さよなら「エリーゼ」、こんにちは「タイプ131」 新時代へと歩み出したロータスのこれから
2021.02.15 デイリーコラム四半世紀の歴史に幕が下りる
「ロータス・エリーゼ」を初めて走らせたときの驚きは、忘れられない。1997年だったか1998年だったか、あるいは1999年だったか。そのタイミングについては恥ずかしながら全く覚えていないのだけど、最初にステアリングをひと切りした瞬間のめくるめくヒラリ感、それに続く「どうにでもできるんじゃないか?」という自在感は、鮮烈に覚えている。パワーのみには決して依存せずにできている、操る楽しさ。それはまさしく昔ながらのロータス。一瞬にして心を奪われたものだった。
そのエリーゼが、いよいよ生産終了になる。あわせてエリーゼから発展したハードコア版の「エキシージ」も、エリーゼの基本構造を踏襲しながら“スーパースポーツカー・イーター”としての性格とGTカーとしての性格の両方が与えられた「エヴォーラ」も、すべてがこの2021年に生産が終わるという。
エリーゼは同じベクトルの上をずっと突き進み、相も変わらずライトウェイトスポーツカーとしての切れ味を磨き続けて、今に至る。エキシージは誕生以来、サーキットも堪能したい“甘さ控えめ”なドライバーたちの渇きを癒やし続けてきた。エヴォーラは、台数の面では仮想敵の「ポルシェ911」に水をあけられてきたが、走りの面では「911を超えているんじゃないか?」と思わされるところがあるほどに、進化を遂げている。
それらが一気になくなる。2021年がスタートしてからの、スポーツカーの世界における最初の衝撃的なニュースだ。とても寂しい気持ちがするけれど、まぁ仕方ない。ロータスにとっての転換期が来た、ということなのだろう。
ロータスの足跡に見る紆余曲折
思えばロータスは、大きなターニングポイントを何度も経てきた。その歴史をくどくど語る気はないけれど、コーリン・チャップマンが1952年1月1日にロータス・エンジニアリングを設立してから最初の大きなターニングポイントとなったのは、最初の市販ロードカーである「エリート」を1957年に発表したこと、だろうか。それ以前も含め、ロータスの歴史的トピックは数あれど、今へと続く市販スポーツカー事業に本格的に乗り出そうという意志を明確に示した出来事だからだ。
次は何だろう? 1982年にコーリン・チャップマンが他界し、経営がチャップマン家からデヴィッド・ウィッケンズに移ったことは見逃せない。その4年後にゼネラルモーターズの傘下に入ったきっかけになった、ともいえるからだ。
その後、ロータスは1993年にブガッティを所有していたロマーノ・アルティオーリに売却されたが、ブガッティ破産の影響を受けて1996年からマレーシアの自動車メーカーであるプロトンの傘の下に入り、わずかの間は落ち着いていた。
ところが、2009年にフェラーリの副社長だったダニー・バハーがグループ・ロータスのCEOとして着任すると、状況が一変する。2010年のパリサロンでエリートと「エラン」「エスプリ」の復活版、エリーゼの次期モデル、加えて「エテルネ」という新しいモデルの、合計5車種のコンセプトカーを発表し、ロータスの華々しい未来を演出したのだ。
ダニー・バハーがもたらした期待と落胆
実は僕も、現場でお披露目の瞬間を目撃したひとりだった。ハリボテではあったけれど、ライトウェイトスポーツカーからスーパーカーまで5台の新世代ロータスが居並ぶ光景は圧巻。エンブレムやロゴを配したアパレルのコーナーまで用意されていて、ひとりのファンとして、ちょっと並じゃないくらいの期待感に胸が躍ったものだった。それから数カ月後には自社発行のロータス専門誌まで誕生したりして、「ロータスはさらにいい方向に行くんじゃないか?」なんて感じさせられたりもした。
ところがだ。ハリボテだったのはダニー・バハーのほうだったのかもしれない。F1やインディカーなどに資金を投入してファンを喜ばせたりもしたが、新しいモデルの計画は遅々として進まず、(それが悪いというわけではないのだけれど)アナウンスされるのは既存モデルの限定車発売や進化のニュースばかり。ニューモデルの進捗(しんちょく)に関しては全く話が聞こえてこなくなったし、人員の大幅な削減などで、通常モデルの生産にも遅れが出る始末。2012年にプロトンが同じマレーシアの複合企業DRBハイコムに買収されると、程なくしてダニー・バハーは解雇。バハーが不当解雇で訴訟を起こせばロータス/DRBハイコム側は資産の不正流用を盾に応酬するという、泥仕合に発展した。
バハーの計画はほとんど白紙撤回。ロータスの事業計画は大幅に縮小され、ファンを相当にヤキモキさせた。その後、2017年に中国の吉利汽車(ジーリー)が株式の51%を所得して傘下に収めたのは、まだ記憶に新しい。今回のエリーゼ、エキシージ、エヴォーラの生産終了も、そのジーリー管理下における決定だろうと思われる。
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新世代ロータスはどんなクルマになるのか?
ただし、今回の発表は悲しい内容ばかりではない。うれしいのは、既存の3モデルに代わる後継車種の計画が明らかになったことだ。
コードネームは「タイプ131」。ロータスとしてはあり得ないほどの最高出力2000PS、最大トルク1700N・mというスペックを持ち、ロータスにしてはあり得ないほどに高価な100%電動のハイパーカー「エヴァイヤ」をトップエンドとした、新しいラインナップを構築しようとしているのだ。あくまで予告画像を見る限りの話ではあるけれど、ベールをかぶったクルマが3台あり、それぞれシルエットも違えばヘッドランプの形状も異なっているように思える。タイプ131は同じプラットフォームを持つ3種類のモデルで構成されることになるのか、あるいはその中の1台がタイプ131で、別の2台が後に続くかたちになるのか。いずれにしても、今後のロードマップには複数の新しいロータスが乗っていることが予想できる。
ただ、これらの次世代製品群について現段階で明らかにされていることは、「これまでのロータスのレガシーを引き継ぐ」というメーカーのコメントぐらいなもので、パワートレインも駆動レイアウトも、何ひとつ分からない。
思い浮かぶことはある。今後、電動化を進めていくフランスのアルピーヌと共同でスポーツカーを開発していくことがすでに発表されているから、タイプ131もエヴァイヤの妹分のようなピュアEVになるんじゃないか? ということ。同じくジーリーの傘下にあるボルボが持っている内燃機関+過給器+電気モーターというモジュラー型ユニットを使ったハイブリッドモデルもありなんじゃないか? ということ。さらにボルボは1.3リッター3気筒ターボも持っているから、それをチューンナップして搭載する徹底的に軽さにこだわったモデルも登場するんじゃないか? ということ。仮にピュアEVやハイブリッドモデルであったとしても、ロータスはバッテリーの重量をクルマの低重心化に利用して抜群のフットワークを稼ぎ出すんじゃないか? なんて考えたりもする。
寂しさ半分 期待が半分
いずれにせよ、タイプ131とはいったいどんなスポーツカーなのか。その真実が見えてくるのはもう少し先のことだ。既存のモデルの年内生産中止が発表されているから、「詳細はこの2021年のどこかのタイミングで」ということになるだろう。これはもう、期待を込めて待つしかない。
そんなふうに思っていたら、この2月8日、エリーゼとエキシージのファイナルエディションが発表された。「エリーゼ スポーツ220」をベースにパワーを23PS引き上げて243PSとした「エリーゼ スポーツ240ファイナルエディション」、生産が終わっている「エキシージ スポーツ350」をベースに、パワーを52PSも上乗せして402PSとした「エキシージ スポーツ390ファイナルエディション」、そして「エキシージ スポーツ410」をベースに最高出力をプラス10PSの426PSとし、シャシー/ブレーキまわりにも手を加えた「エキシージ スポーツ420ファイナルエディション」の3車種だ。いずれも標準モデルとは異なるエキストラのあれこれが盛り込まれていて、777万円、1177万円、1397万円という決して安くはないプライスタグすらリーズナブルと思えてしまう仕様だ。
これらが完売したら、エリーゼがけん引してきたジェネレーションのロータスには幕が下りることになる。何とも寂しい。時代の移り変わりが悲しい。それでいて、ちょっとばかり次に期待するワクワク感があったりもする。僕たちはそうした複雑な気分で、日本とロータスの美しい春を待つことになるのだ。
(文=嶋田智之/編集=堀田剛資)
