第116回:激論! BEVスーパースポーツ(前編) ―株価を暴落させた「フェラーリ・ルーチェ」のカーデザイン―
2026.06.17 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
フェラーリが、メルセデスAMGが、立て続けに電気自動車(BEV)のスーパースポーツを発表! 特に注目を集めた……というか物議を醸したのが「フェラーリ・ルーチェ」だ。株価の急落まで引き起こしたいわくつきの造形を、カーデザインの識者と考察する。
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デザインのせいでフェラーリの株価が急落
webCGほった(以下、ほった):今回はBEVのスーパースポーツ特集です! どれもこれも物議を醸しまくってますからね。この波に乗らないわけにはいきますまい。まずはフェラーリ・ルーチェからいきましょう。
清水草一(以下、清水):このクルマのデザインは、フェラーリの内製じゃなくて、ジョナサン・アイブとマーク・ニューソンっていう元アップルのデザイナーが手がけたんだよね。前にインテリアについて議論して(参照:その1、その2)、そのときは皆すごく肯定的で、「これで外観はどうなのかな? ワクワク」ってオチだったけど……。
ほった:んでフタを開けたらこれだったと。
渕野健太郎(以下、渕野):どうですか清水さん? このカタチ。
清水:BEVとして結構常識的だし、ある意味“万人受け”だと思います。これがフェラーリじゃなければ、こんなに世界中から否定的な反応はなかったと思うよ。
ほった:おおう、清水さんは肯定的なんですね。
渕野:株価さえ下がりましたが。
ほった:8%でしたっけ。恐るべしカーデザインの影響力。
清水:いやいやいや。これが日産の新型BEVとかだったらなんの問題もなかったはず! ほった君はルーチェをどう思ってるの?
ほった:恐れながら、こればかりはアウトでございますよ。今回は徹底して素人目線でいかせてもらいますけど、ルーチェは「アナタこれ、本当にカッコいいと思ってデザインしました!?」ってやつの典型。デザイナーの我とか、ほかと違うことしてやろうって邪念が表に出ちゃってます。そのくせ新しいところもあんまり見当たらなくて、結局ジャガーの「Iペース」から進歩してないじゃないですか。なんか安直じゃありません?
清水:だからそれが「常識的」っていうことだよ。ただね、真後ろから見ると面白いんだよね。おっきなスマホカバーの中に「日産スカイライン」が入ってるみたいに見えるでしょ?
渕野:えっ? あー、これですか(笑)。
清水:四角い輪郭に丸型4灯のテールランプ。これはR30あたりのスカイラインですよ!!
メーカーは「スポーツカー」って言ってるけど……
渕野:その話は置いといて(笑)、まずパッケージなんですけど、全長が5m超、厳密には5026mmあります。そして全幅が1999mmと、要はかなりデカいクルマなんですよ。結構背も高くて、全高は1544mm。SUVの「プロサングエ」が1589mmなので、それよりは45mm低いですけど、それでもかなりのノッポ。だけどこのクルマ、フェラーリのプレスリリースには「スポーツカー」って書いてあるんですよ。
ほった:そりゃムリがありますよ!
渕野:これだけ背が高いのにスポーツカーっていうのは、その時点でかなり難しいですよね。
清水:まぁ「これはスポーツカーだ」っていうのはフェラーリの常とう句で、建前ですから。プロサングエのこともスポーツカーって言ってたし、それをそのまま受け取る必要はないですよ。ルーチェはスポーツカーじゃないです、間違いなく。
渕野:ではそれも置いといて(笑)、サイドビューで見ると、キャビンがフロントタイヤの直上あたりからずっと弧を描いて、リアまで伸びている。フェラーリで一番キャビンがデカいクルマです。それも圧倒的に。
ほった:ですね。
渕野:いっぽうフロントのデザインを見ると、このグリル開口部からフロントガラスまで、ずっと斜めにつながっているわけです。
清水:その上にカバーをかけてるんですね、スマホみたいに。
渕野:これが原因で、フロントクオーターから見たときのキャビンのデカさ感が、より強調されているんじゃないかと。
清水:凝った構造だけど、逆にシルエットが散漫になったかも。
渕野:さらにいうと、スポーツカーってスタンスがすごく重要でしょう。つまり踏ん張り感です。どのビューから見ても踏ん張り感が絶対に必須なんですけど、ルーチェの場合、特にリアまわりにそれが感じられない。本当にハコみたいな造形ですから。これはリアフェンダーのボリュームが強すぎるからなんです。実はルーチェのリアタイヤは、これでも24インチなんですよ。
清水:げっ! デカ!
渕野:なのにタイヤがちょっとボディーの内側に入ってるように見えるでしょう。それぐらいフェンダーまわりのボリュームが強いんです。とにかく“ハコ!”な印象で、スポーツカーとは言い難い。フェラーリなのにスポーティーに見えないから、皆さん反発や違和感を抱いてるのかなって感じました。
清水:そうなんですかね……。
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何を訴えたいクルマなの?
渕野:ただ空力に目を向けると、例えばフロントはグリルからボンネットフードまでをつなげて空気を流す構造だし、ドアまわりもそうなんです。リアガラスからリアコンビランプの上のところまでもつながってるみたいで。つまり、理性的にデザインされてるわけです。「形態は機能に従う」っていう、プロダクトデザイン的な思考が表現されているように感じます。クルマよりもプロダクトデザインに近いんじゃないかな?
ほった:スマホまではいかなくても、いわゆる家電的な。
清水:だいぶスマホに似てるけどね、カバーもついているし。
渕野:なにしろデザイナーがそういうところの出身なので、その辺はすごくよくわかるんですけど……いかんせん、スポーツカー的なプロポーションには見えないですね。
ほった:それは全然。
渕野:清水さんは「BEVとして常識的かつ万人受け」って言いましたけど、だからこそこんなに反発がきているんでしょう。これだったら自分は、清水さんが嫌いな「フェラーリ・フォー(FF)」のほうが、断然、気合を感じます。
清水:いやいやいや、FFはすべてが中途半端ですよ。気合も中途半端じゃないですか。「なんでわざわざこんな狭い後席つけたんだろう?」って。初代・2代目「日産フェアレディZ」の2by2も気合が中途半端だったけど、FFはもっと中途半端です。あれを出したモンテゼーモロさんが、ルーチェについて「フェラーリのエンブレム外したほうがいい」って批判したけど、私はルーチェのほうがむしろ振り切ってていいと思うんですよね。
ほった:そういう考え方もありますかねぇ。
清水:ルーチェの形は常識的でしょ? Iペースに似てるってことは、いいデザインだってことにならない? あのデザイン、出たときは絶賛されたよね。
ほった:いったい何年前の話ですか(笑)。それにIペースは、あれがお初だったから新規性がたたえられたんですよ。新しいカーデザインを切り開くんだっていう気概がね。それと比べて、いまさらこんなありきたりなクロスオーバーを出してきたルーチェからは、明確なメッセージが伝わってこないでしょ。
清水:それは特にないね。
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今日び肉厚ボディーのBEVなんて普通すぎる
ほった:同じようなユーザー置き去りデザインでも、例えば「Honda 0 SALOON(サルーン)」みたいなパッケージだったら、全然違ったと思うんですよ。それもプロトタイプじゃなくてコンセプトモデルのほう。
清水:それは同感。ルーチェが0サルーンのデザインだったら、断然好評だったかもね。
渕野:あれはかなり車高が低かったし、よかったですよね。フェラーリなら、あれぐらいやっても許されるんじゃないかな。
清水:今になってHonda 0の評価が急上昇(笑)。
ほった:同じデザインでも、ブランドによって印象が違ってくるのはなんか複雑ですけどね(苦笑)。いずれにせよ、いまさら肉厚ボディーのBEVなんてありきたりですよ。ランボの「ランザドール」もそうでしたけど、なんで皆、BEVっていったらああなっちゃうのかな。ルーチェも、フェラーリだから許されるワガママデザインに全振りでよかったんじゃないかなぁ。
渕野:もっとそっちに振ったほうがよかったのかもしれませんね。床下のバッテリーが厚いのかな?
ほった:でも、よそにはボディーを薄くできているBEVがありますからねぇ。あと付け加えると、愛着を呼ぶ造形というか、「手元に置いておきたい感」みたいなのも、ルーチェは薄くないですか?
渕野:確かに。フェラーリには所有感が絶対必要なのに。
清水:それは絶対に。所有感だけでもいいくらいだ。実際みんなめったに乗らないし。
ほった:そうですよね。フェラーリって、ほぼ所有感だけで買うわけなので。
渕野:だから、それ(所有感)が感じられないんだったら、結構難しいですよ。
清水:ただただ「リーフ」みたいに見えちゃうわけだから。
渕野:インテリアはクラシカルで提案性もあって、すごくいいなと思ったわけなので、エクステリアもそうすればよかったのにと思いますね。
ほった:あの内装で外装が「12チリンドリ」だったら、ハマるのになぁ。
渕野:このエクステリアも、プレスリリースには「過去のフェラーリからインスピレーションを得ました」的なことが書かれていますけど、あんまりそれは感じられないですよね。
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デザインのなかでもカーデザインはやっぱり特殊
清水:具体的なデザインの話に戻りたいんですが、観音開きのドアはいかがでしょう?
渕野:まだ使い勝手がわからないけど、Bピラーはついてますよね。つまりリアドアも独立して開けられるんじゃないかな。どういう使用感なのか、興味があります。
ほった:まぁプロサングエもそうなってますけどね。ロールス・ロイスとかの観音開きもピラーは残ってますし。
渕野:それよりリアから見ると、リアコンビランプの高さ感が、なんかちょっとおかしいんですよ。本来ならもうちょっと高い位置にあったほうが、クルマの軸の後端が高くなってウエッジがかかるんだけど……リアコンビランプが低い位置にあるから、あれ? ってなる。
清水:そう言われれば。だから余計に、「中にスカイラインがすんでる!」みたいに見えるのかな(笑)。
渕野:このクルマ、サイドから見ると結構ウエッジがかかっているんです。その流れに対して、リアコンビランプの位置だけが低い。これも、普通のカーデザインではしないと思うんですよ。
ほった:ジョナさんもマーさんも、基本がなってないんじゃないですか? いかんな~(笑)。
渕野:そこまでは言いませんけど(笑)、やっぱりカーデザインって、結構専門性が高いんですよ。与えられたパッケージをどう料理するかというのはカーデザイナーの重要なスキルですが、それには経験値が必要です。どれだけ著名なプロダクトデザイナーでも、いきなり自動車、しかもフェラーリというのは難しいのかもしれないですね。
ほった:ですねぇ。フェラーリ的には「カーデザインもいろんな垣根取っ払って考え直さなきゃいけない!」と思って冒険したんでしょうし、それ自体はスゴいことだと思うんですけど……新時代の高級感とかスーパースポーツの表現をどうすべきかってなったとき、ルーチェのこのデザインがBEV時代のフェラーリの指標なのか? ホントにこれでいいのか? とは思いますね。
清水:今後のフェラーリがこういうのばっかりになったら、それはもう株価大暴落だろうね。
ほった:紙切れでしょう。
清水:でもまだこれ1台だけだから。人間、失敗もあるよ!
ほった:温かく見守ります?
清水:うん。やじ馬として。
(後編に続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=フェラーリ/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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