「セリカ」や「911」が爆走し「037ラリー」が会場を彩る 欧州ヒストリックラリー観戦記
2025.03.28 デイリーコラムドライバーリストには見知った名前も
いまだ人気が衰えることがないヤングタイマー世代のクルマたち。モータースポーツでも、とりわけラリーの世界では最近ヒストリックイベント、要はヒストリックラリーが大人気なんですよ。ここでいうヒストリックラリーというのは、WRC(世界ラリー選手権)などと同じ“SS(スペシャルステージ)方式”で開催されるラリーのこと。例えばフランスやイタリアなど、欧州の国内選手権にはヒストリッククラスが設定されていて、現行車の選手権以上に人気があったりするわけです。国宝級のGr.4やGr.Bに、ボク世代にはなじみの深いGr.Aのラリー車も本気で走るんだから、そりゃ大人気でしょ。
そんなヒストリックラリーのなかでもボクが最近注目しているのが、FIAヨーロピアンヒストリックラリーチャンピオンシップ。長すぎるので略してFIA EHRCです。クラスは大まかに4つに分かれていて、いずれも2000年までに製造された、FIAのホモロゲーションとヒストリックテクニカルパスポートを持つ車両が参戦できます。2025年は全10戦が開催予定で、そのなかにはベルギーのイプルーや、ギリシャのアクロポリスといった、歴史のあるラリーも多く含まれています。選手はドライバーもコ・ドライバーも、いわゆるジェントルマンドライバーが多いのだけど、なかには各国のチャンピオンもいたりします。過去のEHRCチャンピオンには、日本のレースでも活躍したエリック・コマスの名前もあったり。
そんなEHRCの開幕戦、スペインはカタルーニャ地方の古都ジローナで開催された「Rally COSTA BRAVA」に行ってきました。このラリーは2004年までWRCの一戦として長く開催されていた、伝統あるラリーです。
10台並んだ「037ラリー」の姿に感動
2022年12月のベルギー選手権最終戦、スパラリー以来の海外のラリー取材となるワタクシ。流れというか勘というか、そういったものがすべて抜け落ちてしまっていまして、出発前からバタバタでした。ヘロヘロになりながら経由地ヘルシンキ行きの羽田発JAL47便の機上の人となり、離陸後すぐに寝たのですが、目覚めたらなんと羽田。どうやら機材故障で振り出しに戻ったのでした。代替機は17時に羽田を再出発。バルセロナに着く前に、すでに疲労困憊(こんぱい)であります。英語は出てこないし、やっぱり間が開くとダメですね。常に通い続けていないと勘が鈍ります。わしゃ止まると死ぬんじゃ、の間 寛平師匠のお言葉が身に染みます。
今回のラリーでは2組のクルーに注目が集まりました。まずは日本でもおなじみ、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamの代表も務めるヤリ-マティ・ラトバラが、ヤンニ・フッシとともに「トヨタ・セリカ(ST185)」で参戦。もうひと組がラリーにレースにヒルクライムにダカールにと、二刀流どころか何刀流やねんと突っ込みたくなるマルチタレントのロマン・デュマ/マシュー・タイラン組で、こちらは「ポルシェ911カレラRS」での参戦です。
また選手以外で、選手以上に注目を集めていたのが、ズラリ集結した10台の「ランチア・ラリー037」でした。こちら、わが阪神タイガースが日本一に輝いた1985年にERC(ヨーロッパラリー選手権)として開催されたこのラリーに、名門ジョリークラブからtotipカラーの037ラリーで参戦したミキ・ビアシオンの優勝40年を記念して集ったものでした。
ボクも037ラリー自体は何度も撮影してきたけど、さすがに10台も居並ぶシーンを目にしたのは初めてで、スタートに先駆けて開催されたセレモニーでは、しばらく放心状態。「これ、全部でナンボするんやろ……」と関西人の悪い癖が出てしまいますが、それくらい豪華なシーンでした。今年「イプシロン ラリー4」でラリーに復帰するランチア。トップカテゴリーではないし、中身はプジョーやんけ! とやゆされても、「ランチアはな、ラリーがよう似合う」(映画『夜叉』の田中裕子風に)。
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雨にも寒さにも負けない不撓不屈のラリーファン
うららかな春のカタルーニャ。気候もよくてご飯はおいしいし、きっといいラリー取材になるで。とルンルン気分で渡航したものの、滞在中はずっと雨でした。しかも真冬並みの寒さ。スペイン語なので何言ってるかさっぱり分からん天気予報を見ると、ああ、これはあかんやつって感じの爆弾低気圧が居座っていました。
案の定、ステージへ向かうダートの枝道はぬかるみ、あっちこっちにスタックし放置されたギャラリーのクルマが。この辺りはテラロッサという粘土質の土壌で、雨が降ると田んぼみたいになるんです。クルマを捨て、身ひとつでステージへ向かって歩き出す老若男女のギャラリーたち。その姿はまるでガタリンピックに挑むラリー巡礼者。キミら運転ヘタやな、見本を見せたるわ! と助走をつけ一気に登ろうとレンタカーの「フィアット500」のガスペダルに力を込めるボクですが、前方に道をふさぐかたちで力尽きた「オペル・コルサ」の姿が。はい、ボクも朝から2km歩きました。それでも各ステージには朝からっていうか、前夜から多くのギャラリーの姿があり、すでに肉を焼き、酒で盛り上がってました。
ホストタウンのジローナ周辺に設定された各ステージは、リエゾン(SSとSSをつなぐ移動区間)の距離も短くて、雨による苦労を除けば比較的楽ちんなラリーでした。2004年のWRCで使用されたステージもあり、ラトバラに「走ったこと覚えてる?」と質問すると、ニヤニヤしながら「イグニスS1600!」と即答。当時はまだまだ若手ドライバーだったラトバラ。あらためて当時のリザルトを確認すると、同じクラスには2024年ポルトガルチャンピオンのクリス・ミークや、ダニ・ソルドなど、今も活躍中の選手たちの名前が。ちなみにこのふたりは、先日開幕した今年のポルトガル選手権でも対決しています。
「ST185セリカ」の爆音に上がる歓声
ラトバラのST185セリカは昨年のラリージャパン(参照)にも来ていたので、見た方も多いかと思います。地元フィンランドでのラリーにも使用していたけれど、ターマックラリーは今回が初めて。その辺について質問すると「日本でテストしたからね。きっと大丈夫」と子供みたいな笑顔で答えてくれました。時間さえあればラリーに参戦しているラトバラ。この人はほんとに走るのが好きなんですね。
「今年はEHRCのチャンピオンを狙うよ」との言葉どおり、全ステージベストタイムを記録して貫禄のオーバーオールウィン! SS2からステージの撮影を開始したのだけど、1号車としてスタートするラトバラ/フッシ組のセリカが、谷あいに爆音を響かせてコーナーの向こうから姿を見せると、ギャラリーからものすごい歓声が上がりました。長年ラリーを取材しているけど、WRC以外であそこまで歓声が上がることってあまりないんですよね。雨だし寒いしぬかるみで泥まみれだしでテンション下がり気味だったけど、とても気持ちいい光景を見られて、ああ、飛行機も宿もめっちゃ高かったけど来てよかったなと思った瞬間でした。
優勝を飾ったラトバラ/フッシ組に遅れること3分52秒で総合2位となったのが、デュマ/タイラン組のポルシェ911。排気量でこそ勝る911だけど、4駆ターボのセリカに対して年式は古いし空冷でRR。クラスが違うので単純な比較はできないけど、そんな911でGr.Aのセリカに3分52秒の差で食い下がったのは、さすがとしかいえません。その走りは極めてスムーズで、RRの911をムダなスライドをさせずに常に前に進ませるようなスタイル。レースがベースにあるデュマらしい走りでした。いいもん見たなあって思いです。
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隆盛の背後にはこんな裏事情も……
そんなこんなで、全部で約250台が参戦したRally COSTA BRAVA。こういうヒストリックラリーでは一大勢力だった「フォード・エスコートMk1/Mk2」だけど、最近は台数を減らしている印象。取って代わって台数を増やしているのが「BMW M3(E30)」でしょう。エスコート、911、M3の3車種がメインどころで、「プジョー205」に「106」、「フォード・シエラ」といった車種が脇を固める感じです。また2000年までの車種も参戦できるようになった恩恵か、「スバル・インプレッサ(GC8)」に、「三菱ランサー」は“エボVI”までが参戦可能で、かつて世界中のラリーを席巻した日本が誇るこの2車種は増えつつあります。
WRCを頂点とするイマドキのラリーでは、「R規定」にのっとって製作されたラリー車を使用します。このGr.Rのラリー車は、メーカーが製作して販売するものです。かつてのGr.AやGr.Nの時代は、ベース車両を購入し、ホモロゲーションパーツを使ってラリー車をつくり上げるのが一般的でした。いっぽうGr.Rでは、ファクトリーでラリー車を整備することはあっても、製作することはありません。そのため、街のファクトリーとしては売り上げにつながらないわけですね。セミワークス的な位置にあるファクトリーは、ワークスの下請けなどで活躍の場は多くあるけれど、プライベーターを顧客とするファクトリーはそうはいきません。そういった時代の流れもあり、ノウハウも部品も豊富にあるGr.AやGr.N時代のクルマを使ったラリーへの回帰が進んでいるようです。ただのノスタルジックな気分でやっているわけでもないんですね。もちろん世界的なヒストリック、ヤングタイマー人気が後押ししていることは間違いありませんが。
キャブの吸気音。生ガスの香り。サイド出し直管マフラーから吹き出す炎と爆音。今のラリーが失った魅力がすべて詰まっていて、自分たちが乗っているのと同じ形をしたラリー車が派手なドリフトを見せたり、クラッシュしたり。子供の頃に憧れたマルティニカラーやBASTOSカラーに当時を思い出したり。まさにラリーのレコンキスタであり、もちろんノスタルジーでもあるのだけど、いい年をしたオトナが本気でお金を使った壮大なコスプレラリー(最上級の褒め言葉)だなっていうのが、EHRCを初めて取材して感じた印象です。今のラリーを否定する気持ちは全くないし大好きだけど、ボクはやっぱりGr.A時代がいちばん好き! また行こっと。
(文と写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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山本 佳吾
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