけど、この辺は要件等で限界かなと思いますね。
清水:レトロっぽいといえばレトロっぽいと思いますが……。古きあしき昭和が頭をよぎるんだよなぁ。
ほった:そのあたりは後編で(笑)。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スズキ、荒川正幸、フォルクスワーゲン、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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