第31回:モテはギャップからと申します
2017.02.28 カーマニア人間国宝への道プジョー308 VS ランチア・デルタ
「プジョー308アリュール BlueHDi」(1.6ディーゼル)に乗り、これこそいま最も現実的かつ理想的なディーゼルの選択だ! と感じ入った不肖ワタクシだった。
エンジンスペックは120ps/30.6kgm。一方、私の愛車である「ランチア・デルタ1.6マルチジェット」(同じく1.6ディーゼル)は120ps/31.0kgm。排ガスレベルはユーロ5とユーロ6で差があり、トランスミッションもプジョーがアイシン製6段トルコンATなのに対して、ランチアは6段セレクトロニック(セミAT)と異なるが、エンジン性能はほとんど同じと言っていい。
この2台で制限速度までのヨーイドン加速を行ってみたが、変速速度で差がついただけで、加速力はほぼ同等だった。
しかしまぁ、こういう120psくらいのクルマでの加速対決というのは、本当にホノボノのんびりでいいです。仕事がら、年に一度イベントでスーパーカー同士の加速対決を行うのですが、もはや旧型となった我が宇宙戦艦号「フェラーリ458イタリア」でも、わずか200mくらいのフル加速で150km/hくらい出るので、アマチュアにこんなもん乗せていいのかと思います。富士のストレートエンドで287km/hとか。こんな速度からのフルブレーキング、アマチュアにやらせていいのか! 死ぬぜ! って感じです。つっても実際はクルマがなんとかしてくれるんだけど。今のクルマってホントすごい。
一方、ディーゼル同士の制限速度までの加速対決は、学生時代の「スカイライン(R30)」対「ガゼール」(元愛車)みたいな感じで心が和みます。
クルマは見た目が9割
加速はそれほど差がなかったプジョー308とランチア・デルタだったが、実際のフィーリングには大差がある。
まずトランスミッションの違い。ガックンガックンのセミAT(ランチア・デルタ)と最新のトルコンAT(プジョー308)とでは、滑らかさが月とスッポン。これだけで20年くらいの差を感じる。
足まわりもまるで違う。しっとりしなやかな猫足&軽快な身のこなしが戻ってきたプジョー308に対して、我がランチア・デルタの足はBMWコンプレックス時代の産物につき、やたら硬くてけっこう跳ねる。
フツーに考えたら、どこからどう考えてもプジョー308の勝ちだ。新しいんだからアタリマエですが。
プジョー308はまだ出たばかりにつき、買うなら新車ということになるが、最安299万円から! 6年落ち208万円だったランチア・デルタとどっちがおトクか考えたら、そりゃまぁプジョー308でしょうねえ。もちろん私がデルタを買った時はまだ308ディーゼルは出てなかったので架空対決ですけど。
しかし私は、仮にこの2台を直接比較できる環境だったとしても、かなり迷った末にランチア・デルタを買うような気がする。なぜって、プジョー308はデザインがあまりにもフツーだから! 楕円(だえん)の小径ステアリングは大好きだが、エクステリアは「三菱ミラージュ」みたい。フランス車っぽさが希薄すぎる。
なんだかんだ言ってカーマニアにとって、「クルマは見た目が9割」なのである。
決め手はギャップ!
ここで私はハタと気付いた。
カーマニアがディーゼル乗用車を選ぶ際の必須要素に、「ギャップ感」があるのではないか、と!
ギャップ感とはつまり、「えっ!」「意外~」というアレだ。豪快そうな風貌の男が意外と優しいとか、やさ男だと思ったら気骨があってグラリときたとか、そういうアレです。
思えば最初に「欲しい!」と思った「メルセデス・ベンツE320 CDI」。あの当時ベンツでスタンドに乗り付けて「軽油満タンね」と言うと、スタンドのニーチャンはかなりビビったものだ。その時発生する強烈な優越感! 権威のカタマリであるメルセデスが、トラックと同じ燃料入れるなんてシブい~~~! というギャップ感が脳内で炸裂(さくれつ)するのである。
一方、我がランチア・デルタ1.6マルチジェットの場合は、「こんなめたんこスタイリッシュなオシャレカーなのにディーゼルなんてシブい~~~~!」という方向性となる。なんせ世の中、イタリア車といえばまだまだ情熱一本やりという固定観念。それに逆らってガラガラ言わせて登場するというのが、とってもステキじゃないですか!
プジョー308には、そういった意外性が希薄だ。なぜなら、権威的でもなく超オシャレでもなく、見た目がミラージュだから!
カーマニアは自己満足のカタマリだが、その自己満足には「他人にどう見られるか」という部分も大いにある。ホンモノの人間国宝はそんなこと一切考えず、いちずにその道を追求なさった末に神の領域に達した方でございましょうが、カーマニア人間国宝の場合は、しょせんクルマ買うだけで作るわけじゃないのでかなり軽いです。どーもスイマセン。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。