メルセデス・ベンツが「2030年の新車販売全車EV化」を撤回 EVシフトに前のめりだった自動車メーカーの今後はどうなる?
2024.03.21 デイリーコラム「2030年までに全車BEV化」を撤回
最近、メルセデス・ベンツの“電気自動車シフト撤回”が話題となっている。なんだかんだいっても、メルセデスの名は、いまだに日本では影響力が大きい。そんなメルセデスといえば、かねて「2030年までに、販売する全新車を純粋なバッテリー電気自動車(BEV)にする」という計画を公表していたが、その方針が撤回されたというのだ。
その根拠は、さる2024年2月22日(欧州現地時間)に開かれた同グループによる2023年の決算会見である。メルセデスはこの会見で、BEV需要の伸びの鈍化を受けて、2024年の同ブランド全体におけるBEV販売比率の見込みを、2023年とほぼ同じ19~21%とした。これは、BEV比率が右肩上がりに成長していくと見込んでいた事前の予想からは、明らかな下方修正となる。
それとともに、同グループのオラ・ケレニウス取締役会長(CEO)は冒頭の「2030年までに全車BEV化する」という計画を「顧客に押しつけてまで、人為的に達成しようとするのは理にかなっていない」との理由での撤回を発表。また、「2025年までに新車販売の50%をBEVかプラグインハイブリッド車(PHEV)にする」という計画も「2020年代後半に最大50%」と、これもまた事実上の軌道修正をした。
しかも、開発終了としていたエンジンについても、一転して2027年からラインナップを刷新していく……と、一般メディアは驚きをもって伝えている。ケレニウスCEOによると、メルセデスが開発中のものには「完全な新規開発エンジンやハイブリッド車(HEV)やPHEVに特化した専用エンジンも含まれる」という。ただ、冷静に考えれば「そりゃそうなるよ」である。エンジンを2030年代まで使うのは、これまでのメルセデスにとって想定外なのだ。2030年代のエンジンは欧州の“ユーロ7”を筆頭に、厳しくなるいっぽうの各国の排ガス・燃費規制をクリアしなければならず、そのための技術開発は不可欠である。
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“もしトラ”にも戦々恐々
こうしたメルセデスの新計画を聞いていると、ケレニウスCEOが完全BEV化を宣言した2021年7月以前まで、一気に逆戻りした感すらある。ただ、同CEOの名誉(?)のために断っておくと、当時の宣言には「市場が許すかぎり」とのただし書きがあったので、今回も完全な前言撤回というわけではないそうだ。不覚ながら、筆者は知らなかったけど。
それはそうと、BEVの販売台数には、世界的に一服感があるのは事実だ。急進的なBEV普及政策を推進してきた欧州でも、2023年12月のBEV販売が2020年4月以来、初めて前年同月を下回った。欧州最大市場であるドイツが、BEV購入に対する補助金を打ち切ったことが要因とされる。あるアンケート調査でも、次に購入したいクルマとしてBEVをあげた割合は、欧州全体で3割未満。HEVはもちろん、純エンジン車にもゆずった。
また、アメリカでも2023年第4四半期(10~12月)のBEV販売において、第3四半期(7~9月)からの伸びが1.3%となった。第3四半期の前期比5%、第2四半期の同15%という伸びと比較すると、失速感は否めない。
さらに、2024年に大統領選を控えたバイデン政権が、自動車労組などへの配慮から「2030年までに新車販売の半数をBEVとPHEVにする」という目標の緩和・先送りを検討しはじめたとも報じられた。加えて、いわゆる“もしトラ”=もし次期アメリカ大統領にトランプ氏が返り咲けば、アメリカのBEV普及策がさらに後退することは確実とみられている。
あらためて見まわしてみると、メルセデス以外の自動車メーカーや企業も、BEV戦略の見直しを迫られているとの報道が最近は多い。あのアップル(Apple)のBEV開発断念のニュースはその象徴といえるが、それ以外にも欧州ではルノーがBEV子会社アンペア(Ampere)の株式公開を中止したり、アメリカではゼネラルモーターズが一度は撤退したPHEVを再発売したり、フォードがBEVトラックの生産計画を半減させたり……といった報が飛び交う。つまり、なにもメルセデスだけが、ひとり方針転換したわけではないのだ。
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日本メーカーには追い風?
いっぽうで、もともとBEVにHEVやエンジン車も絡めた全方位戦略を掲げてきた多くの日本メーカーの態度に、今のところ大きな変化はない。日本メーカーが世界的に「BEVに消極的、時代遅れ」とさんざん揶揄(やゆ)されてきたことから、国内では鬼の首をとったかのように「やっぱり日本が正しかった!」という論調も散見されるが、ことはそう単純でもない。
たしかに、今までのようなBEV一辺倒の機運はいったん落ち着くかもしれないが、乗用車の電動化は、長期的にはジワジワと進んでいくと思われる。世界最大の自動車市場である中国は今もBEV推しだし、それに引きずられるように、東南アジア諸国の自動車政策もBEV推進にカジを切りつつある。インドネシアやタイを筆頭とした東南アジア市場は、多くが国民の平均年齢が20~30代と若く、飛躍的成長が期待される。しかも、これまでは日本車の独壇場といってよかった。ここのシェアをたとえば中国に奪われるようだと、日本の自動車産業が多大な影響を受けることは必至だ。
実際、日本メーカーはここで手綱を緩めてはいない。トヨタはアメリカ、欧州、アジアでのバッテリー工場の建設を急ピッチで進めている。また、そんなトヨタの息がかかっていない、数少ない国内メーカーである日産とホンダが、BEV分野を念頭に歴史的協業の交渉に入ったことはご承知のとおりだ。(参照)
欧米でのBEV熱が少し冷めたことは、日本の自動車産業には間違いなく追い風である。最終的にBEV時代がいつ来るのか、あるいはそもそもBEV時代が来るのかは分からない。しかし、日本メーカーはここであぐらをかくのではなく、この追い風にうまく乗っていってほしい。
(文=佐野弘宗/写真=ダイムラー、プライムアースEVエナジー、日産自動車/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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