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トライアンフ・タイガースポーツ800(6MT)/タイガースポーツ660(6MT)

選べる幸せ 2025.03.21 試乗記 森口 将之 英国の名門トライアンフのアドベンチャーツアラー「タイガー」シリーズに、800cc級の新機種「タイガースポーツ800」が登場。同時に既存の「660」も改良を受け、商品力に磨きがかけられた。世界のバイクトレンドのど真ん中にある2台に試乗し、その実力に迫る。
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親しみやすい車格のアドベンチャーツアラー

バイクのアドベンチャーツアラーとクルマのSUVは、似た者同士といえる。個人的には見た目だけでなく、「ツラくないけどカッコいい」ところも共通していると思う。スーパースポーツでは前傾姿勢がきつすぎてツラい。スポーツカーはシートが低すぎて乗り降りがツラい。自分を含め、そんな身体的悩みを持つようになった人間にとって、アドベンチャーツアラーやSUVは、どちらも楽なのにカッコいいのだ。

ただし、体格に恵まれなくても運転できるビッグSUVとは違い、1000 cc以上のアドベンチャーツアラーは、車体が重いうえにシートが高いので、僕のような昭和的体格の日本人は腰が引けてしまう。加えて(これはアドベンチャーツアラーに限った話ではないが)同ジャンルの本場ヨーロッパでも、ライダーの高齢化が進んでいることもあって、最近は600~800ccのミドルクラスを各ブランドとも充実させつつある。

トライアンフもこの流れに応え、2021年に「タイガー」のネーミングで親しまれるアドベンチャーツアラーに、タイガースポーツ660を追加。2025年2月には一部改良で装備を充実させるとともに、同じ車体を使ったタイガースポーツ800を新たに発売した。ちなみに、660と800の車名に「スポーツ」と添えられているのは、タイガーシリーズの他のモデルより、これらがオンロード志向であるからだ。

たしかにサイズはコンパクトで、ホイールベースは660が1420mm、800が1425mmと、排気量900ccの「タイガー900」シリーズよりずいぶん短い。車重も装備重量で208kg(660)/214kg(800)と、同排気量のロードスポーツ並みに抑えられている。

トライアンフがラインナップする「タイガー」シリーズのニューモデル「タイガースポーツ800」。既出の「タイガースポーツ660」をベースとした、800ccクラスのアドベンチャーツアラーだ。
トライアンフがラインナップする「タイガー」シリーズのニューモデル「タイガースポーツ800」。既出の「タイガースポーツ660」をベースとした、800ccクラスのアドベンチャーツアラーだ。拡大
メーター等の役割を担う、カラースクリーン付きのLCDマルチファンクションディスプレイ。携帯端末とのコネクト機能を備えており、Bluetooth通信を介してターンバイターンナビゲーションや電話、音楽再生などの機能が利用できる。
メーター等の役割を担う、カラースクリーン付きのLCDマルチファンクションディスプレイ。携帯端末とのコネクト機能を備えており、Bluetooth通信を介してターンバイターンナビゲーションや電話、音楽再生などの機能が利用できる。拡大
排気量797ccの並列3気筒エンジン。「ストリートトリプル」由来の高性能ユニットで、最大トルクの90%を中回転域で発生させられる、フレキシブルな特性を備えている。
排気量797ccの並列3気筒エンジン。「ストリートトリプル」由来の高性能ユニットで、最大トルクの90%を中回転域で発生させられる、フレキシブルな特性を備えている。拡大
2021年登場の「タイガースポーツ660」。660ccの3気筒エンジンを搭載した、ミドルクラスのアドベンチャーツアラーだ。
2021年登場の「タイガースポーツ660」。660ccの3気筒エンジンを搭載した、ミドルクラスのアドベンチャーツアラーだ。拡大
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雨の日にも安心して走らせられる

この2台の最大の違いは、言うまでもなくエンジンだ。といっても、車名の数字に示されている排気量だけではない。出自からして別物なのである。

タイガースポーツ660のそれのベースになったのは、100万円を切るスタート価格でも注目を集めたロードスポーツ「トライデント660」のもの。いっぽう800のそれは、ロードレース世界選手権のMoto2クラスに供給するエンジンのノウハウを注ぎ込んだストリートファイター「ストリートトリプル765 RS」用のユニットがベースなのだ。最高出力/最大トルクも、660の82PS/64N・mに対して800は116PS/84N・m。排気量の違い以上にアウトプットに差があるのは、やはり基本が異なるからだろう。

今回は霧雨模様のなか、660→800という順番で2台を乗り比べた。タイガースポーツ660自体は、自分の愛機「ボンネビル スピリット」の整備でディーラーに行ったときにチョイ乗りしたことがあるが、“アップデート版”に触れるのは初めて。835mmのシート高は身長170cmの僕にとっては高めだが、片足だけならかかとまでつくし、車体も小柄で軽いので、25mm低くなるローシートを選ばなくてもよいという印象だ。

走りだすと、エンジンのフィーリングも上々。3気筒の660ccというと軽自動車を思い出す人がいるかもしれないが、トライアンフのトリプルは別物だ。そこはコストの掛け方が違うのだろう。全域でまろやかかつフレキシブルで、「2気筒のトルク感と4気筒の滑らかさを併せ持つ」というフレーズそのままだ。

少し前までは1000ccクラスにしか備わらなかったクルーズコントロールやクイックシフターといった装備の恩恵を、このクラスで享受できるのもうれしい。乗り心地は硬くなく、目の前のスクリーンは手動で上下できて、上げると首から下に当たる風はほぼシャットアウトされる。また、雨が降り出しても不安なく走れた点も好印象。僕が経験したトライアンフのすべてに言えることだが、フレームがしっかりしていて足の接地感がよいうえに、インフォメーションが伝わりやすいので、安心していられるのだ。

フロントカウルには高さの調整が可能なウインドスクリーンを装備。操作は手動で、85mmほどの可動域を持つ。
フロントカウルには高さの調整が可能なウインドスクリーンを装備。操作は手動で、85mmほどの可動域を持つ。拡大
シート高は「タイガースポーツ660/800」ともに835mmと、このジャンルのモデルらしく高め。ただし車体、シート形状ともにスリムで、かつ車重も軽いので、意外に足つき性はよく、取り回しもしやすかった。
シート高は「タイガースポーツ660/800」ともに835mmと、このジャンルのモデルらしく高め。ただし車体、シート形状ともにスリムで、かつ車重も軽いので、意外に足つき性はよく、取り回しもしやすかった。拡大
今回の一部改良ではクルーズコントロールや、シフトアップ/ダウンの両方で使用可能なクイックシフターを新たに採用。装備の拡充が図られている。
今回の一部改良ではクルーズコントロールや、シフトアップ/ダウンの両方で使用可能なクイックシフターを新たに採用。装備の拡充が図られている。拡大
燃料タンクの容量は、「660」が17リッター、「800」が18リッター。660のカタログ燃費は4.7リッター/100kmとされているので、一回の給油で350km超の距離を走れる計算になる。
燃料タンクの容量は、「660」が17リッター、「800」が18リッター。660のカタログ燃費は4.7リッター/100kmとされているので、一回の給油で350km超の距離を走れる計算になる。拡大

明確に異なるエンジンのキャラクター

ランチの後、800にまたがってエンジンをかけると、その瞬間から660との違いをアピールしてきた。アイドリングからしてちょっとワイルドで、走りだすと6000rpmあたりからコーンという硬質なサウンドになり、とにかく回したくなってしまう。排気量の違いもあるけれど、それ以上にキャラクターが違う。

ライディングモードは改良を受けた660と同様、「スポーツ/ロード/レイン」の3種類。スポーツモードではたしかにレスポンスが鋭くなるが、ドンつき感はないので雨のなかでも800のエンジンを安心して満喫できる。レインモードも不自然な鈍さがなく、こちらも好印象だった。

シャシーの違いは、こちらのみフロントサスペンションが伸び側/縮み側ともに減衰力調整可能となる程度だが(リアは2台とも伸び側のみ調整可能)、だからといって不足はない。660と同じフレームながら、それがハイパワーを問題なく吸収していることが安心感とともに伝わってきて、トライアンフのシャシーへのこだわりを実感した。

価格は660が112万5000円から、800が139万5000円から。インポーターでは660をビギナー向け、800をベテラン向けと位置づけている。たしかに、前者のハードルの低さを思えば、これは初めてのトライアンフとして最適な一台だ。いっぽうで、800のエンジンは昔のキャブレター時代のバイクを思わせるパルスやピークが感じられ、経験豊かなライダーほど引き込まれてしまいそう。うまいすみ分けだと感心した。

もっとも、これはあくまで僕の私見。本文でも書いたように、この2台には排気量以上にフィーリングの違いがある。どちらが自分に合うかは、やはりトライアンフ正規販売店に足を運び、実際に乗って確かめるのがよいだろう。

(文=森口将之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

車体の設計は基本的に「660」も「800」(写真)も共通。サスペンションも同様で、ともに前がφ41mmのショーワ製倒立式セパレートファンクションカートリッジフォーク、後ろが同じくショーワ製モノショックRSUとなっている。タイヤは前:120/70R17、後ろ:150/55R17サイズの「ミシュラン・ロード5」だ。
車体の設計は基本的に「660」も「800」(写真)も共通。サスペンションも同様で、ともに前がφ41mmのショーワ製倒立式セパレートファンクションカートリッジフォーク、後ろが同じくショーワ製モノショックRSUとなっている。タイヤは前:120/70R17、後ろ:150/55R17サイズの「ミシュラン・ロード5」だ。拡大
今回の改良では、「660」のライディングモードに「スポーツ」が追加され、モードの数は「スポーツ/ロード/レイン」の3種類に。「800」にも同様のライディングモードセレクターが採用されている。
今回の改良では、「660」のライディングモードに「スポーツ」が追加され、モードの数は「スポーツ/ロード/レイン」の3種類に。「800」にも同様のライディングモードセレクターが採用されている。拡大
「660」と「800」(写真)の足まわりで、ひとつ大きく異なるのがフロントブレーキ。ともにφ310mmのツインディスクを備えるが、前者では2ピストンのスライディングキャリパーが、後者では4ピストンラジアルキャリパーが組み合わされる。
「660」と「800」(写真)の足まわりで、ひとつ大きく異なるのがフロントブレーキ。ともにφ310mmのツインディスクを備えるが、前者では2ピストンのスライディングキャリパーが、後者では4ピストンラジアルキャリパーが組み合わされる。拡大
エンジンの違いにより、キャラクターが大きく異なっていた「タイガースポーツ660/800」。たしかに価格差はあるが、ぜひ実際に乗り比べて、自分に合うほうを選んでほしい。
エンジンの違いにより、キャラクターが大きく異なっていた「タイガースポーツ660/800」。たしかに価格差はあるが、ぜひ実際に乗り比べて、自分に合うほうを選んでほしい。拡大
トライアンフ・タイガースポーツ660
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トライアンフ・タイガースポーツ660(6MT)/タイガースポーツ800(6MT)【試乗記】の画像拡大

テスト車のデータ

トライアンフ・タイガースポーツ660

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2070×835×1315-1400mm(スクリーンの高さによる)
ホイールベース:1420mm
シート高:835mm
重量:208kg
エンジン:660cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:81PS(60kW)/1万0250rpm
最大トルク:64N・m(6.5kgf・m)/6250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.7リッター/100km(約21.3km/リッター)
価格:112万5000円~113万8000円

トライアンフ・タイガースポーツ800
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トライアンフ・タイガースポーツ660(6MT)/タイガースポーツ800(6MT)【試乗記】の画像拡大

トライアンフ・タイガースポーツ800

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2073×828×1303-1386mm(スクリーンの高さによる)
ホイールベース:1425mm
シート高:835mm
重量:214kg
エンジン:797cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:115PS(85kW)/1万0750rpm
最大トルク:84N・m(8.6kgf・m)/8500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:139万5000円~140万8000円

 
トライアンフ・タイガースポーツ660(6MT)/タイガースポーツ800(6MT)【試乗記】の画像拡大

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森口 将之

森口 将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。

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